TS少女のヒーローアカデミア 作:ネコ023
「個性が、発現したんだ……!」
ある日の放課後。
授業が終わって帰り支度を進めるオレと爆豪に緑谷が放った言葉だ。
彼曰く、オレとの個性訓練が緑谷の内に眠る個性を引き出したとかなんとか、そういう理由で目覚めたとのことだ。
もちろん、それは個性を継承する個性『OFA』の存在を隠すためのカバーストーリーであることは間違いない。だって、オレの個性にそんな能力無いんだから。
突けば直ぐにボロが出そうではあるが、そんなことはせずに納得しておく。
「……どんな個性だ?」
「えっと、超パワーって言えばいいのかな? 身体を強化して、凄まじいパワーを発揮できるというか。ただ、発現したばかりっていうのもあって調整が難しくて個性を使う度に
「長ぇわッ、クソナードッ!!!」
「うん。確かに長い」
「ご、ごめんっ」
緑谷は相変わらずである。
それはさておき。オレが緑谷と行っていた訓練は実を結んだらしい。
『ヘドロ事件』からまだ三日というのにもかかわらず、緑谷は『OFA』の継承を済ませたようだった。しかも、自壊させずに個性を扱えてるあたり、力の制御に関しては原作以上の熟練度と言えるだろう。
まぁ、全力の2%しか使えないってのは少し意外だったけど。
結構緑谷頑張ってたから、最初から20%とかイケるかと思ってたんだけどな。
「良かったな、緑谷っ! なんか、オレすげー嬉しいよっ!」
「ケッ。今更個性が発現したから何だってんだッ! テメェは変わらず俺の下だ、デクッ!
「二人ともっ! ありがとうっ!」
「誰も祝ってねぇわ、クソがッ!!!」
怒号を浴びせる爆豪だが、その表情に原作のような焦りは感じられない。
こちらも多分オレの介入によるものだろう。
「それにしても超パワーか……。コピーしたらどうなるんだろ……?」
「あっ。コピーに関してはちょっと待ってもらっても良いかな?」
「えっ? どうして?」
緑谷の手に触れて個性をコピーしようとしたら距離を置かれて拒まれた。
「まだ情報が少なすぎて……。それにさっきも説明したけれど、制御が難しくて自壊のリスクがあるんだ。僕はできれば、複世さんに傷ついてほしくない」
「うっ……」
真剣な眼差しでそう言われてしまえば、流石のオレも無理は言えない。
オレの個性は何かに付与して使うから、多分壊れるにしても付与した物の方だと思うんだよ。とはいえ、それはあくまで予想だ。実際どうなるかは使ってみるまで分からない。仕方ないから、緑谷自身が頷くまで待つべきだろう。
「分かった。待つよ。緑谷が納得してくれるまで」
「ありがとうっ! 複世さんっ!」
「べ、別に……礼を言われるようなことじゃないだろ……」
緑谷の笑顔と言葉に少し顔が熱くなる。
ヘドロ事件から若干緑谷に弱くなってる気がするんだよな、オレ……。あのときの高鳴りほどじゃないけれど、心臓もちょっと鼓動が早い気がするし。
思わずオレは緑谷から視線を逸らして爆豪を見据えた。
「あっ、なんか落ち着くわ……」
「オイ、テメェ。人の顔見てなに落ち着いてやがんだ? アァ?」
「すまん。少しだけ眺めさせてくれ」
「こ・と・わ・るッ!!」
そんな感じで、オレの精神安定のために爆豪を見据えていると、緑谷がおずおずといった風に切り出してくる。
「そ、それでさ。ちょっと取り入れてみたい訓練があるんだけど、二人も一緒にどうかなって……」
「訓練? 何するんだよ?」
「……えっとゴミ掃除? その、
緑谷曰く、個性を発現したときに
オールマイト、雄英の卒業生だし。
それにしても……。そうかー。俺たちも誘ってくれるのか、あの訓練に。
いや、嬉しいよ? オールマイト直々に訓練を見てくれるみたいだし、何より隠し事をされなかったって言うのが素直に嬉しい。その調子で、オレにだけでもOFAの秘密を教えてくれても良いんだぞ?
とにもかくにも、『またも原作に無い流れが来た』と思いながらも、オレは緑谷の提案に了承するのだった。
▼
翌日の朝。日課のジョギングを済ませたオレたちがやって来たのは、原作でも登場した海浜公園だった。海流的な何かで流れ着いた漂着物と、そこに付け込んだ不法投棄からなるゴミの山と言えるようなそんな場所。
まだオールマイト考案の『目指せ合格アメリカンドリームプラン』が実施されていないのか、水平線が確認できないくらいに廃棄物の山で敷き詰められていた。
なんというか、モラルもクソもあったもんじゃないな。
そのおかげで地元の人間も余程のことがなければ寄り付かないみたいだから、人目を避けての訓練にはもってこいだと言えるだろう。
「……チッ! なんでもかんでも適当に捨てやがって……!」
「本当にな。これじゃあ、海水浴だって出来ねーだろ」
「いろんな人に迷惑が掛かりそうだよね」
「んで? ここの掃除が訓練ってことか?」
「うん、そうみたい。元々はこの訓練を考えてくれた人が一人で進めていたみたいなんだけど、流石にこの量を片付けるのは時間もかかるし大変そうで……」
なんて三人で口々に言ってると、道路の方から車のエンジン音が聞こえてきた。
見れば、入り口に軽トラが一台停車していて、運転手らしき人がこちらに向かってきてるのが目に見える。
痩せ細った身体は骨と皮だけにしか見えず、さながら動く骸骨だ。
しかし、その目だけは覇気に満ち満ちており、こちらを見据える青い双眸はギラギラと輝いている。とはいえ、それも一瞬のことで。オレたちの傍までやってくると、彼の瞳は綺麗な弧を描いた。
「やぁ、緑谷少年。時間通りだね」
「おはようございますっ! オ――八木さん! 今日はよろしくお願いしますっ!」
挨拶する緑谷に倣って、オレも爆豪も頭を下げる。
平和の象徴オールマイト。姿は弱々しいけれども圧倒的な存在感は健在だ。本気になったらここに威圧感が付け足されるので、ヴィランたちは失禁間違いなしだろう。
そんな彼は柔和な笑みを浮かべたままにオレと爆豪を見据えた。
「二人のことは緑谷少年から聞いてるよ。複世少女と爆豪少年だね。私は八木俊典。よろしくね」
「……ウス」
「はい。よろしくお願いします」
二人そろって頭を下げる。
あの爆豪までもが素直にしてる。流石はオールマイトだ。
「うんうん。二人とも良い子そうだね! それに、緑谷少年と同じく鍛えてるそうだし、ゴミ掃除も捗りそうだ!」
「ここ全部を片付ければ良いんですか?」
「あぁ、そうさっ! 最近の
そういって、近場にあったタイヤを持ち上げる八木さん。
しかし、『よいしょっ!』と声を上げて力強く持ち上げた瞬間に、吐血しながらその場に倒れこんだ。
「うわぁぁぁあああっ!!? 大丈夫ですか、オ――八木さんッ!!?」
「私はオヤギではないぞ……緑谷少年……」
咳き込み、吐血を続けながら立ち上がる八木さん。
無理しないでその辺で休んでなよ。もうね、完全に病人なんよ。
「ゴホッ……ゴホッ……。とまぁ、私はこんな感じで病弱でね……。ここの掃除も一人じゃままならないのさ。だからこそ、助かったよ。君たちのような若い子が来てくれてね……」
とまぁ、そんなこんなで早速訓練という名のゴミ掃除開始である。
漂着物から廃棄物まで。そこらに転がるゴミの数々を拾って、八木さんが乗って来た軽トラの荷台に運搬する。ただそれだけではあるんだが、原作の貧弱な緑谷の身体を十カ月で魔改造した訓練だ。
そう簡単なはずもなかった。
「ヘイヘイヘイヘイッ! 三人とも気張るんだーっ! 入試まで十カ月っ! 時間は無いぜっ、頑張りなーっ!」
「ああぁぁぁぁぁあああああ~~~っっっ!!!」
「クソがあぁぁぁぁあああああッッッ!!!」
「んぅぅぅぅぅーーーーーっっっ!!!」
それぞれ雄叫びを上げながらゴミの運搬。
緑谷は常時OFAを使用し、力の制御を行いながらコレを実践し。
爆豪は廃棄物を背負い、掌からの爆発を推進力にして運んでる。
そして、オレは素の力で頑張ってます。
オレだけ何のバフも無いので超辛い。でも、頑張る……!
▼
「ゼェ、ゼェ……」
その日のゴミ掃除を済ませ、現在は個性使用有りの戦闘訓練中だ。
法律上、公共の場では個性の使用は原則禁止されているのだが、プロヒーロー監修の下ではその限りではないので、八木さんの監視の下で行われてる訓練だ。
「死ねやぁぁぁああああっ!!!」
「うおぉぉおおおおおおああああッ!!!」
目の前で繰り広げられる緑谷と爆豪による拳の応酬。
いや、単純な殴り合いではない。爆豪は爆破を推進力にした機敏な移動を織り交ぜてるし、緑谷もOFAで脚を強化しこれに追い付いている。フルカウルではないのは、まだその発想に至ってないだけか。
まぁ、とにかく。オレには至ることのできない凄まじい戦いである。
個性無しであれば二人とも対等にやれるんだけどな。
「複世少女。大丈夫かい?」
「えぇ、大丈夫です……。ちょっと疲れただけなんで……」
そんな訓練を前に息を整えていると、八木さんが隣にやってくる。
この場において、唯一の女であるオレを気にかけてくれてるらしい。
優しい人だ。流石はナンバーワンヒーローである。
「あまり、無理はしないようにね。ぶっちゃけね、君らに課してる訓練内容って凄いハード。根を上げても仕方ないレベルだからね?」
八木さんから課された訓練内容は無論ゴミ掃除だけに留まらない。
長距離を荷物を抱えて走ったり、遠泳したり。真夏の日差しに晒されながらの筋トレなんかもあった。あの爆豪ですら、訓練が終わればへたり込むレベルで、更にそこに『受験勉強』まで加わるのだから、彼が超ハードというのも納得だ。
「えぇ、分かってます。でも、二人に置いてかれるわけにはいかないんで!」
けれど、途中で止めるなんて考えは欠片も浮かんでくるわけがない。
『目指せ合格アメリカンドリームプラン(仮)』を実施し始めてから半年。肉体も精神も随分育ってきてると実感できるし。
何より、一緒に頑張る友人がいるのだから。
そう簡単には諦められねーさ。
「んーっ! 青春だねぇ! おじさん、結構そういうの好きだよっ!」
親指を立てつつニッコリ笑う八木さんにオレも笑みを返すのだった。