もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
ホップと会話した後、ユウリはポケモンセンターで旅の支度を整え、次の街へ向かう。
次の目的地はララテルタウンである。今まで以上に長旅だ。
ワイルドエリアを横断して、西へ進む。それからナックルシティを経由して、ようやくララテルタウンまでたどり着けるのだ。
「……どうしちゃったんだろう、ホップ」
旅の道中、ユウリはホップのことを反芻した。
あの時感じた、距離感。そして言いようのない喪失感。
「考えるだけ……無駄かな」
カービィという強大なポケモンと出会い、田舎町から旅に出て、自分はポケモンバトルの楽しさと世界の広さを知った。
だけどそれと引き換えに、別の何かを失いつつあるような気がする。
★
新しいポケモンを捕まえよう。
ユウリはそう思った。
ユウリの現在の手持ちは。
ラビフット。
アオガラス。
ギャラドス。
カモネギ。
そして……カービィ。
偏ったパーティー構成だ。
これでは水タイプに対してこうかばつぐんを狙えない。
もちろんカービィならば、草タイプや電気タイプに変化できる。加えて素の能力が桁違いなので、現時点のジム攻略でタイプ相性を考慮しなくてもいい。
しかし将来のことを考えたら、そろそろもう一匹捕まえて育成するタイミングだろう。
捕まえるならば、草タイプでどうだろうか。
「カービィ、ポケモン捕まえるから、手伝って」
「ぱや!」
「うまくいったら、今日はトマトカレーラーメンだからね! しかもトマトマシマシ!」
「はぁい!!」
ユウリが『トマト』と口にした瞬間、カービィはいつも口から唾を垂らす。
……本当にトマトに対しては目がないようである。
ユウリはカービィを引き連れ、草むらへ入っていく。それから二人は腰を低くして、草むらの陰に隠れた。
「見つけた! もうちょっとそっと近づいて!」
ユウリの視線の先には、スボミーの姿があった。カービィは目をぱちぱちさせて、スボミーを捉えている。
「合図を出すから、すぐに飛び出して、あのポケモンを吸い込んでね」
「うい」
ユウリは思った。ポケモンを捕まえるならば、わざわざバトルする必要がないと。
ユウリは石ころを投げた。
石ころは、スボミーの上を飛び、そのままユウリ達の反対側へ落ちる。
音に反応してスボミーが、背中を向けた。
ユウリは、手をあげた。
その合図に反応した、カービィはダッシュで草むらを飛び出す。
それから口を開き、吸いこみをおこなう。
スボミーは反応することもなく、カービィの口に飲みこまれていく。
「地面に吐き出して」
「ぷいっ」
ぺっ、とカービィがスボミーを地面に吐き出す。
スボミーは地面にたたきつけられて、リバウンドしながら、そのまま気絶する。
ユウリはすかさず、モンスターボールを投げつけて、スボミーを捕獲した。
「……なんだか、いつもズルばかりしているような」
ジムチャレンジは反則気味な行為でクリアするし、ジムリーダー戦も瞬殺するし、ここ最近、自分はひどく卑怯者になったような気がする。
しかし、カービィの「トマト、トマト!」と目を輝かせている姿を見ていると、ユウリはだんだんどうでもよくなってきた。
それからユウリは、快調に旅路を進んだ。
道中で、カービィに癒されつつ、食いしん坊っぷりに困らされながら、手持ちポケモンも鍛えた。
ここ最近はそうだが、普通のトレーナーはユウリとポケモン勝負をしてくれない。
なので、ユウリは一日中草むらの中を駆け巡り、出くわす野生のポケモンを次から次へと倒しまくった。
しだいにそれは効率が悪いと気が付いて、ユウリは強そうな個体だけを探し、見つけるたびに戦闘をしかけた。
それを朝から晩まで、最低でも10時間以上はおこなう。
(わたしって、外から見ると、かなりヤバイ奴と思われるんじゃ……)
まるで、獲物を追い求める捕食者のようにしか見えない。
こんな姿をホップに見られてしまったら、距離を取られそうである。
しかしこうでもしないと、手持ちポケモンを強くできない。
ユウリは躊躇いつつも、野生のポケモン狩りを毎日継続した。これによって莫大なけいけんちを稼ぐことに成功する。
その甲斐あって、ラビフットがエースバーンに。
アオガラスがアーマーガアへと進化した。
さらに捕まえたスボミーを、ロズレイドへ2段階進化させたのだった。
★
「おお、意外と綺麗な所なんだね」
「ぱや」
6番道路を抜けたユウリたちは、ララテルタウンにそのまま直行……せず、少し寄り道することにした。
二人が向かった先は、ララテルタウンの近郊の森。
森の木々を潜り抜けた先には、小さな町があった。
先日、ユウリがポケッターの動画で知った、くだんのワドルディの集落である。
「わにゃわにゃ!」
ユウリ達が集落に入った途端、ワドルディたちに囲まれた。
ワドルディたちは嬉しそうに、手を振ったり、飛び跳ねたり、歓迎ムードである。
主に彼らはカービィを歓迎しているらしい。
ここのワドルディたちもカービィを知っているようだった。
ユウリとカービィは、案内されるがままに集落へ入っていく。
集落内には、たくさんの人がいた。
近隣のララテルタウンの住民たちや、興味本位で訪れた他の街の人や、他地方からの観光客もやってきているらしい。
ここまで賑わっているは、ポケッタ―やニュースで拡散されて、話題になっているからだろう。
みんなそれぞれ、ワドルディたちの運営する食堂やショッピングモールに足を運んだり。
近くの公園で子供たちとポケモン、そしてワドルディたちが集まって戯れている。
なんとも、のどかな光景だ。
「ん? ソニアさん?」
ほっとユウリが一息ついたあと、ふと、ソニアの姿を見かける。
「ああ! ユウリね、実際に会うのは久しぶりじゃない。色んなところからあなたの活躍を耳にするわ」
「ははは……出会うたびに、みんなそう言ってきますよ」
なんだか、自分が注目されている事実にいまだに慣れない。
「どうしてここに? 研究のためですか?」
「そう、そうね。彼らの生態を解き明かすためだわ」
そう言い放ったソニアは、そこらを歩くワドルディを抱き上げて、丸っこい体を揉んでいる。
……はたして本当に研究目的でここに来たのだろうか?
「……ユウリ、行ってほしいところがあるの」
「はい?」
「もしカービィのことを少しでも知りたいのならね」
そんな意味深なことを、ソニアはつぶやいていた。
それからソニアは、ワドルディへにじり寄り、ふたたび抱き上げたり、体をモミモミしはじめる。
やはり研究目的とは思えない……。
★
ソニアが行ってほしいと話していた場所。
それは町の隅っこにある、ワドルディたちが建設した娯楽施設のひとつ、『ワドルディシアター』だ。
ユウリはカービィを連れて、シアターに入場する。
チケット売り場でいくつかの映画のタイトルが目に入った。
『ワドルディたちの文化大革命』
『デデデ大王サマの偉大なる軌跡~オレ様こそプププランドの大王だ~』
『メタナイトの逆襲~仮面の騎士はいかにしてピンクの悪魔に敗れたか~』
『奇面師マルクの策謀~ボクはイタズラがしたいだけなのサ! ~』
どれもこれもヘンテコなタイトルだ。
だが、唯一、ユウリの目を引いたものがあった。
『春風とともにあらわれた旅人、星のカービィ part1』
「えっ、これって……」
カービィ、と確かにタイトルには記されていた。
ワドルディたちの作り上げた映画のパンフレット。そこには、ワープスターに乗ったカービィの姿が描かれている。
「カービィが主人公の映画ってこと……?」
ユウリは、すぐ足元にいるカービィに視線をやる。
カービィはのほほんとした顔つきで、ポップコーン売り場を見つめている。
……映画館に訪れたというのに、カービィの興味関心は映画ではなく、食べ物に注がれているようである。
(もしかしたら、カービィのことを知れるかも……!)
ユウリは、興味以前に、カービィのことを知りたくて、この映画を見ようと考えた。
薄暗い室内。
ずらり、と着席シートが並んでいる。
そして座席の向かい側には、壁一面に巨大なスクリーンがある。
ユウリはポップコーンの箱を右手に、ジュースを左手にして進む。
その背後には特大サイズの『トマト味ポップコーン』が乗ったトレーを頭の上に乗せた、カービィ。
そしてすぐにカービィは口を開き、ポップコーンを食べつくしてしまう。
残念そうな顔をするカービィ。
ユウリは振り向いて、「私の分も食べていいからね」という。
するとカービィは、目をキラキラ輝かせて、うなずいた。
「映画が始まってから食べてね。一気に食べるんじゃなくて、一口ずつよく味わってね」
そうユウリは、何度もカービィに注意を促す。
席に着いたあと、カービィは律儀に一口ずつポップコーンを食べる。
以前までカービィは食べ物を吸い込んで食事していた。
しかし最近では、ユウリの影響なのか、食器を使ったりして、食べ物を一口ずつよく噛んで食べるようになった。
……たまに先ほどのように吸い込んで食べてしまう悪癖はあるが、それでも随分マシになっている。
そうこうしているうちに、映画の幕が上がった。
『あきれかえるほど へいわなくに『プププランド』から、すべての食べものがうばわれた! おなかがすくのはこまります。たおせっ! ワルもの『デデデだいおう』!!
ユウリは、目を見開いた。
画面には、自分がよく知るまんまるピンクの相棒がそこにはいた。
映画の内容はこうだ。
カービィは各地を冒険し、デデデ大王のしもべたちを倒し、城に乗り込み、ついにデデデ大王を成敗する。
(一人で全部倒しちゃっている……流石カービィ……)
カービィは誰の助けも借りず、単独で強敵たちを突破していく。
圧倒的な強さは、まさにユウリがよく知る通りだった。
しかし、ここでエンドロールとはならず、物語はまだ続く。
旅人だったカービィは、プププランドの住人となり、それから様々な事件に巻き込まれた。
ある時は、みんながぐっすり眠れるように、夢の泉のかけらを取り戻す旅へ。
ある時は、暗黒の一族に支配された国を救うために、虹を集める冒険へ。
仮面の騎士の逆襲を迎え撃つために戦うこともあれば、太陽と月のケンカを止めるために、銀河を旅することもあった。
(これが……昔のカービィ?)
ユウリは身震いすらした。
カービィの圧倒的な強さに。
どんな強敵も、障害も、軽々と打ち破り、世界を救っていく。
まさしく、孤高の戦士のようだった。
気のせいだろうか。カービィの背中がとても寂しく見えた。
……もちろん、彼は力を使って、仲間を生み出すことができるし、友達と冒険することもあるけれど。
ユウリは、隣の席に座っているカービィを見る。
ポップコーンをたいらげたカービィは、目を閉じてすやすやと眠りについている。
……自分が題材の映画だというのに、一ミリも興味がないらしい。
映画を見終わったユウリは、引き続き、part2の上映券を購入し、もう一度シアターに足を運ぶ。
カービィはぐっすりと眠ったままなので、膝の上に抱きかかえて、鑑賞することとなった。
「うーん、腰がだるくなってきた……」
「ぷい」
あれからユウリはカービィの映画シリーズをすべて鑑賞した。
全部でpart4まであったので、見終わるころにはすっかり日が暮れていた。
「お腹空いたね」
「ぷ?」
「ワドルディたちが経営している食堂があるみたいだし、そっちに寄ろうか」
「はぁい!!」
食堂と言った途端、カービィは目をキラキラさせる。
食べ物の話題になった途端、この食いつきようである。
最近、自家製のカレー料理ばかり食べている。
ユウリはカレー好きではあるが、なにも一生カレーばかり食べたいというわけではない。
「正直、なんだかなぁ……」
内容自体は興味をそそられるが、映画の完成度としてはそこまで高くない。
まるでダイジェストみたいに、カービィの冒険の数々が描かれていくので、物語としての厚みが感じられないのが惜しいところだ。
だが、その内容があまりにも劇薬だった。
「カービィ」
「ぷい?」
ユウリはかがみこんで、カービィと目をあわせた。
「カービィってやっぱりすごいんだね」
ユウリがそう言うと、カービィはことんと、首をかしげるだけだ。
「カービィが強いのも今までいっぱい冒険して、強い相手と戦って、世界を救ってきたから?」
もしそれが真実なら、カービィがあれだけ強いポケモンなのもうなずける。
あれはおそらく、カービィの過去なのではないだろうか。
だが映画のカービィと、このカービィは同一個体なのか……いや個体というべきか人物というべきか。
そもそも映画だし、作り話という可能性もあるわけで。
(久しぶりにもっと映画見たくなっちゃったなぁ……)
ずっと昔、男の子が4人で線路を歩いてる映画を見た。
物語の展開だけをうっすら覚えているだけだが、それでも妙に感動した記憶だけが強く残っている。
ユウリが、人生で一番最初に見た映画だ。
「とりあえず、今日はゆっくり休もうね!」
ふいに思う。
カービィは最初は一人だった。
だけど、物語が進むにつれて、かつてのライバルや敵が一緒に冒険する仲間となった。
彼らの旅する姿は、まるでユウリが好きなあの映画の、男の子4人組のようで。
「あれ……なんだろ」
ユウリの心が、揺れた。
「なんで……」
そういえば、旅に出る前の自分は色んな事を夢想していた。
たとえば、冒険の中でライバルと出会い、友人ができて、彼らと一緒にポケモントレーナーとして磨き合う。
自分の冒険はきっとそんな風になる……と思っていた。
「気にしすぎなのかな……映画をイッキ見しちゃったせいで疲れているのかも」
旅に出る前の自分が思い描いていた冒険は、今、ほんとうに実現できているのだろうか。
ふとそう思ったユウリだったが、すぐにその考えを振り払う。
(別にいっか! ポケモンバトルができて、毎日楽しいし、これでいいよね!)
それからユウリたちは、ワドルディの街の宿で一泊したあと、ララテルタウンに向かった。