次も早めにかけるといいなぁ……。
今回ちょっと短いです、どうぞ!
ガラスが割れるような音と鈍い音。
二つの音がとある部屋の中で、ほぼ同時に鳴り響いた。
『活動休止なんて聞いてねぇぞ!』
『言ってないからな。』
『巫山戯てんのか……?』
『いんや、これっぽちも。真面目な話だ。』
男が四人集まっていた。ガタイのいい黒人と白人が一人づつ、その二人に比べると小柄な東洋人が二人。多国籍な男たちが、自分達の未来について本気で話しているところだった。足元で散らばったグラスの破片が不穏な空気を醸し出す。
『Hey
『OK、OK! する。するからその拳を下ろせ。それに、俺にギターを教えてくれたことには本当に感謝している。毎日神に誓ってもいいくらいだ。』
『J、ラットもちゃんと話すから落ち着いてくれ。』
先ほどの音の原因は察せる雰囲気と言っていいだろう。一触即発。すぐにでも噛み付きそうな顔をしたJと呼ばれた男は、黒人のベーシスト、ケリーになだめられると一つ短く息を吐いて一人がけソファーに乱暴に座り込み、睨みつけるようにラットと呼ばれた人物を見る。話せと目で語っているようだ。
『まず、俺たちがお前と音楽をやるのが嫌になったとかではない。』
『当然のことだが、これは信じて欲しい。俺たちは
言っていることは分かる。自分自身もそう思っているからだ。だからこそ、疑問に思わざるをえないのだ。
『だったらなんでだよ……。』
自分でもびっくりするほど不貞腐れた声が出た。
『お前のためだ。』
『
『お前の喉の調子が良くなんじゃないかと思っている。』
『
『そうだ、正直分からない。だけど、気づいてからは遅いんだ。幸い、お前はもちろん俺たちもまだ若いと言える年だ。それなりに稼いだ。なら少しくらい休んだっていいんじゃないか?』
『今そこら中でドンパチ繰り広げてるヤロー共は休んじゃくれねぇんだよッ!! そんなんじゃいつまでたってm……。』
『いい加減にしろッ!!!!!』
今度はラットが音を鳴らす番だった。荒げた声を聞き、図らずも面食らったような状態になったJに向かって先ほどの荒々しい声はなりを潜め、優しく話しかける。
『お前の魂は素晴らしい。俺たちにとってもかけがえのないものだ。自分で言っても悲しくなるが、俺たち三人程度のミュージシャンの代えくらいいくらでも利く。』
そしてひとつ呼吸して先程よりも優しく、しかし強い語気で語りかける。
『だが、お前は違うんだ。』
先ほど話にも上がったように、ラットは彼と多くの時間を過ごしてきた。泣き虫っだったガキの頃から一緒にいたのだ。年上で、それなりに何でもこなせたラットはこと音楽に関して5つも下のJには手も足も出なかった。それが悔しくて続けた結果が欧州一のギタリストとなった。しかし、それでもまだJには敵わない。
『俺はお前の事を弟のように思っている。不出来で、頼りない兄貴分かもしれないが、心配していることだけは察して欲しい、頼む。』
そこまで言われて、Jは何も返す言葉がなくなってしまった。それは、当然自分もラットの事を兄のように思っていたし、何より身寄りのない自分を歓迎したメンバー達はかけがえのない存在だったからだ。そんな人たちが、自分の心配をして言ってくれたことをこれ以上無下にはできないと思った。
『
『あぁ、それでいい!』
『話終わったぁ?』
間抜けた声を出した男に一斉に視線が向かう。
話の間、気まずそうにスティックを手入れしていたヤスが入り込んできたのだ。毒気を抜かれると言うか何と言うか、憎めない男なのは確かなのだが。
『どうせだから、母国に帰ってみたら?』
『日本にか? 母国っつっても、いたのはほんの二年に満たないくらいだぞ? イギリスの方がしっくり来る。』
唐突に出された提案だが、意外な人物が賛成意見を出した。
『いいんじゃないか? ついでに学校とかに通っちまえよ!』
『おいケリー、いくらなんでもそれは……。』
『いや、前から言おうと思っていたんだがJは
『はぁ?』
『お前の音楽に対する崇高な魂は、手放しに褒められたことだ絶賛に値する。でもな、お前はまだ15の少年だ。恋や青春にかける時間があってもいいはずだ。お前は色恋の話が無さ過ぎる!!』
喉の奥で潰れた声がするのを、感じつつ何も言えないでいた。正直、恋というものはよく分からない。人を家族のように愛することは出来るが、異性との愛が分からないでいた。環境のせいとも言えなくはないが。
『これも口うるさい兄の助言だとでも思って、行ってみろよ!』
『勉強なんて小学生で止まってるぜ……?』
『やりゃぁできるさ。俺たちのFamilyだからな! 何より
『頑張ってねぇ。』
電撃的に休止した伝説のロックバンドの休息は、なんとも緩やかに始まった……。
しかし、確実に歴史は動き出すのであった。
◆◇◆◇◆◇
「お前、何者だ?」
固くつぶやいた言葉が、その場に反響する。
『私は強い』それは自他ともに認めている事だった。こと川神において、自分を知らない奴はモグリだろうと思う。そんなうぬぼれに近い自信を百代は常に持っていた。
だが、この男はなんだ。
体重移動も、形も、タイミングも、てんでバラバラなのにも関わらず九鬼の長女であり武道四天王の一人、
不良が使うような、力任せの前蹴りが、だ……。
百代は驚いていた。
「言葉喋れるのか。謝罪がないから話せないと思ってたぜ、メスゴリラ。」
憎々し気な表情を変える気はないと言わんばかりにそのままの表情で、悪態をついた。
ピシッと言う音が額で鳴った気もしたが、自分が悪いのだ心を落ち着けて笑顔で言うんだ。
「なんだ、お前。喧嘩売ってるのかにゃん?」
どうやら、限界の優しい言葉がコレだったみたいだ。
「やはり言葉を理解できないか。ゴリラに劣るクソ脳みそだな。」
「ぶっ殺すッ!!」
まさに今ここで、墓標を立ててやろうと動いた瞬間。大和が間に割り込んで、必死に止めにかかった。
「姉さん! ストップ!!ストーーーーーップッ!!!」
「大丈夫だ、お姉ちゃん今スッゴク冷静だから。」
「冷静だったのなら、その拳を早く下ろして謝って!!」
至って真っ当な意見なのだが、百代はその手を下ろせずにいた。ポケットに手を突っ込んだまま、仁王立ちし続ける男に少なからず腹が立っているのは事実だった。
しかし、この男は何かが違う。体型で変なところはないし、ヤバ気な薬を使っている風でもない。かと言って気の流れがどうとかっていう事でもなさそうなのだが、目の前の男子生徒から目が離せないでいた。
そんな事を考えている間に、舎弟の大和が何やら自分の鞄から取り出して見せてくる。
それは。
「なんだよー、これ『FLOW MIND』の休止前最後のアルバムじゃないか。お姉ちゃんお金なくて買えてないのに、何でもってんだよ。これ後でちょうだいな!」
「これは友だちに借りたものだから! じゃなくて、表のジャケット見てよ。」
「ん?」
言われるがままにCDのジャケットに視線を落とす。男が四人、高級感あふれるソファーに思い思いに座っている。スティックを持ったままドラマーは背もたれに後ろ向きに腰掛け、ベーシストは愛機と共に肘置きへもたれ掛かってる。反対の肘置きにはギタリストが片足だけかけて座り、ボーカリストが中央に顔の前で手を合わせた体制で座ってる。
そこまで来て、弾かれるように前を見た。
パサついているが、不思議と魅力的に感じる毛先にパーマのかかった髪。暴力的に見える派手な三連ピアス。そして、全部見透かされそうに輝く赤い瞳。
「お前、まさか……。」
「なんだ、お前も俺を知ってんのか。クソッタレ、初日で身バレとかネタにもなんねぇや。」
そう言いながら落としたサングラスを拾い、軽く払うとかけ直した。
「お前がどう思ってるかは知らねぇが。」
そう大きくない声でつぶやいた言葉は、そこにいた皆の耳には驚く程届いた。
「お前が今言った『たかが』の物にこっちは命かけてんだよ……。俺のことはいい、だがコイツをバカにした。」
トップアーティストの凄みだろうか、誰かが発した唾を飲み込む音がやけに耳元で聞こえた気がした。
「お前の事を、許しはしない。」
ピシャリとした拒否の言葉は春の始まりに似つかわしく、冷たい空気を匂わせた。
作者は寒いのは大嫌いでも冬は好きです。
今回のは少し読み辛かったかも……。