看取られたい魔法使いアレクちゃんのおしまい   作:桐木

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看取られは一般性癖

「看取られてえ……」

 

 ボクは推しの死を悲しまないタイプのオタクだった。

 

 正確に言えば、悲しい。そりゃあ悲しいよ。

 だけど、大抵、死亡シーンはそのキャラ最大の見せ場となる。端的に言って描写が濃く、多い。

 だから、死も含めてそのキャラクターとなる。

 

――という思想を持っているオタクだった。

 

 だからだろうか。曇らせ、そして看取られという性癖を持つようになったのは。

 

 看取られは、良い。

 終わり()のその瞬間、キャラクターの感情を独占できる。それだけでも素晴らしいが、その上その感情はキャラらしいものだったり、ギャップが満載なものだったりして非常においしい。しかも同時に曇らせも摂取できることが多い。

 だからさ。

 推しに看取られてえな……! あとあわよくば自分の死が推しの傷になっていたら嬉しい……!!

 

「また、妄言を……」

 

 癖と妄想で脳を癒していたボクの頭蓋骨に、そんな低い声がガンガンと響いた。

 

「あー! 酷いって! 戦士くん! 元貴族天才ボクっ娘女魔法使いアレクちゃんにそういうこと言うんだ! 傷付くなあ……」

「うるせえ……」

 

 戦士くんは大きな手で――キレたあいつはその手でボクの頭を鷲掴みにする――自分の頭をさすった。まるで頭が痛いとでも言わんばかりに!

 

「でもさ、マジメに考えてみてよ」

 

 ボクは手入れしていた杖から顔を上げた。

 夜闇の中、焚火の濃い色の光を浴びて二人の人影がゆらゆらと浮かび上がっている。

 一人は筋骨隆々、鎧を身に纏ったしかめっ面の男、ガイラッド(戦士くん)。もう一人は全身白づくめの女性、聖教会から派遣されたセシリア(聖女ちゃん)

 

「どうせ死ぬなら推し――あ。推しっていうのは、つまり、つまり……なんだ。うーん、好きな人、敬愛する人かなあ……?――の前で死にたくない?」

 

 返答は、溜息が二つ。

 

「……ねえ! 聖女ちゃんもそう思うでしょ」

「あ、ははは……」

 

 聖女ちゃんはフェイスベール越しでもしっかりと伝わる愛想笑いを浮かべた。

 そういう反応が一番傷付く。

 

 (ボクにとっては)嫌な沈黙が、戦士くんの「オイ」という低い声によってかき消される。

 

「んー?」

「決戦は、明日だ」

「そうだねえ」

「……お前の妄言はいつもの事だが、今日ばかりは不吉なことは言うな」

 

 ボクは思わず噴き出した。

 

「ヤだなあ。不吉って! これは妄想だよ。それに君たちは全く持ってボクの推しじゃあないから、目の前で死ぬ気なんてさらさらないね!」

 

 戦士くんと聖女ちゃんは顔を見合わせてから、今日一番大きな溜息をついた。

 

 

 

 ボクは元貴族天才ボクっ娘女魔法使いであるが、同時に超凄腕の冒険者でもある。そんなボク――と腐れ縁の戦士くん――に竜王の依頼が来るのは当然のことだった。

 

 とはいえ、いくらボクらが超一流にして常勝の冒険者と言えども、魔物どもの巣(ダンジョン)に突っ込んで、親玉(ボス)をぶちのめすのは難しい。

 

 そこで協力者として現れたのが聖教会だった。

 聖教会は聖女数名の派遣を決定。

 そのうち一名がボクたち少数精鋭部隊に同行。さらに残りの数名は、先遣隊としてボクたちより先にダンジョンを攻略してくれている。

 

 とどのつまり今回の依頼とは、ダンジョン道中をスキップして、聖女の御業によってよわよわになった竜王をぶちのめすということだった。

 

 

 

 先遣隊の遺した野営地はダンジョンという非常に過酷な環境下において文字通りオアシスのようだった。

 ボクらはそこで焚火を囲み、慎ましい夕食を食べ(最後の晩餐にならないことを願うばかりだね)、明朝に向けて休息を楽しんでいた。

 

 つい先ほどまでは!

 

 オタク語りを面と向かって貶されるのはいい。オタクはキモいから。

 でも、いくらボクが寛大であったとしても、妄想を現実にと持ち込むやつと思われるのは納得できない。

 それはレスバに発展しておかしくない暴言であったのだ。

 

「戦士くんさあ。いい加減言わせてもらうけど、ボクは突然自殺行為するほど根性ひん曲がってないんですけど! 知ってるだろ! 君なら!」

「……いきなりなんだ」

「ほらだってさ、いくらムラムラしてたって往来で突然自慰行為を始めるのはド級の変態だろ! それと同じで、看取られたいからって危ないことするなんて、露出狂で性欲の自制ができないド変態――というか性犯罪者だからね。

そういうこと、ボクはしないよ!」

「…………で?」

「だいたいさあ、ボクはこういう癖を愛し、これらが一般性癖であると布教するためにも、まだまだ生きなきゃいけないんだよ!」

 

 堂々と正論を言い放つボク。

――を、ジョッキ片手に見る戦士くんは、ただでさえおっかない顔をさらに眉を顰めて瞳を鋭くして恐ろしい物へと変えた。その眉間の皺の深さといったら、羊皮紙を挟めそうなくらいだった。

 

「おっと……。なにか言いたいようだね? 戦士くん」

「ああ、あるぞ」

 

 戦士くんは険しい顔はそのままに立ち上がると、ずかり、ずかりとボクに近づいてきた。

 ボクも立ち上がり、不退転の覚悟で愛用の杖を構える。魔王(戦士くん)になんて負けないぞ!

 

「セシリアを、庇って、無茶な魔法の使い方をしたのは、何処のどいつだ」

「ぐえー!」

 

 戦士くんは素早く無駄のない動きで、手刀を作りボクの脳天に振り下ろした。

 痛い!

 自然と目に涙が浮かんだ。

 

「ガ、ガイラッドさん! アレクサン――」

「アレクちゃんって呼んで!」

 

 ボクは不条理な(だと思いたい)痛みに耐えながらそう叫んだ。

 

「――ア、アレク、さんが無茶をしたのは、おっしゃる通り聖女(私たち)に責任があります。ですからどうか罰は私にも与えてください……!」

「え!? 聖女ちゃん、ガイラッドに叩かれたいの!? 被虐趣味なの!?」

「ちっ、違います!」

「アレク。お前はふざけすぎるな」

 

 お次はデコピン。痛みは先程よりもマシ。でも、何よりも正論パンチが胸に突き刺さった。

 

「痛い!」

「自身の保有魔力以上に魔法を使うと生命にかかわる――と、うざったい顔で説明したのは、お前だろう」

「ぅぐう……! わかった、わかった! ボクが悪かった」

 

 ボクは白旗を上げた。

 

「でもわかってるでしょ、ガイラッド。先遣隊が汚染魔力の浄化に失敗した以上、無茶をしてでもセシリアのことは守らないといけない」

「……まあな」

 

 ガイラッド声は地を這うように低い。あからさまに納得しきれていません、みたいな雰囲気だ。それと悔しさが滲んだ表情のセシリア。

 雰囲気悪ッ!

 

「聖女を失ったら勝算はない――正確に言えば、聖女が聖術を無駄に使った時点で勝つことは難しくなる。そうだろ?」

「まあな」

「ええ、そうですね……。

――明日、私は私の仕事をこなします」

 

 セシリアはそこで目を伏せ言葉を一度切った。それから「でも」と重く暗く口を開く。その彼女の拳は強く握られていて、純白の手袋がシワシワになっていた。

 

「ごめんなさい、アレクさん。無茶をさせてしまって。せめて先遣隊の聖女が一人でも生き残っていれば……!」

 

 作戦は上手くいかなかった。

 正確に言えば作戦は半分以上成功している。

 このオアシスのような野営地が存在していることがその証明。

 だけど、ダンジョンを攻略しきって少数精鋭部隊への道を作り、あわよくば竜王に浄化(デバフ)をかけることはできなかった。

 理由は簡単なこと。思ったよりもダンジョンに巣食う魔物どもが強力だったから。ただそれだけの話。

 

 だからボクらは今日、計算外のお仕事――明日のために竜王のいる山頂(ボス部屋)までの道のお掃除――をしたのだ。

 でも。と、ボクは思う。

 

「気にしないでよ、セシリア」

「アレクさん……?」

「作戦に予想外があっても何とかなる……というか何とかするのがボクたちの仕事だからね」

 

 ボクはガイラッドを見上げた。

 

「だろ、ガイラッド」

「まあな」

「ほらね!」

「だが、それで死んだら元も子もないだろう」

「ぐぬぬ……! 余計なことを言うのはこの口かあ!?」

 

 ボクは手を伸ばしガイラッドの口を引っ張ろうと思った。が、背伸びしないと届かない。

 なので代わりに愛用の杖でガイラッドの顔をつつこうとした。

――だが。

 ガイラッドは恐るべし反射神経で杖をバシリと掴んだのだ。

 

「折れる。折れちゃう! 値段知ってるだろ! 手を離せ!――クソッ! 力、強いなあ!」

 

 ボクと戦士くんが神聖なる決闘を繰り広げていると、「ふふ」と柔らかでお上品な笑い声が聞こえた。

 ボクのものでも、当然、ガイラッドのものでもない声音。

 ボクとガイラッドは顔を見合わせる。それから二人でセシリアを見つめた。ついでに杖を掴んでいた万力のような力がゆっくりと弱まっていった。やったね。ボクの勝ちだ。

 

「やっと笑ったね、聖女ちゃん」

「――そうだ、笑っとけ、セシリア」

「……え」

「どうせ明日は殺し合いだ。なら、暗い顔で考え込んでるよりも、明るい顔してた方がマシだ。だから、笑え」

「そうそう、暗い気持ちで緊張してたら全力も出せないしね。それに、どうせ死ぬなら楽しまなきゃ損だよ」

「お前はまた……!」

「こ、言葉の綾だって!」

 

 そうしてボクらの決戦前夜は過ぎていった。

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