もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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2-9.仮面の騎士

 ユウリがそれを目撃したのは、ララテルタウンの北端、ルミナスメイズの森の入り口付近だった。

 

 

 

 ユウリの次の目的地は、アラベスクタウン。

 アラベスクタウンは、ルミナスメイズの森の奥地に点在している。

 そのため、ルミナスメイズの森を踏破しなければならない。

 

 舗装された歩道を進みながら、ユウリは、次のジムリーダー戦を頭の中でシミュレーションしていた。

 今回のサイトウ戦で、相手がカービィ対策を打ってきた。

 次のジムリーダーもそうしてくる可能性は大いにある。

 なら相手が弱点を突いてくることを想定して、こっちはその対策を……。

 

「ゆうり!」

「ん!」

 

 ユウリは珍しく自分の名前を呼ばれて、反応する。

 カービィの視線は、上空に固定されていた。

 何だろう、と思ってユウリも空を見上げると────。

 

「あれは……」

 

 黄色い軌跡が青空を斜め下へ横断する。そのまま森の中へ墜落していった。

 ねがい星だろうか? 

 ガラルでは各地で、ねがいぼしのエネルギーの結晶体が、赤色の流星として降り注ぐ。

 しかし今さっき見かけたあの軌跡は黄色だった。

 じゃあ、ねがい星でなければ、一体……。

 

「あれ、カービィ、ちょ、ちょっと!!」

 

 カービィがいきなりトテトテと駆けだした。

 だいたいカービィが突飛な行動を取るのには理由がある。

 ユウリはそれを知っているから、カービィの後を急いで追った。

 

 ルミナスメイズの内部は、まるで夜のような鬱蒼とした森だ。

 周囲に生えた光るキノコが、薄暗い森林内を淡く照らしている。

 カービィはスピードを落とさず、大樹の根をジャンプで飛び越えたり、草むらの中を突っ切ったりして、森の中を疾走する。

 内部に生息するギモーやベロバーに襲われないように、ユウリはむしよけスプレーを体に吹きかけた。それからカービィを追跡した。

 

 やがて、カービィを追ったユウリはある場所にたどり着いた。

 

 開けた雑木林。薄暗い森の中で、唯一、日の光が差し込んでいる、そんな場所だった。

 カービィは立ち止まる。

 カービィの視線の先。そこに、何かが落ちていた。

 

「これは……隕石の破片?」

 

 それは、黄色のかけらだった。わずかに淡く発光している。

 

「すたーろっど! すたーろっど!」

「スター……ロッド?」

 

 カービィが何やら叫んでいるようだった。

 ユウリは首をかしげる。

 何か聞いた覚えがある。そういえば、ワドルディシアターで鑑賞したカービィの映画でたしか……。

 

 その時、ばさりと羽音がした。

 

「久しぶりだな、カービィ」

 

 鋭い声が聞こえた。

 大木の上に、黒い影があった。

 

「ふむ、その少女が今回の冒険の、お前の仲間か」

 

 その影は木の上から、ユウリたちのいる地面へ降り立つ。

 そいつは、カービィやワドルディとよく似た、まん丸な体と短い手足。

 紺色のマントを羽織り、銀の仮面を被った、ユウリの知らないポケモンだった。

 

 

 ★

 

 

「ポ、ポケモンが喋ったぁ!?」

「……落ち着け、私はポケモンではない」

 

 仮面を被った謎のポケモンはそう否定するが、ユウリは信じられない。

 

「い、いや、そんなこと言われても、その体型は絶対に人間じゃないし……」

 

 それはそうだ。

 ポケモンは言葉を理解することできる。

 だが、人語を話すポケモンなど聞いたことがない。

 

「あ、あなたはなんなんですか? 伝説のポケモン?」

 

 仮面を被った謎の生物は、こう返した。

 

「……私はメタナイト。そうだな、今君の隣にいる彼と同じ故郷から来た存在だと思ってくれればいい」

「カービィと同じ……あ!」

 

 ユウリはこの仮面の騎士に見覚えがあった。

 あのカービィの映画で何度も登場していたキャラクターだった。

 てっきり、映画内の架空の人物だと思っていたが、どうやら実在するらしい。

 

「めたないと、めたないと!」

 

 カービィが嬉しそうに、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 あ、かわいい、この姿を写真におさめたい。

 ユウリは反射的にそう思った。

 

 カービィは、ワドルディと同じように、メタナイトのことも知っているらしい。

 

「じゃあ、ポケモンじゃなかったら、あなたは何者なんですか?」

 

 メタナイトの口から語られた言葉は、あまりにも荒唐無稽なものだった。

 

「我々は別空間にあるポップスターという惑星から、この地にやってきた」

 

 

 ★

 

 

「その、つまりカービィも、ワドルディも、あなたも、その別宇宙の……ポップスターという星から転移してきたということですか?」

「ああ、その認識であっている」

 

 ユウリは最初、その言葉を意味を理解するのに時間がかかった。

 別空間、ポップスター。異世界。

 カービィと出会ってから自分の人生や価値観は大きく変わってけれど、今回のように自分の常識が根底から覆される体験は初めてだ。

 

(だめだ……理解が追いつかない。……もしかして旅の疲れのせいで変な夢でも見てる?)

 

「えっと、まず、話を整理しますね」

「ああ」

「カービィやワドルディ、そしてメタナイトさんはプププランドという国の住人。

 プププランドは平和の国と呼ばれる場所で、そこにはポケモンはおらず、デデデ大王の統治のもと、様々な種族がそこで暮らしている……ということですか?」

「そうだ」

 

 まるでアニメや漫画のような話である。

 つまり、カービィは異世界から転移してきたポケモン……ではなく人間。

 そしてワドルディたちも、カービィと同じように向こうの世界から転移してきた住人。

 ユウリの中で、メタナイトの話と、ワドルディの街で見たカービィの映画が結びつく。

 あの映画の内容は。あれこそがカービィたちがいた世界なのではないか?

 

「どうして、あなたたちはこっちの世界にやってきたのですか?」

 

 ユウリの問いに、メタナイトは首を横にふる。

 

「わからない」

 

 とただ一言。

 

「わからない?」

「ああ、いつの間にかここに転移していた」

「原因に心当たりはあるんですか?」

「……今回のようにプププランドの住民が異世界に飛ばされるという事件は、ついこの間もあった。いちいち原因なんぞ考えてもどうしようもない」

「あなたたちの国って大変なところなんですね……」

 

 メタナイトとある程度言葉を交わすことで、ユウリはちょっとずつ話を飲みこむことができるようになった。

 余裕ができたユウリは、次にこう尋ねる。

 

「カービィは、いったいどんなポケモ……じゃなくて人だったんですか?」

 

 ユウリはすぐそばにいる、カービィに視線を送った。

 カービィはお昼寝の時間なのか、木の根元を枕代わりにすやすや寝息を立てている。

 

「一言でいえば、やつは私が知る中で最強の戦士だ」

「最強……」

「やつは能天気で、とにかく食いしん坊で、昼寝好き」

 

 それは、ユウリの知っているカービィ像そのものだ。

 

「だが、ひとたび平和が乱されると、こいつは自分の力を振るう。

 ありとあらゆる脅威がやってこようとも退ける。たとえ銀河の果てに目的地があるなら、こいつはその足でそこへたどり着く」

 

 こことは違う、遠い世界の出来事だから、ユウリは想像を張り巡らせるしかなかった。

 

「国ひとつ征服できる戦艦も、銀河最強の戦士も、人工彗星も、宇宙を滅ぼす邪神も、コイツには敵わない」

 

 カービィたちが暮らすプププランドは、平和の国と呼ばれる場所らしい。

 だが話を聞く限り、とても平和とは思えない。

 いっそのこと、危険の国デンジャラスランドとでも、改名してしまえばいいじゃないかとすら思う。

 

「ちょっと待ってください。……じゃあ、あの映画の内容って……」

 

 ユウリは、ワドルディの街で見たカービィの映画を思い出す。

 一気に数本の映画を連続で鑑賞したせいか、内容はかなり忘れているが、そこで描かれたカービィの冒険譚はメタナイトの語る話とやはり合致する。

 

 ユウリは映画について、メタナイトに伝える。

 

「なるほど、君が見たその映画のことだが、内容はおおむね事実だ」

「ほんとうだったんだ……」

「現に私もプププランドを征服しようとしたが、こいつにその野望を打ち砕かれてしまった」

 

 メタナイトの言葉に、ユウリはわずかに警戒する。

 

「あなたはカービィの敵なんですか?」

 

 ユウリは腰のポーチにとりつけた、モンスターボールに触れかけようとして──。

 

「待て、それは過去の話だ」

 

 メタナイトが宥めるように言う。

 

「たしかに、かつて私とカービィは敵同士だった。……といっても一方的に私が敵対しているだけだったがな」

 

 ユウリは、メタナイトから敵意がないことを感じとって、ボールから手を離した。

 

「昔は何度も戦いを挑んだが、そのたびに敗れた。それを何度も繰り返して、いつの間にか私とこいつは戦友になっていた。そうだろう、カービィ……?」

「ぷぷぃ……ぽよぉ」

「寝言でなにか言っている……」

「さしあたりで、夢の中でトマトでも食っているのだろう。まあいい、話を戻そう」

 

 メタナイトは、ユウリが手にしている黄色のカケラを指さす。

 

「今君が手にしているそれについてだ。私はその破片を回収するために、この地を放浪している」

「これはなんですか?」

「スターロッドのかけらだ」

 

 そういえば、とユウリは思い出す。

 たしかカービィの映画で、それっぽいものが登場してきたような。

 

「もしかして、このカケラはそっちの世界のもので、戻さないとかなりマズイものだったり?」

 

 メタナイトはユウリの問いにうなずく。

 

「ご明察だ。スターロッドは、プププランドの最果てにある、夢の泉のエネルギー源。

 夢の泉はプププランドの人々に夢を与える。だがスターロッドをなくせば、夢の泉は枯れ、夢を見れなくなったプププランドの住民は悪夢に支配されるだろう」

 

 あまりにも壮大な話すぎて、ユウリは話の内容を半分も理解できていない。

 

「人々の夢を守るために、スターロッドのかけらは全て回収しなければならない」

 

 ──夢。

 

 ユウリは、なぜか動揺した。

 メタナイトが言っているのは、眠ったときに見る夢。

 だけど、ユウリはもう一つの意味の『夢』を考えてしまった。

 

 ──自分には、夢がないのだから。

 

 ──だから、こんな空虚な心を埋め合わせるために、ポケモンバトルが好きになっただろうか?

 

「今、私はカケラを1つ持っている。君が拾ったそのカケラとあわせて、2つだ」

「……あ、はい」

「どうした? 気分でも悪いのか?」

「いえ、ちょっと色々情報が多すぎて、混乱しちゃったというか……」

 

 それもあるけれど、さっき自分の夢のことを考えて、変な気分になったせいだ。

 

 メタナイトはつかつかとユウリに近寄り、マントの裏に隠していたスターロッドのかけらを見せる。

 そしてかけらをユウリに手渡した。

 

「カケラは君とカービィに持っていてほしい。私より、カービィの傍にいる君の方が安全性は高い」

 

 その言葉に、異様な説得力を感じる。散々カービィの強さを傍で見てきたからだろう。

 

「君とカービィにもスターロッドの回収を手伝ってほしい」

「……具体的にどうすればいいんですか?」

「カービィは無限の力を持つ、星の戦士だ。カービィならば、スターロッドのかけらのエネルギーを感知することができるだろう」

 

 つまり、これまで通り自分はカービィと旅をすればいいのか。

 

「君がこの森で拾ったカケラがひとつ、私が手渡したものでふたつ……。スターロッドのカケラはもう4つある。私も捜索を続ける。君にもぜひ協力を頼む」

 

 メタナイトはマントを羽織り、踵を返す。ユウリはそんなメタナイトの背中に声をかける。

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 正直、わからないことだらけだ。

 情報量が多すぎて、いったん深呼吸して落ち着ても、頭の中は整理できなかった。

 なら、せめて、これだけは知っておかなければ。

 

「最後にひとつ聞きたいことがあります」

「言ってみろ」

「カービィってなにタイプなんですか? 特性を教えてください。専用技とかあるんですか?」

 

 メタナイトの瞳が仮面越しにこちらに刺さる。

 

「知らん、我々はポケモンではないからな」

 

 そう言い残して、メタナイトは去っていった。

 ユウリとしては、一番知りたかった情報だったので、残念な気分である。

 

 ユウリが隣に視線をうつせば、そこにはお昼寝中のカービィがいた。

 

(せっかく色々教えてもらったのに、……)

 

 ユウリにとってカービィは、初めて手に入れたポケモンで。

 自分にポケモンバトルの楽しさを教えてくれた、大切な存在で。

 

 だから結局ユウリにとって、カービィの世界や過去の話は興味深いけれど、大して価値はないのだ。

 

「もう……今日はぜんぜん起きてくれないね」

 

 いくらゆすっても、カービィは目閉じたままだ。

 メタナイトが言う通り、楽しい夢の世界にトリップしているのに違いない。

 

「しょうがないね……」

 

 ユウリは眠ったままのカービィを、そっと背負う。

 モンスターボールにカービィを格納できないので、こうしていくしかない。

 そのままユウリは、カービィを背中に背負って森の中を歩き始めた。

 

 

 ★

 

 

 背中にぽよんぽよんとしたカービィの感触を感じながら、ざくざくと森の柔らかい土を、シューズで踏みしめる。

 カービィをおんぶしたユウリが、光るキノコが照らす薄暗い獣道を進む。

 

「カービィって、やっぱりすごいんだね」

 

 ユウリは、背中ですやすや眠るカービィにそう言った。

 

「銀河最強の戦士とか、無限の力を持つ存在だとか……そう言われても、わたしにはわかんないや」

 

 けど、カービィは多分起きることはないので、ひとりごとのつもりだった。

 

「今までどんな冒険をしてきたのか、いつか君に教えてほしいね」

 

 きっとユウリの理解の範疇を越えた話だろう。

 

「あっ、けどカービィって『ぽよ』か『うい』か『はぁい』しか言えないから、どうやって昔の話を聞けばいいんだろう……」

 

 その時、ふいにユウリの足が止まった。

 

 もし、スターロッドのかけらを全部集め終えて、それでメタナイトが元の世界を帰る方法を見つけ出したとしたら────。

 

(カービィも、プププランドへ帰っちゃうのかな……)

 

 だって、カービィからすれば、突然異世界に飛ばされたようなものだ。

 カービィはあんななりだが、向こうの世界では一軒家を持ち、平穏な毎日を過ごしていたらしい。

 もしもユウリがカービィの立場なら、一刻も早く、自分の家に戻りたいと思うだろう。

 

(じゃあ、カービィは……)

 

 ユウリは、それ以上考えないようにした。

 だってそれを知ったところで、ユウリにはどうしようもないから。

 

「よーし! じゃあジムチャレンジ兼スターロッド集めをがんばりますかー!」

 

 気を紛らわせるために、そう自分に言って聞かせた。

 

 いつか別れが来るとしたら。

 それが避けられないものだったとしたら。

 はたしてその時、自分は笑って、彼を送り出すことができるのだろうか。

 

 それから数時間かけて、カービィを背負ったまま、ユウリはルミナスメイズの森を踏破した。

 ちなみにこれが原因で、ユウリは数日間、肩の筋肉痛に苦しめられたのだった。

 

 

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