もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
2-1.ターフタウン(前編)
「な、なんでこんなことになっているのかなぁ!?」
「ぷぅ?」
あれから数日後、件のカービィの動画は人気に火が付き、さらに拡散している。
元動画はついに30万いいねに達し、動画サイトで転載されたものも、100万回再生を超えてしまっている。
なにより、ユウリの頭を悩ませたのは、このバズりに乗じインフルエンサーたちがこぞって、カービィのダンスを踊りだしていることだ。
これらの動画も、またたくまに再生回数を稼ぎ、カービィダンスとカービィの存在は、急速に浸透していっている。
しかもこのタイミングで、学会で、マグノリア博士と助手のソニアがある発表をおこなった。
それこそ未知のポケモンである『まんまるピンクポケモン カービィ』の図鑑登録である。
このニュースにより、カービィの存在はさらに大きな注目を集めた。
しかもガラル地方だけではなく、他地方においても関心が注がれている。
この状況の中、ユウリが注目されているのは当然のことだった。
カービィは現在、世界でたった1匹しか観測されておらず、ユウリのみが所持している。
ジムチャレンジはガラルにおいて最も大きなイベントのひとつ。
そこにチャレンジャーとして参加する時点で一定数の知名度を得るだろう。
だが今回の件により、爆発的な勢いで人々に認知されてしまったのだ。
『カービィを連れているこの子って、確か今年ジムチャレンジに参加するんだよね?』
『ハロンタウン出身って、ああ、チャンピオンダンデと同じ出身地なのか。そういえば弟も今年のやつに参加していたっけ?』
『他動画で確認したんだけど、カービィ強くね? 4匹相手に瞬殺って、多分ジムリーダーの本気の手持ちに匹敵するぞ、こいつ』
『そもそもユウリって子、あのチャンピオンから推薦されたんだから、さぞ実力のあるトレーナーなんでしょうね』
『今年のトリはユウリって子でしょ。大穴でダンデの弟と……次にジムリーダーネズの妹ちゃんかな』
「あわわわわ」
ユウリは、パニック状態になった。
自分がネットで注目の的になっている。
名前も顔も知らない大勢の人が、自分のことについてつぶやき、あるいは議論している。
ついこの前までのどかな牧場で昼寝したり、カレー作りを嗜んでいた。
それが、なんだかよく分からないうちに、今年のジムチャレンジャーで最も注目度が高い選手となっているのだ。
ユウリは別に、有名人になりたいとか、大物になりたいとか、そんな風に思ったことはない。
承認欲求があるわけでもない。
だから、現状では嬉しさなんてなく、困惑と焦りが募った。
ポン、とスマホロトムの通知が鳴る。ホップからのメッセージだ。
『すっかり有名人だな! オレだってアニキとユウリより強くなって、もっと有名人になってやるぞ!』
そんなことを言うくらいなら今の自分と代わってほしい。ユウリは心底そう思った。
母からも、メッセージが来た。
『がんばりなさい。ユウリはユウリのペースでね』
その言葉でユウリは落ち着きを取り戻すことができた。
★
それから、ユウリは3ばんどうろを進んだ。
道中、視線が合った何人かのトレーナーとポケモンバトルをおこなった。
もちろん、彼らとのバトルではカービィ以外の手持ちを戦わせた。けいけんちを稼ぐためである。
その甲斐あってか、ユウリの手持ちのうち2匹が進化した。
ココガラがアオガラスに、ヒバニーがラビフットに。
カービィに頼らずとも、ユウリはもうすでに一端のポケモントレーナーであった。
★
ユウリは、カービィのことを知る必要があると思った。主にバトル方面についてだ。
カービィはコミュニケーションを取れるし、簡単な単語なら発することができる。
だからユウリはいくつか質問を投げて、答えてもらった。
「カービィはどれくらいの能力を使えるの? 大体の数を教えて」
「ごじゅう!」
「50くらいね……ありがとう」
「ぽよ」
「もしカービィがその……以前のように炎の力を得た状態だと考えてみて」
「うい」
「その状態の時、水の攻撃や岩の攻撃をくらったとする。その場合は、普通の攻撃より2倍くらいのダメージを感じる?」
「むー、ぽよ」
「つまりそれは肯定って捉えていい?」
「ぽよ!」
「じゃあ逆に草の攻撃や、炎の攻撃は、半分くらいのダメージを感じる?」
「はぁい」
「なるほど、それは正解ってことだね」
「うい!」
このようなやりとりをし、ユウリはカービィから情報を引き出した。
まずカービィの能力は、口に取り込んだものに応じて、能力を得るというもの。その数はおおよそ50。
次に、カービィは変化した姿によって、タイプが変動する。ファイアならば、ほのおタイプに。ウォーターならば、みずタイプに。
これはダンデ戦でユウリが立てた仮説通りであった。
今後のポケモンバトルの際は、カービィの変化した姿がどのタイプなのかきっちり把握し、それらを考慮した作戦を組み立てていく必要があるだろう。
そしてカービィが召喚した謎の飛行物体。
あれはワープスターといい、カービィの意思によっていつでも呼び出せるのだ。
<そらをとぶ>のように移動にも使えるし、バトル中にワープスターに乗ることで空中戦も可能なのだ。
新人トレーナーのユウリでも、その能力の異質さを実感できる。
ポケモンとはそれぞれ固有のタイプが定まっている。そして使用するわざは4つ以上覚えることはできない。
ところが、カービィは獲得した能力ごとにタイプが変動し、それに応じて複数の違うわざを使いこなす。
タイプ相性とはポケモンバトルにおいて、絶対の法則だ。すべてのタイプを使いこなすということは、すべてのポケモンの弱点を突けるのと同義。
そして50以上の能力を持つのならば、それに準じて膨大なわざを使えると考えられる。
(こんなの……普通じゃないよ)
仮にその異能がなくとも、通常ステータスは並のポケモンを凌駕している。
ワープスターによる高度な空中戦闘と、身体能力を活かした地上での近接戦闘を両立させている。
ユウリは、カービィという存在に対して、あらためて戦慄したのであった。
(たぶんだけど……カービィだけでジムチャレンジは突破できちゃいそう……)
……といった具合に、あくまで今回ユウリが質問したのは、ポケモンバトルに必要な情報のみに限る。
「どこから来たのか?」「他に仲間は?」
そう聞けば、どう答えればいいのか分からないような表情をするからだ。
それにユウリにとって、カービィが何者かなんてどうだってよかった。
自分を信頼してくれた、相棒。ただそれだけで十分なのだ。
「いっぱい教えてくれてありがとうね! 今日のお昼は大盛キムチカレーだからね!」
「はぁい!」
それに、毎度美味しそうに手作りカレーを食べてくれる。
ユウリにとって、これがたまらなく嬉しいのだ。
★
3ばんどうろを突破したユウリたちは、ガラル鉱山の中を進んだ。
ガラル鉱山は、エンジンシティとターフタウンをつなぐ位置にある、鉱山である。
ここではねがいぼしが採掘されており、いたるところにねがいぼしが地面に埋まっている。これにより内部が明るく照らされており、安心して鉱山内を歩くことができるのだ。
「あなた、たしかユウリ……という名前でしたっけ。たしかチャンピオンに推薦された、希少なポケモンの使い手……」
鉱山の出口付近にたどりついたユウリたちの前に、ひとりの少年が現れる。
「君はだれ?」
「ぽよ」
「ふん、僕はビート。委員長に直々に推薦されたジムチャレンジャーです」
「そうなんだ、おたがい頑張ろうね」
ユウリがそう声をかければ、ビートは鼻で笑った。
「はっ、頑張る? くだらない。あなたと僕は同列じゃない。
僕は委員長に推薦された人間だ。
いいかい? リーグ委員長はチャンピオンより偉い。すなわち、これは僕がもっとも偉く、チャンピオンの座にふさわしいということだ」
ユウリは、眉を下げた。
「うーん、それは君の感想じゃないかな?」
「いいでしょう。特別に、無知なあなたに教えてあげましょう。僕の強さをね……」
「……カービィ、さっさと倒しちゃおっか」
「ぷい」
ユウリと、ビートの視線がぶつかりあう。
ポケモンバトルの合図だ。ビートは、どこかユウリを蔑むような目をして、モンスターボールを取り出した。
「知らしめてやりなさい、ユニラン」
「カービィ、お願い」
ビートが繰り出したのは、ユニランだ。
相対するのは、カービィである。
まず、先手を打ったのは、ユニランだ。
「<サイケこうせん>です!」
ユニランの中心に、光が集まり、それが波状に広がってカービィに襲いかかる。
「カービィ、しゃがんで」
「ぷい」
次の瞬間、カービィの体がまるで押しつぶされたように、ぺしゃんこになった。
カービィは柔軟な体をしている。まるでペラペラの紙のように体を縮こませられるのだ。
これによりサイケこうせんは、カービィの真上をすり抜けていった。
ビートは、虚を突かれて、声をだす。
「なっ、まるでメタモンのような軟体な体ですね! ならば、次は地面に向けてうち放つだけです」
「悪いけど、こっちが攻撃する番だよ。カービィ! 接近して、吸い込み!」
ユニランがもう一度、サイケこうせんを放とうとする。
だが、それよりも早くカービィが肉薄し、口を開けて、ユニランをほおばった。
「ユニラン、そいつの体内から急いで脱出しなさい!」
「カービィ、壁に向かってはきだす」
「ぷいっ」
ぺっ、とカービィは口からユニランを吐き出した。
吐き出されたユニランは、ものすごい速度で壁に激突し、めりこみ、動かなくなった。
ユニランは戦闘不能となった。
「バカな! ぼくのユニランが一撃で!! それもあんなふざけた攻撃で! くそっ!!」
ビートは、眉間にしわを寄せながら、次のポケモンを繰り出そうとしている。
「カービィ……今回は能力を使わないでね。能力なしでもどれだけ戦えるのか確かめたいから」
「うい」
それから、カービィは圧倒的な速度とパワーで、ビートの手持ちポケモンを蹂躙した。
2匹目のミブリムは、スライディングで蹴とばして、戦闘不能に追いやった。
3匹目のゴチムは、地中に埋まった鉱石を吸い込み、弾丸のように打ち当てて、撃破した。
「な、な、な……」
ビートは、唖然としていた。
このビートという少年は、プライドが高く、他のジムチャレンジャーを見下すような言動を取っていた。
そんな彼だからこそ、この惨状を受け入れられないのだろう。
自分の手持ち3匹が、なすすべもなく秒殺されてしまった。ユウリとの隔絶した実力差を、見せつけられてしまった。
彼のプライドが木っ端みじんに砕け散る音が、聞こえた。
ビートは、視線をゆらゆらと揺らし、現実を受け入れられていないようだった。
「そんなことが……あってたまるのか。そうだ、ぼくは、ぼくはチャンピオンにならないと……委員長に認められないと……」
ビートは、トボトボとユウリたちに背を向けて去っていく。
ユウリは、申し訳なさそうにつぶやいた。
「なんだか……すごく悪いことをしちゃったような気がする」
「ぽよ」
「あはは、とりあえずお昼作ろっか」
「はーい!」
「今日はカレーラーメンとカレーうどん、どっちがいい?」
「かれーらーめん!!」
「うんうん、じゃあそっちにするね」