TS少女のヒーローアカデミア 作:ネコ023
「おはよ、複世さん」
「おはよ、緑谷~」
時刻は早朝、AM5:00。
朝のジョギングをしながら合流を果たした緑谷と挨拶を交わす。
彼と知り合ってから三度目の春、これが無ければ一日が始まらないと思えるくらいには続けている恒例行事だ。
「ふぁ~……」
「あはは。眠そうだね」
「まぁな~。夜遅くまで勉強してて。そのせいで寝不足なんだよ……」
今年で俺らも中学三年生。もう受験を控える身である。
ヒーロー基礎学という授業に隠れがちだが、雄英高校だって歴とした学び舎だ。原作で言うところの実技試験の他に座学試験もあるのだから、そちらに向けて今のうちから準備をしている次第である。
一応、小さな頃から勉強だけはしていたからそれなりに自信はある。
けれど、相手は『更に向こうへ』なんて校訓を掲げた学校だ。壁と評してひっかけや、意地の悪い問題を出してきたとしても不思議じゃない。
そんなわけで、結構夜遅くまで予習してるのだ。
「あんまり無理しないようにね」
「緑谷もな~……。身体酷使しすぎると壊れるぞ?」
「うん。大丈夫。ちゃんとその辺は考慮してるよ」
と、答える緑谷は知り合ったばかりの頃とは比べ物にならないくらいに肉体が仕上がっていた。
体格も少し大きくなり、袖から見える腕を筆頭に引き締まり柔軟性に優れた筋肉の発育も進んでる。身体の成長に比例して彼の精神面も培われており、隣を走る彼の顔には確かな自信が見て取れた。
これならOFAを継承しても四肢爆散することはないだろ。
「おっ……」
なんて話しながら走っていると、前方に見覚えのある毬栗頭を発見。
二人してペースを上げて隣へと追い付く。
「おはよ、爆豪」
「……おう」
「おはよ、かっちゃん」
「話しかけんな、カス」
「酷い!?」
変わったと言えばこちらの爆豪もだ。
あの突然の襲来から毎回コイツはオレたちのところへやってきて、訓練に半ば強引に参加してきた。今ではこうしてジョギングにすら参加してる。
おかげで緑谷ほどじゃないけれど、こちらもまた身体が大きく強くなっていた。
最初は喧嘩腰というかさ。何が何でも緑谷の心をへし折るとでもいうかのような、凄まじい苛烈さを見せていた爆豪だけども。戦闘訓練と評してオレや緑谷と拳を交わし続け、勝ったり負けたりを繰り返していく中で心境に変化でも起きたのか。
最近じゃ、爆発的な過激志向は形を潜め始めてた。
緑谷に厳しいのは相変わらずだけど。それでもこうして隣を走ることを許すあたり、心の何処かで緑谷を認めてるんじゃね―かな。
『なぁ、爆豪。この個性なんだけど、お前ならどう使う?』
『あぁ? んで俺がそんなこと教えにゃいかんのだ?』
『……あっ、すまん。無理強いはできないよな。人間、得手不得手があるし』
『誰が無理だクソがッ!!! 個性使えや、チビ女ァ!!』
そんな感じで個性運用にもある意味協力的。
爆豪の場合、個性持ちだからか個性の付与にはどうしても違和感というか、倦怠感を感じるようで。終わった傍から片膝突いてたりするけれど、決して気絶しないあたりスゲー根性してると思うよ。
ちなみに爆豪のおかげで色々個性の汎用性が広がった。
『加重』を使って自身の体重を増加。空中からの急加速での特攻だったり。
『引力』を使って物を引き寄せる。その性質を利用して、近場の石や棒などの道具を引き寄せてボコるとか。あとは、”引き寄せ続ける”ことで自分の身体を壁や天井に短時間だが張り付けるなんて芸当を考えてた時は、冗談抜きでスゲェと思ったね。
個性の使い方がやたら好戦的なのは別として。
非常に助かったのは確かだ。
緑谷の場合は付与すれば終わりだが、オレの場合は服とか靴、あとは手袋なんかを利用すれば再現可能だし。
全く。これで筆記も完璧って言うんだから天才はズルい。
「よっしゃ、このまま三人で雄英バッチリ合格してやろうな!」
「うんっ!」
「……ケッ!」
腕を上げて決意を表明してみれば、二人も各々そう返してくれるのだった。
▼
「今から進路希望のプリントを配るが、皆!! だいたいヒーロー科志望だよね」
教壇に立つ先生の言葉に、教室中のオレを含めた生徒が『ハーイ』と答える。
各々が個性を使用して存在を誇示するが、オレは普通に挙手してアピールしてみせる。今年は同クラスだった緑谷も、オレの隣で挙手してるよ。
原作ではさりげなくな感じだったのに、成長したもんだ。
で、ここで爆豪の『一緒くたにすんな』発言があるはずなんだが、どういうわけかそれが無い。思わず爆豪を見てみれば、なんか睨み返された。
『なに見てんだ、コラ』とばかりの視線――もとい死線だ。
誤魔化すために微笑んだら額に青筋浮かべてた。なんか、悪い……。
そんなこんなでHRが終わり、クラスメイト達が帰宅準備を進める中で、爆豪とその友人たちがオレの隣――緑谷の席に集まってくる。
「おい、緑谷~。爆豪から聞いたぜ? 雄英受けるんだってな!」
「今の雄英は偏差値79のバケモン高校だぜ? お前大丈夫なの?」
「う、うん。学科は結構自信あるから」
なんだか比較的穏やかな会話である。
原作だと馬鹿にしたような言動が多かったが、普通に仲良さげな空気。
それもそのはずだ。緑谷はオレや爆豪との訓練を続けてきた結果、運動のできるタイプのオタク君にクラスチェンジしていたのだから。
爆豪に次いでの学力に加え、強個性持ちには及ばないものの身体能力は高水準。個性に関しても、今年は同じクラスでオレという個性が付与できる特異個性持ちがいるため、無個性であることを理由に虐げられることも無かった。
結果、クラスメイトとも普通に打ち解けていたのである。
「ところで緑谷、何してるんだ?」
横目で観察していると、爆豪の友人の一人が緑谷の机の上に置いてあった彼のノートを手に取った。表紙には『将来のためのヒーロー研究!』と描かれていて、それをサラッと読んだ彼は『おぉっ!』と声を上げる。
「爆豪や個性のことがスゲー書かれてら……!」
「うんっ! かっちゃんの個性も使えるようになったから、僕なりに分析と応用をまとめてみてるんだ」
「へー。……んで、実際のとこどうなんだ? 爆豪の個性って?」
席がすぐ横だってこともあってか、オレに話題を振ってくる。
「そうだな。攻撃能力って意味じゃ他の追随を許さねー強個性なんだけどさ。どうにもオレと緑谷には相性が悪い気がするなー」
「うん。爆破って能力上、複世さんの場合は一度使うと付与した物が消し炭になるし。僕の場合は複世さんと一緒にいなきゃだから機動性が損なわれるんだ。そこをどうにかするのが課題だね」
「なるほどねー。爆豪の個性は使い勝手の悪いのかー」
「だってよ、爆豪」
「テメェら、後で殺す!」
強個性なのは間違いないんだけどな。相性が悪かったとしか言えないね。
せっかく個性をコピーさせてくれたところ悪いんだけども。
などと話していると、爆豪が彼の友人からノートをひったくる。それからサラサラと流し見して読み終えると、『ボツ』の一言と同時にノートを爆破した。
うん。やると思った。
「あー!!」
「デク、テメェ……。俺を舐めとんのか? 俺の個性がこの程度で収まると本気で思っとんのか? あ!?」
「……つまり?」
「分析が足りねー。もっと頑張れってことじゃ?」
爆豪の友人の問いに短く答える。
爆豪的には到底認められない内容だったんだと思う。……多分。
なんか、原作とは違った理由でノートが爆破されたが、理不尽極まりないのは変わらないな。内容をどう纏めるかは緑谷の勝手だと思うんだけど。
「ドンマイ、緑谷」
「だ、大丈夫。かっちゃんの理不尽には慣れてるから」
爆豪の友人の慰めに苦笑する緑谷という構図。
うん、空気が緩い。原作だともっと陰鬱とした苛めの現場みたいな感じだったが、緑谷の肉体改造と爆豪の態度が多少軟化したことで、どうにもそんな雰囲気になりそうにもない。
「オラ、行くぞ!」
「じゃなー、緑谷ー、複世ー」
「また明日なー」
そう言って爆豪たちは教室を後にしていった。
拍子抜けするほど何もなかった。いや、ノート爆破はあるにはあったが、原作での理由とは違うし。ソレに対しての緑谷の精神的ダメージも少なそうだ。
そんなこんなで、少々変わった原作エピソードを鑑賞した後の帰り道である。
「さて、あとは商店街まで行くだけだなー」
緑谷と別れて向かう先は商店街。
無論、『君が助けを求める顔してた』イベント鑑賞のためである。
誰よりも小心者だった緑谷が、幼馴染の危機を目撃して無意識のうちに駆け出すあの名場面。アレがあったからこそ緑谷はオールマイトにヒーローの素質を見出されたといっても過言ではない。
つまり、ヒーロー『デク』の始まりとさえ言える大事なイベントなのだ。
見逃すという選択肢は存在しない。必ず鑑賞せねば!
「ただなー。ちゃんと起きるかな、アレ……」
本来あるべき原作の流れが、オレという異物が介入したことで変化を起こしたのは先程目にした通りだ。緑谷はクラスメイト全員から嘲笑されたりせず、爆豪から『ワンチャンダイブ』の言葉を貰うことも無かった。
肉体も八割がた原作に近づいているし、今の緑谷であれば『個性が無くてもヒーローはできるって証明してみせるよ』って言い出しかねない感じもする。
それくらい、結構前向きになってるんだ。
それ自体は全然いいんだけどさ。その結果原作エピソードが起きないのはかなり不味い。いや、マジで……。
大丈夫だよな? オレ、やりすぎたなんてことないよな?
「――ん?」
などと考えていると、目の前に何かが落下してきた。
「……アレ? これって……」
落ちてきたものに視線を落とせば、それはペットボトルだった。
ラベルは炭酸飲料ではあるものの、中身はそれとは程遠い下水道の泥みたいな色をしている。更には、スライムボールについてるような簡素な目玉が二つ……。
なんか、凄く見覚えあるんですが……?
「もしかして、オレってかなりヤバい状況か?」
などと漏らした瞬間だ。
ペットボトルが音を立てて破裂する。
そして、『Sサイズの隠れ蓑ッ!!』と気持ちの悪い雄たけびを上げながら、ヘドロが津波のように押し寄せてきた。個性を使う暇もない一瞬のことで、大した抵抗も出来ないままオレはヘドロヴィランに取り込まれるのだった。