もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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2-3.バウタウン(前編)

「うーん! いやー! 楽しかったなぁー!」

 

 ターフスタジアムを後にしたユウリは、その場で思いっきり背伸びした。

 満足そうに頬をゆるめて。だけどユウリの瞳はどこか物憂げだった。

 

「なんだか物足りないや……」

 

 あのダンデ戦の時は、1分1秒が緊張と興奮で満ちていた。

 だが、今回のヤロー戦はというと、その感情を得ることはできなかった。

 それは相手ポケモンの力量が、カービィより大きく劣っていて、まともな戦いにすらならないというのが大きいだろう。

 かといって、カービィを除いた他の手持ちでヤロー戦に挑んでも、それは縛りプレイをやっているみたいで、気持ち的には乗れない。

 

「ダンデさんともう一度戦えば、楽しいと思えるのかな?」

 

 ユウリは、思いついたように、つぶやく。

 

 ならば、さっさとジムチャレンジを制覇して、来るリーグの出場権を獲得すればいいだけだろう。

 ユウリはスキップしながら、カービィを連れて、次の街──バウタウンに向かうべく、5番道路を歩き出した。

 

 

 ★

 

 

 ユウリは、次のジムに備えて、もう一匹捕まえようと思った。

 そういえば5番道路の草むらには、低い頻度でカモネギが出現するという。

 ユウリは、カモネギをぜひ一度は手持ちにしてみたいと思っていた。

 だからカービィと共に草むらの中をうろついた。

 

 カモネギは、世界的にも頭数が少ないレアなポケモンである。

 それにガラル地方のカモネギは、ネギガナイトへと進化する。

 よくテレビの試合なんかで、ネギガナイトの姿を見かける。

 とても強そうで、なにより見た目がカッコいい。だからユウリは捕まえたいのである。

 

(もしもカービィに、カモネギのネギを飲み込ませたら、どんな能力を得るんだろうか?)

 

 そんな疑問を浮かべていたユウリは、ついに野生のカモネギと出くわす。

 

「カービィ、カモネギのネギを吸い込んで」

「ぽよ」

 

 カービィはいつものように、口を開き、吸いこみをおこなう。

 カモネギは、自分のネギが吸い込まれないように、必死で棒状のネギを掴む。

 だがそれもむなしく、カービィの口に長ネギが吸い込まれていった。

 

(さあ、どうなるどうなる……)

 

 すると、やはりカービィの姿が変化する。

 緑の帽子を被り、片手に剣を持った姿に。

 ソードカービィだ。

 

 カービィによって自分の得物を失った、カモネギはあたふたしている。

 そこへ情け容赦なくカービィが接近し、<ひゃくれつ斬り>をくりだそうとする。

 

「ストップ、カービィ! 相手を戦闘不能にしないように、気絶させて!」

 

 寸前でユウリの指示が入り、カービィは<ひゃくれつ斬り>をやめる。その代わり、剣の柄で、カモネギの首筋を打ち据え、気絶させた。

 ユウリは、スーパーボールをカモネギに投げて、捕まえた。

 

「カモネギ、ゲット!!」

 

 スーパーボールを握り締めたユウリは喜びつつ、教訓を得る。

 

(ポケモンを捕まえるときは、うっかり倒さないように、カービィに加減するように言うか、他のポケモンを使った方がいいかもね)

 

 その後、先ほどのカービィについて考察をめぐらせる。

 

(さっきのあの剣の持った姿……なにタイプだろう? ノーマルか、格闘っぽい。とくせいも姿に応じて変化しているかもしれないね)

 

 まさか、ソードタイプなんていうのが、あったりして……いや、流石にそれはないか。

 

 カービィの能力についてだが、まだまだ全容を把握できない。

 次から次へと新しい能力を見せるのだから、そのバリエーションの豊富さに、ユウリは驚きを通り越して、感心してしまうのだった。

 

 

 ★

 

 

 5番道路の中心には、ターフタウンとバウタウンを繋ぐ大橋がある。

 

 大橋の上を歩いていたユウリは、橋の向こう側にいる奇妙な集団を見かけた。

 派手なパンクロックの衣装を身に着けた男たち。

 ユウリはその連中に見覚えがあった。だから「うげっ」と苦い表情を浮かべた。

 

 エール団の連中は、ユウリの存在に気が付いた瞬間、顔を青ざめる。

 

「げ、げ、げ! ピンクの悪魔だ!! そしてその使い手、忌々しいマリィの因縁のライバル、ユウリ!!」

「因縁……?」

 

 因縁とは、なんだろうか。そんな大層なものが、マリィとの間にあっただろうか?

 それにピンクの悪魔とは、カービィのことだろうか。

「ぷや?」とカービィが声を出すと、エール団たちは「ひぃぃぃ!」と絶叫していた。

 どうやら、そうであるらしい。

 

「あの、ごめんなさい。道の真ん中で立ち止まると、通行人の邪魔になると思います。ちょっと移動してくれませんか?」

 

「は、はい!」と団員のひとりが叫ぶ。

 すると隣にいるもう一人が「おい! マリィの宿敵に従うのか! この裏切り者め!」と攻め立てる。

 さらにもう一人が「オレたちじゃあ、勝てない。抵抗しても無駄さ」とたしなめている。

 最後のひとりが「カービィかわいい」とつぶやいている。

 

 ユウリは団員たちが騒ぎ立てているうちに、通りすぎようと思った。

 だが、それに気が付いた彼らは、とおせんぼをする。

 

「やっぱり……おれはマリィを裏切ることはできねえよ!」

「ここはオレたちが死守する」

「イヤだ、戦いたくねえ!」

「ほっぺたを触ってみたいなぁ。触ってもいいかなぁ」

 

 対して、ユウリはスマホロトムを起動する。

 

「通報しますね?」

 

 ユウリの判断は、いたって、常識的であった。

 

 はたから見れば、大人の男数人が年端もいかない少女を取り囲んでいる状況。

 それにエール団たちはこの後、ポケモンを繰り出し、ユウリ達に襲いかかってくるだろう。

 カービィならば、容易く返り討ちにできる。

 しかしポケモン勝負の後、激昂した彼らが何をしてくるのかわからない。

 

 スマホロトムに、緊急通報のコール番号を入力し、電話をかけようとしたところで────

 

 

「ちょっと待つんけん!!」

 

 視界の端から、人影が飛び出した。

 その人物は、勢いよくエール団員たちに突っ込んだ。

 

「こらぁぁぁ!! ユウリとカービィに何してくれとん!?」

 

 マリィだ。

 マリィは、団員たちひとりひとりにゲンコツを喰らわせていく。

 

「人様に迷惑かけたらだめやって、何回言ったらわかるんね?

 あんたら、どんだけアホやんね!? 

 それでうちが悪う言われんのはええ。けど、アニキや故郷の評判が下がるから、やめてや。

 もう言っても聞かんのやったら、スパイクタウンに戻ってしまい!!」

 

 マリィがそう叱りつけると、エール団員たちは、すっかり縮こまっている。

 それからマリィの説教は数分間つづいた。それから解放されたエール団員はこってり絞られたのか、ひどく憔悴した顔で立ち去っていく。

 

 ユウリは、少し心配になった。

 なぜならマリィは、どこか疲れたように溜息をついていたからだ。

 

 

 ★

 

 

「ごめんな、ユウリ、カービィ」

 

 橋を渡った先にある獣道の隅っこで、マリィは座り込んだ。

 ユウリはかがみこんで、マリィと視線をあわせる。

 

「気にしないで。あの人たちが勝手にやったことだから」

「気にしないわけないよ。あいつらは私の応援団。つまり、私がそもそもこのジムチャレンジに参加せんかったら、あいつらはあんな迷惑行為をしないわけ」

「それは……」

 

 どうフォローすればいいのか分からず、ユウリは言いよどんだ。

 

「昔はもっと良い奴らだった。今でもそうよ? 

 けど、あいつらは周りが見えてへんから、自分らが迷惑かけていることに気づいてない。

 どうすれば、あいつらがそれが気づいてくれるのかわからない」

 

 ネガティブな言葉を放ちつづけ、マリィの顔がますます暗くなっていく。

 ユウリがあわあわしていると、ぽてぽてと歩く音が聞こえた。

 カービィだ。

 

「ぷいっ」

 

 カービィは、口から何かを吐き出した。

 吐き出されたソレは、地面にころんと転がる。

 青色のまん丸の木の実。オレンの実だ。

 

「え、なに、もしかして……これを食べて元気をだせって?」

 

 マリィが声を上げると、カービィは頷いた。

 

(汚い!!)

 

 そう思ったユウリだが、ふと気が付く。

 口に入っていたはずなのに、オレンの実には唾液が一切付着していないのだ。

 実に奇妙だ。

 カービィの口の中は、いったいどういう構造になっているのやら。

 疑問は尽きないが、それはそれとして、口から吐き出されたきのみなど、いったい誰が食べるのだろう。

 

「美味しいよ! カービィ!」

「えぇ……」

 

 マリィは、何食わぬ顔で、オレンの実にかぶりつく。

 ユウリがドン引きしているうちに、マリィはオレンの実を完食し、すっかり明るい顔に戻っていた。

 

「オレンの実をくれて、ありがとう!」

 

 マリィが感謝を伝えると、カービィは手をあげて「はぁい!」と応えた。

 するとマリィは体をぶるぶると震わせる。

 瞳には、ハートマークが浮かんでいた。

 

 次の瞬間、ガバッとカービィにのしかかって、自分の胸元に抱きしめる。

 

 

「カービィ、大好き!! おばあちゃんになるまで一緒にいてほしい!!」

 

「ぷ、ぷい」

 

 んちゅ、とマリィはカービィに口づけしようとしている。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って! わたしのカービィに何をしているの!?」

 

 ユウリは急いで、マリィをカービィから引きはがした。

 マリィは、我に帰ったのかハッとした表情で、すぐに「ごめん」と謝る。

 

 たしかにカービィはカワイイ。

 ユウリは、寝るときに、いつも抱き枕にしたくなる衝動に駆られるくらいだ。

 だが、人のポケモンにベタベタ触るのはマナーとしていかがなものか。

 

「……あの、ユウリ、私と勝負してくれない?

 ユウリは次にバウタウンに行くんでしょ?

 実はまだターフジムを突破していなくて、ポケモンバトルの相手をしてほしい」

 

「いいよ。ただ、カービィは強すぎるから、他の4匹で相手するね」

「いや、カービィを使ってほしい」

「なんで?」

「カービィが戦っているところが見たいけん!! 推しのかっこいい姿を観測したいんね!」

「うーん」

 

 なんだかんだ理由をつけつつ、結局のところカービィ目的であるらしい。

 

 もはやマリィは、カービィのファンだ。

 宿敵であるカービィにマリィがメロメロだなんて、エール団員がこの事実を知れば、脳が破壊されてしまうだろう。

 

(もういっそのこと脳破壊されて、活動を控えるようになればいいのに……)

 

 と、ユウリは鬼畜な発想を思い浮かべた。

 

 

 ★

 

 

「もし私が勝てば、カービィを30分間抱きしめさせてほしい」

 

 モンスターボールを手にしたマリィは、突然そう言った。

 ユウリは苦笑いする。

 

「別にそれくらいだったらいいよ」

「ぽ、ぽよ!?」

 

 ユウリの発言に、カービィは慌てた様子を見せる。

 どうやらカービィは、マリィに苦手意識があるようだ。

 まぁ、当然だ。いきなり抱きしめて、キスしようとしてきたのだから。

 

 ただし、とユウリは付け加えた。

 

「本当に、勝てるかな?」

 

 ポケモンバトルがスタートした。

 マリィはモンスターボールを投げて、ポケモンを繰り出す。

 1匹目のポケモンは、グレッグルだ。

 

「グレッグル! ベノムショック!」

「カービィ、吸いこみ」

 

 グレッグルは、手から毒液の塊を放射してくる。

 ユウリの命令を受けたカービィは、口を開き、ベノムショックを飲み込んだ。

 

 そして、姿を変える。

 ドクロのマークを記した冠を被り、頭から毒の霧が漏れ出している。

 ポイズンカービィだ。

 

(うん、やっぱり毒タイプは、この姿に変身するみたいだね)

 

 ユウリは、冒険の間でカービィの能力について様々な検証をおこなった。

 毒のような物質、あるいはどくタイプのポケモンを飲み込めば、このような姿になることは既に把握していた。

 

(だけど実戦でどう戦うのか、じっくり見るのは、これが初めてかな)

 

 ユウリは、カービィに質問する。

 

「カービィ、相手との距離を詰めながら攻撃できるわざはある?」

「うい」

「なら、それをお願い」

 

 カービィは頷き、わざを発動させる。

 するとカービィの周囲に、毒の水があふれだし、それは波のようになる。

 カービィはその波の上に乗り、移動しながら、グレッグルを巻き込もうとする。

 

(まるで、なみのりの毒バージョンみたいだね)

 

 毒の津波に飲み込まれたグレッグルは、一撃で戦闘不能になった。

 

 グレッグルをボールに戻しながら、マリィはつぶやいた。

 

「やっぱり、カービィはすごく強い。やけどせめて一撃ぐらいダメージを与える」

 

 次に繰り出したのは、マリィの相棒であるモルペコだ。

 モルペコはなぜかカービィを目にした途端「うるるるる」と威嚇を取りはじめた。

 まるで親の仇を前にしたような、敵意のこもった瞳。

 

「ん? マリィのモルペコ、様子が変じゃない?」

「……うちがカービィと出会ってから、モルペコの様子がずっとおかしい」

「うん」

「特にカービィのことを口にするたびに、あんな風になっちゃうの。すねたり、怒り出したり、ついにはテレビでカービィの名前を聞くだけで、髪の毛を逆立たせちゃう」

「あ……そういうことかぁ」

 

 以前、ホップは「いつかカービィは背中を刺されるぞ」と言っていたが、あれはあながち冗談ではないらしい。

 

「モルペコ、スパーク!」

「ぎいいいい!」

 

 モルペコは嫉妬に満ちた表情で、スパークを繰り出す。

 雷のエネルギーが、モルペコを中心に広範囲に放出される。

 

 敵の範囲攻撃。ならばこちらはそれを塗りつぶせばいいだけだ。

 

「カービィは、今の姿で一番強いわざを使って」

「はぁい」

 

 するとカービィの頭から放出されている毒の霧が、液状となった。

 それは体積を増やし、噴水のようにカービィの頭から吹き上がる。

 カービィは頭のてっぺんをモルペコに向けた。

 するとホースの水のように、毒の噴水はモルペコに殺到する。

 

 放たれたモルペコのスパーク。それは、毒の噴水による質量の暴力で押しやられた。

 モルペコはそのまま毒の水に飲み込まれて、倒れた。

 

 モルペコは戦闘不能になった。

 

 戦闘終了後、カービィは普段の姿に戻って、いつものダンスを踊りだす。

 マリィは自分のポケモンが敗れたというのにもかかわらず、両目をキラキラさせて、カービィを見つめていた。

 

 

 ★

 

 

「今日は色々ありがとう、ユウリ。明日、もう一度ヤローさんに挑戦してみる」

「がんばって」

「はーい」

 

 マリィは自分のバッグを背負って、ターフタウンへ行くために、元来た古橋へ向かう。

 その直前、マリィは振り返って、ずかずかとカービィに近づいた。

 

「カービィ、ちょっといい」

「ぷい?」

 

 マリィはかがみこんで、カービィと目を合わせる。

 それから訛り言葉でこう続けた。

 

「ますます好きになったんね。うちのパートナーになってほしいけど、あんたはユウリの相棒。だから諦めるしかないんね」

 

 それから、ちゅ、とカービィのほっぺに口づけする。

 カービィは目をまんまるにして驚く。

 

 その瞬間、ユウリは見逃さなかった。

 マリィの腰につけていたモンスターボールのひとつが、ブルブルと振動している。

 あの中にはモルペコが入っている。

 

(あの、その辺までにしておかないと、このあと余計に拗れそう……)

 

 刃傷沙汰に巻き込まれるなんて、勘弁してほしいところだ。

 

 こうしてマリィと別れたユウリたちは、バウタウンに向けて足を進めた。

 




もうだめだ、マリィちゃんのキャラがさらに崩壊していく。修正しようにも修正できない。
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