音が紡ぐもの   作:maxベス

7 / 10

前回の投稿をきっかけに評価等していただけたみたいでありがたいですね。
井上を出すと閲覧数増えるのかしら……?

お気に入り件数が僕の把握していた数から200程増えていてびっくりしました。
またちょっと文字数少ないですが、どうぞ。


7曲目

 

 

 

 

 

絶叫。そう、絶叫と呼ぶに相応しい叫びだった。

何もかも。一切合財を切り捨てて出た獣の鳴き声は、壁を打ち付ける轟音と共にこの第二音楽室に響き渡った。

ぎらぎらとした光を放つ瞳を隠そうともせずこちらに向けている。不意に悲しそうだと感じるのは、何故なんだろうか。

 

「お前が私の何を知ってるんだ!!! 生まれた時からこうなることが決まっていた。私は川神院の、川神鉄心の孫娘だからこうなるしかなかったんだ。でも、好きで上に立ってるんじゃない!こんなつまらないなら居たくなかった! いっそ武術なんかしたくなかった! なのに。それなのに、私を知ったような口をきくな……!! 」

 

狂気を放っていた強い瞳は徐々に力を失い、悲痛な面持ちになっていった。立ちすくんだままの彼女は今にも泣き出しそうで、年相応の……いや、もしかしたら実年齢よりも遥かに幼さを匂わせた姿がそこにはあった。

 

「俺はお前を知らなかった。」

「だろうな……!」

「今でもそう多くは知らないだろう。」

「知られてたまるか……ッ。」

「でも、俺は知っている。」

「何を知っているんだ!! だいたい私は……。」

 

ピッと触れない距離で口の前に人差し指を指す。

少し礼を欠いた行為だが、気勢を削ぐには十分な役割を果たしていた。

 

 

「誰にも言えないで溜め込んでいたモノを、だ。」

 

 

深く深く誰にも知られないように。自分からすら隠すように溜め込んだ本音を出せた彼女は、一人の少女だった。

人の心に敏感な諸田がそれに気付かないはずもなかった。

 

「あんたは獣なんかじゃない。」

 

大丈夫だ。そう語りかけるように少しも避けることなく、優しく抱きしめるように見つめる。そうだよな、俺もそうだったんだ。あんたには、自分を自分として認めてくれる存在が必要なんだ。だから取り繕う必要なんて無い、俺が認めてやる。

 

「武神なんて偶像の存在じゃなく、あんたはあんただ。」

 

先程までのざわつきが嘘のように止んだ部屋の中は、波紋さえ無い水面のようにぴんと張り詰めている。緊張感ではなく、流動的な空気は優しさを感じさせた。

 

「余裕なんか無くていいんだ。精一杯、生きようぜ。それは選ばされた道なんかじゃなく、自分で選び取った道なんだからさ……。な? センパイ。」

 

憑き物がとれたようにありのままの姿は、武神などと呼ばれる様な物々しさなんてどこにも無かった。緩んだ心の壁は、ほつれの部分から徐々に無くなっていた。

 

「お前は……へんな奴だ。」

「普通の奴が、ミュージシャンなんてやるかよ。」

「でもなんだろうな。き、嫌いじゃないぞ……。」

「何恥ずかしがってんだ、柄じゃねぇのに。」

「うるさいな! というか、年上相手に生意気だぞッ!!」

 

微笑みを浮かべた彼女は、初めに感じていたどす黒い何かさえどこかへやってしまったかのように晴れ晴れとしていた。暖かな空気の中、間抜けに鳴り響いた始業のチャイムによって現実に引き戻された。思っていたよりも長く話していたみたいだな。どうせなら最後にサボリでもしてみるかと思い、屋上に向かって足を進めるためにギターケースを担ぐ。歩き出そうとしたその時、彼女に呼び止められた。始めの位置と変わらず4メートルほど離れた所でまた対峙する。

 

「私は、川神百代だ。」

「知ってる。」

「川神百代が謝罪する。申し訳ないことをした。」

「……いいよ。」

「……私が言うのもなんだが、いいのか? そんなにあっさりで。」

「今のあんたならいーんだよ。」

 

形であることにこだわる人から誠意が伝わるわけがなかった。フリ・真似・形式なんて、言い方はいろいろあるだろうが中に何も入ってないんじゃ一つだって受け取る気は無い。でも、彼女は一歩踏み出した。少しの間自分の感情を持て余すだろうが、一過性のものだ。

 

自分に嘘はつかない。

 

簡単な言葉ほど実行は難しい。

彼女はそれを成した。なら、許す許さないは些細なことだ。

 

「もう会うことはないだろうけど、またな。」

もう行かなくちゃな。

最後まで授業を受けようかとも考えたが、流れ者は勝手に消えるのが常だよな。

短い間だったけど、楽しめた。学生っていうのも悪くない。学生でいたことから離れたのなんて数年の話だが、それでも懐かしさを覚えた。でももういいかな、イギリスが恋しいわ。

音に浸りたい。

「どういうことだ。」

 

 

予想外の言葉に反応しきれていないでいる百代はそう問いかけてきた。

諸田は何も言わない。言うべき事でもないから。

「私たちのせいか……?」

戸惑いは徐々に大きくなっているのに、距離を縮められないでいる百代は何を思っているんだろうか。後悔か、それとも罪悪感だろうか。どちらも今ここでは相応しくない。

たまたま出会って、たまたま喧嘩して、たまたま最後のタイミングに遭遇した。それだけだ。それだけの事なんだ。

 

「行くなよ! 私たちはお前の事を誰にも話していない。ここにいてもいいじゃないか。仲良くなれそうなのにこんなとこで分かれるなんて、卑怯だぞ!! もっと……もっと私を認めてくれよ!!」

まるっきり子供に戻ったみたいに喪失感に襲われた百代は、論理もなにも無いただ自分の思いのたけを吐き出していた。狼狽(うろた)えていた。正直、これが自分なのかと百代自身疑いたくなるほどに狼狽(うろた)えていたのだ。

「甘ったれんな、所詮俺は他人だ。ああは言ったが、アンタの事なんか何も分かっちゃいない。」

此処までやってやったんだ。ここから先は自分と、自分の周りの人間で頑張れ。そう言うような雰囲気に呑まれ口をつぐむと、諸田はこう続けた。

「だから信じてやんな。自分を本当に認めてくれんのは、自分とFamily(家族)だけだ。」

 

三度(みたび)訪れる沈黙。

百代は、搾り出すように口火を切った。

「卑怯だぞ……。」

Bad boy(悪い男)のほうがモテるんだよ。」

「……っばかやろう。」

「なんでだろーな。泣きそうな顔の方が魅力的だわ。」

「何言ってるんだ……! ていうか、泣いてないし!」

「はいはい。」

「きぃーけぇーよぉーー!!」

 

肩を持ちじゃれるよう揺さぶると、ふと気づいた。さっきまでどうしても詰められなかった距離が、すっと無くなる。百代自身が勝手に諸田との間に引いていた境界線の距離だった。そして固く無機質に感じていた言葉や態度は、諸田に触れて彼の体温を感じてから百代にとって心地良いものになりつつあった。

 

しかし、終わりはいつでも呆気ない。壮大なラストを飾るのは物語の中だけで十分だ。

言葉もなく示し合わせたこともなく、ただ進むだけの時間を眺めているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

校門を出ようと歩みを進めると、入学式と同じ位置で鉄心と顔を合わした。

何を言うでもなくそこに佇んでいる鉄心は、諸田が無言で去ろうとしていることを知っているようだった。

 

「ほっほっ。 サボリは関心せんのぅ。」

「早退ってやつですよ。許可は貰ってねーけど。」

「それでは、帰すわけにはいかんのぉ。」

言葉遊びみたいな会話をしながら、ふたりは同時に校舎を振り返った。そこらの中でも飛び抜けているだろう大きさの校舎、同じく随一の広さを誇るグラウンド。端の方に見えるのは、何度も訪れた音楽室。体育館や特別棟なんかも見える。学び舎にこれほどの未練を持つのは初めてのことだ。自分の人生は音楽のためだけにあると思っていた。でも、そうじゃなかった。Family(家族)の大切さを学び、そして他人に愛を持って接することを知った。でも、それだけじゃなかった。

上手くは言えないが、ここに来て何かが変わったことだけ分かった。

 

「本当にええんかの?」

 

抉るような一言だ。しかしここで立ち止まるわけにはいかないということを、自分が痛いほど理解していたのが幸いした。未練を振り切り、後は濁さない。

 

「イギリスに帰るわ。」

きっぱりと言い放つと、心に余裕ができたのか周りの景色が飛び込んできた。彩を添えている桃色は日本に降り立った時よりも緑が混ざり夏の到来を予感させているが、風はまだまだ冷たくてカラっとしている。イギリスの桜は、まだ満開の時期だろう。日本の四季の移り変わりは早いんだななんてつまらないことを考えている。

諦めたような鉄心は、もう言うことはないとひとつ頷いていた。

 

 

 

 

しかし……。

そのタイミングで、ある事が頭に浮かんだ。

 

どうせ帰るなら、正体をバラしても問題ないのではないだろうか。

 

周りに聞けば、皆同じ答えが帰ってくるほどにありえない暴論が頭の大半を占めた。

隠したまま帰る方がはるかにリスクが低い上に、問題ごとも起こらない。あえて晒す必要性を全くもって感じない事態でも、俺の思考は面白そうな方へと引きずられていった。

何故するのかと聞かれても困る。楽しませたい・喜ばせたい・通じ合いたい・尊びたい。そんな事を思う自分のエゴだから。

生粋のエンターテイナーだった。

俺はLoveble fool us(愛すべきバカ共)の一人。『FLOW MIND』の『J』だ。

最後に花火を上げないなんて、そんなこと許されない。

何より俺の心が騒ぎたがってる。いつまでたってもBad Boy(悪ガキ)なんだ。

そうとなれば話は早い。

「学園長殿。」

あくどい笑みを口元に浮かべながら鉄心を見ると、何も言っていないのに察したような表情をしている。この爺さんバケモンだな。

「……なんぞ面白そうなことを考えたのかの?」

That's EXCELLENT(最高のヤツ)さ!! ノれない奴は振り落とされるくらいのな!」

 

見合わせた顔は、同じような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

帰るのを一度やめ、担当していた小島梅子(こじまうめこ)先生に学長からフォローを入れてもらい教室に帰ってきた諸田は、急いで計画を進め始めた。

きっちり一時間しかない。やることは沢山あるが、雨の日で機材がブッ飛んだドイツのニュルンベルク以来の興奮度だ。

危機感と隣り合わせでありながらそれをスパイスにどんどんと準備を進めていく。

時間は止まらない。休み時間の十分でギター抜き音源を探し出し、セットリストを作り上げた。

これから起こることを想像すると、衝動が止まらない。

胸の奥深くから湧き上がるそれを、上手く御しながら迎えた6限目終了15分前。

 

 

《1-E 諸田弦順。1-E、諸田弦順。学園長室まで来なさい》

 

始まりを告げるアナウンスが流れた。

バカみたいに、物語の中みたいな最後を飾ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フラグをきっちり立てる男です。

というか、思考回路がわりとおかしい。
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