TS少女のヒーローアカデミア   作:ネコ023

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2.主人公との邂逅

 ここが漫画(ヒロアカ)の世界であるのなら、当然ながら漫画のキャラたちも生きてこの世界で過ごしているわけでして。今朝チラリと確認できた濃緑色のもじゃもじゃ頭の彼もその一人――というか、主人公その人である。

 

 緑谷出久。今でこそ気弱で常にビクビクしてる印象が強い彼だが、将来はあのオールマイト直々に認められ、彼の後継者になるような少年である。他者に寄り添い痛みや苦しみを理解しようとする優しさと、どんなに凶悪で強大なヴィランに対しても立ち向かっていく勇気を持ち合わせたナチュラルボーンヒーロー。

 

 彼が数々の困難に立ち向かい、やがて最高のヒーローになる物語。緑谷出久の辿る軌跡を読み進めるたびに一喜一憂したのも懐かしい思い出だ。

 

 と、前世に想いを馳せるオレは現在、件の主人公を尾行しておりました。

 なんでかって? そんなの彼と仲良くなりたいからだが?

 

 自分が漫画の世界に転生したとして、目の前にその登場人物がいたとしたら普通に親しくなりたいじゃん。原作の名場面をこの目で直接拝むためにも、主人公との接点はできることなら持っていたい。

 

 それにこの世界って超人社会と言われるだけあって結構危ないからな。

 今のうちに緑谷の好感度を稼いでおいて、いざというときに守ってもらえるようにしておきたいのだ。

 

「それはそれとして、何処に向かってるんだ?」

 

 放課後、友人に断りを入れて学内を捜索。数分かけて探し回ってようやくその姿を確認したのは階段前だった。

 

 焦った様子で段飛ばしで階段を駆け下りていく彼を追ってみれば、やってきたのは中庭で。その中央に生えた巨木の前で、緑谷は困ったように立ち尽くしている。

 

 見上げる彼の視線を追えば、てっぺんあたりに引っ掛かったノートが目に入る。

 なるほど。屋上か、それか教室から落としたんだろう。いや、もしかしたら彼の幼馴染による犯行か? 原作漫画でも爆破された上に教室から投げ落とされてたし。

 

 で、それを回収しに来たが、思った以上に高くて困り果ててると。

 

「よ、よしっ!」

 

 が、そこは主人公。袖を捲って巨木に立ち向かう。

 木の幹に手をかけ足をかけ。ゆっくりとだが登り始めた。

 そして……。

 

「……っ! う、うあぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 呆気なく落ちた。もちろんノートは回収ならず。

 

 個性を受け継いだ頃の彼ならともかくとして、今の緑谷はただの少年である。運動神経は悪い方では無いものの、自分の体重を支え続けるだけの筋力がなかったようだ。……それにしては、ちょっと力が無さすぎな気もするけど。

 

 まさか緑谷、オールマイト考案の『目指せ合格アメリカンドリームプラン』を実施するまでまともに鍛えてなかったとか? いや、流石にヒーロー目指してるのなら腕立てや腹筋くらいはしてるはず……。してるよね?

 

「いたたた……」

「えっと、大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です……って!?」

 

 思わず声を掛けると、ギュルリと緑谷がこちらに振り向いた。

 そばかすのある頬はみるみる内に真っ赤に染まり、恥ずかしさから声すら上がらない様子だ。まぁ、そうだよな。すげー綺麗に尻から落ちてたし。

 

「ごめんな。盗み見するつもりはなかったんだ。けど、すげー焦っていたから何事かと思って付いてきちまった」

「い、いえええ、ぼ、ぼぼぼ、僕の方こそ、おおおお、お見苦しいものをっ!」

「ぷっ! あはははっ! 緊張しすぎだって!」

 

 そういえば雄英入学前の彼は女子とまともに会話できないんだったっけ。

 未来の彼を知ってるからこそ、この反応は少し面白い。

 顔真っ赤になって、両腕使ってその顔を隠そうとしてる。

 なんだ、この面白主人公。

 

「それにしても、苦戦してるな。個性も使っていないみたいだし、。もしかして、木登りには向かない個性だったり?」

「えっ? あ、その…………僕、無個性だから……」

 

 で、特大の地雷をぶつけてみれば今度は真っ白に燃え尽きたように”スン”ってなった。そりゃそうだよな。今の彼にとって無個性とはコンプレックスの塊だ。好き好んでそれを認めたくはないだろう。

 

 拳を握りしめ、俯き、悔し気に呟く姿は悲痛そのもの。

 

 無個性を理由に夢を諦めざるをえなくて、けれど諦めきれなくて。

 ずっと藻掻き苦しんできたのが緑谷出久という少年だ。

 

 しかし、それも()()までだ。

 何故って? オレが来たからだ。

 

「じゃあ、問題解決は早そうだ」

「えっ?」

 

 オレの言葉に緑谷は怪訝そうに首を傾げた。

 

「説明するより見せた方が早いな」

 

 そう言って、オレは視線を巨木のてっぺんに引っ掛かるノートに移す。

 高さは十メートルあるかないか。うん、ちょうどいい高さだ。

 

「なぁ、今朝校門に立ってた先生の個性覚えてるか?」

「えっ? えっと確か、手を切り離して伸ばすことができる個性だよね……。僕もちょっと見ただけだけど『身なりが悪い』って先輩の頭に手刀を落としていたし立ち位置から先輩までの距離から考えて最低でも7〜8メートルは伸びるわけで多分まだまだ範囲は伸ばすことは出来るだろうしきっと授業中もあの個性を駆使して……」

「おっけ! 覚えてるなら大丈夫だから!」

 

 これが緑谷出久の十八番のブツブツか。

 リアルで見ると本当に止まらないな。

 

 少しばかり感動を覚えながら、オレは緑谷の背後に立つと彼の両肩に手を添える。それから緑谷を巨木の方へと向かせた。

 

 少し前、先生に触れておいて正解だったよ。

 

「いいか? お前の個性は今この瞬間だけ『腕の伸縮』だ」

「えっ!? で、でも、僕は無個性で……」

「いいから。イメージ。お前の腕は伸びるんだ。手首から先が切り離されて、あのノートのところまで伸びるんだって」

「……う、うん」

 

 オレの言葉にギュッと瞳を閉じる緑谷。

 それからしばらくすると、緑谷の手元から”カチッ”と何かの外れる音がした。

 

「……えっ。ええぇぇぇぇぇぇえええっ!!!? 手がっ! 手が外れてるっ!?」

「おぉ。初めてで一発成功とかスゲーな。もしかして、普段からイメージトレーニングでもしてるん?」

 

 なんと一発成功。オレと緑谷の視線の先には、うにょうにょと気味の悪い軌道でノートの元まで伸びる緑谷の手首があった。

 

 まるで、空気の漏れた風船のように滅茶苦茶な動きをする手首は正直言って気持ち悪いが、まぁ最初なんてこんなものだろう。

 

「あの……? 君の個性って、いったい……」

「オレの個性は『コピー&ペースト』。個性を真似て与える個性だよ」

「個性を与えるっ!?」

 

 緑谷の表情が驚愕一色に染まる。

 

 うん。はっきり言ってチート個性。寧人くんが個性を真似て自分の個性として扱えるのに対して、こちらは真似た個性を何かに付与することができるのだ。

 

 まず何処でも良いから相手の身体の一部に触れること、そうすりゃ個性をコピー出来る。そこからは()()()には三分という時間内であれば、個性を付与し放題。コピーした個性はストック可能で限度も特に無し。

 

 付与出来る対象は多岐に渡り、そこらに落ちてる石はもちろん、木の棒。果ては車や家屋にすらやろうと思えばできる。

 

 そして何より、他者に個性を与えることも出来る。

 これが一番ヤバい。

 

「凄い個性じゃないかっ!?」

「うん。自分でもそう思う。でも弱点もあってさ」

「……弱点?」

「そっ。まず、付与出来る個性は一つまで。それと自分自身に付与することはできないということ。使えるのはこうして接触している時だけで、離れればもちろん個性は使えなくなるよ」

 

 緑谷の手がノートに届いた瞬間、彼の肩から手を放す。

 すると、巻き尺のようにして手元に戻ってきて、”カチっ”という音と共に彼の手が元に戻った。繋ぎ目やその痕すら残っていない綺麗な腕に元通りである。

 

「触れてる間は個性を使い放題だけど、使う側がその個性に出来ること、できないことを詳細に理解しておく必要があるのが難点だろうな。今回みたいにちょっと操作するだけなら話は別だけど」

「な、なるほど……」

 

 個性を発動した腕を上下左右から観察しながら緑谷は頷いた。

 そんな彼に苦笑しながら、オレは人差し指を立てて告げる。

 

「で、もう一つ大きな特徴があってな」

「もう一つ?」

「オレの個性は無個性の人と一番相性がいい」

「……っ!?」

 

 元々個性を持ってる人に対して別の個性を付与することも可能ではある。

 だけど、それはかなりの負担を強いるのだ。

 

 無個性だったオレの祖父が、オレの個性を使って”一時間以上”個性を使い続けていられたのに対し、父さんに同じことを試したら”たった五分”しか満足に扱えてないうえに、使用後に疲労困憊になっていた。

 

 とにかく個性持ちと相性が悪い。それがオレの個性だ。

 

「まぁ、そんなこんなでおめでとう。問題解決だな」

「あ、ありがとうっ!」

「それで、どうだった? 初めて個性を使った感想は?」

「なんというか、夢みたいだね……。こうもあっさり使えると、本当に……」

「残念だけど、現実です。童貞喪失おめでと」

「言い方ぁっ!?」

 

 茶化してみれば緑谷は笑みを見せてくれた。

 オレもそれに笑い返す。

 

「オレは複世巫与。今日からここの一年生だ」

「僕は緑谷出久! 同じく一年生だよ。……えっと、よろしくね」

 

 固く握手を交わす。

 入学早々に主人公と関りを持つことができたのは大きな成果だと言えるだろう。最悪の場合、学年が違う場合もあっただろうし。無事に同級生になることができて一安心といったところだ。

 

 さて、緑谷出久の友人ポジは決まったも同然だし、これで合法的に彼の隣で物語を追うことができるようになるわけだ。うん、少しテンション上がってきたな!

 

 期待してるぜ緑谷。オレをエンディングまで連れてってくれよ!

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