もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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2-6.エンジンシティ(後編)

「ほのおのジムミッションは、ポケモン捕獲で多くのポイントを稼ぐ!!」

 

エンジンシティのジムミッションは、単純明快なものだった。

何か特殊なギミックを攻略しなければならないわけでもないし、ウールーの群れを地面に転がすこともない。

狭い円形のフィールドの外側は、草むらが生い茂っている。

草むらのそこかしこで、揺れる音が聞こえる。

ぴょこり、と顔を出したのは、ガーディだ。そしてヒトモシや、ロコンが草むらの中でじゃれあっている。

 

どうやら、草むらに潜んでいるポケモンたちは、すべて炎タイプであるらしい。

 

一匹一匹、戦って、捕まえるのか?

いや、めんどくさい。

草むらでポケモンを探そうとすれば、周囲のジムトレーナーと目が合い、ポケモンバトルになるだろう。

ユウリは、早くジムリーダーと戦いたいのだ。

 

「カービィ、早くジム戦を終わらせて、カレーを食べたい?」

「ぽよ?」

「今日はカービィが一番好きな、大盛トマトブラックカレーだからね。しかも10杯分まで用意してあげるから」

「うわぁい!!」

「さっさとクリアしちゃおう」

「はーい」

 

それからカービィは、意気揚々と口を開き、吸い込みを開始した。

吸い込みによるバキュームで、草むらの中にいるポケモンたちが次々と引き寄せられていく。

1匹、2匹、3匹、4匹……ポケモンたちが、カービィの口に吸い込まれていった。

 

ほおばった状態のカービィは、地面に向かって、ぺっ、とポケモンたちを吐き出す。

ポケモンたちは地面にたたきつけられて、戦闘不能となるのだった。

 

「ナイス、カービィ」

 

ユウリは、カービィを賞賛しながら、モンスターボールを倒れたポケモンたちにそれぞれ投げつける。

こうして4体のポケモンを捕獲した。

このジムミッションで必要なポケモンの捕獲数は4。あっさりとクリアだ。

 

ユウリは開始わずか10秒という、エンジンジム史上最速の記録を叩きだしたのであった。

 

鼻歌を歌いながら歩くユウリと、夕飯のトマトカレーを想像しながら涎を垂らしているカービィ。二人はまるで散歩のように、スタジアムの奥へと進んでいく。

 

「……め、めちゃくちゃだ」

 

その場に取り残された審査員と、ジムトレーナーたちは、暴力的なまでの、ピンクの悪魔とそのトレーナーの攻略に呆然とするしかなかった。

 

 

 

 

ユウリは長い通路を進み、スタジアムのグラウンドにたどり着いた。

ざくり、とコート内の、赤茶色の土の感触が、自分のシューズに伝わってくる。

次に、スタジアムを包みこまんばかりの歓声が聞こえてくる。

 

ユウリにとって、この瞬間はたまらなく好きだ。

なにせ、これからおこなわれる試合こそ、自分が求めているものだから。

 

隣をぽよぽよと歩くカービィを見つめる。

その視線に気が付いたカービィは、こちらを振り向いて、軽く手をあげた。

 

「今日も頑張ろうね」

「うい」

 

スタジアムの中心には、一人の男が待ち構えていた。

赤色のユニフォームを着用した中年の男こそ、エンジンシティのジムリーダーだ。

 

「くさタイプのヤローと、みずタイプのルリナをよくぞ退けた。君は素晴らしい選手なのだろう。そして君の隣にいるポケモンも……」

 

ジムリーダーのカブはそう言えば、ユウリはこう返した。

 

「勝負をしましょう」

「情熱を感じる……僕にはない若さだ」

 

ユウリの中で、ざわり、と興奮がよぎった。

試合が始まる。

ポケモン勝負は、ユウリに色んなものを与えてくれる。

喜び、達成感、焦り、緊張、満足感。

 

――そう、これだ。自分はこの瞬間を求めて、ジムチャレンジに参加したのだ。

 

「その若さが、僕に何を見せてくれるかな?」

「私とカービィの、勝利です」

 

ポケモン勝負が始まった。

 

カブはモンスターボールを投げる。

繰り出されたポケモンは、キュウコンだった。

カービィは、スタジアムのコートに躍り出る。

 

「君はそのポケモンに道具を飲み込ませるのだろう。今回はどんな姿を見せてくれるのかな」

 

カブは静かな瞳で、カービィを捉えていた。

 

「カービィ、道具を飲みこんで」

 

カービィが手に持っていたのは、<ばんのうがさ>だった。

毎度おなじみのように、カービィは<ばんのうがさ>を口に含んだ後、コートの外へ吐き出す。

 

「傘……いったいどんな姿なのかな?」

「それは見ればわかりますよ」

 

カービィの姿が変化する。鮮やかなパラソルを手にしたその姿。

パラソルカービィだ。

くるくると傘を回しているカービィは、とても戦闘中とは思えないほど呑気だ。

 

「キュウコン、<おにび>だ」

 

キュウコンの口から、紫色の炎が放たれた。相手をやけど状態にするほのお技だ。

 

「カービィ、防いで」

 

ばさり、とカービィは傘を展開する。それはキュウコンの<おにび>をあっさりと防いだ。

 

「なるほどそれは、<まもる>のような技なのか」

「いいえ、ただ傘を開いただけです」

「え?」

「カービィ、距離をつめてから<パラソルドリル>」

 

カービィは疾走しながら、傘を前方に構える。

 

「キュウコン! <でんこうせっか>で先手を打つんだ!」

「カービィ、そのまま突っ込んで」

 

キュウコンはすばしっこく、ジグザグに動きながらカービィへ迫る。

それに対して、カービィは傘を激しく回転させながら、突きを放つ。

それは正確に、動き回るキュウコンの胴体にヒットさせた。

キュウコンは吹き飛ばされて、一撃で戦闘不能となった。

 

(まずは……1匹目)

 

勝利したカービィの雄姿。敵を圧倒する様。

沸き上がる観客たちの歓声。

そのなにもかもに、ユウリは静かに興奮する。

自分は今、ポケモンバトルをしている。この瞬間が楽しい。

 

「強い! おそらくそれはノーマルタイプのわざだ。等倍でも一撃で当たれば、耐えられないのか……」

 

カブはひどく動揺しているようだった。

これまでのジムリーダー戦では相手に対してはこうかばつぐんの技ばかり放っていた。

それが今回は、パラソルカービィ……おそらくニードルのようにノーマルタイプに分類される姿である。

 

(相手のタイプに関係なくても、どれだけカービィが通用するのか……?)

 

別に、ジムリーダーをみくびっているわけじゃない。

そしてカービィの力を過少評価しているわけでもない。

中盤の壁と呼ばれるジムリーダーカブのポケモンに対して、タイプ相性を抜きにしたカービィの地力を試したかったのだ。

 

(最近は、誰もカービィと戦ってくれないし……しょうがないよね)

 

トレーナーとの勝負で実証したかったが、相手に断られるばかりで機会がないのだ。仕方がない。

 

カブはキュウコンをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。

 

「ウインディ、まずは<こうそくいどう>だ」

「カービィ、近づいて攻撃」

 

ウインディの動きが、加速していく。すばやさをぐーんと上げているようだ。

その間に、カービィは肉薄し、傘を振りかぶる。

 

「ウインディ、回り込んで、<かえんぐるま>!」

 

ウインディは大地を蹴り上げ、跳躍。

カービィの一撃をかわした。

そのまま地面に降り立ったウインディは、カービィの側面に回り込んで、技を放とうとして――――

 

カービィが持つ、パラソルにほんのわずかにかすった。

 

その時、異常な現象が起きた。

突然、ウインディの体が空中に跳ね上げられたのだ。

カービィの傘に触れた瞬間、何かの力が働いて、吹き飛ばされたように見えた。

 

「な!」

「どういう仕組みなのかわからないけれど、傘にぶつかったポケモンは、ダメージを受けて吹き飛ばされるんです」

 

ユウリが推測するに、あれがパラソルカービィのとくせいなのだろう。

絶対にあの傘に触れないように気を付けよう。自分も吹き飛ばされるだろうし。

ユウリはそう思った。

 

「ウインディ、受け身を取って着地しろ」

「カービィ、<だいどうげいなげ>」

 

弾き飛ばされたウインディが地面へ落下する。

その地点に、カービィが傘を真上にかかげて待ち構えていた。

 

ウインディの巨体が、カービィの傘の上に乗っかる。

カービィはそのまま傘をくるくると回す。

するとウインディは傘の上で転がり、その様はまるで出来のいい大道芸のようだった。

カービィは、傘の上で転がしたウインディを、投げつける。

 

コートにたたきつけられたウインディは、起き上がることはなく、戦闘不能となった。

 

観客席の熱狂はさらに加速していく。

カブは、コート外の埋め尽くさんばかりの声援に目を見張っていた。

 

「なんて強いポケモンだ……それ以上に面白い。観客たちが虜になるのも当然だね」

 

カブは、最後の手持ちである、マルヤクデを繰り出した。

マルヤクデをボールに戻し、カブは真上へ投擲する。

肥大化したボールから現れたのは、キョダイマックスしたマルヤクデだ。

 

「さあ、マルヤクデ、燃え盛れ! カブよ、頭を燃やせ、体を動かせ、勝ち筋を探すんだ!」

 

手持ち2体が瞬殺されたというのに、このカブというジムリーダーはまったく心が折れていないようだ。

むしろ、激しい闘志を燃やしている。

 

(やっぱり、これだ。こういうのがわたしは欲しいんだ)

 

思えば、ポケモンバトルをする前まで、こんな激情に飲まれることはなかった。

だから毎日がつまらなかった。

その退屈な日常をまぎらわすために、趣味のカレー作りに没頭していたのだ。

 

(もう、戻りたくない。ポケモンバトルを知らない過去の自分に)

 

ポケモンバトルをやめれば、あの退屈な毎日にもどってしまう。

だから自分は、今この瞬間を何度も求めるのかもしれない。

 

「マルヤクデ! <ダイワーム>だ!」

 

カブが指示したのは、むしタイプのダイマックス技。

マルヤクデの体内から、緑のエネルギーが放出される。それが無数の蝶々の形を形成し、カービィに向けて殺到する。

 

(たしかに、これは避けられないね)

 

ユウリは冷静に判断する。

ワープスターで攻撃を回避するべきか? 

いや、カービィがワープスターを呼び出して、乗り込むまでタイムラグがある。

それまでにワープスターの回避が間に合わず、被弾する可能性が高い。

 

ならば、とユウリは指示を出す。

 

「カービィ、ガードして」

 

傘に身を寄せて、カービィはガードの姿勢を取る。

<ダイワーム>がカービィに直撃し、コートに爆風と砂煙が巻き上がる。

視界が晴れたそこには、がっちりとガードの姿勢を保持したカービィがいた。

 

(これぐらいだったら、耐えられるよね)

 

カービィが持つあの傘は、盾のような守備力があるらしい。

なによりダンデのリザードンの一撃を喰らっても、カービィは平然と受けきれたのだ。

マルヤクデのダイマックス技を2、3発被弾したとしても、体力を半分すらも削られないだろう。

 

「カービィ、終わらせよう、ワープスター」

「うい」

 

ワープスターを呼んだカービィは、乗り込み、空へ飛翔する。

マルヤクデは、ワープスターに搭乗したカービィめがけて、もう一度<ダイワーム>を繰り出した。

 

「カービィ、全部避けて」

 

一見無茶な指示のようだが、カービィにとっては朝飯前のことなのだろう。

すいすいとワープスターは、蝶々形のエネルギー弾を避けていく。

だが、それを予期したかのように、ワープスターの正面で、蝶々型のエネルギー弾が爆ぜた。

 

(うわ、まずい、当たっちゃう!)

 

緑の爆炎が巻き起こり、ワープスターを飲みこもうとしたところで。

 

カービィは、ワープスターからジャンプした。

そのまま空中で傘を開いた。

すると爆風で、傘を開いたカービィは飛び上がり、空中をふわふわと漂う。

そのままマルヤクデに接近していく。

 

「さすが、カービィ、少しでも心配した私がバカだった……上から攻撃して」

 

カービィは、傘を下に向けて、くるくると高速で回転させる。

どういう原理かわからないが、傘の周辺に小さな星型のようなものが回っている。

そうして<パラソルダイブ>をマルヤクデの頭頂部にヒットさせた。

 

「もう一度、次でとどめだね」

 

カービィの攻撃で、マルヤクデは大きくひるんでいる。

もう一撃叩き込めば、倒せるだろう。

 

カービィは傘を閉じて、そのまま閉じた傘をくるくる回す。

そして勢いよく前に腕を伸ばし、マルヤクデの胸に打突する。

マルヤクデは、悲鳴を上げながら、元の姿に戻って、戦闘不能で倒れた。

 

ユウリは、カブに勝利した。

 

能力を解除して、ノーマル状態に戻ったカービィは、コートの中央へ、ぽてぽてと歩く。

おおっ、と観客席でさわめき声が響いた。

そして、毎回恒例のカービィダンスを披露する。

そうすれば、観客席は拍手やら歓声やら、とにかく異様な盛況ぶりだ。

 

(……自分でいうのもなんだけど、ちょっと強すぎない?)

 

毎回、カービィが戦うたびに、ユウリはそう思わされる。

化け物染みた強さだ。そして自分はそんな存在を手にしてしまったのだ。

だが、別に責任感やプレッシャーを感じているわけでもない。

 

(がんばって、カービィにふさわしいようなポケモントレーナーになるね)

 

そう、前向きに頑張ろうと思うだけだ。

 

カブはユウリの元に歩み寄り、こうたずねた。

 

「君は、ポケモン勝負に何を求める?」

「特に何かを求めているわけじゃないです」

 

ユウリにとって、答えはひとつだ。

 

「ただ、楽しいからポケモン勝負をしています」

 

カブはあっけにとられたような表情をする。

 

「君は……」

 

それから何かを言いかけたカブだったが、すぐに口を閉ざして、再度こう告げた。

 

「いや……なんでもない。願わくば、君のそのポケモン勝負への楽しさが失われないことを祈るよ。1人のポケモントレーナーとしてね」

 

ユウリは、その言葉の意味がわからなくて、首をかしげるしかなかった。

 

その後、カブからエンジンシティのジムバッジを受け取った。

 

 

 

 

「あ、ホップだ。おーい、久しぶり!」

 

エンジンシティのスタジアムを出たところで、ユウリはホップを見かけた。

歩く後ろ姿に向かって、声をかけて、近寄った。

 

「調子はどう? もしかして3つ目のバッジも手に入れちゃっている? いやー、流石ダンデさんの弟だよ」

 

最後に言葉を交わしたのは、2か月ほど前だろうか。

だというのに、まるで何年ぶりかのように感じてしまう。

それぐらい、この2か月間はユウリにとって、刺激的な毎日だったのだ。

 

ユウリに気が付いて、ホップは振り返った。

 

「聞いてよ、ホップ、カービィがさ……」

 

色々あった。特にカービィに関しては1日では到底足りない。

どこかのカフェにでも寄って、二人でこれまでの冒険について花を咲かせるのもいい。

 

「まだだよ、ユウリ」

 

ホップはわずかにたじろいだような顔をしたあと、笑顔を作った。

どこかよそよそしさを感じる。

 

「……ホップ、体調でも悪いの?」

 

ユウリがそう尋ねると、ホップは少し俯いてから、顔をあげる。

ホップは、ユウリの隣にいたカービィを見つめる。

 

「いや、ただ、すげえと思ってな」

「うん?」

「今、あちこちでカービィのこととか、ユウリのこととか、聞くんだ」

「……」

「すごいポケモンが現れたぞ。そのポケモンを従えるすごい新人が現れたぞってな……」

 

ユウリは、なぜか言葉に詰まった。

どうしてだろう?

もっとこう、前のホップなら、無邪気な態度だったはずだ。

 

「思ったんだよ。オレ、がんばらなきゃって。アニキを超える最強になるには、今のままじゃダメなんだって」

 

近くにいるはずなのに、どうして遠くにいるように見えるのだろう。

自分とホップは幼馴染で、ライバルのはずで、今もすぐそこにいるのだから。

そう感じるのは、おかしいはずなのだ。

 

「ホップ……頑張ってね。わたし、ホップのこと応援しているから……」

 

――がんばって、チャンピオンになって! 

そう声援を送ろうとしかけたところで、喉にひっかかる。

その言葉は、今ここで言ってはならない。なぜかそう思った。

 

「ユウリは、すげえやつだよ」

「そんな、わたしは……」

「だって、アニキに勝っちまったんだから。あの常勝無敗のリザードンに、あっさりと」

 

ホップは、ユウリに背を向ける。それからどこか元気のない声で告げた。

 

「オレ、カブさんに負けちまった」

「あ……ごめん」

「気にすんなって! ユウリはユウリの道を進めばいいんだ! 今に見てろ、鍛えなおしてくるぜ!」

 

そう快活に笑って、ホップは走り去っていった。

ユウリはそのうしろ姿に、なぜか喪失感のようなものを覚えた。

 

……どうしてだろう? 友人で幼馴染のはずの、あの少年と距離が遠ざかっていくように思えるのは。

 

その時、ぴょこん、とカービィはユウリの背中に飛びうつる。

 

「うい」

「ん? なに……もしかして、トマトカレー?」

「はぁい」

 

そういえば、ジムミッションの時、大盛トマトブラックカレーを10杯分を作ると宣言していた。

 

「あはは、ありがとう、元気が出た。うん、もう大丈夫だよ」

 

カービィはどこか心配そうな目つきで、ユウリを見ていた。

 

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