TS少女のヒーローアカデミア   作:ネコ023

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6.君が助けを求める顔してた

 side 緑谷

 

 僕にとって、個性とは憧れだった。

 世界総人口の約八割が何らかの特異体質に目覚めたこの世界で、何の個性()も持たずに生まれた僕だ。そんな考えを持つのは至極当然のことだったと思う。

 

 人は生まれた時から篩に掛けられ、強い個性を持って生まれた人は当たり前のように(ヒーロー)を志し、それを叶え。弱個性持ちの人でさえ、その夢を追いかけようとすれば『頑張れ』と声を掛けられる。

 

 けれど、無個性に与えられる言葉は『諦めろ』の一言。挑戦するのも烏滸がましい。身の丈に合った夢を抱えて生きていけって諭されるのだ。

 

 生まれながらに持たざる者の僕は、夢を追うことすら許されない。

 厳しいけれど、それが現実だった。

 

 でも、複世さんと出会って。彼女のおかげで個性が使えるようになってさ。身体も相応に鍛えるようになって自信もついた。無個性でも、頑張ればヒーローを目指せるんじゃないかって本気で思っていた。

 

 だけど……。

 

「プロはいつだって命懸けだよ。『個性()が無くとも成り立つ』とは、とてもじゃないが……口にはできないね」

 

 普段の姿は形を潜め、瘦せ細ったオールマイトはそう言った。

 惨たらしい傷口を見せながら、プロヒーローはいつだって危険と隣り合わせの生活をしているのだと。力を持たなければ、ただ蹂躙されるだけなのだと。

 

「確かに、君は無個性にしては凄い方だと思うよ。個性を使用することなくヴィランの攻撃を()()()()()だなんて芸当、普通はできない。きっと……普段から鍛えてきたんだろうね」

 

 だけどと、オールマイトは続けた。

 

「ヒーローの仕事は人々の平和を守ることだ。いくら君が自身を鍛え、強さを磨こうとも、その手で救える人々には限界がある。ヴィラン相手に自分の身を守ることができても、人を守るだけの余裕が無かったのは先程のことで身に染みたことだろう?」

 

 確かにそうだと僕は思った。

 ヴィランに襲われる中で、僕が考えていたのは如何にしてこのヴィランの攻撃を避けるか。ただそれだけだった。

 

 仮に他に人がいたとしたら、とは思うけれど。

 あの場において我が身以外を考える余裕がなかった。

 それが紛れもない事実であることに変わりはない。

 

「夢を見るのは悪いことじゃない。だが、相応に現実も見なければな……少年」

 

 そう言って、オールマイトは出口である扉のドアノブに手を掛けた。

 無情にもその場を後にした彼の姿を呆然と眺めながら、僕は胸元のノートをギュッと抱えて涙をこらえる。

 

 結局、僕は複世さんがいなければ多少動けるだけの無個性で。

 プロのトップ(オールマイト)までもがヒーローではなく警察官を勧める、守られる側の人間なのだと突きつけられて、どうしようもなく涙が溢れてくる。

 

 僕にだって……。僕はこれからなんだって思っていたのに。

 やっと、そう思えるようになってきていたのに……。

 

 現実は残酷だ。

 オールマイトの言うことだ。きっと間違いのないことなのだ。

 

「ハハハ……。流石に、ショックだなぁ……」

 

 なんて零していると、突如として爆発音が鳴り響く。

 そちらを見てみれば、音の発生源は商店街の方だ。巨大な爆発音が幾度となく繰り返されるその様子は、爆発でお馴染みの幼馴染の姿を幻想させる。

 

 きっと、あそこでヴィランが大暴れでもしてるんだろう。

 うん、そうに違いない。

 

「……って、なんで僕はっ」

 

 気が付けば、そちらの方へと僕は足を進めていた。

 度重なる爆音と人々の声とで騒々しい方向へ無意識に向かっている自分に嫌気がさす。ついさっき、現実を思い知ったばかりだっていうのにさ……。

 

 クセなのか。人垣を掻き分けながら前へと進む。

 そうして全貌が見える位置にまでやってきたところで、僕は息を飲んだ。

 

(あいつ何で!!!?)

 

 商店街中央で大暴れしているのは、間違いなくついさっき僕を襲ったヘドロヴィランだった。僕の代わりに誰かを取り込んだのか、幾度となく爆発を引き起こしながらその場のヒーローたちを圧倒している。

 

 あいつは間違いなくオールマイトが制圧していたはずだ。

 にもかかわらずこうして姿を現しているということは、逃げられた……!?

 

(僕の、せいだ……!!)

 

 きっとあのときだ。僕がオールマイトの足に無理に引っ付いたとき。

 あの場で落としたに違いない。

 

「ヒーロー何で棒立ちィ?」

「中学生が捕まってるんだと」

「それも爆発を使う個性でさ。中々近づけないらしいぜ?」

 

 それはかっちゃんに似てる個性で。

 爆発の規模は小さいけれど、周囲を火の海にするには十分な火力だ。

 

「つーか、あのヴィラン。さっきオールマイトが追ってたヴィランじゃね?」

「オールマイトが来てるのか!? だとしたら何処にいるんだよ!?」

 

 そんな声が周囲から聞こえてくる。

 

 でも、彼は動けない。他ならない僕のせいで……!!

 オールマイト以外のヒーロー。あいつの流動系の身体をどうにかできる個性を持つヒーローの到着を待つしか……!!

 

(頑張って……!! ごめん!! ごめんなさい……!! すぐに助けが来てくれるから……。誰か、ヒーローがすぐ…………)

 

 頭の中が取り込まれた人への謝罪でいっぱいになったとき。……僕は見た。

 見えてしまったんだ。ヘドロの間にチラリと覗いた華奢な身体と、見慣れた白色の髪の毛。いつもニコニコ笑顔で、僕の隣にいてくれた彼女が……。

 

 ――助けを求める顔をしていた。

 

 

 

 ▼

 

 

 

 side 複世

 

「ケケケッ!! こりゃ大当たりだぜッ!! 肉体はともかく個性は最高じゃねーかッ!! これなら、奴に報復できる!!」

「~~~~ッッッ!!!」

 

 苦しい、息ができない。

 こんなのを原作で爆豪は耐えていたっていうのかよ。性格はドブカスだけど、実際才能だけは本当にあるんだな、アイツッ!!

 

 って、感心してる場合じゃないんだよ。

 

 これもオレが色々介入した結果なのか。

 本来であれば襲われるのは爆豪であったはずなのに、取り込まれつつあるのはオレという現実に泣きそうになる。というか、今まさに大号泣中だわクソが!!

 

「放せぇぇぇぇえええええッッッ!!!」

 

 どうにかコイツから抜け出そうと、無意識のうちに爆豪の個性を使用する。足元の石や周囲の看板、手持ちのハンカチやティッシュに付与して爆発を引き起こしていれば、あっという間に原作同様に商店街は火の海だ。

 

 狙っていたわけじゃないんだ本当に。

 

 ただ、この状況をどうにかできるのが爆豪の個性しかなかった。『引力』も『加重』もこの場においては効果が薄い。だからこそ、『爆破』だったんだが、原作同様こちらもヘドロヴィランには効き目が皆無だ。

 

 むしろ、オレを中心とした爆心地が形成されるだけ。

 衣服を爆発させて自爆みたいな感じですればワンチャンあるか?

 でも、それすると救い出されたあと全裸になるもんな!? それは絶対無理だ。断固拒否である。

 

 などと考えてるうちにもヒーローがやってくる。

 確か、シンリンカムイだとか、デステゴロだとか言ったかな? 彼らがオレを救い出そうとしてくれてるが、ヴィランの反撃に遭い上手くいっていない。

 

「駄目だッ! コレ解決出来んのはこの場に居ねぇぞ!」

「誰か有利な個性を持つ奴が来るのを待つしかねぇ!」

「それまで被害を抑えよう! 何すぐに来るさ! あの子には悪いがもう少し耐えてもらおう!」

 

 原作同様の台詞が聞こえてくる。

 

 オレの起こす爆破とヴィランの迎撃で中々打つ手がないのは分かるけれど、こちとらか弱い女の子やぞ!? 爆豪並みのしぶとさがあると期待してないで、普通に助けてくれませんかね!? 今、結構限界近いんですけど!

 

 クソ。この際、抵抗止めて大人しくするか?

 

 いや駄目だ。全力で個性を使用して、藻掻いていないと一瞬で意識を刈り取られるのが目に見えてる。仮にオレが意識を失えば、奴は完全にオレの身体を乗っ取り、個性を使って暴れまわるだろう。そうなれば手が付けられない。

 

 このまま抵抗し続けることが最善なんだ。

 そう、最善なんだけどもだ……。

 

(ヤバい、意識が朦朧としてきた……)

 

 原作で爆豪が暴れ続けていられたのは、そのフィジカルあってこそ。

 華奢かつ少女のオレにそんな抵抗をし続けるだけのスタミナがあるわけないのだ。

 

 オールマイトは……?

 緑谷は……?

 

 ヒーローはまだ来ないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰か、助けて…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿ヤローッ!! 止まれ!! 止まれッ!!!」

 

 馬鹿でかい怒号が木霊して、消えかけていたオレの意識が鮮明になる。

 目を開いて声が聞こえた方を見てみれば、こちらに向けて走ってくる緑谷(ヒーロー)の姿があった。

 

「アイツ、さっきのガキ!!」

「み、どりや……!!」

 

 その表情には原作のように怯えはない。

 

 ヘドロヴィランの触手のようなヘドロが彼を襲うも、右へ左へサイドステップを踏みながら最小限の動きでソレを回避。オレの個性によって発生した爆炎もものともせずに真っ直ぐこちらに駆け寄ってくる。

 

「クソッ! ちょこまかとしつこいガキだッ!」

「ぅおあッ!!」

 

 そうしてある程度距離が縮まったところで、背負った鞄をこちらに投手。

 鍛え上げられた身体から放たれた鞄が顔面に直撃し、ヴィランが怯んだ瞬間に緑谷は肉薄するとオレの前へとやってきた。

 

「みどりや……っ! お前、今、無個性だろ……っ!」

「そうだよッ! 個性なんて何もない無個性だッ! でも、()()()()()()()()()()()()からっ!」

「……ッッッ!!!」

 

 そう言って、彼は笑った。

 いつものようにとは言えないが。こんな切羽詰まった状況で、怯えも混じったような笑みを浮かべて彼は原作同様の台詞をオレに向けて放つのだ。

 

 その笑顔と台詞に、何故だか身体が熱くなるのを感じた。いや、ずっと前からヴィランに抵抗して全身ホカホカではあったんだけど。なんか、急に緑谷の顔が直視できなくなって思わず顔を背けてしまった。

 

「複世さんっ!」

 

 そんなオレの様子を気にも留めずに緑谷はオレに手を差し伸べてくる。

 

「あぁくそっ! 頼んだ、緑谷っ!」

 

 恥ずかしさを隠すように叫びながら彼の手を握って個性を発動。

 大丈夫、これまで何度もやってきたことだ。こんな状況でも問題ないはずだ。

 

「もう少しなんだから、邪魔するなっ!!」

「――複世さんから、放れろぉぉぉぉおおおおッ!!」

 

 怯みから回復したヴィランの攻撃に迎撃するかのように伸ばした緑谷の掌。

 そこから発生した爆破がヴィランの身体を攻撃ごと吹き飛ばす。その衝撃でオレを拘束するヴィランの力が弱まるのを感じた。

 

「緑谷、今っ!!」

「うおおぉぉぉぉぉああああああ~~~ッッッ!!!」

 

 雄叫びを上げながら緑谷はオレの身体をヴィランから引っ張る。

 オレが華奢なおかげか。それとも緑谷が鍛えてたからなのか。いともたやすく引っ張り出されたオレは、緑谷を巻き込み押し倒すようにして地面に倒れ伏した。

 

「このクソガキッ!! そいつを返せッ!!」

 

 もちろん、オレという人質を奪われたヴィランは怒り心頭だ。

 ヘドロを広げ、再びオレを吸収しようと迫ってきた。

 

 が、残念ながら奴の行動は失敗に終わる。何故って、そりゃもちろん――

 

 

「プロはいつだって命懸け!!! 『DETROIT SMASH(デトロイト スマッシュ)』ッッ!!!」

 

 

 奴の魔の手が伸びる前に、平和の象徴(オールマイト)が助けに来てくれたからだ。

 彼の拳一本によって生じた風圧でヴィランは跡形もなく吹き飛ばされ、生じた風圧で上昇気流が発生して雨まで降ってきた。

 

 文字通り、次元が違う強さだ。

 そりゃ、ヴィランの多くが彼を恐れるわけだよ。

 

 なんて思いながら、オレは凄まじい倦怠感に導かれるままに意識を手放した。

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