TS少女のヒーローアカデミア   作:ネコ023

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3.主人公とは努力するものである

「ねぇ、巫与。最近彼とはどうよ?」

「……彼? 誰のことだよ?」

 

 折寺中学に入学してから二ヶ月が経過したある日の放課後のこと。帰宅準備を進めていると、不意に友人から質問が飛んできた。ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべた彼女は、話すまで帰さんとばかりにオレの鞄に手を載せてくる。

 

 あっ、クラスメイトに周りも囲まれた。

 恋バナ大好き女子たちに、こうも包囲されては簡単には抜け出せない。そんなオレの様子に満足したように笑みを深くする友人です。

 

「緑谷くんのことに決まってるじゃん」

「……あのなぁ、アイツとはただの友達。前にもそう言っただろ?」

「ホントに? 小学校からの友人である私を差し置いて、一緒にいる男子が?」

 

 友人の言うようにあれからオレは緑谷と共にいることが多くなった。

 多分、校内で一緒にいる時間がダントツで長い異性はアイツだと思う。

 

 登校中に背中を見つけては話しかけに行くし。昼飯食った後はアイツのところに行って談笑してるし。そういえば、前に一度休日に遊びに行ったりもしたな……。プロヒーローの活躍現場巡りって名目だけど。

 

 ……でもそれって普通じゃない? 友達なんだからさ。

 

「昼休憩に遊びに行くのは百歩譲って良いとして。休日に遊びに行くのはそれってデート以外の何物でもないと思うよ!?」

「そうか?」

「そうだよっ!」

 

 後ろを囲むクラスメイト達も揃って首を縦に振る。

 あぁ、オレって中身は男子でも側は女子だったな。アイツといるとどうも前世の感覚が思い起こされて、そのことを忘れちまう。

 

「別にデートのつもりはないんだし、いいじゃん」

「可哀想だわっ! 彼とは遊びの関係だったのねっ!」

「遊びの関係ですが?」

「……うわぁ。マジで、緑谷くんが可哀想に思えてきたわ」

 

 んなこと言っても、お互いにそういう気持ちはないと思うぞ?

 緑谷と一緒にいて、甘い空気になったこと一度として無いし。まぁ、オレに異性として魅力がないだけかもだけど。ほら、オレって貧乳ロリボディだし。

 

 緑谷だって、他の女子と喋ってると緊張して真っ赤になってるのに、オレと会話するときは全然普通だ。きっと異性として意識してないって。

 

『あの……』

 

 なんか声が聞こえてきたので見てみれば、件の緑谷の姿がそこにあった。

 他クラスだからか少々遠慮しがちな小さな声を出し、こちらを見据える姿は多少マシになったとはいっても相変わらず小心者のオタク。

 

 多少()()()()()()()()()んだから堂々としていればいいのに。

 

「悪い、今日もアイツと予定があるからさ。帰るわ」

「ハァ……。進展あったら聞かせてよね」

「進展があったらな〜」

 

 帰り支度を整えた鞄を強引に抜き取り、オレは教室を後にする。

 出迎えた緑谷は気まずそうにこちらを見てきた。

 

「え、えっと、もしかしてタイミング悪かったかな?」

「別にそんなことねーよ?」

「そうなの?」

「そっ。それより早く行こうぜ。今日も訓練するんだろ?」

「う、うんっ! よろしく」

「ん!」

 

 そんな感じで緑谷と会話しながら教室を後にする。

 そうだよ。オレと緑谷の間にあるのは友情だけだ。きっとそれは、今後も変わることはないはずだ。……きっとそうに違いない。

 

 

 

 ▼

 

 

 

「んぎぎぎぎぎ~っ!」

「ほらほらどうした? そんなんじゃヒーローになんてなれないぞ?」

「あああぁぁぁぁぁぁあああっ!」

「ほら、あと少しっ! 二ぃ! 一っ! ハイ終了っ!」

「――はぁっ!」

 

 緑谷の背中に跨るオレの終了を告げる言葉と共に、緑谷が潰れたカエルのように地面に倒れ伏す。

 全身汗まみれで、腕立てをしていた影響か腕なんてピクピクと痙攣してる。

 

 こりゃ筋肉痛待ったなしだな。

 なんて思いながら、オレは緑谷の背中から離れた。

 

「お疲れ、緑谷。よく頑張ったな」

「ハァ……。ハァ……。あ、ありがと……」

 

 荒い呼吸を続けながらも緑谷は笑みを零す。

 きっと自分の成長を嚙み締めているんだろう。

 

 今回緑谷がこなした回数は二十回。ただの腕立て伏せだと平凡どころか追い込みが足りない回数ではあるだろう。でも、オレが個性を使って負荷をかけてるので、これでも十分凄い記録なのだ。

 

 使用した個性は『加重』。うちの母さんの個性で、能力は自分の体重を増加させる。オレはそれを()()()()()自分の衣服に付与し自身に負荷をかけ続けているため、体重がとんでもないことになっているのだ。

 

 そんなオレが背中に乗ったまま腕立てだ。

 過呼吸に加えて、疲労困憊になっても仕方ない。

 

「初日に比べれば凄い進歩だな」

「複世さんが、ずっと、付き合ってくれてるから、だよ……!」

「友達じゃん。こんぐらいお安い御用だって」

「……うん。本当に、ありがとう……」

 

 さて、何故オレが放課後の河川敷で緑谷の筋トレに準じているか。

 それはもちろん緑谷の肉体改造に他ならない。

 

 何せ、この緑谷少年。身体があまりにも脆弱すぎた。モヤシと言っても過言じゃないほど細身で、ちょっと運動したら直ぐに呼吸が乱れる。頭の回転は凄く早いけれど、それ以外がダメダメだった。

 

 個性が無いから鍛えても無駄。

 多分、心の何処かでそんな風に諦めていた弊害故かもしれない。

 

 オールマイトが『君、器じゃないもの』って言ってた理由に得心がいったよ。こんな身体じゃ、とてもじゃないがOFAなんて受け継げない。いや、それどころか並みの個性でも身体を壊しかねないぞ?

 

 ってなわけで、ある日の放課後に呼び出して訓練開始である。

 

『えっと、複世さん。今日は一体どうしたの?』

『今日から緑谷の肉体強化を開始します。拒否権はありません』

『えぇっ!?』

 

 困惑する緑谷だったが、『個性を扱う上で必要な肉体ができてない』と説明すると、納得したようで積極的に訓練に臨んでくれた。

 

 放課後の筋トレに始まり、オレが毎日続けている朝のジョギングにも参加し始めた。個性の使用に慣れる訓練をしてみれば、日を追うごとに練度が高まっていくし。もうね、流石は主人公というべきか。成長が凄まじかった。

 

 原作では爆豪こそが『天才マン』と表現されてたが。

 緑谷だって負けず劣らずだと思う。

 

 そんなこんな過ごしていくうちに月日が流れ、今日に至るというわけだ。

 初日はモヤシ君だった緑谷も多少肉付きが良くなった気がする。原作のオールマイトが課したプランを終えた頃には至っていないが、多分そうなる日も近いだろう。

 

「ところで複世さん。ずっと気になってたんだけど……」

「ん? 何かあったか?」

「複世さんの個性って、付与してから三分間しか使えないんだよね?」

 

 倒れ伏した緑谷の隣で腕立てしてたら、唐突にそんなことを聞かれた。まぁ普通に気付くよな、緑谷ならオレの個性の異常さに。

 

「僕の勘違いじゃなければ、()()()()持続してる気がするんだけど……」

「うん、そうだな」

「だよね!? どうなってるのっ!? ほんとは三分以上使い続けられるの!?」

「いや? 相手の個性をコピーして三分間しか使えないのは本当」

「じゃあどうしてっ!?」

「簡単な話だよ。オレは()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

 オレの言葉に緑谷は首を傾げる。

 あー、説明不足だったよな。でも、結構説明が難しいんだよ。

 

「オレの個性の弱点は知ってるよな?」

「うん。自分には付与出来ないことと、あとは三分間ってタイムリミットだよね?」

 

 緑谷の言葉にオレは頷いて正解と返した。

 未来を見据えて頑張り続ける中で、自分の肉体強化はもちろんだが、個性伸ばしもオレは続けてきた。

 

 ほら、原作でもあっただろ?

 個性だって身体機能の一つ。筋繊維のように使い続ければ強くなるって。

 だから、オレはここでも頑張った。

 

 流石に自分に付与できないのはどうにもならないからと、タイムリミットを伸ばすことを目標に毎日色々試したよ。

 

 その過程で、オレは自分の個性の中にある一つの特徴に気付いた。

 それは、()()()()()()()()時間制限がやってこないということ。

 そりゃそうだよな。常にコピーし続けているわけだし。

 

「でも、これじゃあ弱点を完全に克服したとは言えないだろ?」

 

 何せ、触れ続けなけりゃいけないんだから。

 で、これもどうにかならないかななんて思いながら過ごしていたら、ある日の晩に拍子抜けするほど簡単に克服できたんだよ。

 

「え? それって、どうやって……」

「髪の毛喰ったらなんか時間制限無くなった」

「ええぇぇぇぇえええええっ!?」

 

 偶然だったと言えるだろう。

 母さんの個性欲しいなぁって思いながら味噌汁啜ってたら、なんか個性をコピーしちゃってさ。なんで? って思って味噌汁見てたら中に髪の毛が混入してたんだ。

 あー、口に入れてもコピーできるんだ。なんて思ってさ。

 

 じゃあ、これ()()()()どうなんだろう。って試してみたら、タイムリミットが消え去ったのだ。

 

 きっとアレだ。ヤンデレの彼女的な感じで、『これからはアタシの中で生き続けるんだよ♡ ずっと一緒だね♡』みたいなやつだと思う。

 

「そんな無茶苦茶なっ!」

「実際できたんだから仕方ないだろ?」

 

 そんなわけで、その日からオレは弱点を一つ克服した。

 身体の一部を摂取する以外では、三分間しか個性を付与できないってのは相も変わらずだけど、喰ってしまえばその限りじゃない。

 

 チート個性の完成である。

 

「相変わらず凄いね、複世さんの個性……」

「オレもそう思ってる」

 

 おかげでやれる選択肢も増えてさ。こうして衣服に『加重』を付与して毎日を過ごせているのだってその一環だ。

 

「だから、緑谷も個性が発現したら髪の毛頂戴ね?」

「あ、あはは……。その、発現するかどうかは分からないけれど……。僕のでよければあげるよ」

「おう! 禿るくらいまで毟り取るから覚悟しておけよ?」

「それはやめてくれないかなっ!?」

 

 両手で自身の頭を抱えるようにして守る緑谷。

 そんな彼に冗談だって笑いかけると彼は、ホッとしたように息を吐くのだった。

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