聖杯は静かに泣いている   作:風梨

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合流と交渉

 

 

 深い森の中を、レオリオは歩いていた。

 手荷物カバンは少し邪魔だが、レオリオにとっての生命線でもある。どれだけ疲れ果てていたとしても手放すことは考えられない。

 

「つっても、最初のマラソンのときにゴンが拾ってくれなかったら……」

 

 確実にあの場に置き忘れていた。

 気合いを入れすぎていたのもあるが、あの時はカバンを気に掛ける余裕すらなかった。

 ゴンには改めて感謝しねえとな、そう思いながら鞄をしっかりと握りしめて森の中を進んでいく。

 見る限り豊かな森だ。食うに困ることがなさそうなことだけは朗報と言える。

 だが、この広い島で24名の受験生たちがプレートを奪い合う……。加えてレオリオにはハンデともいうべき問題があった。

 

「せめて誰がターゲットなのか、わかればよかったんだが……」

 

 ため息混じりに溢したのは弱音でもあった。

 ターゲットを示すカードを引いた後にはもう誰もが自分のプレートを隠していた。周りの受験生にそこまで注意を払っていなかったこともあって、レオリオは自分のターゲットが誰なのかわからないまま、4次試験をスタートすることなってしまっていた。

 これは非常に大きなハンデだ。

 

「番号がわからんやつを、3人倒すか? ……1週間で3人、それもプロハンター志望のやつとタイマンか……」

 

 レオリオは自分の実力をよく理解している。

 自分が弱いと今まで思った事はなかったが、さすがにハンター試験に挑戦してくる奴らは一味も二味も違う。気合いで負けるつもりはないが、簡単に倒せる、とは言えない。そのくらいの分別はある。

 だからと言って、取れる手段は少ない。出会った奴と交渉してターゲットの情報をもらうか、手当たり次第に三点集めるかしかないのだが……。

 

 どっちにしろ行き当たりばったりだ。

 なるようになるとも言う。だが自暴自棄になった訳ではなかった。

 プロハンターになれば夢に一歩どころか大きく前進する。試験はまだ途中なのだから、悩んでいる暇があれば目をサラのようにしてでも他の受験生を警戒すべきだろう。

 

 そう思い気合いを入れて探索を続ける。

 ──そんなレオリオの背後から、声が掛かった。

 

「レオリオ」

「うおっ!?」

 

 慌てて振り向いて、いざという時に備えて持っていたナイフを向けた先には、先日から一緒に試験を受けることの多かったゴスロリ少女のカリスが立っていた。人形のように整った無表情を、レオリオに向けていた。

 

「カリス?」

「うん」

「あーっと、悪い。どうした?」

 

 ナイフをしまおうとして──、自分がカリスのターゲットである可能性が思い浮かんで思わず固まった。

 

「……いや、まさかお前のターゲットって」

「そう、私のターゲットはレオリオ」

「……そういうことか」

 

 苦々しく思うが、それも仕方がない。

 これはハンター試験だ。仲の良い友人とも、争わねばならない。

 レオリオに諦められない夢があるのと同様に、カリスにもハンター試験に臨まねばならなかった事情があるのだから、ここで手を抜く方が失礼だ。

 互いの夢を賭けた真剣勝負。そういう場に遠慮は無用だ。気持ちを切り替えて真剣な眼差しを向けた先で、カリスは小さく手を上げた。

 

「まずは私の話を聞いてほしい。ダメなら……そのとき考える」

「……わかった。それまでは休戦だな」

 

 この対応は甘いかもしれない。だがレオリオも、進んで友人と戦いたいとは思わない。カリスの提案は渡りに船とも言えた。

 例えそれが戦いを先延ばしにするだけだとしても。だがその不安は良い方に裏切られることになった。語られたのは、他言無用という言葉と、カリスがハンター試験に臨む理由だった。

 

 

 

「──なるほどな」

 

 チラリと顔色を伺うが、カリスは淡々とした無表情のままだ。

 話は聞いた。その上でどう判断するのか、決断はレオリオに委ねられている訳だが。

 

(なんつーか、仲良くなるためなんて、小っ恥ずかしいことをよくもまあ真顔で言えるもんだぜ……)

 

 レオリオ自身は少しばかり顔を赤くしつつ頬をかいた。

 だが提案自体は悪い話じゃない。問答無用で戦いが始まるなら、意地でも喰らいつくつもりではあったが、話し合いの結果で戦意は削がれてる。加えてカリスがプレート集めに協力してくれるというのは大きい。プレートを渡さなければいけないとはいえ、レオリオにとって友人と戦うよりも、ずっと受け入れる余地のある話だった。元々、自分一人ではここまで辿り着けなかった。それなら仲間と一蓮托生となるのも悪くない。レオリオはそう思った。

 

「わかった、オレはその話に乗るぜ。ま、キルアに関しちゃあんまり力になれるとは思えねえけどよ」

「ありがとう。大丈夫、そこは私が頑張るから」

「そ、そうか。まあ応援してるぜ」

 

 笑い合って、レオリオは自身のプレートをカリスに手渡して握手した。そんなレオリオの背後から、聞き馴染みのある声がした。

 

「──では、よろしく頼む。レオリオ」

「いっ!? お前も居たのかよ!」

 

 慌てて振り返った先ではスカした言動を崩さないクラピカが立っている。交渉の成立を見届けたから姿を現したのだろう。もし成立していなければ……。

 

「ああ、交渉はカリスが進めると言ってな。発案者が提案するのだから道理も通っていたことだし、私は様子を見させてもらった」

「けっ、戦いになってたら、2対1だったって訳だ」

「まあそうだが……」

「いや待て、それ以上言うな。わかってても聞きたくねえ!」

 

 カリスと1対1で勝てるのか。

 もしその質問されても、レオリオは無言で答えるしかないからだ。

 

「ふっ、わかった。さて、カリス。これで最低限の前提は整った訳だが、これからどうするつもりだ?」

「うん。聞くからちょっと待って」

「……聞く?」

 

 首を傾げるレオリオとクラピカの前で、カリスはぼそぼそと何か喋っている。

 話しかけているのは、抱きしめているぬいぐるみのようだった。

 

(おい、クラピカ。ほんとに大丈夫か? どう見ても、その、あれだろ)

(わかっている。だが、お前の位置を誰が見つけたと思う? カリスだ。何かしらの、占いやジンクスなのかもしれない)

(占いにジンクスねえ。まあ、プレートが集まるんならそれでいいけどよ……)

 

 ちょっとした不安を抱えるレオリオとクラピカを置いて、ぬいぐるみとの相談を終えたカリスは一つ頷いた。

 

「今日の活動はこれで終わり。明日、二日目でプレートを集める」

「……わかった。キミの判断に任せよう。レオリオも、それで構わないな?」

「わかってるよ。方針は一任するって」

 

 その後は人数が増えたこともあって、念の為に早めに寝支度を整えて夕食も取り終えて──カリスは食事を固辞したが──そのまま夜は更けていき、朝になった一行は行動を開始するのだった。

 

 

 

 ──ところ変わって森の中。

 キルアは半ば飽きていた。

 4次試験が始まってからずっと尾行されているが、まるで襲ってこない相手に焦れていた。

 もちろんキルアが素人相手にスキなんか見せる訳がない。だから襲ってこないのも当然といえば当然なのだが、それにしたって四六時中視線を感じるのも気が散る。適当に森を散策しているだけではあるが、どうせキルアを狙うということはキルアのターゲットではないのだろうし、ムダな一点を取るのも面倒に感じる。それでもこのまま下手くそな尾行を続けられるよりもマシ。

 そんな心境もあって、キルアは足を止めて、尾行者に向けて振り返った。

 

「時間のムダだぜ。いくら尾けまわしたって、オレはスキなんかみせないよ」

 

 そこから起こった一連の流れは語る必要もない。

 1人だった男に二人組が合流して、蹴られたフリでプレートを奪えば、キルアのターゲットと一桁違いだった。

 残る2人のどちらかがキルアのターゲットである可能性は高い。内の1人に目をつけて確保し、首筋に手刀(ナイフ)を突きつけてプレートを奪うために脅しをかける。

 

「動かないでね。オレの指ナイフより切れるから。──あれこっちは197番か。もーオレって、こういうカンはすげー鈍いんだよな」

 

 197番のプレートを手で弄びながら、残る最後の1人に目を向けた。

 

「ねー、あんたが199番?」

「……ああ」

「ちょーだい」

 

 抵抗はムダと悟った男がプレートを投げてよこした。プレートの番号は199番。狙い通りだ。

 

「さて、こっちのいらないのは──」

 

 投げるモーションに入ったキルアの動きを止める者は──。

 

「待って」

「……ッ!?」

 

 今まさに投げようとしていた腕を掴まれて、咄嗟にその場を飛び退いた。

 焦りすぎたせいか、投げようとしたプレートがキルアのいた場所に落ちる。

 

(誰だ!? 気配は微塵も感じなかった……!! オレが、このオレが背後を取られた!?)

 

 動揺と警戒で険しくなる眼差しを向けた先に立っていたのは、つい先日から見覚えのあるゴスロリ少女だった。

 

「お前……!」

「こんにちは」

「はぁ? ……ったく、何の用だよ」

 

 内心の動揺をひた隠しながら、キルアは表向きは冷静を装った。

 さらに続々と新たな人物が姿を見せた。クラピカと、レオリオだった。キルアを襲った三人組は突然の乱入に動揺を見せながらも逃亡の隙を伺っていたが、クラピカとレオリオは彼らに武器を構えて告げた。

 

「残念ながら逃亡はお勧めしない。──プレートを集めて来たのだろう? それも、我々に渡してもらおうか」

「悪いな、逃すつもりはないぜ」

 

 この場で勝ち目はないと判断したのか、悔しげにしながら3人組は持っていた全てのプレートを吐き出した。用済みとなった男たちを追い返して、この場に残るのはキルアを含めた、トリックタワーを攻略した面々。……ゴンがいないのが少し気になるが、それよりも今は目の前のことだ。

 

「……お前ら、またチーム組んでたのかよ」

「うん。要らないプレートちょうだい。レオリオの点が足りない」

「最初っからそう言えよ」

 

 197番のプレートを投げ渡せば、受け取ったカリスはその場に落ちていた198番のプレートも合わせて手元に集めて頷いた。三人組は他にもプレートを2枚集めていたようで、これでレオリオは四点分のプレートが集まったらしい。クラピカは既に集め終えて、カリスも問題がないという。

 

「お前、オレのことずっと見てたのか」

「うん。朝からずっと見てた」

 

 平然と頷かれた。……恐らく三人組の奴の視線に紛れながらキルアのことを伺っていたのだろう。でなければ、キルアが見逃すはずがなかった。

 とはいえ察する事が出来なかったのは事実だ。若干の悔しさが湧き上がるのを感じながら、メンバーが一人少ないことに気づいた。

 

「……あー、そーかよ。んで、ゴンは? 近くにいるのか?」

「ゴンは、一人で頑張ってる」

「ふーん。じゃ、俺もいくぜ。もうそっちのプレートも全部集まりそうなんだろ?」

 

 カリスとの会話を切り上げてレオリオのことを見れば、クラピカが一歩前に踏み出した。

 

「キルア、そう言わずに我々と行動を共にしないか? プレートを守るという意味でも、我々は協力し合えるはずだ」

「……まーね。けど、別に俺は一人でも問題ないからさ」

「そうだな。だが残り5日間ある。一人で過ごすよりも、我々と過ごす方が暇を潰せると思うが」

 

 そう言われれば確かにそうだ。

 別に一人でも構わないし、起きる面倒ごともたかが知れてるが、暇なのはどうしようもない。ゴンと合流できるかも、とも考えて頷いた。

 

「……わかったよ。どうせ暇だったろうし、ちょうどいいか」

「助かる。我々としても、信頼できる仲間は一人でも多い方がいいのでな」

 

 頷いたキルアの前で、レオリオがこそこそとクラピカに話しかけていた。

 

(おい、クラピカ。なんでらしくない事まで言ってんだ?)

(私とて恩を感じることはある。ここで別行動となってしまえば、カリスが残念がるだろう? そういうことだ)

(あー、まあ確かにな。別にキルアにとっても悪いことじゃねえし……まあいいか)

 

「どうしたの?」

「いや、こちらの話だ。それでカリス。ここからどうする? 残り5日間あるが、何かすべきことはあるだろうか」

「うん。もう一人、呼んだ方がいい」

 

 そう言ったカリスを、キルアは怪訝に眺める。ゴンのことかとも思ったが、カリスの言うことはそうじゃない。

 だが言われて気がついた。もう一人、確かにどこかにいる。視線を、感じる。

 

「……お前、やるじゃん」

「場所はわかる?」

「いや、上手く隠してるよ。見られてるってのはわかるけど、場所までは絞りきれない。……お前は?」

「キルアと一緒」

「ふーん。じゃあどうするんだ?」

「うん。レオリオ、少し相談がある」

「お、おう。なんだ?」

 

 そこで話された内容は、少しばかり驚くべきものだった。

 

 

 

 

 

 ──忍者装束の受験生、ハンゾーがその光景を目にしたのは必然だった。

 197番と198番は常に共に行動をしていた。そのため確実に197番のプレートを手に入れるため様子見をしていた。あの小僧(キルア)が出て来たところまでは良かった。あのままプレートを投げてくれさえすれば、労なくターゲットのプレートを手に入れることができた筈だった。だが、それを止める人物が現れた。 

 

(今の馬鹿げた速度……。何者だ? あの小娘。この俺ですら、事前に察知できなかった……)

 

 カリスと呼ばれたゴスロリの少女。

 見た目は至って普通だ。武術の心得があるようにも見えない。だが明らかに異常な身体能力を持っていることだけは確かだ。妙な雰囲気を伴っているのも、気になるところだった。

 その後も観察を続けたが、どうやらハンゾーが隠れていることにも気づいているらしい。

 

(コイツは、マズいな。勘付かれてる上に、人数が増えた……。加えてあの小僧と小娘か。……別のプレートを狙った方がいいかもな)

 

 プレートを奪取できない、とは言わない。

 だが確実性はない。少なくとも197番と198番がプレートを持っていた時よりも難易度は跳ね上がった。

 確実な任務遂行を信条とするハンゾーにとって、そのリスクは看過できない。

 

 だが、その次にターゲットが取った行動は、ハンゾーの動きを止めるのに十分過ぎるものだった。

 

 ──ゴスロリ少女が二枚のプレートを掲げていた。

 番号は197番と198番だった。

 

「交渉したい。欲しいプレートはどっち?」

「……それで、隠れてる奴が姿見せるのか?」

 

 呆れたように小僧がそう言ったが、小娘は頷いた。

 

「可能性はある。私たちはこれから四人で行動する。いま隠れている相手がさっきの三人組を襲わなかったのは、人数差があったから。相手は手練だけど、人数差を避けたということ。それならもっと人数が増えた今の状況は避けたいはず。交渉の余地はある」

 

 居所を掴まれるリスクはある。あの中にハンゾーをターゲットとする受験生がいないとも限らない。姿はもちろん晒さないが、リスクを避けるなら、声だけでの交渉でも相応に覚悟が必要だ。

 あの速度だ。声で位置を特定されてそのまま捕捉されれば無傷で逃げ切れるとは断言できない。

 だがハンゾーは興味を惹かれた。

 

 この段階で提案してくるということは、ハンゾーが198番と197番を尾行しており、どちらかがハンゾーのターゲットであると確信を得ているということになる。そして奴らの会話から、ブラフでなければだが、既に必要十分のプレートはほぼ集まっていると考えられる。それならばハンゾーをターゲットとする可能性は相応に低い。

 

 加えて今得たばかりの一点のプレートを狙ってくる、位置がわからない手練の競争相手という不確定要素を排除するために、あえてプレートを手放すというのは非常にクレバーな好判断とも言える。少なくともハンゾーは好感と興味を持った。

 

「──ま、そういうことだな」

 

 地面には降りない。

 あくまで姿を木々に隠したまま、声だけで返答した。特殊な発声で居処も特定しづらくした上でだ。

 

「お嬢ちゃん、意外と頭がキレるんだな。それで、交渉ってことだが、俺は何を差し出せばいいんだ?」

「私はカリス。あなたは?」

「俺か? 俺はハンゾーってもんだ。これでも国じゃあ名の知れた忍者なんだぜ」

 

 軽口とともにそう言ったが、カリスは冷静に頷くのみだった。

 

「ハンゾー、あなたが欲しいのはどっちのプレート?」

 

 答えるべきか、正直迷った。だがここで隠す意味は薄い。仮に人質ならぬプレートを盾に取られるとしても、どのみち、カリスからの提案がなければ別のプレートを狙いに行く判断だったのだ。言うリスクは無いに等しい。

 

「197番だ」

「わかった。このプレートは私たちにとって、一点にしかならない。だから、あなたに上げてもいい」

 

 思わず、驚きの声を上げるのを我慢する必要があった。交渉と言うからには期待していたが、まさかあっちから差し出す提案をしてくるとは思わなかった。

 

「ほう、随分と気前がいいんだな。条件は?」

「246番を探してる。情報はない?」

 

 その質問に、得心がいった。

 

「なるほどな、246番はターゲットだが、情報がないって訳か。そういうことなら、俺に声をかけたのは正解だな。忍者ってのは情報を何よりも大切にする。俺に掛かればその番号の持ち主が誰か。どういう特徴を持っているのか。警戒すべきことは何か。そんなもんは簡単に教えられる」

 

 おちゃらけた雰囲気は形を潜めて、絶対の自信を込めて伝える。ハンゾーにとって任務と同等の価値があるものが情報だ。それを求められるというのは、仕事を認められたことに等しい。 

 

「そう。名前と性別、身体的特徴、武器や道具。可能なら現在の居場所、あるだけ情報が欲しい」

 

 言われた内容を精査して、問題ないと判断する。

 

「……いいだろう。だがさすがに現在地まではわかんねーぞ? 俺も、自分のターゲットにしか注目してなかったからな」

「それで構わない」

 

 間髪入れない同意。

 小気味の良いやり取りに、思わずハンゾーは笑みを浮かべた。

 

(まだライバル関係のはずなんだがな、なんだかコイツのことが気に入って来たぜ)

 

「よし、契約成立だな」

「先にプレートを渡す?」

 

 あまりにも堂々とした物言いに、笑みが溢れそうになる。自信があるのか、それともただの馬鹿か。どっちにしてもハンゾーはそういう奴が嫌いじゃなかった。

 

「いや、先に情報だ。ないとは思うが、契約した以上は確実に履行したい。情報が不十分だっていうなら、246番を探すのを手伝ってもいいしな。そっちが十分だって思ったならプレートを俺に渡してくれればいい」

 

 246番。名前はポンズ。性別は女。毒や薬を主に扱う。睡眠ガスを持っていた。他にも起因物は不明だが、刺激臭があるため毒性のある何かを使うことは間違いない。見るからに戦闘タイプではないため接近戦に持ち込めば恐らく難無く倒せるだろうが、相手もそれを警戒して何らかの罠を張ってくるはずだ、などなど。出し惜しみはなしだ。知っている246番の情報は全て伝えた。それが任務を受けた忍者としての義理だとハンゾーは確信している。

 

「……うん。情報は十分。これは報酬のプレート、受け取って」

「ああ、そっちに行くから待ってくれ」

 

 本当は、姿を現すつもりなんてなかった。どう考えてもリスクしかないからだ。だが、コイツからは直接対面して報酬を受け取りたいと思った。

 

 地面に降り立ったハンゾーに、ゴスロリ少女以外からは警戒の眼差しが向けられる。当然の反応だ。だが、ゴスロリ少女──カリスは平然としたまま近づいて来て、197番のプレートを差し出して来た。

 

「はい、どうぞ」

「おう! サンキュー。話がわかる奴で助かったぜ。手間が減った礼だ。もし最終日まで見つからなかったら俺が246番を探してやるよ」

 

 仕事は終わった。だから、本来ならここで話を切っても良かったのだが。

 払いの良い依頼主だったこともあって、ついでのようにそう伝えてからハンゾーは背を向けた。そして機嫌良く足を屈ませて、忍者らしく木々に向けて飛び去った。

 

 

 

 ──去っていった忍者の男を見送って、クラピカはほっと息を吐きながらカリスを見た。

 何も変わらない調子で立っているが、その腕の中のぬいぐるみは心なしか元気に見えた。

 

「まさか、狙われるリスクを減らした上で情報まで得るとは……、それもぬいぐるみのおかげなのか?」

 

 問いかけたカリスは、クラピカの方を振り返って、こてりと首を傾げた。

 

「うん? ……そうとも言う」

 

 なんとも歯切れ悪そうに、カリスはそう言った。

 

『おいおい、オレ様のおかげだろーが、お前さんはぜんっぜん原作のこと思い出せてねーじゃねーか』

「うるさい。その原作を、うさぎに教えたのは私。だから私のおかげでもある」

『否定はしねーけど、もうちっとオレ様を褒めてくれても良くねえ?』

 

 ぼそぼそと喋っているから、恐らくはそうなのだろう。

 いわゆる預言者、という奴なのだろうか。

 そんな疑問を浮かべつつも、クラピカは思考を次に向けた。

 

「それでカリス。次はどうするんだ?」

「うん。このまま6日目まで待機する」

「……なに?」

 

 思わず全員で顔を見合わせて、もう一度カリスを見た。

 

「本気か?」

「……その方が確実。だけど、ポンズを探しても良い。……でもそれなら、ゴンと合流したい」

「確かに、ゴンのことは心配だな」

「違う。ゴンは大丈夫。ポンズは薬品を使うから、ゴンの鼻があれば確実に見つけられる」

「……なるほど、言われてみれば、確かに可能かもしれないな」

 

 再び全員で顔を見合わせて、ゴンと合流する、という方針で固める。

 

「それで、ゴンの居場所だが……カリス、わかるか?」

「わからない。でも、探せる」

 

 言っておいて、少し後悔がある。

 全てをカリス任せにして、本当にいいのだろうか、と。

 だがゴンのことを想えば可能な限り合流したい。ゴンと合流後は、可能な限りカリスの力を頼らないようにしよう。そう思いレオリオにも視線を向ける。同様に思っていたようで、力強い頷きが返って来た。キルアも、渋々といった様子で頷いた。

 

「……任せる。だが、それ以後のことは私たちに任せてくれないか? カリスと比べては力量不足かもしれない。ここまでお膳立てして貰った上での提案は心苦しいものがあるが、私とてハンターを志すものの一人だ。助けられるだけでなく、キミの助けになりたい」

「わかった。ゴンと合流した後は、みんなに任せる」

「ありがとう、カリス」

「ううん。私ばっかり目立ってごめん」

「……いや、別に私は目立ちたい訳ではないんだが……」

 

 少し変わった物言いのカリスに、思わず苦笑いをしたクラピカだった。

 

 




次回更新でポンズ登場です。
>12月18日12時と18時の2回更新します。


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誤字報告お礼

『グリン』さん

ありがとうございます
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