もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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2-7.ララテルタウン(前編)

 ホップと会話した後、ユウリはポケモンセンターで旅の支度を整え、次の街へ向かう。

 次の目的地はララテルタウンである。今まで以上に長旅だ。

 ワイルドエリアを横断して、西へ進む。それからナックルシティを経由して、ようやくララテルタウンまでたどり着けるのだ。

 

「……どうしちゃったんだろう、ホップ」

 

 旅の道中、ユウリはホップのことを反芻した。

 あの時感じた、距離感。そして言いようのない喪失感。

 

「考えるだけ……無駄かな」

 

 カービィという強大なポケモンと出会い、田舎町から旅に出て、自分はポケモンバトルの楽しさと世界の広さを知った。

 だけどそれと引き換えに、別の何かを失いつつあるような気がする。

 

 

 ★

 

 

 新しいポケモンを捕まえよう。

 

 ユウリはそう思った。

 

 ユウリの現在の手持ちは。

 ラビフット。

 アオガラス。

 ギャラドス。

 カモネギ。

 

 そして……カービィ。

 

 偏ったパーティー構成だ。

 これでは水タイプに対してこうかばつぐんを狙えない。

 もちろんカービィならば、草タイプや電気タイプに変化できる。加えて素の能力が桁違いなので、現時点のジム攻略でタイプ相性を考慮しなくてもいい。

 

 しかし将来のことを考えたら、そろそろもう一匹捕まえて育成するタイミングだろう。

 

 捕まえるならば、草タイプでどうだろうか。

 

「カービィ、ポケモン捕まえるから、手伝って」

「ぱや!」

「うまくいったら、今日はトマトカレーラーメンだからね! しかもトマトマシマシ!」

「はぁい!!」

 

 ユウリが『トマト』と口にした瞬間、カービィはいつも口から唾を垂らす。

 ……本当にトマトに対しては目がないようである。

 

 ユウリはカービィを引き連れ、草むらへ入っていく。それから二人は腰を低くして、草むらの陰に隠れた。

 

「見つけた! もうちょっとそっと近づいて!」

 

 ユウリの視線の先には、スボミーの姿があった。カービィは目をぱちぱちさせて、スボミーを捉えている。

 

「合図を出すから、すぐに飛び出して、あのポケモンを吸い込んでね」

「うい」

 

 ユウリは思った。ポケモンを捕まえるならば、わざわざバトルする必要がないと。

 ユウリは石ころを投げた。

 石ころは、スボミーの上を飛び、そのままユウリ達の反対側へ落ちる。

 音に反応してスボミーが、背中を向けた。

 

 ユウリは、手をあげた。

 その合図に反応した、カービィはダッシュで草むらを飛び出す。

 それから口を開き、吸いこみをおこなう。

 スボミーは反応することもなく、カービィの口に飲みこまれていく。

 

「地面に吐き出して」

「ぷいっ」

 

 ぺっ、とカービィがスボミーを地面に吐き出す。

 スボミーは地面にたたきつけられて、リバウンドしながら、そのまま気絶する。

 ユウリはすかさず、モンスターボールを投げつけて、スボミーを捕獲した。

 

「……なんだか、いつもズルばかりしているような」

 

 ジムチャレンジは反則気味な行為でクリアするし、ジムリーダー戦も瞬殺するし、ここ最近、自分はひどく卑怯者になったような気がする。

 しかし、カービィの「トマト、トマト!」と目を輝かせている姿を見ていると、ユウリはだんだんどうでもよくなってきた。

 

 それからユウリは、快調に旅路を進んだ。

 道中で、カービィに癒されつつ、食いしん坊っぷりに困らされながら、手持ちポケモンも鍛えた。

 ここ最近はそうだが、普通のトレーナーはユウリとポケモン勝負をしてくれない。

 

 なので、ユウリは一日中草むらの中を駆け巡り、出くわす野生のポケモンを次から次へと倒しまくった。

 しだいにそれは効率が悪いと気が付いて、ユウリは強そうな個体だけを探し、見つけるたびに戦闘をしかけた。

 それを朝から晩まで、最低でも10時間以上はおこなう。

 

(わたしって、外から見ると、かなりヤバイ奴と思われるんじゃ……)

 

 まるで、獲物を追い求める捕食者のようにしか見えない。

 

 こんな姿をホップに見られてしまったら、距離を取られそうである。

 しかしこうでもしないと、手持ちポケモンを強くできない。

 ユウリは躊躇いつつも、野生のポケモン狩りを毎日継続した。これによって莫大なけいけんちを稼ぐことに成功する。

 

 その甲斐あって、ラビフットがエースバーンに。

 アオガラスがアーマーガアへと進化した。

 さらに捕まえたスボミーを、ロズレイドへ2段階進化させたのだった。

 

 

 ★

 

 

「おお、意外と綺麗な所なんだね」

「ぱや」

 

 6番道路を抜けたユウリたちは、ララテルタウンにそのまま直行……せず、少し寄り道することにした。

 二人が向かった先は、ララテルタウンの近郊の森。

 森の木々を潜り抜けた先には、小さな町があった。

 

 先日、ユウリがポケッターの動画で知った、くだんのワドルディの集落である。

 

「わにゃわにゃ!」

 

 ユウリ達が集落に入った途端、ワドルディたちに囲まれた。

 ワドルディたちは嬉しそうに、手を振ったり、飛び跳ねたり、歓迎ムードである。

 主に彼らはカービィを歓迎しているらしい。

 ここのワドルディたちもカービィを知っているようだった。

 

 ユウリとカービィは、案内されるがままに集落へ入っていく。

 

 集落内には、たくさんの人がいた。

 近隣のララテルタウンの住民たちや、興味本位で訪れた他の街の人や、他地方からの観光客もやってきているらしい。

 

 ここまで賑わっているは、ポケッタ―やニュースで拡散されて、話題になっているからだろう。

 

 みんなそれぞれ、ワドルディたちの運営する食堂やショッピングモールに足を運んだり。

 近くの公園で子供たちとポケモン、そしてワドルディたちが集まって戯れている。

 

 なんとも、のどかな光景だ。

 

「ん? ソニアさん?」

 

 ほっとユウリが一息ついたあと、ふと、ソニアの姿を見かける。

 

「ああ! ユウリね、実際に会うのは久しぶりじゃない。色んなところからあなたの活躍を耳にするわ」

「ははは……出会うたびに、みんなそう言ってきますよ」

 

 なんだか、自分が注目されている事実にいまだに慣れない。

 

「どうしてここに? 研究のためですか?」

「そう、そうね。彼らの生態を解き明かすためだわ」

 

 そう言い放ったソニアは、そこらを歩くワドルディを抱き上げて、丸っこい体を揉んでいる。

 

 ……はたして本当に研究目的でここに来たのだろうか?

 

「……ユウリ、行ってほしいところがあるの」

「はい?」

「もしカービィのことを少しでも知りたいのならね」

 

 そんな意味深なことを、ソニアはつぶやいていた。

 それからソニアは、ワドルディへにじり寄り、ふたたび抱き上げたり、体をモミモミしはじめる。

 

 やはり研究目的とは思えない……。

 

 

 ★

 

 

 ソニアが行ってほしいと話していた場所。

 それは町の隅っこにある、ワドルディたちが建設した娯楽施設のひとつ、『ワドルディシアター』だ。

 ユウリはカービィを連れて、シアターに入場する。

 チケット売り場でいくつかの映画のタイトルが目に入った。

 

『ワドルディたちの文化大革命』

『デデデ大王サマの偉大なる軌跡~オレ様こそプププランドの大王だ~』

『メタナイトの逆襲~仮面の騎士はいかにしてピンクの悪魔に敗れたか~』

『奇面師マルクの策謀~ボクはイタズラがしたいだけなのサ! ~』

 

 

 どれもこれもヘンテコなタイトルだ。

 

 だが、唯一、ユウリの目を引いたものがあった。

 

『春風とともにあらわれた旅人、星のカービィ part1』

 

「えっ、これって……」

 

 カービィ、と確かにタイトルには記されていた。

 ワドルディたちの作り上げた映画のパンフレット。そこには、ワープスターに乗ったカービィの姿が描かれている。

 

「カービィが主人公の映画ってこと……?」

 

 ユウリは、すぐ足元にいるカービィに視線をやる。

 カービィはのほほんとした顔つきで、ポップコーン売り場を見つめている。

 ……映画館に訪れたというのに、カービィの興味関心は映画ではなく、食べ物に注がれているようである。

 

(もしかしたら、カービィのことを知れるかも……!)

 

 ユウリは、興味以前に、カービィのことを知りたくて、この映画を見ようと考えた。

 

 

 

 

 

 薄暗い室内。

 ずらり、と着席シートが並んでいる。

 そして座席の向かい側には、壁一面に巨大なスクリーンがある。

 

 ユウリはポップコーンの箱を右手に、ジュースを左手にして進む。

 その背後には特大サイズの『トマト味ポップコーン』が乗ったトレーを頭の上に乗せた、カービィ。

 そしてすぐにカービィは口を開き、ポップコーンを食べつくしてしまう。

 残念そうな顔をするカービィ。

 ユウリは振り向いて、「私の分も食べていいからね」という。

 するとカービィは、目をキラキラ輝かせて、うなずいた。

 

「映画が始まってから食べてね。一気に食べるんじゃなくて、一口ずつよく味わってね」

 

 そうユウリは、何度もカービィに注意を促す。

 席に着いたあと、カービィは律儀に一口ずつポップコーンを食べる。

 

 以前までカービィは食べ物を吸い込んで食事していた。

 しかし最近では、ユウリの影響なのか、食器を使ったりして、食べ物を一口ずつよく噛んで食べるようになった。

 ……たまに先ほどのように吸い込んで食べてしまう悪癖はあるが、それでも随分マシになっている。

 

 そうこうしているうちに、映画の幕が上がった。

 

 

『あきれかえるほど へいわなくに『プププランド』から、すべての食べものがうばわれた! おなかがすくのはこまります。たおせっ! ワルもの『デデデだいおう』!! 

 

 

 ユウリは、目を見開いた。

 

 画面には、自分がよく知るまんまるピンクの相棒がそこにはいた。

 

 映画の内容はこうだ。

 カービィは各地を冒険し、デデデ大王のしもべたちを倒し、城に乗り込み、ついにデデデ大王を成敗する。

 

(一人で全部倒しちゃっている……流石カービィ……)

 

 カービィは誰の助けも借りず、単独で強敵たちを突破していく。

 圧倒的な強さは、まさにユウリがよく知る通りだった。

 

 

 しかし、ここでエンドロールとはならず、物語はまだ続く。

 

 旅人だったカービィは、プププランドの住人となり、それから様々な事件に巻き込まれた。

 

 ある時は、みんながぐっすり眠れるように、夢の泉のかけらを取り戻す旅へ。

 

 ある時は、暗黒の一族に支配された国を救うために、虹を集める冒険へ。

 

 仮面の騎士の逆襲を迎え撃つために戦うこともあれば、太陽と月のケンカを止めるために、銀河を旅することもあった。

 

(これが……昔のカービィ?)

 

 ユウリは身震いすらした。

 カービィの圧倒的な強さに。

 どんな強敵も、障害も、軽々と打ち破り、世界を救っていく。

 

 まさしく、孤高の戦士のようだった。

 

 気のせいだろうか。カービィの背中がとても寂しく見えた。

 ……もちろん、彼は力を使って、仲間を生み出すことができるし、友達と冒険することもあるけれど。

 

 ユウリは、隣の席に座っているカービィを見る。

 ポップコーンをたいらげたカービィは、目を閉じてすやすやと眠りについている。

 ……自分が題材の映画だというのに、一ミリも興味がないらしい。

 

 映画を見終わったユウリは、引き続き、part2の上映券を購入し、もう一度シアターに足を運ぶ。

 カービィはぐっすりと眠ったままなので、膝の上に抱きかかえて、鑑賞することとなった。

 

 

 

 

 

「うーん、腰がだるくなってきた……」

「ぷい」

 

 あれからユウリはカービィの映画シリーズをすべて鑑賞した。

 全部でpart4まであったので、見終わるころにはすっかり日が暮れていた。

 

「お腹空いたね」

「ぷ?」

「ワドルディたちが経営している食堂があるみたいだし、そっちに寄ろうか」

「はぁい!!」

 

 食堂と言った途端、カービィは目をキラキラさせる。

 食べ物の話題になった途端、この食いつきようである。

 

 最近、自家製のカレー料理ばかり食べている。

 ユウリはカレー好きではあるが、なにも一生カレーばかり食べたいというわけではない。

 

「正直、なんだかなぁ……」

 

 内容自体は興味をそそられるが、映画の完成度としてはそこまで高くない。

 まるでダイジェストみたいに、カービィの冒険の数々が描かれていくので、物語としての厚みが感じられないのが惜しいところだ。

 

 だが、その内容があまりにも劇薬だった。

 

「カービィ」

「ぷい?」

 

 ユウリはかがみこんで、カービィと目をあわせた。

 

「カービィってやっぱりすごいんだね」

 

 ユウリがそう言うと、カービィはことんと、首をかしげるだけだ。

 

「カービィが強いのも今までいっぱい冒険して、強い相手と戦って、世界を救ってきたから?」

 

 もしそれが真実なら、カービィがあれだけ強いポケモンなのもうなずける。

 

 あれはおそらく、カービィの過去なのではないだろうか。

 だが映画のカービィと、このカービィは同一個体なのか……いや個体というべきか人物というべきか。

 そもそも映画だし、作り話という可能性もあるわけで。

 

(久しぶりにもっと映画見たくなっちゃったなぁ……)

 

 ずっと昔、男の子が4人で線路を歩いてる映画を見た。

 物語の展開だけをうっすら覚えているだけだが、それでも妙に感動した記憶だけが強く残っている。

 ユウリが、人生で一番最初に見た映画だ。

 

「とりあえず、今日はゆっくり休もうね!」

 

 ふいに思う。

 

 カービィは最初は一人だった。

 だけど、物語が進むにつれて、かつてのライバルや敵が一緒に冒険する仲間となった。

 彼らの旅する姿は、まるでユウリが好きなあの映画の、男の子4人組のようで。

 

「あれ……なんだろ」

 

 ユウリの心が、揺れた。

 

「なんで……」

 

 そういえば、旅に出る前の自分は色んな事を夢想していた。

 たとえば、冒険の中でライバルと出会い、友人ができて、彼らと一緒にポケモントレーナーとして磨き合う。

 

 自分の冒険はきっとそんな風になる……と思っていた。

 

「気にしすぎなのかな……映画をイッキ見しちゃったせいで疲れているのかも」

 

 旅に出る前の自分が思い描いていた冒険は、今、ほんとうに実現できているのだろうか。

 

 ふとそう思ったユウリだったが、すぐにその考えを振り払う。

 

(別にいっか! ポケモンバトルができて、毎日楽しいし、これでいいよね!)

 

 それからユウリたちは、ワドルディの街の宿で一泊したあと、ララテルタウンに向かった。

 

 

 

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