もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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2-5.エンジンシティ(前編)

バウタウンジムを攻略したユウリたちは、次の街へ向かう。

向かう先は、開会式の開催場所だったエンジンシティである。

元来た道ではなく、南東からガラル第二鉱山を経由していき、ぐるりとガラルの南部を半周するようなかたちとなる。

 

この頃、ユウリは不満が溜まっていた。

いつもジムリーダーとのバトルがあっさり決着がついてしまうから?

それは違う。

はたまた長旅でホームシックになってしまったから?

それも違う。

 

「あの、すみません! ポケモン勝負しましょう!」

 

鉱山内で、採掘員のトレーナーと目が合ったので、ユウリはそう言い放った。

たとえポケモントレーナーは勤務中であっても、トレーナーである限り、勤務時間中の勝負は許可されるのだ。

しかし採掘員だった男は、冷や汗をかきながら、「いや、遠慮しておくよ」と断ったのだ。

 

それからユウリは、目が合ったトレーナーに近づき、勝負を申し込む。

だが全員がユウリと、すぐそばを歩くカービィの目にして、申し訳なさそうに断る。

 

鉱山内を歩きながら、ユウリは文句をこぼした。

 

「むー、なんで勝負してくれないの……」

「ぽよ」

「やっぱり、カービィが原因かな……?」

 

人の噂も七十五日。

時間が経てば、世間はカービィのことなどすっかり興味をなくし、ユウリはただの新人トレーナーとして心おきなくジムチャレンジを楽しめるはずだ。

そんなユウリの予測はただの願望にすぎなかった。

先日のバウタウンジムの試合から、カービィの知名度はさらに火が付いた。

逆に言うならば、カービィの異常な強さも広く知られているわけだ。

 

戦えば、まともな勝負にすらならない。

普通のトレーナーならそう思い、おいそれと、カービィを従えているユウリと勝負するわけがないのだ。

 

「ぱや……」

「あ、ごめんね。気にしなくていいよ……。大丈夫、なんとかなるから」

 

ユウリは考えた。

野生のポケモンと戦って、経験値を稼ごうか。

いや、それでは物足りない。やはりポケモントレーナー同士の試合がやりたい。

 

それからユウリは「カービィ以外の手持ちポケモンしか使わないので、ポケモンバトルをして!」とお願いすることで、どうにか相手トレーナーとの試合に持ち込めた。

そのおかげか、ついに手持ちのコイキングがギャラドスへ進化したのだった。

 

 

 

 

エンジンシティに到着したユウリは、奇妙な光景を目撃した。

まず、街の入り口付近で、長蛇の列ができている。

列の先には、こじんまりとしたアイスクリームの屋台があった。

 

「すごく人気みたい。一個だけ並んで買ってみる?」

「ぽよ!」

 

イッシュ地方にも、あまりにも長蛇の列ができることから、火曜日のみ一日一個だけしか購入できないという、超人気のアイスクリーム屋があるという。

よほど美味しいのだろうか、それとも何かほかの要因があるのだろうか。

「いかにも都会っぽい」と田舎者のユウリは、このシチュエーションにどこかワクワクしていた。

 

最前列まで進んだ時に、ソイツらはいた。

 

「わにゃわにゃ」

 

コック帽を被ったワドルディたちが、店員として、あくせくしながら働いている。

 

「わにゃ!」

 

どうやら彼らが、この店の人気の秘訣らしい。

ポケモンだけで運営されているアイス屋。

その物珍しさに、エンジンシティの人々が集まっているのだろう。

 

「写真撮ってー! 可愛い!!」

「わにゃ」

 

もちろん……それだけが理由ではないだろう。

可愛らしいワドルディたちが、一生懸命に働いている。その姿はどこか癒されるものがあった。

 

カウンターにいたワドルディが、メニュー表を差し出す。

メニューは4種類。それぞれ4種類のアイスが絵でスケッチされている。

 

1種類目は、カービィの顔をかたどったストロベリー味のアイス。

2種類目は、ワドルディの顔そっくりの、オレンジ味のアイス。

3種類目は、帽子をかぶりバリヤードにそっくりな顔の、ソーダ味のアイス。

最後の4種類目は、仮面をかぶった鋭い目つきの顔の、グレープ味のアイスだ。

 

それぞれ、単品で200えん。

手ごろな価格だ。

 

ユウリは、ぼんやりと考え込んだ。3種類目と4種類目のアイスのことでだ。

 

(ひょっとして、この二つは、カービィやワドルディと関係があるポケモンを模したものなのかな?)

 

特に根拠はないが、なんとなくそう思った。

 

それからユウリは無難にカービィのアイスを注文する。

カービィはというと「かーびぃ! わどるでぃ! ででで! めたないと!」と、4種類すべてのアイスを指さして、叫んだ。

 

どうやら、全部食べたいらしい。

あふれんばかりの食欲で、カービィは目をきらきらさせている。

ユウリは微笑ましくなって、財布から1000えんを出して、自分とカービィの分のアイスを買った。

 

店員のワドルディたちが、コーンに乗ったアイスを手渡してくれる。

その直後、カービィは涎を垂らしながら、口を開けて、アイス4つをぱくりと飲みこむ。

 

「……もっとゆっくり食べて味わいなよ。急いで食べたら、もったいないよ?」

「ぷい!」

 

これまでの道中で、ユウリは何度もこのことで注意をしている。

いつもユウリが作ったカレー料理を、カービィは吸いこんで食べようとする。

そのたびに「ゆっくり食べてね」と促さなければならない。

もちろんそうすれば、カービィは指示に従い、落ち着いて食事してくれるのだ。

 

「ん、誰だろう?」

 

ぷるるる、とスマホロトムが鳴る。

ソニアからの着信だった。

ユウリは、アイスにかぶりつきながら、電話に出た。

 

『ああ! ユウリ! 今どこにいるの!?』

 

ソニアの興奮しきったような声が、電話越しに聞こえた。

 

「どうしたんですか? ソニアさん。わざわざ電話をかけてくるなんて」

『ちょっと今すぐ見てほしいものがあるの。スマホロトムで調べてくれる? そうね……<ワドルディ>って検索してみればいいわ』

 

そう言ってから、ソニアの電話は途切れた。

何か切羽詰まっている様子だった。

 

一体なんだというのだ。

 

ユウリは、ソニアが言ったとおりに、スマホロトムでワドルディを調べてみた。

スマホをスクロールしたり、タップしたりして、情報の羅列を眺める。

出てくるのは、ワドルディについて。

 

どうやら数日前に、マグノリア博士とソニアがまたしても、学会で新種ポケモンを発表した。

それが『よちよち歩きポケモン ワドルディ』である。

その分類名の由来は、古代イッシュ語において『waddle』とは『よちよち歩き』という意味であり、そこから取られているらしい。

リラックスしているとき、彼らはゆったりと歩く。その生態にふさわしい名だろう。

 

「へえ、<ノーマルタイプ>で……進化先は不明……ね。人間に匹敵するほどの社会性を持ち、その点においては他のポケモンを凌駕する……か」

 

彼らは先ほどのように自分たちでアイスクリーム屋を経営していた。

それは単に物を売るだけではなく、商品を仕入れたり、利益を上げたり……それは経営という高度な社会的行為。

たとえば工事現場で働くローブシンや、タクシーとして飛ぶアーマガアはそこらじゅうにいる。

しかしそれはあくまで、人間の指示あってのものである。

 

「カービィといい、なんというか今までにないポケモン……」

 

ワドルディは、カービィのような異常な強さは持っていないらしい。

ポケモンバトルでは特に目立った何かはないが、そのぶん、社会性に極めて特化している存在というべきか。

 

スマホでポケッターを確認すれば、ワドルディの動画が出回っている。

数週間前から、ぽつぽつと注目されていたようだ。

だが、数日前にマグノリアたちの学会発表したことに関心が集まり、今やワドルディ関連の動画が無数に投稿され、伸び、トレンドを埋め尽くしている。

 

動画には、様々なワドルディの姿が映しだされた。

 

たとえば、シュートシティでは、華麗なハンドルさばきで車を乗りこなしているワドルディ。

この個体は、自営業のタクシードライバーとして、客を乗せて道路を走っている。

シュートシティ一番のタクシードライバーとして、業界を震撼させているという。

 

あるいは、スーツ姿のワドルディが、緊張した面持ちで椅子に座っている。

どうやらこの個体は、筆記試験を突破し、会社の二次面接に来ているらしい。

サラリーマン志望なのだろう。

 

またはどこかのポケモンスクールで、眼鏡をかけて教鞭を振るう、ワドルディ。

席に座っている少年少女は、新任した愛くるしい教師に、すっかり心奪われている。

 

どうやら、現在、ガラル各地でワドルディが出没し、それぞれのタウンやシティで人間に混じって生活しているようだ。

 

 

『見てください! これは! ワドルディたちが作り上げた集落のようです!』

 

これは、あるインフルエンサーの動画だ。

そのインフルエンサーがいる場所は、ララテルタウンの近郊の森である。

森の中に、無数の建造物が建っている。

いくつもの家。

食事処や、マーケットすらもあるらしい。

さらには巨大な円形の、コロシアムのような建物。

そして……映画館。

 

まるでそれは、小さな町のようである。

 

『あっ! 住人であるワドルディです! こちらに近づいてきます!』

『わにゃっ』

『えっ、どうやら案内してくれるみたいです!』

 

その後、インフルエンサーはワドルディたちに歓待されて、町の中に入っていく。

町の中を散策したあと、食事を取り、映画館でシアターを鑑賞していく。

……ちなみに上映内容は、撮影禁止なので、内容は確認できない。

 

インフルエンサーの驚きに満ちた表情は、しだいに笑顔へ変わっていく。

 

『素晴らしい町です! みなさんもワドルディたちの町に遊びに来てください!』

『わにゃわにゃっ!!』

 

最後にインフルエンサーはそう締めくくって、動画を終えた。

 

スマホロトムをポケットにしまったユウリは、思わずつぶやいた。

 

「なんだか、世の中へんなことになってきたなぁ……」

 

これが、都会というものか。

めまぐるしいほどの情報量だ。

田舎者の自分には、理解が追い付かない。やはり自分はどこまでいっても都会に憧れるだけの田舎人なのだ。

ユウリは、しょんぼりと肩を落とした。

 

いや、これは田舎も都会も関係ない。

 

そう突っ込みを入れる者は、この場にはおらず。

 

「ぷい?」

 

と、ユウリの足元でコロコロ転がるカービィしかいなかった。

 

 




ユウリの手持ちポケモン

ラビフット Lv29
アオガラス Lv28
ギャラドス Lv26
カモネギ(ガラルのすがた) Lv27
カービィ Lv70
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