もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
歓声が聞こえる。スタジアムが湧きたつ。観客の視線がすべてユウリとカービィへ集中する。
騒がしいスタジアムの中で「カービィだ!」という黄色い悲鳴が混じっている。
「──ようこそ、わたしはジムリーダーのサイトウです」
カービィとユウリがスタジアムの中心へ移動する。
待ち受けているのは、灰色のショートヘアの、褐色肌の少女。
ジムリーダーのサイトウだ。
ララテルタウンのジムミッションをクリアしたユウリとカービィは、これまで通り、ジムリーダーのサイトウと対戦をする。
「カービィ、今日も頑張ろうね」
ユウリのかけ声に、カービィは「ぽよ」とうなずいた。
カービィは、ユウリの傍から離れ、スタジアムの中心のコートへ、ぽてぽてと進む。
カービィが、この世界に来て数か月が経過する。
カービィはこの世界に初めて来たときは慣れなかったものだ。
ポケモンという不思議な生き物がいて、どうやら自分がその生き物たちの一種とみなされているらしい。
もっともカービィは、はなから関心などない。
美味しいご飯を食べて、お昼寝をして、遊ぶことができれそれでいいのだ。
それにカービィにとって、一番大切なことは、この世界で新しいトモダチができたことだ。
いつも自分に美味しいカレーを作ってくれて、楽しそうにポケモンバトルをする少女。
──なにか世界の危機があるわけでもない、誰かが困っているわけでもない。
だけどこうやって少女と冒険するのも、ポケモンとして戦うのも、彼女がトモダチで、一緒にいて楽しいからだ。
「あなたたちに、どんな攻撃が通用するのか、わたしが試すとしましょう」
サイトウとの試合が始まった。
カービィは、ちょっぴり気を引き締める。
昔、『格闘王への道』という大会に出場したことがあるので、あの当時の頃の気分に戻った感じがする。
まず、サイトウが繰り出したのは、カポエラーだった。
「カービィ、道具を飲みこんで」
ユウリの命令。
カービィは、口の中に含んでいた<するどいくちばし>をコピーし、コート外へ吐き出す。
そして、コピー能力が発動し、ウィングカービィへ姿を変える。
翼をはやし、羽の冠を被ったその姿はまさしく、空の支配者だ。
「上空を飛翔して、接近して」
ウィングカービィは、翼をはためかせて飛ぶ。
「カポエラー、跳躍」
サイトウの命令。カポエラーは高くジャンプする。
つづいて、サイトウは言い放つ。
「──かみなりパンチ」
ばち、とカポエラーの右腕が雷を纏う。そのままものすごい勢いでストレートを放ってくる。
しかしそれよりも速く──。
「カービィ、ばくげきずつき」
カービィは、ジャンプして迫りくるカポエラーにめがけて、落下し、ずつきをする。
カポエラーのかみなりパンチと衝突する。
だが、カービィは力づくで押しきり、カポエラーに頭突きを喰らわせる。
カポエラーはそのまま地面に墜落し、戦闘不能となった。
スタジアムが熱狂で包まれた。
ここ最近そうだ。カービィが大技を繰り出したり、相手を倒すたびに、観客は異様なほど盛り上がる。
カービィはどうしてそうなっているのか分からない。興味がないので分かる日は一生来ないだろう。
「なるほど、カービィの対策をしているんですね、サイトウさん」
「ええ、だって普通に戦えば、何もできずに終わりますから」
ユウリは、目を細めていった。
「……わたしがルリナさんやヤローさんの試合の時みたいに、道具を使って、カービィのタイプを変動させてくることをわかっていた。
だからあらかじめ、かみなりパンチを覚えさせていた、と」
コートの向かい側にいるサイトウは、澄ました表情で返答した。
「はい、フォルムチェンジをして、こうかばつぐんを狙ってくるだろうと思っていたので」
カービィには、二人が何を言っているのかチンプンカンプンだ。
ただ、今までの相手とちょっぴりやり方を変えてきているらしい。
「ジムリーダーがジムチャレンジャー1人に対策をするのは、前代未聞……。けれど、そうしないと、あなたのカービィには手も足も出ない」
サイトウは、次のポケモンを繰り出した。
「頼みますよ、ゴロンダ」
バトルコートに降り立ったゴロンダに、サイトウは命令する。
「ゴロンダ、こちらから打って出ましょう」
接近するゴロンダ。
カービィは身構えることはしない。
自分が戦いでなにをするべきのか、すべて彼女が定めるからだ。
「ゴロンダ、いわなだれです」
「カービィ、フェザーガンで迎撃」
カービィは腕を大きく振り上げる。露わになった翼から、羽が射出される。
まるでそれは弾丸のように高速で飛び、落下してくる岩を破壊していく。
「ゴロンダに近づいて」
ばらばらになった岩石の合間をぬって、カービィはゴロンダに近づく。
「っ、ゴロンダ。もう一度、いわなだ──」
「カービィ、トス」
ふっ、と風に巻き上げられたように、ゴロンダの巨体が宙に浮かび上がる。
「シャトルループ」
翼を展開し、宙に飛び上がったカービィ。
そのままくるりと一回転しながら勢いをつけて、ゴロンダに激突した。
ゴロンダは一撃で戦闘不能となった。
またもや観客席は一層盛り上がる。
なんとなしにカービィがユウリの方を振り返った。
観客の熱狂ぶりに、ユウリはあわあわした表情を作ったあと、困った風にぽりぽりと頬をかく。
「……やはり、いくら準備をしても、ポケモン同士の力量を覆すのは難しい、か」
サイトウはゴロンダを戻しながら、そうつぶやく。
けれど、その瞳にある闘志はまったく消えていない。
サイトウは3体目のポケモンである、ネギガナイトを繰り出した。
「ネギガナイト、お願いします」
「カービィ、やっちゃって」
それぞれコートの両端にいたネギガナイトとウィングカービィが、互いに疾走する。
「カービィ、フェザーガン」
「ネギガナイト、盾で防ぎながら、近づいてください」
コートの中心付近に到達したウィングカービィは翼を広げ、ネギガナイトにフェザーガンを打ち込む。
それに対してネギガナイトは、盾を構え、射出された羽の弾丸を防ぐ。
しかしそれでも羽の弾丸の衝撃は強いようで、その場から動けずにいる。
「カービィ、フェザーガンを撃ちながら、距離を詰めて」
カービィは絶え間なく羽の弾丸を打ち込み、相手の動きを封じながら、ネギガナイトへ一歩ずつ進む。
しかし技の仕様なのか、数十発も連続で射出しつづけたあと、弾切れを起こした。
ネギガナイトは、盾に隠して体をあらわにする。
ユウリとサイトウは、同時に命令を下した。
「カービィ、コンドルずつき」
「ネギガナイト、きりさく」
ウィングカービィとネギガナイトが同時に攻撃を実行する。
カービィは、地面を蹴り、翼を広げ、そのままネギガナイトめがけてロケットのような速度で頭突きを放つ。
一方ネギガナイトは、獲物であるネギの長剣を振りかぶる。
ネギの剣は、リーチは長く、ネギガナイト自身の倍以上のサイズだ。
だから剣の振りかぶる動作は、どうしても遅く、遠くなる。
剣が到達するよりも早く、カービィはネギガナイトに肉薄していた。
「ぎぃっ」
ずつきをくらったネギガナイトはそのままコートの外へ吹き飛ばされ、壁に激突し、戦闘不能となった。
ネギガナイトをボールに戻したサイトウは、最後のポケモンを繰り出す。
「ふんばりどころです、せめて一矢報いてやりましょう」
コートに現れたのは、カイリキーだ。
「あなたと、あなたのポケモンに、尊敬をこめて、キョダイマックス!!」
サイトウは、カイリキーをボールに戻し、上空へモンスターボールを投球する。
そしてキョダイマックスしたカイリキーが、ボールから出現した。
カービィが、カイリキーと向かいあったところで──。
「カービィ、今日の出番はここまで。交代ね」
ユウリの静かな声が響いた。
カービィは振り返って、ちょっぴり考え込んだあと、ぽよんぽよんとコートの外へ出ていく。
「……ユウリ選手、意外ですね。今までカービィ単騎でジムを突破してきたのに」
「サイトウさん、なにも私はカービィ頼りというわけじゃないですよ。他のポケモンも、しっかり育成しているんですから」
まぁ、最近は出会った人がバトルしてくれなくて育成するのが大変なんだけど……。
そんなユウリのつぶやき声を、カービィは耳にした。
ユウリが繰り出したのは、エースバーンだった。
「エースバーン、キョダイマックス」
ユウリも同様に、エースバーンをキョダイマックス化させた。
二体のダイマックスポケモンがスタジアムを圧迫し、ダイマックス技の応酬が始まる。
観客の興奮と熱狂が、最高潮へ登っていく。
カービィは、残念ながら、キョダイマックスすることはできない。
ポケモンではない、この世界の外の存在だから当然のことだ。
カービィは、ユウリの背中をじっと見つめる。
思いっきり笑顔を浮かべるユウリ。
いつも朗らかにニコニコしていて、勝負になれば、とってもシアワセそうな顔をする。
カービィはそんなユウリを見て、ちょっぴり楽しくなる。
ただ、時々、ユウリは物憂げな表情を作る。
そのたびにカービィは「美味しいゴハンをもっと食べたいのかな?」と見当違いな心配をするのだ。
★
「ファンです、応援していますよ」
サイトウとの試合の後、受付に戻ったユウリ。
そんなユウリの後を、サイトウが追いかけてきた。そして開口一番、サイトウはそう言い放った。
「はぁ……」
「あなたのことじゃありません、カービィの、ですね」
「あっはい」
この人マリィみたいなことをいうなぁ、とユウリは思った。
「一撃でも入れられなかったとは……精進あるのみですね……」
「あれ、けどサイトウさんの本気の手持ちだったら、カービィといい勝負ができるんじゃないですか」
ジムリーダーが、ジムの試合で使用するポケモンは、あくまでジムチャレンジャー向けに調整されたものである。
ダンデのリザードンよりは弱いだろうけど、本来のジムリーダーの手持ちポケモンは、ガラルでも最上位に位置するほどの強さだ。
「わたしの本来のカイリキーでも、勝つのは困難です」
サイトウはきっぱりと言い切り、だけど、と付け加えた。
「私の本気のパーティーを全部使えば、カービィを倒せる可能性はあります」
その言葉を聞いたユウリは、どきり、とした。
カービィが負けるかもしれないという不安でもない。
心が灼けてしまいそうほどの、高揚感だった。
「チャンピオンカップを楽しみにしています」
ユウリは、サイトウにそう言い残して、カービィを連れて、受付ホールを後にした。
(あと……4つ)
ジムチャレンジが終われば、チャンピオンカップに参加できる。
チャンピオンカップの参加条件は、ジムバッジ8つ全て集めているトレーナーのみ。
チャンピオンカップ出場のトレーナーは、ガラル地方でも最上位のグループ層の猛者ばかりだ。
(なんだか、ちょっともったいないなぁ、もっとのんびりジム攻略を進めるのアリかも……)
ユウリは、ホップやマリィたちより一足早くジム攻略を進めている。
おそらく現段階では、ユウリは、全ジムチャレジャーの中で一番バッジを所持しているだろう。
(なにごとも早いほうがいいって、お母さんが言っていたし、別にいっか!)
この先、もっと強い相手と、もっと激しい戦いができる。
期待と興奮で、ユウリは待ち遠しくなる。
だけど、なにか決定的なものが欠けているような気がする……。
「カービィは、ポケモンバトルが楽しい?」
ユウリは、かがみこんでカービィと視線を合わせる。
どうして自分なんかに力を貸してくれるのか分からない。
けど間違いなく、自分がポケモン勝負をするきっかけをくれたのは、カービィだ。
「やっぱりポケモンバトルは最高だね」
最近、違和感を覚える。
自分はこれでいいのか、と。
けど、きっと大丈夫だ。
だってこんなに今、自分はワクワクしているのだから。
「あ、ユウリ選手、待ってください。最後にカービィと写真撮らせてください。あとほっぺを触らせてください」
ずかずかと戻ってきたサイトウが、そう頼み込んできた。
あ、やっぱりこの人、マリィみたいだ。
ユウリは再認識して、苦笑しながら、了承する。
カービィはというと、きょとんした顔で、サイトウのなされるままに写真撮影をしたり、ほっぺを触れまくっていた。
★
薄暗い部屋。
唯一の光源であるテレビモニターの映像には、あるポケモンバトルの試合がうつされている。
それは先日の、ララテルタウンのジムチャレンジの試合中継だ。
「少しずつ底が見えてきた……いや、どうだろうか」
ダンデは金色の瞳は、スクリーンに固定されていた。
中継されている試合は、ジムリーダーサイトウと新進気鋭のチャレンジャーユウリの対戦。
バトルコートで戦うのは、現在、世間を騒がせている新種のポケモン──『まん丸ピンクポケモンカービィ』。
カービィは、サイトウが繰り出すポケモンを次々と瞬殺していく。
それはポケモントレーナーからすれば、異様な光景だった。
「なるほど、ユウリがカービィとエースバーンを交代させたのは、一撃で削れる確証が得られなかった……。そして弱点タイプのダイマックス技を喰らうことにわずかでもリスクを感じたから……」
椅子に座りこんだダンデは、ただじっとカービィの動きを観察する。
「……搦め手を使うか? 数匹を犠牲すること前提で、状態異常に追いやって、カービィの体力を削ってひんしに追い込むか……」
自分の思考をつぶやき、論理を積み上げていく。
だがその瞳には、狂気的なまでの熱意が宿っていた。
部屋の四方の壁には、カービィに関する大量の写真やメモが張り付けられている。
「まさか、つい卑怯な手を思い付くぐらい、特定の相手……それもポケモンにこだわるとはな」
ジムチャレンジが開始して以来、ダンデはユウリとカービィの動向に注目し続けた。
これまでのジムリーダー戦は焼き切れるぐらい何度も見直したのだ。
しかし、それでもなお、カービィの底を測りかねている。
コンコン、とノックがした。
どうぞ入ってくれ、とダンデが答えると、ドアが開いた。
「チャンピオンダンデ、稽古の時間だよ。30分遅刻!」
扉の外にいたのは、ルカリオを連れた、ヘルメットをかぶった金髪の少女だ。
「ああ、すまない、コルニさん。今出るよ」
開会式の直後、ダンデはすぐにローズ委員長に長期休暇の許可をとった。
そしてその足でまず向かったのが、カロス地方だった。
なにも気晴らしで旅行をするつもりはない。
すべては、挑戦者としてあの最強の存在に打ち勝つためにすぎない。
カロス地方に到着したダンデは、ある街に赴き、そこでしばらくの間、滞在することとなった。
その街こそ、シャラシティ。
カロス地方において観測される、ポケモンのさらなる進化『メガシンカ』。
シャラシティは、その発祥の地である街だ。
シャラシティの中央にある、メガシンカの始まりの場所と呼称される巨大な塔──マスタータワー。
ダンデとコルニが向かった先は、マスタータワーの頂上にある修練場である。
「それにしても……あの高名な、ガラル地方のチャンピオンダンデがあたしに弟子入り!? いや~、次にカルネさんと会った時に自慢しよっかなぁー」
修練場のど真ん中で、コルニは、にししっと、快活に笑う。
ダンデは静かにコルニに対して、こう頼んだ。
「君に、メガシンカについてレクチャーしてもらいたい」
「……気になったんだけど、ダンデさんってガラルじゃ、『常勝不敗の王』とか言われているらしいじゃん?」
コルニはことりと首を傾けて、たずねた。
「どうして、そこまでして強くなりたいの? ガラル地方だったら、メガシンカなんて誰も使わないでしょ?」
──どうして強くなりたい?
それは、かつてダンデの中にあった衝動。
強くなりたい、頂点まで行きたいから、強くなりたい。
だが王者の座についてから、その衝動は自分の中に埋没していった。
退屈で、飽き飽きした。そう思ってしまうのは当然のことだった。
だからダンデは、ずっと待っていたのだ。
自分を打ち破る挑戦者が来ることを。
自分のチャンピオンタイムを終わらせて、チャレンジャーへ引きずりおろしてくれる誰かを。
「俺はもう玉座を守る王じゃない。ただの挑戦者だよ」
さきほどまで明るい笑みを浮かべていたコルニが、押し黙った。
きっと気おされたのだろう。
ダンデの瞳に宿る、狂気的なまでの闘争心に。
「今の俺はチャンピオンじゃない。ただのポケモントレーナーさ」
ダンデは自分の腕に、ベルトを装着する。
そのベルトには七色に光る石が埋め込まれている。『キーストーン』と呼ばれる、メガシンカを呼び起こすアイテムだ。
(ホップはどうしているんだろうか……?)
朗らかな表情をした弟の顔が浮かんだ。
あいつのことだ。きっと、ユウリと同じように順調にジム巡りをやっているに違いない。
だがそんなことはすぐに忘れた。
今のダンデにとって、弟のことですら些細な事だと思ってしまうぐらい、自分の熱に浮かされている。
「……ダンデさんは、ガラルの大会が始まるまでここで修行をしていく感じ?」
「いいや、まださ。ここでやるべきことをやったら、次の場所へ行く」
「次の場所?」
コルニが、きょとんと首をかしげると、ダンデはこう返した。
「────君は『Zわざ』というものを知っているかい?」
偽りの玉座に座り続けるのは、もうやめだ。
自分はたどりつく。本当の頂に。
それはあの