もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
バウタウンジムを攻略したユウリたちは、次の街へ向かう。
向かう先は、開会式の開催場所だったエンジンシティである。
元来た道ではなく、南東からガラル第二鉱山を経由していき、ぐるりとガラルの南部を半周するようなかたちとなる。
この頃、ユウリは不満が溜まっていた。
いつもジムリーダーとのバトルがあっさり決着がついてしまうから?
それは違う。
はたまた長旅でホームシックになってしまったから?
それも違う。
「あの、すみません! ポケモン勝負しましょう!」
鉱山内で、採掘員のトレーナーと目が合ったので、ユウリはそう言い放った。
たとえポケモントレーナーは勤務中であっても、トレーナーである限り、勤務時間中の勝負は許可されるのだ。
しかし採掘員だった男は、冷や汗をかきながら、「いや、遠慮しておくよ」と断ったのだ。
それからユウリは、目が合ったトレーナーに近づき、勝負を申し込む。
だが全員がユウリと、すぐそばを歩くカービィの目にして、申し訳なさそうに断る。
鉱山内を歩きながら、ユウリは文句をこぼした。
「むー、なんで勝負してくれないの……」
「ぽよ」
「やっぱり、カービィが原因かな……?」
人の噂も七十五日。
時間が経てば、世間はカービィのことなどすっかり興味をなくし、ユウリはただの新人トレーナーとして心おきなくジムチャレンジを楽しめるはずだ。
そんなユウリの予測はただの願望にすぎなかった。
先日のバウタウンジムの試合から、カービィの知名度はさらに火が付いた。
逆に言うならば、カービィの異常な強さも広く知られているわけだ。
戦えば、まともな勝負にすらならない。
普通のトレーナーならそう思い、おいそれと、カービィを従えているユウリと勝負するわけがないのだ。
「ぱや……」
「あ、ごめんね。気にしなくていいよ……。大丈夫、なんとかなるから」
ユウリは考えた。
野生のポケモンと戦って、経験値を稼ごうか。
いや、それでは物足りない。やはりポケモントレーナー同士の試合がやりたい。
それからユウリは「カービィ以外の手持ちポケモンしか使わないので、ポケモンバトルをして!」とお願いすることで、どうにか相手トレーナーとの試合に持ち込めた。
そのおかげか、ついに手持ちのコイキングがギャラドスへ進化したのだった。
★
エンジンシティに到着したユウリは、奇妙な光景を目撃した。
まず、街の入り口付近で、長蛇の列ができている。
列の先には、こじんまりとしたアイスクリームの屋台があった。
「すごく人気みたい。一個だけ並んで買ってみる?」
「ぽよ!」
イッシュ地方にも、あまりにも長蛇の列ができることから、火曜日のみ一日一個だけしか購入できないという、超人気のアイスクリーム屋があるという。
よほど美味しいのだろうか、それとも何かほかの要因があるのだろうか。
「いかにも都会っぽい」と田舎者のユウリは、このシチュエーションにどこかワクワクしていた。
最前列まで進んだ時に、ソイツらはいた。
「わにゃわにゃ」
コック帽を被ったワドルディたちが、店員として、あくせくしながら働いている。
「わにゃ!」
どうやら彼らが、この店の人気の秘訣らしい。
ポケモンだけで運営されているアイス屋。
その物珍しさに、エンジンシティの人々が集まっているのだろう。
「写真撮ってー! 可愛い!!」
「わにゃ」
もちろん……それだけが理由ではないだろう。
可愛らしいワドルディたちが、一生懸命に働いている。その姿はどこか癒されるものがあった。
カウンターにいたワドルディが、メニュー表を差し出す。
メニューは4種類。それぞれ4種類のアイスが絵でスケッチされている。
1種類目は、カービィの顔をかたどったストロベリー味のアイス。
2種類目は、ワドルディの顔そっくりの、オレンジ味のアイス。
3種類目は、帽子をかぶりバリヤードにそっくりな顔の、ソーダ味のアイス。
最後の4種類目は、仮面をかぶった鋭い目つきの顔の、グレープ味のアイスだ。
それぞれ、単品で200えん。
手ごろな価格だ。
ユウリは、ぼんやりと考え込んだ。3種類目と4種類目のアイスのことでだ。
(ひょっとして、この二つは、カービィやワドルディと関係があるポケモンを模したものなのかな?)
特に根拠はないが、なんとなくそう思った。
それからユウリは無難にカービィのアイスを注文する。
カービィはというと「かーびぃ! わどるでぃ! ででで! めたないと!」と、4種類すべてのアイスを指さして、叫んだ。
どうやら、全部食べたいらしい。
あふれんばかりの食欲で、カービィは目をきらきらさせている。
ユウリは微笑ましくなって、財布から1000えんを出して、自分とカービィの分のアイスを買った。
店員のワドルディたちが、コーンに乗ったアイスを手渡してくれる。
その直後、カービィは涎を垂らしながら、口を開けて、アイス4つをぱくりと飲みこむ。
「……もっとゆっくり食べて味わいなよ。急いで食べたら、もったいないよ?」
「ぷい!」
これまでの道中で、ユウリは何度もこのことで注意をしている。
いつもユウリが作ったカレー料理を、カービィは吸いこんで食べようとする。
そのたびに「ゆっくり食べてね」と促さなければならない。
もちろんそうすれば、カービィは指示に従い、落ち着いて食事してくれるのだ。
「ん、誰だろう?」
ぷるるる、とスマホロトムが鳴る。
ソニアからの着信だった。
ユウリは、アイスにかぶりつきながら、電話に出た。
『ああ! ユウリ! 今どこにいるの!?』
ソニアの興奮しきったような声が、電話越しに聞こえた。
「どうしたんですか? ソニアさん。わざわざ電話をかけてくるなんて」
『ちょっと今すぐ見てほしいものがあるの。スマホロトムで調べてくれる? そうね……<ワドルディ>って検索してみればいいわ』
そう言ってから、ソニアの電話は途切れた。
何か切羽詰まっている様子だった。
一体なんだというのだ。
ユウリは、ソニアが言ったとおりに、スマホロトムでワドルディを調べてみた。
スマホをスクロールしたり、タップしたりして、情報の羅列を眺める。
出てくるのは、ワドルディについて。
どうやら数日前に、マグノリア博士とソニアがまたしても、学会で新種ポケモンを発表した。
それが『よちよち歩きポケモン ワドルディ』である。
その分類名の由来は、古代イッシュ語において『waddle』とは『よちよち歩き』という意味であり、そこから取られているらしい。
リラックスしているとき、彼らはゆったりと歩く。その生態にふさわしい名だろう。
「へえ、<ノーマルタイプ>で……進化先は不明……ね。人間に匹敵するほどの社会性を持ち、その点においては他のポケモンを凌駕する……か」
彼らは先ほどのように自分たちでアイスクリーム屋を経営していた。
それは単に物を売るだけではなく、商品を仕入れたり、利益を上げたり……それは経営という高度な社会的行為。
たとえば工事現場で働くローブシンや、タクシーとして飛ぶアーマガアはそこらじゅうにいる。
しかしそれはあくまで、人間の指示あってのものである。
「カービィといい、なんというか今までにないポケモン……」
ワドルディは、カービィのような異常な強さは持っていないらしい。
ポケモンバトルでは特に目立った何かはないが、そのぶん、社会性に極めて特化している存在というべきか。
スマホでポケッターを確認すれば、ワドルディの動画が出回っている。
数週間前から、ぽつぽつと注目されていたようだ。
だが、数日前にマグノリアたちの学会発表したことに関心が集まり、今やワドルディ関連の動画が無数に投稿され、伸び、トレンドを埋め尽くしている。
動画には、様々なワドルディの姿が映しだされた。
たとえば、シュートシティでは、華麗なハンドルさばきで車を乗りこなしているワドルディ。
この個体は、自営業のタクシードライバーとして、客を乗せて道路を走っている。
シュートシティ一番のタクシードライバーとして、業界を震撼させているという。
あるいは、スーツ姿のワドルディが、緊張した面持ちで椅子に座っている。
どうやらこの個体は、筆記試験を突破し、会社の二次面接に来ているらしい。
サラリーマン志望なのだろう。
またはどこかのポケモンスクールで、眼鏡をかけて教鞭を振るう、ワドルディ。
席に座っている少年少女は、新任した愛くるしい教師に、すっかり心奪われている。
どうやら、現在、ガラル各地でワドルディが出没し、それぞれのタウンやシティで人間に混じって生活しているようだ。
『見てください! これは! ワドルディたちが作り上げた集落のようです!』
これは、あるインフルエンサーの動画だ。
そのインフルエンサーがいる場所は、ララテルタウンの近郊の森である。
森の中に、無数の建造物が建っている。
いくつもの家。
食事処や、マーケットすらもあるらしい。
さらには巨大な円形の、コロシアムのような建物。
そして……映画館。
まるでそれは、小さな町のようである。
『あっ! 住人であるワドルディです! こちらに近づいてきます!』
『わにゃっ』
『えっ、どうやら案内してくれるみたいです!』
その後、インフルエンサーはワドルディたちに歓待されて、町の中に入っていく。
町の中を散策したあと、食事を取り、映画館でシアターを鑑賞していく。
……ちなみに上映内容は、撮影禁止なので、内容は確認できない。
インフルエンサーの驚きに満ちた表情は、しだいに笑顔へ変わっていく。
『素晴らしい町です! みなさんもワドルディたちの町に遊びに来てください!』
『わにゃわにゃっ!!』
最後にインフルエンサーはそう締めくくって、動画を終えた。
スマホロトムをポケットにしまったユウリは、思わずつぶやいた。
「なんだか、世の中へんなことになってきたなぁ……」
これが、都会というものか。
めまぐるしいほどの情報量だ。
田舎者の自分には、理解が追い付かない。やはり自分はどこまでいっても都会に憧れるだけの田舎人なのだ。
ユウリは、しょんぼりと肩を落とした。
いや、これは田舎も都会も関係ない。
そう突っ込みを入れる者は、この場にはおらず。
「ぷい?」
と、ユウリの足元でコロコロ転がるカービィしかいなかった。
ユウリの手持ちポケモン
ラビフット Lv29
アオガラス Lv28
ギャラドス Lv26
カモネギ(ガラルのすがた) Lv27
カービィ Lv70