もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
「ほのおのジムミッションは、ポケモン捕獲で多くのポイントを稼ぐ!!」
エンジンシティのジムミッションは、単純明快なものだった。
何か特殊なギミックを攻略しなければならないわけでもないし、ウールーの群れを地面に転がすこともない。
狭い円形のフィールドの外側は、草むらが生い茂っている。
草むらのそこかしこで、揺れる音が聞こえる。
ぴょこり、と顔を出したのは、ガーディだ。そしてヒトモシや、ロコンが草むらの中でじゃれあっている。
どうやら、草むらに潜んでいるポケモンたちは、すべて炎タイプであるらしい。
一匹一匹、戦って、捕まえるのか?
いや、めんどくさい。
草むらでポケモンを探そうとすれば、周囲のジムトレーナーと目が合い、ポケモンバトルになるだろう。
ユウリは、早くジムリーダーと戦いたいのだ。
「カービィ、早くジム戦を終わらせて、カレーを食べたい?」
「ぽよ?」
「今日はカービィが一番好きな、大盛トマトブラックカレーだからね。しかも10杯分まで用意してあげるから」
「うわぁい!!」
「さっさとクリアしちゃおう」
「はーい」
それからカービィは、意気揚々と口を開き、吸い込みを開始した。
吸い込みによるバキュームで、草むらの中にいるポケモンたちが次々と引き寄せられていく。
1匹、2匹、3匹、4匹……ポケモンたちが、カービィの口に吸い込まれていった。
ほおばった状態のカービィは、地面に向かって、ぺっ、とポケモンたちを吐き出す。
ポケモンたちは地面にたたきつけられて、戦闘不能となるのだった。
「ナイス、カービィ」
ユウリは、カービィを賞賛しながら、モンスターボールを倒れたポケモンたちにそれぞれ投げつける。
こうして4体のポケモンを捕獲した。
このジムミッションで必要なポケモンの捕獲数は4。あっさりとクリアだ。
ユウリは開始わずか10秒という、エンジンジム史上最速の記録を叩きだしたのであった。
鼻歌を歌いながら歩くユウリと、夕飯のトマトカレーを想像しながら涎を垂らしているカービィ。二人はまるで散歩のように、スタジアムの奥へと進んでいく。
「……め、めちゃくちゃだ」
その場に取り残された審査員と、ジムトレーナーたちは、暴力的なまでの、ピンクの悪魔とそのトレーナーの攻略に呆然とするしかなかった。
★
ユウリは長い通路を進み、スタジアムのグラウンドにたどり着いた。
ざくり、とコート内の、赤茶色の土の感触が、自分のシューズに伝わってくる。
次に、スタジアムを包みこまんばかりの歓声が聞こえてくる。
ユウリにとって、この瞬間はたまらなく好きだ。
なにせ、これからおこなわれる試合こそ、自分が求めているものだから。
隣をぽよぽよと歩くカービィを見つめる。
その視線に気が付いたカービィは、こちらを振り向いて、軽く手をあげた。
「今日も頑張ろうね」
「うい」
スタジアムの中心には、一人の男が待ち構えていた。
赤色のユニフォームを着用した中年の男こそ、エンジンシティのジムリーダーだ。
「くさタイプのヤローと、みずタイプのルリナをよくぞ退けた。君は素晴らしい選手なのだろう。そして君の隣にいるポケモンも……」
ジムリーダーのカブはそう言えば、ユウリはこう返した。
「勝負をしましょう」
「情熱を感じる……僕にはない若さだ」
ユウリの中で、ざわり、と興奮がよぎった。
試合が始まる。
ポケモン勝負は、ユウリに色んなものを与えてくれる。
喜び、達成感、焦り、緊張、満足感。
――そう、これだ。自分はこの瞬間を求めて、ジムチャレンジに参加したのだ。
「その若さが、僕に何を見せてくれるかな?」
「私とカービィの、勝利です」
ポケモン勝負が始まった。
カブはモンスターボールを投げる。
繰り出されたポケモンは、キュウコンだった。
カービィは、スタジアムのコートに躍り出る。
「君はそのポケモンに道具を飲み込ませるのだろう。今回はどんな姿を見せてくれるのかな」
カブは静かな瞳で、カービィを捉えていた。
「カービィ、道具を飲みこんで」
カービィが手に持っていたのは、<ばんのうがさ>だった。
毎度おなじみのように、カービィは<ばんのうがさ>を口に含んだ後、コートの外へ吐き出す。
「傘……いったいどんな姿なのかな?」
「それは見ればわかりますよ」
カービィの姿が変化する。鮮やかなパラソルを手にしたその姿。
パラソルカービィだ。
くるくると傘を回しているカービィは、とても戦闘中とは思えないほど呑気だ。
「キュウコン、<おにび>だ」
キュウコンの口から、紫色の炎が放たれた。相手をやけど状態にするほのお技だ。
「カービィ、防いで」
ばさり、とカービィは傘を展開する。それはキュウコンの<おにび>をあっさりと防いだ。
「なるほどそれは、<まもる>のような技なのか」
「いいえ、ただ傘を開いただけです」
「え?」
「カービィ、距離をつめてから<パラソルドリル>」
カービィは疾走しながら、傘を前方に構える。
「キュウコン! <でんこうせっか>で先手を打つんだ!」
「カービィ、そのまま突っ込んで」
キュウコンはすばしっこく、ジグザグに動きながらカービィへ迫る。
それに対して、カービィは傘を激しく回転させながら、突きを放つ。
それは正確に、動き回るキュウコンの胴体にヒットさせた。
キュウコンは吹き飛ばされて、一撃で戦闘不能となった。
(まずは……1匹目)
勝利したカービィの雄姿。敵を圧倒する様。
沸き上がる観客たちの歓声。
そのなにもかもに、ユウリは静かに興奮する。
自分は今、ポケモンバトルをしている。この瞬間が楽しい。
「強い! おそらくそれはノーマルタイプのわざだ。等倍でも一撃で当たれば、耐えられないのか……」
カブはひどく動揺しているようだった。
これまでのジムリーダー戦では相手に対してはこうかばつぐんの技ばかり放っていた。
それが今回は、パラソルカービィ……おそらくニードルのようにノーマルタイプに分類される姿である。
(相手のタイプに関係なくても、どれだけカービィが通用するのか……?)
別に、ジムリーダーをみくびっているわけじゃない。
そしてカービィの力を過少評価しているわけでもない。
中盤の壁と呼ばれるジムリーダーカブのポケモンに対して、タイプ相性を抜きにしたカービィの地力を試したかったのだ。
(最近は、誰もカービィと戦ってくれないし……しょうがないよね)
トレーナーとの勝負で実証したかったが、相手に断られるばかりで機会がないのだ。仕方がない。
カブはキュウコンをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。
「ウインディ、まずは<こうそくいどう>だ」
「カービィ、近づいて攻撃」
ウインディの動きが、加速していく。すばやさをぐーんと上げているようだ。
その間に、カービィは肉薄し、傘を振りかぶる。
「ウインディ、回り込んで、<かえんぐるま>!」
ウインディは大地を蹴り上げ、跳躍。
カービィの一撃をかわした。
そのまま地面に降り立ったウインディは、カービィの側面に回り込んで、技を放とうとして――――
カービィが持つ、パラソルにほんのわずかにかすった。
その時、異常な現象が起きた。
突然、ウインディの体が空中に跳ね上げられたのだ。
カービィの傘に触れた瞬間、何かの力が働いて、吹き飛ばされたように見えた。
「な!」
「どういう仕組みなのかわからないけれど、傘にぶつかったポケモンは、ダメージを受けて吹き飛ばされるんです」
ユウリが推測するに、あれがパラソルカービィのとくせいなのだろう。
絶対にあの傘に触れないように気を付けよう。自分も吹き飛ばされるだろうし。
ユウリはそう思った。
「ウインディ、受け身を取って着地しろ」
「カービィ、<だいどうげいなげ>」
弾き飛ばされたウインディが地面へ落下する。
その地点に、カービィが傘を真上にかかげて待ち構えていた。
ウインディの巨体が、カービィの傘の上に乗っかる。
カービィはそのまま傘をくるくると回す。
するとウインディは傘の上で転がり、その様はまるで出来のいい大道芸のようだった。
カービィは、傘の上で転がしたウインディを、投げつける。
コートにたたきつけられたウインディは、起き上がることはなく、戦闘不能となった。
観客席の熱狂はさらに加速していく。
カブは、コート外の埋め尽くさんばかりの声援に目を見張っていた。
「なんて強いポケモンだ……それ以上に面白い。観客たちが虜になるのも当然だね」
カブは、最後の手持ちである、マルヤクデを繰り出した。
マルヤクデをボールに戻し、カブは真上へ投擲する。
肥大化したボールから現れたのは、キョダイマックスしたマルヤクデだ。
「さあ、マルヤクデ、燃え盛れ! カブよ、頭を燃やせ、体を動かせ、勝ち筋を探すんだ!」
手持ち2体が瞬殺されたというのに、このカブというジムリーダーはまったく心が折れていないようだ。
むしろ、激しい闘志を燃やしている。
(やっぱり、これだ。こういうのがわたしは欲しいんだ)
思えば、ポケモンバトルをする前まで、こんな激情に飲まれることはなかった。
だから毎日がつまらなかった。
その退屈な日常をまぎらわすために、趣味のカレー作りに没頭していたのだ。
(もう、戻りたくない。ポケモンバトルを知らない過去の自分に)
ポケモンバトルをやめれば、あの退屈な毎日にもどってしまう。
だから自分は、今この瞬間を何度も求めるのかもしれない。
「マルヤクデ! <ダイワーム>だ!」
カブが指示したのは、むしタイプのダイマックス技。
マルヤクデの体内から、緑のエネルギーが放出される。それが無数の蝶々の形を形成し、カービィに向けて殺到する。
(たしかに、これは避けられないね)
ユウリは冷静に判断する。
ワープスターで攻撃を回避するべきか?
いや、カービィがワープスターを呼び出して、乗り込むまでタイムラグがある。
それまでにワープスターの回避が間に合わず、被弾する可能性が高い。
ならば、とユウリは指示を出す。
「カービィ、ガードして」
傘に身を寄せて、カービィはガードの姿勢を取る。
<ダイワーム>がカービィに直撃し、コートに爆風と砂煙が巻き上がる。
視界が晴れたそこには、がっちりとガードの姿勢を保持したカービィがいた。
(これぐらいだったら、耐えられるよね)
カービィが持つあの傘は、盾のような守備力があるらしい。
なによりダンデのリザードンの一撃を喰らっても、カービィは平然と受けきれたのだ。
マルヤクデのダイマックス技を2、3発被弾したとしても、体力を半分すらも削られないだろう。
「カービィ、終わらせよう、ワープスター」
「うい」
ワープスターを呼んだカービィは、乗り込み、空へ飛翔する。
マルヤクデは、ワープスターに搭乗したカービィめがけて、もう一度<ダイワーム>を繰り出した。
「カービィ、全部避けて」
一見無茶な指示のようだが、カービィにとっては朝飯前のことなのだろう。
すいすいとワープスターは、蝶々形のエネルギー弾を避けていく。
だが、それを予期したかのように、ワープスターの正面で、蝶々型のエネルギー弾が爆ぜた。
(うわ、まずい、当たっちゃう!)
緑の爆炎が巻き起こり、ワープスターを飲みこもうとしたところで。
カービィは、ワープスターからジャンプした。
そのまま空中で傘を開いた。
すると爆風で、傘を開いたカービィは飛び上がり、空中をふわふわと漂う。
そのままマルヤクデに接近していく。
「さすが、カービィ、少しでも心配した私がバカだった……上から攻撃して」
カービィは、傘を下に向けて、くるくると高速で回転させる。
どういう原理かわからないが、傘の周辺に小さな星型のようなものが回っている。
そうして<パラソルダイブ>をマルヤクデの頭頂部にヒットさせた。
「もう一度、次でとどめだね」
カービィの攻撃で、マルヤクデは大きくひるんでいる。
もう一撃叩き込めば、倒せるだろう。
カービィは傘を閉じて、そのまま閉じた傘をくるくる回す。
そして勢いよく前に腕を伸ばし、マルヤクデの胸に打突する。
マルヤクデは、悲鳴を上げながら、元の姿に戻って、戦闘不能で倒れた。
ユウリは、カブに勝利した。
能力を解除して、ノーマル状態に戻ったカービィは、コートの中央へ、ぽてぽてと歩く。
おおっ、と観客席でさわめき声が響いた。
そして、毎回恒例のカービィダンスを披露する。
そうすれば、観客席は拍手やら歓声やら、とにかく異様な盛況ぶりだ。
(……自分でいうのもなんだけど、ちょっと強すぎない?)
毎回、カービィが戦うたびに、ユウリはそう思わされる。
化け物染みた強さだ。そして自分はそんな存在を手にしてしまったのだ。
だが、別に責任感やプレッシャーを感じているわけでもない。
(がんばって、カービィにふさわしいようなポケモントレーナーになるね)
そう、前向きに頑張ろうと思うだけだ。
カブはユウリの元に歩み寄り、こうたずねた。
「君は、ポケモン勝負に何を求める?」
「特に何かを求めているわけじゃないです」
ユウリにとって、答えはひとつだ。
「ただ、楽しいからポケモン勝負をしています」
カブはあっけにとられたような表情をする。
「君は……」
それから何かを言いかけたカブだったが、すぐに口を閉ざして、再度こう告げた。
「いや……なんでもない。願わくば、君のそのポケモン勝負への楽しさが失われないことを祈るよ。1人のポケモントレーナーとしてね」
ユウリは、その言葉の意味がわからなくて、首をかしげるしかなかった。
その後、カブからエンジンシティのジムバッジを受け取った。
★
「あ、ホップだ。おーい、久しぶり!」
エンジンシティのスタジアムを出たところで、ユウリはホップを見かけた。
歩く後ろ姿に向かって、声をかけて、近寄った。
「調子はどう? もしかして3つ目のバッジも手に入れちゃっている? いやー、流石ダンデさんの弟だよ」
最後に言葉を交わしたのは、2か月ほど前だろうか。
だというのに、まるで何年ぶりかのように感じてしまう。
それぐらい、この2か月間はユウリにとって、刺激的な毎日だったのだ。
ユウリに気が付いて、ホップは振り返った。
「聞いてよ、ホップ、カービィがさ……」
色々あった。特にカービィに関しては1日では到底足りない。
どこかのカフェにでも寄って、二人でこれまでの冒険について花を咲かせるのもいい。
「まだだよ、ユウリ」
ホップはわずかにたじろいだような顔をしたあと、笑顔を作った。
どこかよそよそしさを感じる。
「……ホップ、体調でも悪いの?」
ユウリがそう尋ねると、ホップは少し俯いてから、顔をあげる。
ホップは、ユウリの隣にいたカービィを見つめる。
「いや、ただ、すげえと思ってな」
「うん?」
「今、あちこちでカービィのこととか、ユウリのこととか、聞くんだ」
「……」
「すごいポケモンが現れたぞ。そのポケモンを従えるすごい新人が現れたぞってな……」
ユウリは、なぜか言葉に詰まった。
どうしてだろう?
もっとこう、前のホップなら、無邪気な態度だったはずだ。
「思ったんだよ。オレ、がんばらなきゃって。アニキを超える最強になるには、今のままじゃダメなんだって」
近くにいるはずなのに、どうして遠くにいるように見えるのだろう。
自分とホップは幼馴染で、ライバルのはずで、今もすぐそこにいるのだから。
そう感じるのは、おかしいはずなのだ。
「ホップ……頑張ってね。わたし、ホップのこと応援しているから……」
――がんばって、チャンピオンになって!
そう声援を送ろうとしかけたところで、喉にひっかかる。
その言葉は、今ここで言ってはならない。なぜかそう思った。
「ユウリは、すげえやつだよ」
「そんな、わたしは……」
「だって、アニキに勝っちまったんだから。あの常勝無敗のリザードンに、あっさりと」
ホップは、ユウリに背を向ける。それからどこか元気のない声で告げた。
「オレ、カブさんに負けちまった」
「あ……ごめん」
「気にすんなって! ユウリはユウリの道を進めばいいんだ! 今に見てろ、鍛えなおしてくるぜ!」
そう快活に笑って、ホップは走り去っていった。
ユウリはそのうしろ姿に、なぜか喪失感のようなものを覚えた。
……どうしてだろう? 友人で幼馴染のはずの、あの少年と距離が遠ざかっていくように思えるのは。
その時、ぴょこん、とカービィはユウリの背中に飛びうつる。
「うい」
「ん? なに……もしかして、トマトカレー?」
「はぁい」
そういえば、ジムミッションの時、大盛トマトブラックカレーを10杯分を作ると宣言していた。
「あはは、ありがとう、元気が出た。うん、もう大丈夫だよ」
カービィはどこか心配そうな目つきで、ユウリを見ていた。