音が紡ぐもの   作:maxベス

5 / 10
ザ・大和フルボッコ回

ちょっと遅くなっちゃいました。すみません。


5曲目

 

 

 

 

 

放課後。初日だったこともあり、二、三時間で終わりを迎えた入学式は、あっという間にそれを迎えた。

久しく耳にしなかったぱらぱらと帰り支度をする人たちが鳴らす椅子や机の音に悪くないなと耳を傾けていたところ、彼らは来た。

 

「ちょっといいかな?」

 

無意識にうつむいていた自分を、飲み込むように影が降ってきた。そっと顔をあげると、見覚えのある顔が並んでいた。

そりゃそうだろうな。隣と前の席のやつがいるし。

始めに口を開いたのは隣の席の奴だった。

確か……直江大和(なおえやまと)だったかな?

朝に顔を合わしてから、度々話しかけようとしていた奴だ。実を言うと初めから視線や意図は感じ取っていたのだが、遠ざけるように勤めていた。

素人目にはうまく隠せているようだが、まだまだ甘い。気づかないとでも思ったのだろうが、彼の魂胆は自分には筒抜けだった。

彼が悪いのではない。が、気持ちの問題だった。

 

「何か用か?」

 

不機嫌さはないはず。体裁上は完璧に取り繕った顔で返した。あからさまにホッとした顔をしているのを見て、よく気づかれないと思えるものだ。脱帽するよ。

 

「自己紹介したけど、改めて。俺は直江大和、気軽に呼んでくれるとうれしいかな。」

「あぁ、直江君ね。諸田です。」

「諸田君ごめんね、朝の事で話があるんだ。予定とかがなければ、時間もらってもいいかな?」

 

教室の中はもう俺と彼らだけになっていた。

あくまで低姿勢だが、やはり隠しておくべきあわよくばの心が丸見えだ。

他も含めて、あぁ……。

 

胸クソ悪い。

 

「予定はないけど、君らに付き合う気はないね。」

 

ダメだ。こらえるつもりの本心が出てくる。隠せていないものを、あえて見ないふりをして近づかれてやるほどお人好しではないし、かと言って教えてやるほど親切でもない。

超えてはいけない線を見誤ったのだ。せめて大ごとにならない程度にたしなめてやろう。

 

「……。えっと、どういう意味かな? 言い方が悪かったなら謝るよ。君に失礼を働いちゃった人が謝罪したいみたいでさ……。駄目かな?」

 

 

それが理解できない奴ではないだろうにな。

「それなら本人が来るべきだと思うけど?」

 

 

「そうなんだけどさ、ほら。席も近いし同じクラスだからさ。帰っちゃう前に声かけなきゃと思ってね。仲良くしたいとも思うし!」

 

明らかに話の雲行きが悪くなってきたところで、初めて彼の表情が陰りを見せた。

朗らかに返しているつもりでも、透けているのに。

『隠したつもりでも丸見えだぞ?』

そう言葉にせずに言っているのにも気づかず、まだ消えない。わりと笑える。

向こうにもいたなそんな奴。あれ?あの男も直江って言わなかったっけ……?

まぁいいか。

 

 

 

 

「君さ、その生き方するならもっと上手くやらないとダメだわ。才能無いとは言わないけど、ちょっと顔に出すぎな。」

 

 

 

 

瞬間、その場は凍りついた。

 

「え……。何……?」

「まだ何もしてないつもりだろうけど、相手が悪かったな。つか、初めに気づかれたからダメだわ。悪いけど、今の俺には受け入れられねー。」

「ど、どういう意味……?」

「……そのままの意味だっつーの。」

 

 

明らかな同様がついに顔色になって現れた。隣にいる男子生徒も、何か言おうとして口をつぐんだのが見えた。でも、もうダメなんだよ。君らは引き返す場所を間違えた。透明の橋をあると信じて進むには勇気がいるが、確かめるつもりもなくただ乱雑に進むのは蛮勇だよ。

 

 

cherry boy(童貞ヤロー)が自己満足と気づかずシコシコMasturbation(オナニーショー)やってんの見せられても対応に困んだよね、Did you understand it(分かるかい、ボウヤ)? ま、別にお前が悪いわけじゃないよ。」

 

 

 

 

「ただ、お前の今の生き方は嫌いだね。」

「お前ぇッ!!!!!!!!」

「京!!?」

 

教室のドア付近にいた京と呼ばれた女生徒が、ものすごい速さで詰め寄って胸ぐらをつかんできた。怒りがこれでもかと込められた瞳を覗き返す。彼の静止の声も聞こえないかのようにまっすぐ俺の目を見ている。ふと視線をずらすと、後ろに控えている痩せた男子生徒も冷めた目で俺を見ていた。

 

「どうした?」

そのままの体制で、何事もないかのように話す。殺意にも似た気配が強まった気がした。

 

「お前、死ねよ。」

「直球だね、初対面に言う言葉じゃねーなぁ。」

「お互い様だよね。」

 

他のクラスで残っていた人だろう。廊下を歩いていた人がそんな様を驚いたような目で凝視していた。勘弁して欲しいもんだ。隠すつもりのものが、彼らと関わると透明の水に入れた色付きの雫みたいに広がっていく。……綺麗な言い方をしてもダメだな。正直に言おう、煩わしいと感じている自分が居ることを。

 

 

「ほら、目立ってんじゃん。……離せよ。」

「お前は大和をバカにしたッ!!!」

 

 

「離せよ、な?」

 

 

「!?」

 

飛び退いたと錯覚するほど俊敏に自分から離れたのを確認すると、乱された襟をゆっくり直していく。真っ直ぐだった襟が、ガピガピのティッシュベーパーみたいにシワになって伸びやしない。新しいのを出すかなんてのんきな思考が顔を出す。その場にふさわしくない思考が、勝手に俺の笑いを誘う。

 

他人(ひと)の中にズカズカ入ってくるわりに自分が入られるのは嫌なのか? そりゃ都合が良すぎるって話だ。それがまかり通るのは小学生までだっつーの。つか、当事者のクセしてだんまりかよ……。俺が何を言ってんのか、分かってんだろ?」

「……あぁ。」

「そりゃそうだよな。自分で考えてたんだから、そうだよな? 」

 

運は実力のうちだが、うまくいってる理由が運だけのやつなら自分の実力と思うには滑稽すぎる。今までがどうだったかは知らないが、もっとまともじゃない奴らはたくさんいる。引き返すなら今なんだよ。

お前は今、見えない橋がかかってる崖の前に来てるんだよ。

勇気ある者か、蛮勇を振りかざすものか。

仕方ないから、少しだけ苦言を呈するか。

 

 

「あえて言わせてもらうなら、俺はお前の生き方を否定したわけじゃない。ただ、俺には合わないから仲良くなれないね。残念だねって言っただけだろ? 間違うなよ、」

 

 

 

 

 

 

 

お前らがやってる線引きと一緒さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川神市に建つとある廃ビル。

廃ビルとは言え、管理している人がマトモな感性をしていることと住宅街から程近くに建っている事もあり、傍目には少し古いと言う程度のものにしか見えない。

そのビル。ガクトの家が管理しているビルの一室で、キャップを除く風間ファミリーの面々が神妙な顔つきで集まっていた。

 

 

「あのヤローが、そんなこと言いやがったのか。」

「アイツ、許せないよ!」

 

荒々しく発せられるのは放課後に起こったことに対してだった。

諸田が一方的に大和に対して侮辱した。そう聞いたファミリーの皆は、京の予想とは違って怒りに溢れているとはとても言えないような状態だった。

 

「しっかり謝るタイミング逃しちゃったな。」

「大和! あんな奴に謝る必要ないよ!!」

「京の言いたい事はわかるが、俺様にはアイツはよく分からんぜ。あと、考えるのは性に合わん。」

「ガクトみたいに丸投げはどうかと思うが、アイツがよくわからない奴だってのには賛成だな。」

 

 

手を握ったり開いたりしている百代は、一体何を考えているのだろうか。

他のメンバーも何とも言い難い雰囲気を醸し出していた。

感情を持て余しているみたいな、齟齬があるような、曖昧な表情ばかりだった。

発端を作った百代は、どちらかといえば気まずさが混じった苦々しげな顔をしているが。

しばらく。いや、正確に時間にすると数秒間なのだが、気まずい沈黙が支配した。その時。

 

 

「ねぇ」

 

 

容易に話出せない雰囲気の中で、初めに言葉を発したのは意外な人物だった。

京に感覚が近いことから、意見には賛同することが常な人物が、まさかであった。

 

「本当に(ひど)いだけの人なのかな?」

モロだった。

 

そのことに皆が驚いていた。そして、モロ自身も自分に驚いていたのだ。

確かに大和に対して、話しかけただけであれほどの暴言を投げかけるのだ。まともな事ではない。しかし、モロは自分の中にある(いびつ)な感覚を見過ごせないでいた。

 

「何言ってるのモロ! 一緒に目の前にいたでしょ!」

「そ、それはそうなんだけど。なんだろうね……。」

 

一度言葉を切ると、見る先が定まらないのかウロウロと彷徨わせたあとにぼそぼそと話し始めた。

「言葉は悪いんだけど、悪意がないっていうか、本心じゃないみたいていうか……。何言ってるんだろうね、僕。」

 

体の前で指をいじり、自信なさそうにしているのをみんなはじっと見守る。要領をえないが、それでも感じたことを不器用ながら伝えようとしていた。

 

「ほら、僕ってこんな感じだし。なんとなくそういったのを感じるっていうか、うん。やっぱり言葉にしづらいや……。」

 

 

「本心じゃない、か。」

つぶやいた言葉は、なんだか傷口にしみるみたいに溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

実を言うと、大和は彼が言おうとしていたことになんとなく気づいていた。そして、自分のした軽率な行動を思い返し、恥じた。

本来なら、考えが及ぶはずの事だった。彼ほどの世界に名だたるスターが、自分と同じような考えの(やから)に遭遇していないはずなかったのだから。

どれほどの悪意に晒されてきたのだろうか。考えるだけでぞっとする。

自分の周りがみんな、自分を利用しようとしている奴に見えそうだ。

 

 

自覚できないうちに舞い上がってしまっていたのか、軽はずみなことをしたと思う。

京が自分のために腹を立ててくれたことを本当に嬉しく思った。だが、それに反して自分のしたことを愚かだと思う心があるのは確かだった。

今まで、こういったことにいい顔をしない連中がいた事もあった。しかし、その人らが付け入る隙を持っている人だったからそこをついて黙らせた。うまく行き過ぎていただけだったのだ。

父に教えられたこの生き方を曲げることは到底無理だろう。彼が悪意の中を自らの力で切り開いてきた間、俺はこの生き方でそれなりに苦労し、それなりに上手く生きてきた。

 

しかし、ここに来て思い知らされたのだ。

人生は考えているほど甘くはないと。

 

 

 

 

 

「問題が増えちゃったな……。」

 

百代がビクッとするのを視界の端に捉えながら無視し、大和は彼の言った言葉の意味を考えていた。

 

 

 

 

 

言葉の真意に気づくには、まだ少し時間が足りなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大和の成長のために、今回は苛めさせてもらいました。(ゲス顔
原作の大和より、少し真っ直ぐに修正したいなと。
あと、諸田は見本にされるべき男ではないです。
でも彼自身、いろんなものを背負って生きてるので、同い年相手におせっかいを強引な形で焼きました。彼なりの愛情ということで。
なので、どれだけ汚く罵れるかってやってたら、下ネタオンパレードでしたね。すいません。


妄想ですが、モロはいじめられっ子体質だから悪意には敏感だと思う。
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