優しい方が多いなぁ……。
あと、話なかなか進まないね。
熱くなってしまった……。
あの後、自分の存在が早々に露見してしまった事に舌打ちをしたくなったが、なけなし程度の抑止力として自分の事を黙っていて欲しいと言うと足早にその場を後にした。
後悔しても遅いのだが、そう思わざるをえない。
それなりに長く芸能界というところで過ごしていると、直接的なものや匂わせる様な言葉も含めて悪意のある言葉をかけられることは少なくない。自分が20にも満たない若造な事がそれに拍車をかけているのだろうが、何度も経験したそれを慣れたように回避する術を覚えたはずだった。
でもやはり、『コイツ』に対しての言葉は沸点が低くなってしまう。悪い癖だ。
たかだか同い年くらいの相手に言われた言葉に心を乱されるなんて、自分らしくもない。そんな違和感を抱えたまま、陽気な空の下を歩く。春らしい気候は気分がいい。風はまだ冷たいが、陽気が降り注いでいる。自らの足音のリズムを心地よく感じながら、『川神学園』への道のりを進んで行く。もう目的地は目の前だ。
「
校門脇に佇んでいた白い顎髭を蓄えた老人に呼び止められる。久しく使っていなかった自分の名前はどこか他人の名前の様に感じた。
「……はい、そうですが?」
「そんなに
「え? あぁ、はじめまして。
予想の範囲内ではあったが、学園長だったようだ。川神学園学園長。武道の総本山『
かなり高齢に見えるが、しゃんとした背筋に学園の長としての太い芯が見えた気する。
しかし、そんな人に自ら入学初日に校門前で声をかけられると目立つなどと考えていると、察したように
「ちと話があるのでな、一緒に学園長室まで来てくれるかのぉ……?」
学園の中を指差し進むように促された。
「はい……。」
学生の喧騒をBGMに足を進めて行く。日本で教育機関に通うのははじめてだが、見たことのないものがたくさんある。日本のなかでも特徴的な川神学園は『決闘制度』と言うものがある……らしい。自分には関係のないものだと気にしていなかったが、教室の壁にかけられたいくつもの武器たちに目を奪われていた。
「レプリカとはいえ、なかなかのもんじゃろ?」
足を止めてしまっていた自分に鉄心が声をかける。待たせてしまったことにすぐさま謝ろうとすると、手と視線で制せられる。
「よいよい。珍しいじゃろうしな。」
「始めて見た。」
「そうかそうか。気にせずゆっくり見なさい。式までにはまだ大分時間があるからの。」
不思議な感覚だったのは間違いない。吸い込まれるようだった。
「この武器はな、職人が一つ一つ手作りしたものでの。ある意味、川神の名産品と言ってもいいかもしれんのぉ。オヌシが背中に担いでおるその『武器』の様に、人の気持ちが詰まっとる。」
すっと背中に担いでいる愛機へと指を向けた鉄心は、年月を感じさせる大樹のような柔らかい笑顔を向けた。
「初日から担いでいると目立ってしかないじゃろ。事情を知っとるからそれを手放したくない気持ちも分かるがの、目立ってしまっては元も子もあるまい?」
尤もなことだ。
「この先に放送室があっての、その隣に第二音楽室というのがある。昔は軽音楽部とかが使っておったが、今はもう誰も使っておらん。そこをお主が好きな時に使っていい様にしておいた。それはそこに置いておきなさい。わしが責任を持って管理しておくからの?」
正直、弦順は驚いていた。そこまでしてもらえるとは、思ってもみなかった。
「さ、そろそろ行こうかの。暖かくなってきたとは言え、廊下は冷えるからの。」
自分に祖父がいたとしたら、こんな感じなのだろうか。そんな事を感じてしまうほど大きく、広い人だと感じた。
◆◇◆◇◆◇
「すまんの、無理言ってサイン書いてもらって。」
「いえ、気になさらず。」
場所が変わって学園長室。入って早々に、サインを書いてもらったことを詫びながら鉄心は急須にお湯を注いでいた。
人の上に立つ人物というのは恐ろしい。ここに来るまでの間に毒気が抜かれてしまった。警戒心はもうほぼ持っていない。
掛けていたサングラスを外し、椅子に腰を落ち着けた弦順は鉄心の入れた茶を受け取りながら今後のことについて話そうと口を開いたところで、鉄心が先に会話の口を切った。
「出来うる限り普通の学生生活を送りたいという様に聞いておるが、三年間も身元を
「でしょうね……。」
いつまでもサングラスを掛けるわけにもいきませんしね、と続けた。
話を焦るなと鉄心は弦順の言葉を止め、「そこで」と提案を投げかけた。
「一年間。この間だけ学園としてお主の身元を暈す事に協力しようと思うておる。」
「一年……。」
「不満かの?」
「いえ、思ったより長くて驚いています。既にバレてしまった人もいるので。」
釘は指しましたが。と言うが、自虐の念が交じっているのを鉄心は敏感に感じ取った。
「そうか、ではどうしようかのぉ。」
顎に蓄えた髭を手で梳きながら鉄心はそう問いかけた。
「一週間。一週間でいいですので、普通の生徒として通わせてください。それが家族の願いなので。」
家族。それは身寄りのない弦順にとって持てなかったものであり、作り上げ、持つことが出来た大切な絆だった。弦順も家族であるメンバーが、ふざけた調子で言った言葉の真意に気づかない男ではなかった。誰よりもその絆の強さを信じているから。
「家族か……。分かった。この川神鉄心が保証しよう。お前さんを必ず一週間、守ってみせると。」
「……。」
「世界最強。では、ちと物足りんかのぉ?」
「いえッ! そんな事ないです! よろしく、お願いします。」
茶目っ気を混ぜ冗談を言う鉄心に驚きながら、その心遣いに感謝の念を載せ椅子から立ち上がり深々と頭を下げる。
「ほれ、そろそろ式が始まるからの。急いで行ったほうがよいぞ。」
そう言った鉄心にその場で浅く黙礼しドアを開け、振り向いてまたゆっくり頭を下げながら「失礼します」と言うと開けたドアを静かに閉めた。
廊下に出て感じるひんやりとした空気は、朝よりも随分心地よく感じた。
遠ざかる現順の気配を感じつつ、鉄心は心の中で賞賛していた。
「あの年でここまで出来ておるとはのぉ。」
何人もの大御所と呼ばれる人物たちとの交友があったのだろう。若さと取れる粗粗しげな行動の端々に、目上の人間に対する洗練された動きが垣間見えた。ロックアーティストという存在に少しの先入観があった鉄心は大いに驚いた。
「(モモにも、もうちっとマナーを教えるべきかの……。)」
自らの孫に対する今後の教育方針をなんとなく決めつつ、前途ある若者たちと向き合える行事。入学式の準備を進めるのであった。
◆◇◆◇◆◇
値段というのは価値を分かりやすくするものだ。特に芸術作品や、そういった芸に関するものというのは、それ自体の評価に値するといってもいい。芸術的価値というものだ。
なぜこんな話をしているかというと、我々人間は値段に割とシビアだと思っている。安くて良い物は当たり前。高いならそれ相応の価値やクオリティーを求める。当たり前だが、そういうものだろう。
そしてもう一つ分かりきっているのが、学生のお小遣いは多くないという事だ。
『『『『『『1億ゥゥゥゥゥゥウゥゥウウ!!?』』』』』』
あの場で凍ったように動けなかった風間ファミリーは、空気の読めないことに定評のある一子の発言により我を取り戻し無事に登校出来た。そして教室の一角、百代のクラスの席で顔を寄せ合っていたキャップを除く風間メンバー面々が顔色を、青を通り越して白くして頭を抱えていた。奇声をあげ、顔色くらいの白い目で見られているのにも関わらず、そんなことは気にしていられない状況になったのだ。誰が悪いとかではない。いや、原因はいるのだが……。
今朝起きた騒動にて発覚した、同学園に『FLOW MIND』の『J』が入学していることが問題に挙がっている。
百代のぶつかった、
当然、現在進行形で使われているギターの価値など正確に推し量ることなどできないが、とある掲示板にて書き込まれたコメントが有力としてネット中に広まっていた。
27年前、アメリカで一世風靡した日本人ギタリスト『
ということだった。
音楽に敏い人ならもちろん、そうでない人なら制作に関わったビッグアーティストを知っている。といった具合にとんでもない有名どころが使っていたギターを使っているのではという事だった。
『ボディの左端から中央へ向かって伸びる亀裂とサイドにチラと見える二発の銃痕。』
こんな特徴的なギター、間違えようがない。サイドの銃痕は不明だが、亀裂は確認済みである。
世界的に有名なアーティスト二名が受け継ぐように使い、しかもボディが割れているのにも関わらず『
更にまずいことに、去り際に「俺のことは黙っておいてくれ。」と言った彼と
《1年E組》
《
《
《
《
同じクラスだったのだ。
こんなにも早く顔を合わせるとは思ってもみなかった二人は、戦々恐々としていた。S組からABCと順にクラスの一人ずつが名前を呼ばれている時、大和はふと気になって後ろを振りむた。モロが後ろの列に入って行ったのが見えていたので振り向いたところ、はい、はい、と心地の良いリズム感で返答が帰っている中で後ろは悲惨な状況になっていた。170cmに満たないモロの両隣には180近くの長身でガタイのいい明らかに不良の出で立ちをしている色黒の男子生徒と、サングラスをかけた異様な雰囲気の男子生徒。なぜか不機嫌そうに見える両隣、二人の男子生徒に涙目のモロ。見ないふりをした大和に罪はないと思いたい。
そんな状況を挟んでの時間なわけだが。
「いいいいいいいいいいい、いちおくえん……。」
「やばいよ、姉さん! 姉さんの稼ぎ具合じゃ考えられない数字になってるよ!」
「キャップに宝くじをかわせろぉぉぉ! それで何とかする!!」
「ちょッ!? 落ち着けって、モモ先輩!」
「しかも人任なんだね。」
「あわわわわわ……。マズい、マズい気がするわぁ……!」
「カオスだなぁ……。」
全員がそれぞれ意見を発する中そう評したモロは、ストレスのせいか少し疲れているようにも見受けられる。あえて触れることはないだろう。
やいやいと話しているが、ここで話をしても一向に進展しないことは明白だ。呼吸を落ち着けると立ち上がりながら「早いうちに謝りに行こう」と大和は言った。
皆もここにいても仕方ないとは思っていたのか、順々に立ち上がりクラスの方へ向かっていった。京は終始不機嫌そうだったが。
できる限り早いうちに謝罪を終わらせたかったのだが、話題の中心である『J』改め、
窓際に座っている話しかけやすそうな雰囲気を持った今時の女の子の
小笠原さんに軽くお礼を言い、HRの時間が近づいているのを見て放課後にみんなで揃って謝りに行こうという事に決め、解散となった。
自分で書いていて、モロ不憫だなぁと思った。
わからないところは大体、妄想と想像と捏造です。