あけましておめでとうございます。
新年一発目の投稿です。
いつのまにやら、UAやお気に入り件数が凄いことに……。
本当に皆さんに支えられて頑張ってます。
では、どうぞ!
真摯な眼差しを向け立つ姿と、崩れ落ち膝立ちのまま仰ぐ姿。
交錯する視線に何を思うのか、彼ら以外誰にも分からない。
「やるなお前、楽しそうな事してんじゃん!!!」
さっきまでの熱量が嘘のように引いて、交わされる会話がよく聞こえる。
数十メートル離れて対峙したままの彼らの距離が、バンダナの少年の動きによって一方的に詰められていく。次第に近くなるふたりの距離はこれから始まる何かを予感させる。
「ありがとよ。……ところで、あんた誰だい?」
「俺は
「諸田弦順。」
「弦順か! おもしれー奴だな!!」
もう触れることが出来る距離になるとニカッという音が出そうないい笑顔したキャップは、右手を出して握手を求めた。その手を掴んだ諸田を引き上げると瞳を合わせたその笑顔と同じくらい弾んだ声を諸田へと投げかけた。
「なぁ、今来たとこなんだ。もっかいだけやってくれよ!!」
「もう、絞りきっちまった。」
「えー!!? いいじゃんかぁ!! 俺も見たい見たみたいぃぃ!!」
駄々っ子の動きを激しくしているキャップを見て苦笑する諸田は、周りを見渡して一息つくと切れていたマイクの電源を入れた。
《アンコールかい? ありがとう》
溢れかえる歓声を受けて不敵に笑う。
キャップと諸田。全然似てないように見えるのに何故か似ている二人は、同じような表情をして始まる渦を待ち構えていた。
《でもごめんな、できねーんだ》
突然の拒否の言葉にざわつく生徒たち。期待していた分だけその声も大きなものだった。そして、その反応を待っていた。
《でもさ、俺とお前らに出来ないことがあってもいいじゃん》
それは弱々しげに感じるメッセージで、先程までの力強い言葉とは違っていたため戸惑いが生まれるかと思われた。しかし、それは間違いだった。
彼が放った言葉がしんしんと、雪が振るようにじっくりと心に積もっていく。言葉もなく、動くこともない皆の姿をじっと眺めると聞き逃さないように皆も諸田を見ていた。
《俺らにできないことがあっても、今この空間は俺らにしかできないことだ。だからできないことを誇りに思おう。俺も思うよ》
そんな場面に、胸の内が暖かくなる。
この一瞬だ。
みんなを俺が見てて、皆も俺を見ている。
この一瞬のために全てを投げ打って、全てをさらけ出して没頭している。
この一瞬のために、俺の今までの人生があったといっても過言ではない。
そして、なんだか変な奴もいる。
最高だ。
《最高なお前らと、一緒に空間を共有できたことを誇りに思う。今は難しいけど、必ず。必ずまた日本に来て、ライブする。そしたらまた皆で、歌って、踊って、騒いで……そんで愛を確かめ合おう》
夢の如き時間だった。もともとなかったものを与えてくれた人たちに感謝を込めて。いるかもわからないうえに、何処で見てるかもわからない神サマってやつに向けてありがとうを伝えるために。声を大にしてここで叫ぼう。
《最後に。愛すべきお前らと、来たばかりの風間……キャップのために。俺が初めて作った歌を最後一曲にしてお別れだ。聞いてくれ。『
終わらせるために始めようなんて、陳腐な言葉だけど。なんだかこの時だけは、しっくりと胸中に収まった気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
月明かりを受ける校舎は想像を掻き立てる。恐怖であったり、インモラルであったり、神秘的に思ったり。でも、諸田にはもう明確に寂しさを持つばかりであった。
自分のような人間は、世間で普通に見たらおかしな人間なんだと先人は言っていた。誤魔化すことも、自分に対して嘘をつくことも許されない世界で、喜々としてそれを受け入れる。
多くのことをなくした先に、たった一つだけ手に入れられる。結果が出ることばかりじゃなく、繰り返し繰り返し続けても手のひらからこぼれ落ちるような事ばかりだ。そんな事をし続ける自分はどこかおかしいのかもしれない。もしかしたら……。
それを見たとき、諸田はもう普通を捨てるという選択肢しか取る気がなかった。
授業を受ける。
友達と放課後に遊ぶ。
部活をする。
趣味で、音楽をする。
そんな無数の未来を切り捨てて進みだしたのは、六つの頃だった。
もしかしたらそんな選択肢が浮かぶような年齢でなかったのかもしれない。でも、それだけの理由じゃない。自分で決めて進むと誓ったことを、中途半端に投げ出すなんてできなかった。それが、諸田の男としての、人としての意地だった。
涼やかな風が頬を撫でるとき、校舎を仰いでいた諸田の背後から複数の足音が聞こえてきた。
キャップを先頭に入学式の日に出会ったメンバーだった。
川神百代に直江、師岡、椎名。名前は分からないが筋肉質な男とポニーテールの少女。
一人と七人が向かい合う形になる。
「本当に帰るのか?」
なにか願いを込めるような声色でかける百代は、メンバーも初めて聞いたような弱さをイメージさせる姿だった。
「思ったよりも遅くなっちまったからな。明日の朝の便で日本を発つさ。」
交わすようにさらりと返す諸田の表情は、どこか余裕そうだ。
何しに来たかなんて何となく想像がつく。だからあらかじめその気はないと突っぱねてしまう方がお互いの為になると、頑なな態度を悟らせないようさらりと言ってのけた。
不満を残す顔の百代と、何故かウズウズしている風間が見やすい位置にいるために、嫌でも視界に入ってくる。
「いーーなーー海外!! くぅぅッ! 俺も行きてぇ!!」
「あんまり騒ぐなよ。迷惑になんぞ。」
「いや、さっきまでガンガンに音鳴らしてた奴が言うことじゃないからな。」
「いーんだよ、許可出てんだから。」
「ずるいぞぅ!! 俺もあんな派手な事したいぞ、大和ッ!! 海外も行きたい!!!」
「いや、ここで俺に言われても……。」
しだいに賑やかになる話し声に、今思えば一番話したのはこいつらだったのかもしれないと、ふと思ったのだった。
一部険悪でもあったが、分かれるとなると置き土産くらい私てもいいかなんて考えるものなんだなと、諸田は自分でも驚いていた。
「川神百代」
「なんだよ……。つか、フルネームやめないか?」
「変われるかは、あんた次第だ。そんで、どうなろうと精一杯やることだな。自分で選んだ道なら」
「無視か……まぁいい。楽しかったよ、諸田弦順」
「キャップはまたどこかで合いそうな気がするな。」
「当たり前だぜ!! 世界を股にかけてやるからなッ!!」
「そこのふたりはすまない、名前を知らない。が、ポニーテールの君。」
「え? アタシ?」
「そう、君。そのままでいいんだ。進むといい。」
「?? よくわからないけど、当たり前よ! ユーオーマイシンなんだからっ!」
ひとりひとりに声をかけていく。届かなければ仕方ないけど、自分の本気が伝わればと思う。
いつか分かるだろうか。なんて事を同い年がバカみたいに説教して思うなんて、やっぱり俺はどうかしてるみたいだ。
そしてここに、一番伝えたい人達がいる。
「直江、椎名」
「「……。」」
「お前らの生き方は危うい。でも、その心は尊いものだから、無くさずに進んで欲しい。」
「分かった。俺も言いたいことがあったんだ」
前を向くと、大和が珍しい表情をして一歩踏み出していた。いつも余裕を持って不敵に笑う男が、いつになく真剣な顔をし語り始めていた。
「俺は、総理大臣になりたい。……いや、なってみせる」
何に触発されたのかは定かではない。ただ、並々ならぬ決意を持ってそれを諸田に明かしたことを他の人間はたいそう驚いていた。
それもその筈。幼い頃に言った言葉を忘れたように日々を過ごしていた大和を、長くそばで見続けていたのは他でもない風間ファミリーの皆だからだ。
「そっか。」
諸田が返した言葉は一言だった。
それでも、大和には伝わっていた。思いすごしかもしれないが、頑張れと言われた気がした。
素直な決意を素直に受け入れられるとはどういうことか。晒したものを受け入れられるとはどういうことか。それがどういう意味を持つのか。
大和は少しだけ諸田のことがわかったような気がした。
「んで、師岡くん。」
「え!? ぼ、僕!?」
「おー、覚えてたんだ。」
「最後まで呼ばないから忘れてんのかと思ったぜ……。」
声が裏返り間の抜けたような声をあげるモロに近づいて彼の手をとった。なぜか京が二人を熱っぽい視線で見ていることは割愛させてもらう。
「細くて長い、いい指だ。」
「え?」
「興味があるなら、第二音楽室に一本あるからギターを弾いてみるといい。機械いじりが好きなら、もしかしたら合うかもしれねーしな。」
「う、うん。」
いたずらっ子のそれのような表情でそう言うと、手で持っていたギターケースを担ぎなおす。戸惑うモロをよそに楽しそうにしている。
「『
「それって……。」
「さっきの最後の歌の歌詞……?」
「そう。俺が今のバンドのために初めて作った歌の歌詞。いつか戦争が終わり、みんなが愛し合い、認め合うことができる日が来ると純粋に信じていた時に、
誰からでもなく空を見上げると、北斗七星のすぐそばにぴったりと寄り添うように小熊座が見えた。日本に来た時にふと見た時と同じ位置だった。
小さく息を吐き出して校門へ向かおうと足を出したとき、ズボンのポケットに入れていた端末型の携帯電話が音を鳴らしていた。
諸田の携帯の番号を知っている相手は限られている。
画面を見ると、『FLOW MIND』ギターのラットからの国際電話だった。
『
電話に向かってクイーンイングリッシュを吐きかける。
すると帰ってきたのは驚愕の一言だった。
『お前、帰れないぞ。』
「は?」
思わず日本語になるくらいに驚いた諸田は先を促すために無言を貫く。
『学園長から帰ろうとしてるって聞いてかけたんだよ。
『意味が分かんねぇよ!!』
『アホの歌詞には誰も響かなないぞ。』
『アホじゃねぇだろ!!』
『学校を一週間でやめたら、世間がどう思うかってことだよ』
何も言えなかった。ロックスターだからで済む人が何人いるだろうか。
確かに諸田の頭は良くはない。しかし、学校を辞めねばならないほど悪いと思われればネガティブセールスにしかならないことは一目瞭然だった。
『決めたことを投げ出さないんじゃないのか? しかも
『そこまでかよ!!?』
『そこまでだ。じゃーな。』
まくし立てる諸田を珍しそうに見守っていた風間ファミリーは、会話が止んだことに興味を持ち近づこうとしていたが、おかしな雰囲気のため踏みとどまっていた。
『
今までで一番虚しい、諸田の後ろ姿だった。
こうして彼は、望む望まざるを関係なしに川神学園に残ることと相成ったのだった。
またもや遅れてしまい申し訳ない……。
帰れない諸田。犯人はラットwww