もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
「うーん! いやー! 楽しかったなぁー!」
ターフスタジアムを後にしたユウリは、その場で思いっきり背伸びした。
満足そうに頬をゆるめて。だけどユウリの瞳はどこか物憂げだった。
「なんだか物足りないや……」
あのダンデ戦の時は、1分1秒が緊張と興奮で満ちていた。
だが、今回のヤロー戦はというと、その感情を得ることはできなかった。
それは相手ポケモンの力量が、カービィより大きく劣っていて、まともな戦いにすらならないというのが大きいだろう。
かといって、カービィを除いた他の手持ちでヤロー戦に挑んでも、それは縛りプレイをやっているみたいで、気持ち的には乗れない。
「ダンデさんともう一度戦えば、楽しいと思えるのかな?」
ユウリは、思いついたように、つぶやく。
ならば、さっさとジムチャレンジを制覇して、来るリーグの出場権を獲得すればいいだけだろう。
ユウリはスキップしながら、カービィを連れて、次の街──バウタウンに向かうべく、5番道路を歩き出した。
★
ユウリは、次のジムに備えて、もう一匹捕まえようと思った。
そういえば5番道路の草むらには、低い頻度でカモネギが出現するという。
ユウリは、カモネギをぜひ一度は手持ちにしてみたいと思っていた。
だからカービィと共に草むらの中をうろついた。
カモネギは、世界的にも頭数が少ないレアなポケモンである。
それにガラル地方のカモネギは、ネギガナイトへと進化する。
よくテレビの試合なんかで、ネギガナイトの姿を見かける。
とても強そうで、なにより見た目がカッコいい。だからユウリは捕まえたいのである。
(もしもカービィに、カモネギのネギを飲み込ませたら、どんな能力を得るんだろうか?)
そんな疑問を浮かべていたユウリは、ついに野生のカモネギと出くわす。
「カービィ、カモネギのネギを吸い込んで」
「ぽよ」
カービィはいつものように、口を開き、吸いこみをおこなう。
カモネギは、自分のネギが吸い込まれないように、必死で棒状のネギを掴む。
だがそれもむなしく、カービィの口に長ネギが吸い込まれていった。
(さあ、どうなるどうなる……)
すると、やはりカービィの姿が変化する。
緑の帽子を被り、片手に剣を持った姿に。
ソードカービィだ。
カービィによって自分の得物を失った、カモネギはあたふたしている。
そこへ情け容赦なくカービィが接近し、<ひゃくれつ斬り>をくりだそうとする。
「ストップ、カービィ! 相手を戦闘不能にしないように、気絶させて!」
寸前でユウリの指示が入り、カービィは<ひゃくれつ斬り>をやめる。その代わり、剣の柄で、カモネギの首筋を打ち据え、気絶させた。
ユウリは、スーパーボールをカモネギに投げて、捕まえた。
「カモネギ、ゲット!!」
スーパーボールを握り締めたユウリは喜びつつ、教訓を得る。
(ポケモンを捕まえるときは、うっかり倒さないように、カービィに加減するように言うか、他のポケモンを使った方がいいかもね)
その後、先ほどのカービィについて考察をめぐらせる。
(さっきのあの剣の持った姿……なにタイプだろう? ノーマルか、格闘っぽい。とくせいも姿に応じて変化しているかもしれないね)
まさか、ソードタイプなんていうのが、あったりして……いや、流石にそれはないか。
カービィの能力についてだが、まだまだ全容を把握できない。
次から次へと新しい能力を見せるのだから、そのバリエーションの豊富さに、ユウリは驚きを通り越して、感心してしまうのだった。
★
5番道路の中心には、ターフタウンとバウタウンを繋ぐ大橋がある。
大橋の上を歩いていたユウリは、橋の向こう側にいる奇妙な集団を見かけた。
派手なパンクロックの衣装を身に着けた男たち。
ユウリはその連中に見覚えがあった。だから「うげっ」と苦い表情を浮かべた。
エール団の連中は、ユウリの存在に気が付いた瞬間、顔を青ざめる。
「げ、げ、げ! ピンクの悪魔だ!! そしてその使い手、忌々しいマリィの因縁のライバル、ユウリ!!」
「因縁……?」
因縁とは、なんだろうか。そんな大層なものが、マリィとの間にあっただろうか?
それにピンクの悪魔とは、カービィのことだろうか。
「ぷや?」とカービィが声を出すと、エール団たちは「ひぃぃぃ!」と絶叫していた。
どうやら、そうであるらしい。
「あの、ごめんなさい。道の真ん中で立ち止まると、通行人の邪魔になると思います。ちょっと移動してくれませんか?」
「は、はい!」と団員のひとりが叫ぶ。
すると隣にいるもう一人が「おい! マリィの宿敵に従うのか! この裏切り者め!」と攻め立てる。
さらにもう一人が「オレたちじゃあ、勝てない。抵抗しても無駄さ」とたしなめている。
最後のひとりが「カービィかわいい」とつぶやいている。
ユウリは団員たちが騒ぎ立てているうちに、通りすぎようと思った。
だが、それに気が付いた彼らは、とおせんぼをする。
「やっぱり……おれはマリィを裏切ることはできねえよ!」
「ここはオレたちが死守する」
「イヤだ、戦いたくねえ!」
「ほっぺたを触ってみたいなぁ。触ってもいいかなぁ」
対して、ユウリはスマホロトムを起動する。
「通報しますね?」
ユウリの判断は、いたって、常識的であった。
はたから見れば、大人の男数人が年端もいかない少女を取り囲んでいる状況。
それにエール団たちはこの後、ポケモンを繰り出し、ユウリ達に襲いかかってくるだろう。
カービィならば、容易く返り討ちにできる。
しかしポケモン勝負の後、激昂した彼らが何をしてくるのかわからない。
スマホロトムに、緊急通報のコール番号を入力し、電話をかけようとしたところで────
「ちょっと待つんけん!!」
視界の端から、人影が飛び出した。
その人物は、勢いよくエール団員たちに突っ込んだ。
「こらぁぁぁ!! ユウリとカービィに何してくれとん!?」
マリィだ。
マリィは、団員たちひとりひとりにゲンコツを喰らわせていく。
「人様に迷惑かけたらだめやって、何回言ったらわかるんね?
あんたら、どんだけアホやんね!?
それでうちが悪う言われんのはええ。けど、アニキや故郷の評判が下がるから、やめてや。
もう言っても聞かんのやったら、スパイクタウンに戻ってしまい!!」
マリィがそう叱りつけると、エール団員たちは、すっかり縮こまっている。
それからマリィの説教は数分間つづいた。それから解放されたエール団員はこってり絞られたのか、ひどく憔悴した顔で立ち去っていく。
ユウリは、少し心配になった。
なぜならマリィは、どこか疲れたように溜息をついていたからだ。
★
「ごめんな、ユウリ、カービィ」
橋を渡った先にある獣道の隅っこで、マリィは座り込んだ。
ユウリはかがみこんで、マリィと視線をあわせる。
「気にしないで。あの人たちが勝手にやったことだから」
「気にしないわけないよ。あいつらは私の応援団。つまり、私がそもそもこのジムチャレンジに参加せんかったら、あいつらはあんな迷惑行為をしないわけ」
「それは……」
どうフォローすればいいのか分からず、ユウリは言いよどんだ。
「昔はもっと良い奴らだった。今でもそうよ?
けど、あいつらは周りが見えてへんから、自分らが迷惑かけていることに気づいてない。
どうすれば、あいつらがそれが気づいてくれるのかわからない」
ネガティブな言葉を放ちつづけ、マリィの顔がますます暗くなっていく。
ユウリがあわあわしていると、ぽてぽてと歩く音が聞こえた。
カービィだ。
「ぷいっ」
カービィは、口から何かを吐き出した。
吐き出されたソレは、地面にころんと転がる。
青色のまん丸の木の実。オレンの実だ。
「え、なに、もしかして……これを食べて元気をだせって?」
マリィが声を上げると、カービィは頷いた。
(汚い!!)
そう思ったユウリだが、ふと気が付く。
口に入っていたはずなのに、オレンの実には唾液が一切付着していないのだ。
実に奇妙だ。
カービィの口の中は、いったいどういう構造になっているのやら。
疑問は尽きないが、それはそれとして、口から吐き出されたきのみなど、いったい誰が食べるのだろう。
「美味しいよ! カービィ!」
「えぇ……」
マリィは、何食わぬ顔で、オレンの実にかぶりつく。
ユウリがドン引きしているうちに、マリィはオレンの実を完食し、すっかり明るい顔に戻っていた。
「オレンの実をくれて、ありがとう!」
マリィが感謝を伝えると、カービィは手をあげて「はぁい!」と応えた。
するとマリィは体をぶるぶると震わせる。
瞳には、ハートマークが浮かんでいた。
次の瞬間、ガバッとカービィにのしかかって、自分の胸元に抱きしめる。
「カービィ、大好き!! おばあちゃんになるまで一緒にいてほしい!!」
「ぷ、ぷい」
んちゅ、とマリィはカービィに口づけしようとしている。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! わたしのカービィに何をしているの!?」
ユウリは急いで、マリィをカービィから引きはがした。
マリィは、我に帰ったのかハッとした表情で、すぐに「ごめん」と謝る。
たしかにカービィはカワイイ。
ユウリは、寝るときに、いつも抱き枕にしたくなる衝動に駆られるくらいだ。
だが、人のポケモンにベタベタ触るのはマナーとしていかがなものか。
「……あの、ユウリ、私と勝負してくれない?
ユウリは次にバウタウンに行くんでしょ?
実はまだターフジムを突破していなくて、ポケモンバトルの相手をしてほしい」
「いいよ。ただ、カービィは強すぎるから、他の4匹で相手するね」
「いや、カービィを使ってほしい」
「なんで?」
「カービィが戦っているところが見たいけん!! 推しのかっこいい姿を観測したいんね!」
「うーん」
なんだかんだ理由をつけつつ、結局のところカービィ目的であるらしい。
もはやマリィは、カービィのファンだ。
宿敵であるカービィにマリィがメロメロだなんて、エール団員がこの事実を知れば、脳が破壊されてしまうだろう。
(もういっそのこと脳破壊されて、活動を控えるようになればいいのに……)
と、ユウリは鬼畜な発想を思い浮かべた。
★
「もし私が勝てば、カービィを30分間抱きしめさせてほしい」
モンスターボールを手にしたマリィは、突然そう言った。
ユウリは苦笑いする。
「別にそれくらいだったらいいよ」
「ぽ、ぽよ!?」
ユウリの発言に、カービィは慌てた様子を見せる。
どうやらカービィは、マリィに苦手意識があるようだ。
まぁ、当然だ。いきなり抱きしめて、キスしようとしてきたのだから。
ただし、とユウリは付け加えた。
「本当に、勝てるかな?」
ポケモンバトルがスタートした。
マリィはモンスターボールを投げて、ポケモンを繰り出す。
1匹目のポケモンは、グレッグルだ。
「グレッグル! ベノムショック!」
「カービィ、吸いこみ」
グレッグルは、手から毒液の塊を放射してくる。
ユウリの命令を受けたカービィは、口を開き、ベノムショックを飲み込んだ。
そして、姿を変える。
ドクロのマークを記した冠を被り、頭から毒の霧が漏れ出している。
ポイズンカービィだ。
(うん、やっぱり毒タイプは、この姿に変身するみたいだね)
ユウリは、冒険の間でカービィの能力について様々な検証をおこなった。
毒のような物質、あるいはどくタイプのポケモンを飲み込めば、このような姿になることは既に把握していた。
(だけど実戦でどう戦うのか、じっくり見るのは、これが初めてかな)
ユウリは、カービィに質問する。
「カービィ、相手との距離を詰めながら攻撃できるわざはある?」
「うい」
「なら、それをお願い」
カービィは頷き、わざを発動させる。
するとカービィの周囲に、毒の水があふれだし、それは波のようになる。
カービィはその波の上に乗り、移動しながら、グレッグルを巻き込もうとする。
(まるで、なみのりの毒バージョンみたいだね)
毒の津波に飲み込まれたグレッグルは、一撃で戦闘不能になった。
グレッグルをボールに戻しながら、マリィはつぶやいた。
「やっぱり、カービィはすごく強い。やけどせめて一撃ぐらいダメージを与える」
次に繰り出したのは、マリィの相棒であるモルペコだ。
モルペコはなぜかカービィを目にした途端「うるるるる」と威嚇を取りはじめた。
まるで親の仇を前にしたような、敵意のこもった瞳。
「ん? マリィのモルペコ、様子が変じゃない?」
「……うちがカービィと出会ってから、モルペコの様子がずっとおかしい」
「うん」
「特にカービィのことを口にするたびに、あんな風になっちゃうの。すねたり、怒り出したり、ついにはテレビでカービィの名前を聞くだけで、髪の毛を逆立たせちゃう」
「あ……そういうことかぁ」
以前、ホップは「いつかカービィは背中を刺されるぞ」と言っていたが、あれはあながち冗談ではないらしい。
「モルペコ、スパーク!」
「ぎいいいい!」
モルペコは嫉妬に満ちた表情で、スパークを繰り出す。
雷のエネルギーが、モルペコを中心に広範囲に放出される。
敵の範囲攻撃。ならばこちらはそれを塗りつぶせばいいだけだ。
「カービィは、今の姿で一番強いわざを使って」
「はぁい」
するとカービィの頭から放出されている毒の霧が、液状となった。
それは体積を増やし、噴水のようにカービィの頭から吹き上がる。
カービィは頭のてっぺんをモルペコに向けた。
するとホースの水のように、毒の噴水はモルペコに殺到する。
放たれたモルペコのスパーク。それは、毒の噴水による質量の暴力で押しやられた。
モルペコはそのまま毒の水に飲み込まれて、倒れた。
モルペコは戦闘不能になった。
戦闘終了後、カービィは普段の姿に戻って、いつものダンスを踊りだす。
マリィは自分のポケモンが敗れたというのにもかかわらず、両目をキラキラさせて、カービィを見つめていた。
★
「今日は色々ありがとう、ユウリ。明日、もう一度ヤローさんに挑戦してみる」
「がんばって」
「はーい」
マリィは自分のバッグを背負って、ターフタウンへ行くために、元来た古橋へ向かう。
その直前、マリィは振り返って、ずかずかとカービィに近づいた。
「カービィ、ちょっといい」
「ぷい?」
マリィはかがみこんで、カービィと目を合わせる。
それから訛り言葉でこう続けた。
「ますます好きになったんね。うちのパートナーになってほしいけど、あんたはユウリの相棒。だから諦めるしかないんね」
それから、ちゅ、とカービィのほっぺに口づけする。
カービィは目をまんまるにして驚く。
その瞬間、ユウリは見逃さなかった。
マリィの腰につけていたモンスターボールのひとつが、ブルブルと振動している。
あの中にはモルペコが入っている。
(あの、その辺までにしておかないと、このあと余計に拗れそう……)
刃傷沙汰に巻き込まれるなんて、勘弁してほしいところだ。
こうしてマリィと別れたユウリたちは、バウタウンに向けて足を進めた。
もうだめだ、マリィちゃんのキャラがさらに崩壊していく。修正しようにも修正できない。