もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
ガラル鉱山の出口から、4ばんどうろを出たユウリたち。
田園風景が広がる4ばんどうろを進み、ついにターフタウンに到着した。
ところが、ここで思いもよらない事態が起きた。
「うわぁ、この子ってあのカービィですよね! 写真撮って良いですか!!」
「カービィだ! カービィだ! カービィダンスを踊って!」
「可愛い。ほっぺプニプニしてもいい? 一緒にダンスしよー」
街に入ったユウリたちを、子どもたちが取り囲んだ。
子どもたちは、カービィに釘付けになっている。
カービィが「はぁい!」といつもの挨拶をすれば、子供たちは「うわぁ!」と熱狂しだす。
どうやら、カービィダンスの人気が、すでに現実にも表れているらしい。
現在ネットでは、カービィダンスの人気は日ごとに高まりつつある。
最初は、ネットの一部での人気にとどまっていたが、この数日間でさらに波及しているようである。
「カービィ、この子たちにダンスを披露してあげない?」
「うい!」
カービィは嬉しそうにうなずいた。
それから、カービィがくるくると華麗なダンスを踊りだした。
それに合わせて、子供たちも、カービィのダンスをマネする。
聞くところによれば、カービィダンスの解説動画が出回っているらしい。
なんだそれは、とユウリは呆れる。
振り付けだったりは、本家のカービィのものとは、ずいぶん簡略化されているようだ。
カービィはアクロバットに踊るので、ダンス経験がない者にとってみれば、難しいので仕方がない。
カービィと子供たちは楽しそうに、一緒に踊っている。
カービィは、すっかり子供たちの人気者だ。
(楽しそう、わたしも踊ってみようかな)
そう思ったユウリは、カービィダンスに挑戦してみた。
だが、うまくはいかなかった。ムーンウォークをやろうと思えば、すってんと転び。くるくると体を動かせば、目が回って、その場でバタンと倒れた。
ユウリは、致命的なまでにダンスのセンスがなかった。
「お姉ちゃんって、踊るの下手くそなんだね」
地面に転がったまま、ユウリは口をへの字にしてふてくされた顔を浮かべた。
★
「ボク、ボールガイだよ~、お! まん丸ピンクのそのポケモンはカービィだったっけな! ということは、きみは今話題の新進気鋭トレーナー、ユウリちゃん!」
「新進気鋭って、なんですか」
「ははっ謙遜はいけないぞっ。チャンピオンダンデだって、いつも堂々としているだろう?」
「はあ……」
ターフタウンのスタジアムに入ったユウリたち。
スタジアムの内部は、チャレンジャーの試練となるターフジムだ。それをクリアした先に、ターフタウンのジムリーダーが待ち受けている。
背番号312のユニフォームに着替えたユウリは、カービィを連れて、エントランスの奥の扉へ向かった。
ジムミッションの内容は、いたって単純だった。
「ターフタウンジムでのミッションは! ウールーたちを牧草ロールの方へ追いやってください!」
スタジアム内は、牧場のような様相を呈していた。
いくつもの柵があり、その囲いの中でウールーたちがのんびりしている。
囲いの奥には、道を塞ぐように牧草ロールが設置されている。
ウールーたちをあそこへ追いやって、新しく道を切り開いていく……それがこのジムのミッションなのだろう。
「カービィ、吸い込み」
「スオオオオオオオオ!!」
たいていは、ウールー飼いのように他ポケモンを使って、ウールーたちを向かわせたい場所へ追いやる。
今回であれば、カービィのすいこみをつかって、ウールーたちをおどかし、移動させればいい。
まるで暴風のように、カービィの口が周囲のものを吸引する。
ウールーたちは大慌てで、カービィの元から離れていく。そこへユウリが動き、ウールーたちの向かう先を修正しつつ、追いやっていく。
そうして、ジムのミッションを順調にクリアしていった……。
★
観客の歓声が覆いつくされた、ターフタウンスタジアム。
その中心にあるのは、巨大なバトルコートだ。
「君は珍しいポケモンを持っているらしいね。なら、君のそのポケモンでぼくを突破できるかな?」
コートの中央で、筋骨隆々な体をした、穏やかな顔つきの青年が待ち構えていた。
その青年こそが、ジムリーダーのヤローである。
ヤローは、続けてこう言った。
「大勢のジムチャレンジャーたちは、まずこのジムにやってくる。そのうち4割がぼくを突破できずに、ジムチャレンジをあきらめてしまうんだ。いわゆる、そうだね、ここは登竜門といった方がいいか「……早くやりましょう」え……」
遮るように、ユウリは声を出した。
だってそうだ。自分の気持ちを抑えられないからだ。
「さっさとポケモンバトルを始めたいです。わたしはそのためにここに来ました」
ユウリの想いはただひとつ。
強い相手とポケモンバトルがやりたい。
ユウリはただ、それだけのためにこのジムチャレンジに参加したのだ。
スタジアムに足を踏み入れた時から、ずっと高揚感が湧きたっている。
御託など、どうでもいい。
あのダンデとの試合で感じた興奮をもう一度味わえたのならば、それ以上求めるものは何もない。
ヤローは、ぽかん、とした表情を作ったあと、キリッと、ジムリーダーとしての顔を見せる。
「いいよ、やろうか。ヤローだけに」
「……」
「ぽよ?」
「あはは、スベッちゃったね。じゃあ改めて、チャレンジャ―ユウリ。君への一つ目の試練として、君と君のポケモンの実力を確かめさせてもらうよ」
★
ヤローは、ガラル地方の一番目のジムリーダーとして、長らく努めてきた。
だからこそ、多くのジムチャレンジャーをその目で見届けてきた。
己のポケモンたちをなんなく突破する者。これは全体の2割だ。
何度も敗れるが、実力をつけて、再挑戦しクリアする者。これは全体の4割である。
そして敗れ続け、心が折れて、リタイアする者。これが残りの4割。
ジムの突破率は、他地方と比べると低い傾向にある。
これは、ヤローが繰り出すポケモンたちが高い練度を誇っているからである。
それゆえに、最初の関門としてターフジムは名高い。
(さて……このユウリって子は、どんな感じかな?)
数日前に、SNSやニュースでも報じられ、話題になってる新種ポケモン『カービィ』。
その使い手である、新人トレーナ―ユウリ。
彼らの実力は未知数。自分の期待を超えるのか、それとも下回るのか。
ヤローは、自分たちを打ち破り、素晴らしいトレーナーとして成長してほしいと願っていた。
「いけっ、ヒメンカ」
「お願いね、カービィ」
バトルコートに、2匹のポケモンが降り立った。
ヤローのヒメンカと、ユウリのカービィだ。
観客席が、大きく沸いた。彼らの視線は、カービィに注がれている。
カービィは、今、ガラルで話題の存在だ。
数日前に発表された新種のポケモン。話題性はそれだけが理由ではない。
愛くるしいビジュアル。さらに世界で一匹だけというレアリティ。
それが、人々の関心を強く引き寄せているのだろう。
試合が、はじまった。
「さあ、まずこちらから攻撃しかけるよ! ヒメンカ! <はっぱカッター>!」
ヤローの命令。一方ユウリは、こう指示した。
「カービィ、<どうぐ>を飲みこんで」
カービィは、手に持っていた<とけないこおり>を口に含んだ。
それから<とけないこおり>をぺっと、コートの外へ吐き出す。
そして、カービィの姿が変化していく。
頭頂部に、氷の冠をかぶった姿。
アイスカービィだ。
(姿が変わった……これはたしか、あのカービィというポケモンのとくせい……)
マグノリア博士が発表したカービィについての論文。
そこには、ある記載がされていた。
それはカービィが、吸い込んだ物体に応じて能力を変えるとくせいを持っているというものだ。
「カービィ、全部凍らせて」
ユウリの一言。
次の瞬間、コート内に冷気が吹き荒れた。
カービィが、口から凍てつくような氷の風を放ったのだ。
それは、ヒメンカのはっぱカッターをすべて氷漬けにし、勢いは衰えることなく、ヒメンカを飲み込む。
「ッ!! ヒメンカ!!」
冷気が霧散する。
そこには、地面に倒れたヒメンカがいた。
ヒメンカは戦闘不能になった。
モンスターボールにひんしになったヒメンカを戻しながら、ヤローは驚嘆していた。
(まさか……こんなに強いなんて……)
まるであれは、チャンピオンダンデのリザードンが放つ、かえんほうしゃに匹敵するほどの威力だった。
今の手持ちポケモンでは、一撃すらも耐えられないだろう。
(なら、これはどうかな)
ヤローは、冷や汗をかきながら、次のポケモンを繰り出す。
繰り出されたポケモンは、ワタシラガだ。
「君たちがいくら強かろうが、ぼくたちは粘る! 農業腰さ!」
ヤローはそう叫んで、ワタシラガをモンスターボールに戻す。
そのモンスターボールが巨大に膨れ上がり、赤く発光する。
「すべてを刈り取れっ! ダイマックス!」
空中に飛び上がったモンスターボールがはじけ飛ぶ。
中から、キョダイマックスしたワタシラガが現れた。
まるで、建物のように巨大化したワタシラガがコートをのしのしと動く。
(相手が強ければ、こちらは力押しで戦ってやるさ)
キョダイマックスは、ガラル地方において確認される、ポケモンが巨大化する現象である。
ガラルのポケモンバトルでは、このダイマックス現象を利用し、自身のポケモンを強化して、戦わせる。
「ワタシラガ! <ダイソウゲン>だ!」
ワタシラガのダイソウゲン。くさタイプの巨大なエネルギー波がスタジアムを覆いつくす。
ダイマックスしたポケモンの攻撃は広範囲かつ超強力。並のポケモンでは避けるのは困難だ。
ヤローは見てきた。多くのチャレンジャーが、このキョダイマックスしたワタシラガの攻撃に焦り、敗北に追いやられた姿を。
しかし、ユウリは平然としていた。
「カービィ、ワープスターで避けて」
ユウリの命令。
それに合わせるかのように、スタジアムの上空から金色の星型が飛翔する。ワープスターだ。
カービィはジャンプして、ワープスターに乗り込んだ。
カービィを乗せたワープスターは、軽やかな動きで、ワタシラガのダイソウゲンを回避した。
(なんだあれは? あれもカービィのわざなのか? いったいどれほどのわざを持っているんだ、このポケモンは?)
ヤローは、カービィの動きに翻弄されて、一瞬、指示を出すのを忘れていた。
それが明確な隙となった。
ユウリは、遠くにいるカービィに届くように叫んだ。
「カービィ、<こちこちスプリンクラー>!!」
ワープスターは、ワタシラガの頭上に移動する。
そこから飛び降りたカービィは、氷の息吹を身にまといながら、ワタシラガに直撃する。
信じられないことがおきた。
キョダイマックスしたワタシラガの体が、カービィの冷気で氷漬けになっていく。
そしてとどめと言わんばかりに、カービィがキックをお見舞いする。
ワタシラガを覆っていた氷が割れて、その衝撃でワタシラガは倒れた。
ワタシラガは、戦闘不能になった。
ぴょこんと、地面に降り立ったカービィは、いつものようにカービィダンスを披露する。
スタジアムは歓声に包まれた。
カービィが、観客に短い手でふりふりと挨拶すると、盛り上がりは最高潮に達した。
ヤローは、参ったようにユウリたちに拍手を送った。
「たいしたエンターテイナーだ。素晴らしいトレーナーと、素晴らしいポケモン。君たちは最高のパートナーだよ」
「ありがとうございました。ヤローさん」
ユウリは、爽やかな笑みを浮かべていた。
ヤローは、ターフジムのバッジをユウリに渡した。
「すっごく楽しいポケモンバトルでした! 次に機会があれば、リーグでも対戦よろしくお願いします」
ヤローは、ユウリに対して、こう思った。
(どこにでもいそうな、普通の女の子だ)
たとえば、町を歩けば、すぐそこですれ違いそうな普通の女の子。
それがユウリだ。
特段目立った何かを感じるわけではない。何かを感じる雰囲気があるわけでもない。
ただ楽しそうに、ポケモンバトルを楽しんでいる女の子。
だから、ヤローは怖くなった。
────底が何も見えない。何一つ見えない。何も感じない。
カービィというポケモンも。このユウリというトレーナーも。
ヤローが感じたのは、言語化できない背筋が凍るような恐怖だった。
ひょっとすると、自分はとんでもない怪物が成長する過程を目撃しているだけなのかもしれない。
ヤローは、昔耳にしたある話を思い出した。
あるところに、この世で最も強いポケモンがいた。
そのポケモンは、この世で最も弱いポケモントレーナーのものだった。
あるところに、この世で最も弱いポケモンがいた。
そのポケモンは、この世で最も強いポケモントレーナーのものだった。
そして、両者はお互いにポケモンバトルをおこなった。
結果はどうなった?
答えは、後者。
最も弱いポケモンを従えた、最も強いポケモントレーナーだった。
彼らは策を練り、相手の盲点を突き、見事に勝利を得た。
これは、ポケモンバトルではトレーナーの実力こそが最も重要であるという、ひとつの寓話である。
しかしだ。
もしも、もしもの話。
この世で最も強いポケモンと、この世で最も強いポケモントレーナーが組んでしまったら、いったいどうなるのだろうか?
おそらく、どのポケモンも敵わないだろう。
どのポケモントレーナーも勝利することはできないだろう。
そこにはきっと、ポケモンバトルにおける『絶望』がある。