遅れてしまい、かつミスの投稿をしてしまい申し訳ありませんできた。
私用で遅れてしまったので、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ……。
スゲー難産だった。でも、納得のものができたので楽しんでください。
入学を果たして、あっという間に一週間が過ぎた。そんなに時間が経っていたのかと驚くばかりである。
もう懐かしく感じてしまった授業風景や、勉強に頭を悩ませるなどという新鮮なこともめでたく果たしたのだ。
悪くなかった。
正直、はじめはどうなることかという不安や苛立ちのほうが大きかったように思うが、今は素直に来て良かったと思える。
やっぱり悪くないもんだ。
鉄心さんも約束通り、噂を広げないように尽力してくれていたみたいだ。ありがたい。
それだけに、今この空間や環境を失うことを惜しいと感じている自分がいることには気づいていた。充実していたんだ。
そう、一週間経ったのだ。
タイムリミットはもうすぐそこまで来ている。
昼食を終えて、二・三時間もすれば終わる。
ここが与えてくれたこともある。
自分が置き去りにして、過去に選ばなかったものを選んでいたらこうなったかもしれないという道を示してくれた。
俺はひとつ表現者として進んだ。知らない世界を知ったんだ。
またあそこに戻ろう。世界を変えるためにステージの上へ。
熱狂のなかへ。
気がついたら愛機を置いてある第二音楽室まで来ていた。
放送室の隣。入口には立ち入り禁止を告げる札がかかっている、人の気配のない部屋。
始めは不思議な緊張があったものだがもう慣れた様にドアをスライドさせると、使われている形跡のないピアノと申し訳程度に整備されたアンプ。砕けたチョークで書いたへたくそなメロディーラインと使い古されたフォークギター。ここに来て一週間しか経っていないのに、ここは慣れ親しんだ場所のように感じていた。
初めてバンドを組んだときに、腐るほど使ったスタジオに良く似ている。
こんなに質素ではないが、無機質なくせに温かみのある空間に自然に慣れ親しんでいるのだろう。
自分のギターに手をつけるでなく、使い古された年代もののフォークギターを手に取る。
当然、名機というわけでなくアンティークという訳でもない。ただ単に古いだけのギターは、なんとなくここに合っている気がした。
手持ち無沙汰に爪弾いてみる。スカスカで音も抜けないが、これはコイツしか出せない音なんだよな。そして、コイツでしか作れない音楽がある。十人やれば十通り、百人やれば百通り、一億人やれば一億通り。音楽は無限大だ。全部個性がある。好き嫌いなんてのはどうしてもあるだろうが、すべてが美しい彼らの表現だ。
スカスカで抜けのない音。でも、どこか愛嬌があるようなそんな音。
気に入った。一緒にやろう。
俺と一緒に世界を変えよう。
お前もここで一人じゃ寂しいよな。
チューニングをさっとあわせて、ピックは持たずにアルペジオで。
2センチだけあけた窓から吹き込む風を感じて、ギターが鼻歌みたいにメロディーラインを唄う。歌詞なんか無い。
誰もいなくても、関係ない。やりたいからやる。ただそれだけ。
世界に響けと歌と音を紡ぐ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
入学を果たして、あっという間に一週間が過ぎた。いや、過ぎてしまったと言うべきか……。
一度目ならず二度目も最悪と言っていい出会いをしてしまった諸田に、謝罪も話しかけも出来ないまま時間だけが過ぎていってしまった。
時間が経つたびに、ずぶずぶと落ちていくように泥沼に嵌っていく。そんな感覚を抱かざるを得ないほど、彼とのコミュ二ケーションは難航していた。
《はーい、みなさんこんにちは! LOVEかわかみの時間だよ!》
教室のスピーカーから流れてきた放送に耳を奪われ、大和は一度考えを放棄してしまう。
先日から流され始めたこのラジオ番組のような放送は、なんと入学早々放送部に入ったSクラスの生徒が提案したものらしい。
《水溜まりを前にしてはしゃぐ小学生の女の子って、癒されるよね! パーソナリティは1年S組の
《煩悩を祓うには、殴るのが一番だと思うんだ。パーソナリティの川神百代だ。》
成績・性格・容姿の全てがハイレベルなのにも関わらず、ハゲでロリコンということで学園生活が開始してまもなく有名になった男、井上準。
そのことで有名なのは確かだが、番組の提案や、皆の人気が高いということで姉さんを連れてくるフットワークの軽さは素晴らしいものだと思う。また、話は文句なしに上手い。
スピーカーの向こう側で殴る音や叫び声が聞こえるラジオは、バイオレンス満載にも関わらず、結構な人気を博していた。
そのラジオの向こう側で、微かに流れる音があった。わずかに響くメロディーは、聞き覚えのあるものだった。
『
ラジオのBGMならこういった風に流れはしないだろうし、余りにも時期外れだ。
それなのに俺は、その事を気にもかけなかった。
また一歩、泥沼の道を深く進んだ。自分の気づかぬままに。
うららかに流れる午後の空気は、時に
◆◇◆◇◆◇◆◇
「井上。隣の部屋から音聞こえて来ないか?」
ラジオの放送中、音楽を流しているタイミングで話しかける。
「隣の隣じゃないっすか? 音楽室を誰か使ってんでしょ、多分。」
「いや、気配は隣の部屋なんだ。」
「はー。俺にはわかんないっすけど、便利な能力っすね。でもここ数年使われてないって話でしたし、入り口に『備品管理のため立ち入り禁止』って書いてましたよ?」
「なんだ、イタズラか。よし、私が懲らしめてやろう!」
「幼女がピアノを弾いている的な怪談なら大歓迎なんですがね。」
「ひッ!? おおお、お前ぶっとばす!」
「ちょ!? やめてよしてちかよらな……アーーーーッ!!」
「悪は滅びた。」
しかし、気になるものは気になる。イタズラにしては気の抜けたというか、リラックスした状態で居座っているのだ。
好奇心が勝った百代は足を進める。色々言い訳みたいな事は頭に浮かぶが、何より単純に楽しいことが好きなのだ。気になることを放置してはいれまい。
動かない井上を放置したまま放送室を抜け出すと、隣にある第二音楽室の扉に手をかける。
いつだったか聞いたことのある音楽と共に男の歌声が漏れて聞こえてくる。不思議な気持ちだった。このままでいたいと思う事は、いつ以来だろうか。
そして意を決して、その扉を開いた。
再び交わる、朱の瞳。
時がまた刻み始めたのを感じた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目の前のドアが独りでにスライドし、開いた先には朱が見えた。
先程までの陽気の心地よさが遠くなり、冷たい風の不快感の方が引き立った様に感じるのはなぜだろうな。
凍った様に固まった女は、視線も外せずに見つめあった状態になる。
「なんだ、またお前かよ……。」
驚くほどつまらなそうな声が出た。分かっていたことだが、興味が無い。美人のくせしてそう思うほどに魅力が無い。まぁ、理由は自分には分かりきっているのだが。
「そう邪険にしてくれるなよ。」
拗ねたような雰囲気を含めながら、少し楽しそうに話しかけてくる。
入口を一歩入ったところ、俺の座っている窓際からは約4メートルほど離れた位置で足を止めた。
「じゃぁどう扱って欲しいんだ? ファーストレディみたいに仰々しくすればいいのか?」
「随分と嫌われたみたいだな。」
「お陰さまで。」
軽い調子で口撃を浴びせてみると、余裕そうな表情で返してきた。残念ながら表情が陰っているのが明らかなのだが。
「つか、会いたくない時に限って湧いてくんのな。監視してんのかよ。」
「してる訳無いだろ、失礼な奴だな。謝罪に来てるんだから、少しくらい聞く態度を見せてくれてもいいんじゃないのか?」
「これで十分だろ、お前には。あ、川神百代……だったか?」
複雑そうないろんなものを混ぜた心が浮いて見える、何とも興味深い顔だ。
いったい何を思っているんだろうか。
「お前、私を知っていたのか!?」
「知るわきゃねーだろ、自惚れんなバカが。目立つやつは一週間あれば、聞きたくなくても噂くらい耳に入ってくるんだよ。」
実際、多くの噂が耳に入ってきた。なんでもこの学園の学園長、川神鉄心がトップを務める
「なぜそこまで言われなきゃいけないんだ!! 私が何をした!」
どうやら俺の言葉がお気に召さなかったような武神サマは、苛立ちを隠そうとせず食ってかかってくる。こらえ性の無い奴だな。話が通じてないようで飽き飽きする。なので、しっかりとした口調ではっきりと言ってやる。
「言ったはずだろ。俺はお前を許さないって。」
「だからってこんな……。」
「誠意のない謝罪に、受け取る価値なんてないだろ。」
「ッ……!」
「もういいだろ、帰れよ。もうすぐ昼休みも終わるしな。」
言外に予定は済んだだろと言いながら、抱えていたギターを気をつけて元の場所へ戻す。
もう今は彼女に対して興味を持つこともなく、淡々と部屋を元の状態へ戻していく。
「教えてくれ……。」
持ってきていたカバンを持ち上げようとしたその時、今にも消え入りそうな声で縋るように訪ねてきた。
戸惑いの色が消えないままに、まっすぐこちらを見つめている。
「私の何がいけなかったんだ……? 確かに、ぶつかっておきながら文句を言ったことは全面的にこちらが悪い。すまなかった……。だが、それだけでこれほどまでに言われるくらいに嫌われるとは考えられない。私は私が思う誠実さでお前に会おうと決めていたのだ。誠心誠意謝ろうとした。それなのにこれは余りにも理不尽だろ! 私にどうしろと言うんだ!!」
やっと顔から余裕の色が消えて、本音が出た。他人のことを深く考えることが苦手で、すぐに諦めてしまう人は皆そう言うのだ。『とりあえずちゃんと謝ろう』と。
そんなものに誠意が宿るはずなどない上に、本質を理解していないからまた同じ過ちを繰り返す。善意は有限だ。割きたくない相手には少しだって割きたくない。だから彼女は分かっていないのだ。だから彼女は知るべきなんだ、どれだけ周囲に愛されてきたのかを。
「あんたの誠意には中身がない。」
彼女の目が大きく見開かれる。
核心はいつもシンプルだ。一言で事足りる。
一歩ずつ歩を進めて正面へ。彼女の瞳を覗き込む。
「中身がないから響かない。」
キスできるくらい近くへ。愛を囁くように。
「響かないから動かない。」
声を出さずに口の動きで『ここが』と言いながら、右手の親指で左胸を指す。
その表情はなんだろうな。驚きか戸惑い、それとも嫌悪だろうか。
なんでもいい、どんな形でもいいんだ。俺の想いは、周囲の思いは優しくでは伝わらない。痛みを伴うが、刻みつけなければいけないんだ。そうあるべき人間だから。
「それでもお前は人の上に立つ人間かよ。武神が聞いて呆れるぜ。」
百代をいじめるとなんだか変な気分になるね!
本編では季節外れですが、現実と主人公の中ではタイムリーな曲を出してみた。
皆様、良いクリスマスを!!