もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
目が覚めたカービィは、そこがいつもの自分の家ではないことに気が付いた。
部屋は、おしゃれなアンティークで彩られている。この内装のセンスは、食べ物と昼寝以外興味がないカービィには持ちえない。
そしてカービィのすぐ横で、誰かが眠りについている。
「んんむぅ……」
寝息を立てている、あどけない少女の顔。
カービィは、眠っているユウリを起こさないように、ベッドから降りる。
カービィは思考する。
自分が降り立ったこの場所は、いったいどこだろう。
どうやらここはポップスターではないようだ。
この世界では、人間と、ポケモンと呼ばれる不思議な生き物が暮らしている。
銀河を旅したことがあるカービィでも、こんな場所は知らない。
ひょっとするとここは、どこか別次元の異世界なのかもしれない。
カービィは似たような経験をしたことがある。
少し前、カービィはプププランドで暮らすワドルディたちと共に、『新世界』と呼ばれる異世界に飛ばされたことがあった。
その時も、ワドルディたちを救出しつつ、巨悪を倒し、異世界の冒険生活を謳歌していたのだ。
その後、無事に『新世界』からプププランドに帰還できたことは、言うまでもない。
これから自分はどう行動しようか、とカービィは計画を練る。
やがて、あるひとつのプランを組み立てた。
……とりあえず、明日も美味しいゴハンをたくさん食べよう。
カービィは悩みのないヤツである。
雄大な正義の心を持っているわけでも、大きな葛藤に苛まれているわけでもない。
ただ毎日、気持ちよく昼寝ができて、美味しいご飯を腹いっぱい食べられたら、それで十分なのである。
とてもプランとは言えない、行き当たりばったりさだ。
しかしカービィは能天気な性格なので、これ以上複雑なことは考えられなかった。
★
「おっす、おっすー。おぉ! ユウリ、ついに自分のポケモンを捕まえたのか?」
「うーん、捕まえた⋯⋯のかな?」
あれから1週間がたった。
この1週間で、ユウリはカービィの行動に慣れつつあった。
毎回ごはんの時間になれば、手あたり次第ユウリ家の料理を食い尽くすのも、日の当たるウールー牧場でよくお昼寝しているのも、突然体を風船のようにふくらませて、ホバリングするのも。
その日は、ユウリの自宅に、幼馴染であるホップが訪れた。
ホップは、ここ1週間ほど旅行に出かけていて、つい先日ハロンタウンに戻ってきたのだ。だからカービィと対面するのはこれが初めてだ。
「へぇ、こいつ、色違いのプリンなのか……」
「違うよ、ホップ……」
「じゃあ、プリンの進化先のポケモンだったり?」
「それはプクリンだよ」
それからユウリは、ホップにカービィと出会うまでのことを話した。
するとホップは、興味津々にカービィに視線を送る。カービィは、こてん、と首をかしげながら、ホップを見つめる。
「よろしくな!」
「はーい!」
カービィは元気に手を挙げて挨拶する。
カービィはかなり温厚な性格だ。
初対面であるユウリの自宅にホイホイと付いて行くし。警戒心がとにかく薄いのだ。
悪い人に簡単に騙されてしまいそうで、ユウリは心配になる。
「ユウリのカービィは凄くいいポケモンだぞ。これで、ユウリも立派なポケモントレーナーだな!」
「ポケモントレーナーね……」
ユウリは、イマイチ実感がわかない。
カービィは、気まぐれにゴハンを食べて、お昼寝する。
手持ちポケモンというよりは、野良ニャースのように我が家に住み着いているだけだ。
ホップがはにかみながら話題を変えた。
「話が変わるけどさぁ、ユウリ、アニキがもうじき帰ってくるんだ。……あーあ、ジムチャレンジの推薦くれないかなぁ」
ウキウキと体を揺らしているホップに対して、ユウリは目を伏せた。
ジムチャレンジ。その単語が、ユウリの胸の中に落ちていく。
そんなユウリを、カービィは目をぱちぱちさせながら、見つめていた。
★
「久しぶりです。ダンデさん」
数日後、ユウリは、ホップの自宅に向かう。
ホップの家にあるバトルコートに、ホップと、隣にホップにどこか面影が似た男がいた。
様々な企業のロゴが刻まれたマントをたなびかせた、青髪の青年。彼こそがホップの兄──チャンピオンダンデである。
「懐かしいな、ユウリ。ずいぶん、大きくなったな」
「はい、もう何年も直接会っていませんでしたから」
「ところで、つかぬことを聞くが、君の足元にいるポケモンは、君のパートナーなのかな?」
ダンデの視線の先には、ユウリが連れてきたカービィがいた。
「この子は、カービィっていいます。あ! けど、本人がそう名乗っているだけで、種族名はわからないです」
「……すまない。見たこともないポケモンだったから、つい気になってしまったんだ」
「ダンデさんは、カービィのことを知らないのですか?」
「ああ、俺はポケモン博士までとは言わないが、そこらの一般人よりポケモンには詳しい。しかしそんな俺でも皆目見当がつかん」
ふたりの会話を聞いていたホップは、声を上げた。
「アニキも知らねえって、ひょっとしてカービィって相当レアなポケモンなのか!?」
「わからん、ただソニアか、マグノリア博士なら、カービィのことを分かるかもしれん」
ダンデが腕を組んで、つづけた。
「なにより、気になるのは……」
ダンデの目つきが、推し量るように鋭くなる。
「ぽよ?」
「そのポケモンは、俺のリザードンより強い」
「ダンデさんの、リザードンより……?」
ユウリは信じられない、と思った。
常勝無敗チャンピンダンデの、相棒であり、究極の切り札。リザードン。
ダンデのリザードンは、ガラル地方において、ポケモン勝負における強さの象徴なのだ。
そのリザードンより、すぐそばにいる、このまん丸ピンクの方が強い?
ホップも、ダンデの言葉が信じられないようで、目を見開いていた。
「冗談じゃないさ。これまで色んなポケモンと出会い、闘ってきた。だから、一目でわかったよ」
ユウリとホップは騒然としている一方、当の本人であるカービィは、相変わらずぽよぽよしている。
「まぁ、彼はポケモンバトルにあまり興味がなさそうだ。……さて、カービィのことは置いておいて、ユウリ、ホップ。俺が今日ここに来たのは、君たちにプレゼントを渡すためだ」
その後、ユウリは、ダンデからプレゼントを受け取った。
プレゼントとは、三匹のポケモンである。
サルノリ、ヒバニー、メッソン。
この三匹の中から、一匹を選ばなければならないらしい。
モンスターボールから飛び出た三匹を前に、ユウリは、迷う。
だが、すぐに迷いは消えた。
「ヒバヒバ」
「ぽよ!」
三匹のうち一匹の、ヒバニーが、カービィに興味を持ったのか近づいた。
ヒバニーが嬉しそうに、カービィの周りを飛び回る。どうやらヒバニーはカービィと仲良くしたいらしい。
カービィも「ぽよぽよ」とニコニコしている。
「決めた。ダンデさん、この子をください」
ユウリは、ヒバニーを選んだ。
仲良くしているカービィとヒバニーを見て、微笑ましくなったからだろうか。
その後、ホップがサルノリを選び、ダンデがメッソンを引き取った。
★
ヒバニーを受け取ったユウリは、自宅に戻り、自分の荷物をリュックに詰めて、ジムチャレンジに向けて準備を整えていた。
カービィはというと、ユウリの母が作った特製カレーラーメンに目を輝かせて、かぶりついている。
そこへ、息をきらしたホップが玄関口から現れた。
「た、たいへんだ、ユウリ! オレのウールーがまどろみの森の方へ行っちゃったんだ!」
ホップの話を聞くと、ホップのウールーが町の柵を壊して、まどろみの森に入っていったらしい。
どうしてウールーがそんなことをしたのかといえば。
<ドリのみ>という、ホウエン地方のみに自生する、とんでもなく苦い木の実をあやまって食べてしまったからだ。
ウールーは、<ドリのみ>の苦さに暴れ狂い、その勢いのまま、柵をぶち壊し、森の方へ消えていったのだ。
すぐさまユウリとホップは、ユウリ宅を出て、まどろみの森に足を踏み入れた。
もちろん、ふたりの後をトテトテとカービィもついていく。
「ウールー! おーい、ウールー! オレの声が聞こえているなら、答えてくれ!」
濃い霧に包まれた、薄暗い森の中。
ホップは大声をあげて、相棒であるウールーの捜索をしている。
ユウリも、周囲の草むらに目をこらし、ウールーの姿がないか探す。
そんなふたりの数歩うしろには、周囲をキョロキョロしながら歩くカービィ。
「ぽよ!」
カービィは突然、立ち止まった。
「カービィ! わたしたちから離れないで。カービィまで迷子になったら、大変だから」
「うい……」
ユウリがたしなめれば、カービィは、しゅん、と落ち込んだ様子を見せる。
その態度に、ユウリは罪悪感を覚えた。
「ごめんね、カービィ、きつく言い過ぎちゃった。どうしたの?」
「ぽよ!」
カービィは、短いまん丸な手で、ユウリ達とは全然違う方角を指す。
それから、トテトテとカービィは木々に囲まれた草むらの中を小走りした。
「ちょっと待って! カービィ!」
「ユウリ、カービィが何か見つけたんじゃないのか?」
カービィの後を追って、ユウリとホップは草むらを移動する。
その道中、草むらから野生のポケモンが飛び出してきた。
ホシガリス、ココガラ……どうにかこれらポケモンたちとのバトルを回避していく。
そして、ユウリたちはカービィの後を追うにつれ、さらに森の深い部分へ進んでいく。
森の奥地は、さらに鬱蒼としていて、夜のように暗かった。
それにゴーストポケモンが現れそうな、どこか不気味な雰囲気が漂っている。
ユウリは、怖くなって引き返したくなった。
カービィは、やがて立ち止まった。
どうしてカービィは突然走り出したのだろう。そしてここで走るのを辞めたのだろうか。
その疑問は、ユウリとホップが追い付いたところで判明する。
「メェ~」
「あっ、ウールー!」
そこに、ホップのウールーがいた。
ホップは、ウールーの元へ駆け寄り、抱きしめた。
その光景を目にして、ユウリはホッと息をつく。そしてカービィに対して、感謝の念があふれた。
「……いきなり走り出して、びっくりしたけど、ウールーの姿を見かけて、ここまで来たんだね」
そういったユウリは、カービィの頭をなでようとしたところで、手を止める。
カービィは、じっと見つめていた。
視線の先は、森のさらに奥。木々の影に覆われた暗闇だ。
そこには何があるというというのか。
その時だった。和やかな空気を打ち破るように、辺りに霧が立ち込める。
霧はどんどん濃くなっていき、ユウリの視界をふさいだ。
ユウリは唐突な濃霧の襲来に、混乱しそうになる。
「ユウリ、大丈夫か?」
「うん!」
「カービィも一緒にいるか? ユウリ?」
「いるよ」
ホップの呼びかける声と、すぐ近くにいるカービィのおぼろげな姿で、心が落ち着く。
「ウルォード!!」
ユウリの正面の方向から、遠吠えが聞こえた。
霧が少しだけ晴れて、視界が明瞭になる。ユウリの開けた視界の先に、何かがたたずんでいた。
「……あ」
そこには一匹のポケモンがいる。
痛ましい古傷がびっしりついた、シアン色の体毛の、巨大なオオカミのような姿。
カービィがここに来たのは、ウールーの存在に気が付いたわけではない。
目の前にいるこの存在を感知して、ここまで移動したのだろう。
――つわものポケモン、ザシアン。
『れきせんのゆうしゃ』と呼ばれるそのフォルムは、『くちたけん』も持っていない、かりそめの剣王の姿。
ザシアンの瞳は、静かにカービィを射抜いていた。