三雲修は勇者でない 作:香川出身ボーダー隊員
「やめろー!!!私は何も間違ったことはしてないぞ!?」
登校してすぐ僕の目に映ったのは奇妙な光景とそんな叫び声だった。金髪の綺麗な髪を振り回し、遠目から見ても小柄だとわかる少女とそんな彼女の行いを止めようとする教師陣達との間で屋上で逃走劇を繰り広げていた。そして彼女は教師たちの隙をつき屋上から紙をばらまく。
「再三再四!壁と神樹と勇者にまつわる真実の深淵は、我々から遠ざけられている!我々は目を隠された愚民ではない!深淵を覗くか覗かざるか選択するのは我々であるべきだ!深淵に臨む志を持つ者たちよ、我が元に来たれー!」
そんなことを叫ぶも彼女の小柄な体では大人の力にはかなうわけがなく、先生達が彼女を捕え注意しながら屋上から退場させるのはすぐであった。
彼女が消えたあと何が書いてあるか気になり紙を拾うとそこには、
『求む!大人たちの妄言綺語に抗わんとする者たち!連絡は勇者部まで→070‐xxxx‐xxxx』
シンプルながらも明らかに怪しげな文章と西暦を超え神世紀と呼ばれる今の時代とは思えない個人情報の塊である携帯番号をそのまま載せた、情報リテラシーのことを学んでいるのか疑問に感じるものだった。
色んな意味で時代錯誤なそれをどうするか考え、また地面に捨てるのは不味いからとりあえずズボンのポケットに入れた。
「……変な子だったな。うちの学校にあんな子がいたんだな」
自分で言うのもなんだが僕は交友関係が広い方ではない。自分のクラスでさえそこまで話し相手がいないのだから他のクラスの情報など入ってくるはずもなく入ってきたとしても僕自身にもあまり関係のない話なら興味を持つことも無いから聞き耳を立てるような事もしないのだ。
朝からすごいものを見たが周りの生徒たちは気にする素振りをすることなく学校へ足を進める。僕もそれに続いて行こうと思ったが自分の周りだけでもかなりの紙が落ちておりそれをそのまま見過ごすのも何か嫌だったので自分に拾える範囲で紙を拾う。
その時自分以外に紙を持っている人がいることに気付いた。その子は確か自分と同じクラスの、
(…柚木友奈さん、だよな)
柚木友奈、この神世紀の世においてその名前は生まれた時に特別な動作をした少女のみに大赦から授かることができる特別な名前の持ち主だ。黒い髪を短く揃え、身長も自分と同じかそれ以上であり運動神経抜群というその名前がなくても色々と目立つクラスメイトだ。そんな彼女が例の紙をジッと見つめているが自分が貰っておこうかと声をかけようとしたその時、予鈴の鐘が校庭に鳴り響いた。
「!?まずい、急がないと遅刻扱いになる」
ここまで来て遅刻になるのはさすがに嫌だ。そう思い少し残っているビラを無視して校内へ向かう。
「ありがとうね三雲くんこんなに拾ってくれて」
「いえ、全部拾ったわけじゃないんで…」
HRが終わり一限目が始まる前のわずかな時間、登校中に拾った紙を担任に渡す。そしてふと彼女のことを思い出し担任に聞いてみる。
「あの先生、これをばらまいていたあの子は一体?」
「ああ、
「芙蓉友奈…ってことはあの子も大赦から名づけられたってことですか?」
「そうじゃないかしら?」
小さいころ一度だけ聞いたことがある。友奈という名前は西暦時代に活躍した
だがその名を持つ人の割合は少ないものだと聞いていたがまさかこの学校に二人もいるとは。
しかしそうなると一つ新たな疑問がわいてきた。
「でも僕あんな子がいるって初めて知りましたよ。あれだけ目立つ格好や行動をすれば同じ学年なら一度くらい見たことがあってもおかしくないんですが」
「芙蓉さんは一年生のころは体が弱くて休みがちだったのよ。それに元々はおとなしい子だったんだけど、なぜかここ一か月くらいあんな目立つ行動をとり始めたのよ。たしか『勇者部』?とかなんとか名乗って今日みたいなことを起こしているのよ」
先生は一体どうしてあんなことをするのかしらね…と言いながら先生は渡されたプリントを一度職員室へ置きに行った。
自分が見たことない理由は分かったがこの一か月で人が変わったようなことになっているのは何か気になったがこれ以上関わることはないだろうと思い気持ちを切り替えた。
そして自分のポケットに例の紙が残っていることに気付いたのは家に帰ってからだった。
「…先生に渡すの忘れてたな」
自分の部屋に入りポケットに残ってた紙を見ながら考える。明日また担任に渡しても問題ないがまた忘れている可能性の方が高い、ならもう自分で処理するかとゴミ箱へと手が向かうその時、ふと興味がわいた。
(もし今ここで彼女に電話をすればどうなるのだろう?)
自分は別に彼女のように勇者様たちの活躍や神樹様を疑っていたり壁のその外に何があるのかなんて興味を持ったことはない。自分が思い出せる古い記憶の中にもそれらは存在しており、西暦から生きてる人ならともかく神世紀生まれからすればあること自体当たり前のようなものであった。
だけどもし彼女が言うように何か隠し事があるのなら、実は壁の外にはここ四国以外にも人がいるのではと考え出す。
そんなことはありえないと告げる理性ともしかしたらと思う好奇心が頭の中でせめぎ合う。そしてついに僕は自分のスマホを操作して、彼女に電話を掛けていた。
「………」
たった数コールの間が妙に長く感じる。そして電話が繋がる。
「!?あ、もしもし芙蓉さんの電話ですか。僕は…」
『……待っていたよ君のような勇気ある人物を』
スピーカー越しに聞こえたその声はとても聞こえやすく頭に残りやすものだった。離れているはずなのにすぐ近くで話しているような錯覚に陥っている僕を気にすることなく少女は話を続ける。
『我が同士たらんとする者よ!我が言葉に導かれよ。我は壁と天を睨む水神として待つ者なり。目を覆う闇を払わんとする勇者よ、我が元に集え!!』
「え、あの何を言って」
『今日はもう遅い。明日私はそこで君を待つ、一日千秋の思いでね』
ではさらばだ同士よ!と言いながら彼女は電話を一方的に切った。
…今のは一体何だったんだ?あんなにも聞こえやすく頭に残る声で話をしていたのに話してた内容のインパクトが強すぎてほとんど記憶に残ってないぞ!?
「思い出せ、どこかに彼女につながるヒントがあったはずだ」
彼女が(一方的に)話していた内容を思い出す。
『我は壁と天を睨む水神として待つ者なり』
壁っていうのは今朝言ってたことを考えるに恐らく四国を囲う壁のことだろう。天というのは何を指しているかわからないが単純に考えて空のことだとすれば、壁が見えて空に近い場所つまり高い場所を示しているのだろう。
では水神とはなんだ?これが一番わからないけど神様に関係する場所なら神社当たりであろう。
そうして彼女が出して暗号を解読し、この辺りで一番高いところにある神社を探す。スマホのマップで探すとそこはすぐ出た。
「高屋神社、あそか…」
そこは僕たちが住む観音寺市にある西暦からある神社だった。だけどそこは普通の神社とは違い山の頂上にある神社であるため場所が場所だけに行くことは滅多にない場所だった。そこに祀ってある神様がどんな神様かはわからないが多分水神様なんだろう。
「とりあえず明日行ってみるか」
一方的とはいえ明日会う約束をしたのだ、行かないという選択を取るわけにはいかないだろう。こうして僕にしては珍しく休日に学校の人と出会う予定が出来たのだった。
「あ、暑い…」
まだ七月になったばかりだというのにこれ以上に暑くなることに嫌気がさしながら、僕は自転車を漕いでいた。僕が住んでる家から高屋神社は歩いていくには遠いため自転車を使って神社へ向かう。だか自転車では行ける場所は限られていて途中からは階段を上って頂上へ行かなくてはならない。あまり褒められたものではないが普通の男子中学生に比べて体力がないから少しでも早く行かないといつまで経っても神社に着かない気がしたから少し早く出て神社に向かっていた。
「ここからは歩きか」
自転車を降り坂道を登っていく。汗をかき途中何度も立ち止まっては休憩して、長い階段を登り、一時間かけてようやく頂上にある神社に着いた。だけどそこには芙蓉友奈の姿はなかった。
(まだ、来てないのか…)
神社の周辺を探せど彼女の姿は見えない。もしかして場所を間違えたのでは?でもこの辺りで高い場所で海が見える所なんて限られてるがほかにどこがあるだろう。
そのときふと頂上からの景色を見た。僕たちが住んでいる町が見えてきれいな海が見える。綺麗で大きな海、僕が生まれる前はこの海の向こうにはいろいろな世界があったとお父さんやお母さんが教えてくれたことがある。だけど、今はもうその世界を見ることはできない。今も自然豊かな海が見えながらもうっすらとだが白い壁が見えるのだ。神世紀より前西暦の頃に突如として四国を覆うように現れた壁が。
息を整えながら彼女を待つこと数十分、一度電話をかけるべきかと考えていたそんな時だ。
(!誰か来た)
長い階段を登り切り誰かがこちらに向かってくる。そして向こう側から来たのは、
「え、柚木…?」
「あんたは確か…三雲だっけ?」
僕の前に現れたのは芙蓉友奈じゃなく柚木友奈だった。
「なんで柚木がこんなところに来たんだ?」
「それは…まああれだよ、散歩だよ」
「こんな山道を!?さすが運動部は違うな…」
「いや運動部員じゃないしただの助っ人…ってなんでもないなんでもない」
何か言いそうだったがそれ以上ははなすべきではないと考えたのかそれ以上話すことはなかった。
「そういうあんたはどうしてここに?」
「僕はその……芙蓉さんを待ってここに」
「!?」
何か吹き出しそうな顔になったが彼女はそれを無理やり押しとどめようとしていた。
やはりこんな場所で待ち合わせをするのは変なのだろうか。
「そ、そうなんだ。それでその子はまだ来てないの?」
「うん。彼女のとの電話の内容的に、ここだと思ったんだけど…」
「へ、へー。こんなところで待ち合わせなんて変わってるなー。私以外にあの電話をした奴がいるなんて…」
何かぼそぼそ言ってるが聞き取れなかった。
「というか本当にここで会ってるのか待ち合わせの場所?自分から誘っといてまだ来てないなんて、もしかしたら間違ってるんじゃないのか」
「あー…やっぱり柚木もそう思うか?」
実際一時間も待って誰も来てないのは違和感しかなかったが、他人から指摘されるとそうだなとしか言えなかった。
「それにほら。もしかしたらその芙蓉って子も、あんたが来ないことに腹立てて帰ったかもしれないじゃん。お互い行き違ったってことで一回帰ったらどう?」
「それはそうかもしれないけど帰る前に一回電話で確認するよ」
「いやー電話には出ないんじゃないかな」
「まだ掛けてないのになんでそんなこと言えるんだ?」
「もう一回掛けても出なかったからだよ…」
またなにかぼそぼそ言ってる柚木を無視して電話を掛けようとしたとその時柚木のポケットから着信音が聞こえた。柚木はスマホを見るとわずかに硬直し出るべきかどうか悩んでいた。
「…電話でないのか」
「!?で、出る!出るから向こう行け!!」
「!え、なんd」
「い・い・か・ら!!」
柚木の圧力に負け少し離れた場所に移動する。もちろん僕には何を言ってるか聞こえない。一分もたたないうちに彼女は電話を切る。いったい誰と話してたのか気になったが聞くのはマナー違反だと思いスルーしようとしてた瞬間、今度は僕の電話が鳴りだした。
スマホの画面に映ったのは昨日掛けた番号からのものだった。
「もしもし、芙蓉さん?」
『単刀直入!!三雲君、君は今高屋神社にいるね!?』
「な…!?そうだけど、あれ僕名前名乗ったっk」
『
「いやもう素直に場所教えてくれないかな…」
『私は待ってるからな!君たち二人が来てくれることをね!!本当に来てくれよ!!?』
そう言って彼女は電話を切った。昨日とは打って変わって年相応な声に聞こえ余裕がない印象を覚えたが今はそれより…。
「…そこにいる彼女から聞いたって言ってたけど、もしかして柚木も芙蓉に会いに来たのか?」
「……そ、そうだよ!なんか悪い!!?」
柚木はそう言いながら顔を真っ赤にしてキレだした。
「だって、まさか自分以外にあんな変な電話を掛けたやつがいるとは思わないじゃん!しかも同じクラスメイトだなんて…ああ、もう……!」
「いや僕は誰かに言うなんてことしないから…」
「口だけの約束なんて信じられるかぁっ!?」
そういって柚木は僕を神社の壁まで追い詰める。身長は僕より柚木の方が高いため相手が女の子とはいえ威圧感は強かった。
「いい、もしこのことクラスの誰かに言ったら…」
「い、言ったら?」
「…シンプルに殴って黙らせる」
「暴力は色々まずいぞ…!?」
「うっさい!ともかく黙ってること、それと学校内で話しかけても即殴るからな!?」
「わ、分かったよ。分かったからとりあえず芙蓉のところへ行かないか?なんか彼女様子がおかしかったし…」
「でも、ここ以外でどこかあるのか?壁が見える高い神社なんて?」
そう言いながら柚木は僕から離れる。確かにここ以外で高い場所の神社なんて思いつかない。でもそれを教えてくれるものを僕たちは持っている。そうして僕たちはもう一度高い場所にある神社を探す。出てくるのは高屋神社ばかりだけどその中で二つ当てはまりそうな場所が出てきた。
「愛媛の石槌山と…」
「香川の嶽山か」
お互い検索して出てきた場所を見せ合う。どっちも山の頂上に神社があるところだ。一つ問題を解決すると新たな問題が浮かんでくる。どちらも場所としては反対にあり、この後行くにしても片方しか行けないようなところにあった。
どちらにするべきか悩んでると柚木から提案があった。
「…私としては芙蓉は多分嶽山の方にいるんじゃないかな?あの体で四国で一番高い山を登れるとは思えないし、そもそも今から行っても私たちが登り切れるか微妙だ」
「僕もそう思うし、多分嶽山が正解だと思う」
「そう思う根拠は?」
「神社の名前だよ。嶽山にある神社の名前は龍王神社って言って、昔読んだ本に確か昔のこの国では龍は水の神様だって祀られてたと書いてあった記憶があるんだ」
「水の神様…確か芙蓉が水神がどうとか言ってたな。じゃあ行ってみるか」
「あまり遅くなると帰りが大変だし急ぐか」
僕の根拠に納得してくれたのか僕と柚木はひとまず嶽山に向かうとした。
「はぁはぁ…待ってくれないか柚木……」
「遅くなったら帰りが大変だって言ったのはお前だろ。あんまり遅いとおいてくぞ」
あれから高屋神社を出発した僕たちは電車を乗り継いで嶽山の近くまで移動して歩き出していた。山の近くまで着いた僕らを待っていたのは高屋神社と同じかそれ以上に厳しそうな登山道であった。息を切らせながらなんとか山を登る僕に対して柚木はきつそうではあるが僕よりも余裕のある表情で先を進んでた。
口ではああは言っているもののこっちの様子を見ながらペースを落としてくれることもあるし、自分が休みたいからと言って休憩を提案してくれる。学校内でしか彼女を見たことがないけどそこでの彼女は友達と話すことはあるがどこか退屈そうでぶっきらぼうな態度が見え隠れする人に思えたがいざこうして一緒に動いていると意外と優しいやつなんだとわかった。
「…なにぼーっと見てるんだ。本当に置いてくぞ」
「あ…!ごめん今行く」
足が止まっていることに気が付き歩みを出す。山道を歩いているとふと気になることを聞いてみた。
「そういや、なんで柚木は芙蓉さんに電話を掛けたんだ?」
「……言いたくないから秘密。そういう三雲は何で掛けたんだ?」
「強いて言うなら…好奇心を刺激されたから?」
「なんだそれ、お前意外と変な奴なんだな」
「それは…そうかもしれないな……。あ、もしかして同じ
その言葉を言うと柚木はこちらを振り返り鋭い目で僕を睨んでいた。だけどそれはすぐに止めて申し訳なさそうな顔をしていた。
「…私、今三雲のこと睨んだよな。ごめん……」
「いやこっちこそ気に触ることを言ったのならごめん」
「別にこっちが悪いんだからお前が謝ることじゃないよ。ただ…」
「ただ…?」
柚木は少し辛そうでどこか悔しそうな顔をしながら、
「…私はこの
そう言って柚木は先に歩き出した。これ以上は触れることじゃないと思い、僕も歩き出した。
そしてついに山頂近くまで来たが、そこにあったのはむき出しの岩がそのまま道になっていて、管理している団体の優しさなのか岩に刺さっている手すり目的のチェーンがあるだけの山道と呼べるか怪しいものだった。
「これを登るのか…」
「マジか…」
お互い顔を見合わせあまりのハード具合に驚く。だけどここて立ち止まっても時間の無駄だ。
持っていたカバンを地面に置き、両手が使える状態にしてから岩壁を登っていく。手すり代わりのチェーンは本来使っているものより心細いがこの急斜面の荒れ道を歩くにはこれだけでもかなりありがたいものだった。そうして山を登っていくと神社の鳥居が見えてきた。
「ここが、龍王神社か」
そこにあるのは鳥居と小さな祠があるだけど高屋神社よりもこじんまりとした神社だった。まあこんな場所に参拝に来る人も少ないだろしこれくらいが丁度いいのかもしれない。
そんなことを思っていたら鳥居の下に人がいることが見えた。
「あ」
そこに立っていたのは少女だった。彼女の色素の薄い髪と肌は、夕日の朱色にうっすらと染まっている。初めて見た時は遠目で金髪の容姿以外わからなかったがはっきりと見える今ならこう思える。子供のような小柄な体格と整いすぎた容貌は本当に同じ世界に住んでいる人物なのかと思うほどのものだった。
「芙蓉、友奈さんだよね?」
その言葉を聞くと彼女は口の端に笑みを浮かべる。
「待っていたよ。よく私の言葉の意味を理解し、ここまでたどり着いたね。き、君たちのような…君たちのような人が現れるのを……待ってたんだからぁ……!!」
「「は?」」
僕たちの課を見た瞬間急に泣き出しながら柚木の胸に飛び込む芙蓉さんを見て、思わずはもってしまった。なんで急に彼女は泣いているんだ!?
「ど、どうしたんだ急に泣いて!?」
「だ、だって…!ひぐっ…ここに登ったのはいいけど怖くて降りられなくて……!!どんどん暗くなってくるし、誰も来なかったらって思ったら…!うえぇ……!」
「……」
あれほど神秘性を纏っていた少女が、一気にどこにでもいる泣き虫の女の子になっていくことに思わず面食らってしまった。
周りのことを気にする様子もなく泣いてる芙蓉と、それが落ち着くまであやす柚木。傍から見ると色々突っ込みたくなるような光景だが、芙蓉の泣きっぷりを見るに本当に心細かったのだと分かってしまうほどのものなのだから茶化すこともできない。
ある程度して泣き止んだころには夕日は最後の輝きを照らしながら沈みだしていた。
「た、頼む!どっちでもいいから私を背負って山を降りてくれぇ!もうさっきから足の震えがと、止まらないんだ…!!」
「この傾斜面を背負って降りるのは無理だぞ…?」
「私もさすがに無理だ。先に降りてやるから自分で降りるんだ」
そう言って柚木と僕は芙蓉さんをいつでも受け止められるよう気を付けながら岩道を降りる。芙蓉さんもそれに続くよう僕たちよりも小さい足取りだがゆっくりと降りていた。
「も、もう駄目だぁ!落ちる、落ちるよぉ!!」
「下見たら余計落ちると思うから見ちゃだめだ」
「なにかあっても私と三雲が受け止めるから安心しろー!」
「君の方はともかく、三雲君とやらはかなりギリギリの感じに見えるが本当に大丈夫なんだろうねぇ!!?」
まあ実際、芙蓉の言うとおり僕の足も限界に近かった。それでも、あのくらいの小柄な女の子を受け止める余裕くらいはある……はずだ。
悪戦苦闘しつつも、なだらかな場所まで降りてきた頃には、陽は地平線の彼方へと消えかかっていた。
「…ふふ、感謝するよ二人とも。あのまま山で夜を明かすことになりかけたよ。それはとても危険だからね」
安全地帯にきて開口一番芙蓉さんはそう言った。さっきまでの涙はどこへ行ったのかと思うほどの切り替えの早さであった。
「さて、改めて名前を尋ねようか。君たちの名前は?」
「三雲修だ」
「柚木…友奈だ」
「三雲修君に柚木友奈君か。……友奈!?君も友奈なのかい?私と同じ名前だ。同気相求!私が撒いた紙を見て連絡するしてきたということは、私の『勇者部』に入りたいんだね」
「…まあそういうことになる、かな」
連絡をした以上そう思われても仕方ないが、実際のところ、この子を一人で行動させるのは妙に心配で放っておけなかったのだ。そんなことを考えていたら、芙蓉は僕の手をがしっと掴み、全身で腕をぶんぶん振ってきた。
「熱烈歓迎だ三雲君!私と共にこの世界の謎を解き明かそうじゃないか!!柚木君も三雲君と同じなんだろう」
そう言って芙蓉は満面の笑みを浮かべて柚木に向かって手を差し出す。柚木も僕と同じように勇者部に加入すると思っていたが、
「いや、私は別に、そんな部に入る気はないけど」
「………ふええ?」
予想外の答えが返ってきたせいか、芙蓉の口から変な声が漏れ出ていた。
恐らく、僕は今日というこの日を一生忘れられない。
芙蓉友奈と柚木友奈。
二人の『友奈』と出会い、この世界の果てへと続く冒険が始まった、その日のことを。