もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

24 / 25
3-5.挫折と再起と。

 ユウリは困惑していた。なぜなら────。

 

「……ユウリ選手、あなたのことをずっと待っていました」

 

 スタジアムの外を出た途端、ひとりの少年がこちらへ近づいてくる。少年は、まるで幽鬼のようにほの暗い雰囲気をまとっていた。

 

「えーっと」

「忘れられるものか……あなたに与えられた屈辱を、あなたのポケモンに刻まれた絶望を」

 

 ユウリは首をかしげた。

 なにかとんでもない因縁をつけられているようだが、あいにくこちらは身に覚えがない。

 

「ごめん……人違いだと思うよ? 君のこと全然わかんないや」

「っ!! ああそうでしょうね、あなたからすれば取るに足らない凡骨にすぎないのでしょう」

「ぼ、ぼんこつ?」

 

 親の仇のような目で、こちらを睨みつけてくるので、ますます困惑するしかない。

 

(もしかして、この人、俗にいうアンチってやつ!?)

 

 あまり自覚はないが、どうやら自分は結構有名人らしい。

 有名人にはアンチはつきものだというし……ということはこの少年は自分の……もしくはカービィのアンチということか?

 そうでなければ、少年が向けてくる異様なヘイトに説明がつかない。

 

「……僕はビート。第一鉱山でそのまんまるピンクに無残に敗北した負け犬。ええ、あなたにとってみれば、有象無象なのでしょうね」

 

 そこでようやくユウリは思い出した。

 そういえば、やたら偉そうな態度でこちらを見下してきたトレーナーと勝負したような。

 カービィが強すぎて、相手に申し訳ないと思った記憶がある。

 

「僕は特別なんだ……僕は委員長に推薦されたんだ……だからお前たちに負けたなんてありえないんだ……」

 

 ぶつぶつと呪文のように唱えたあと、ビートはこう言い放った。

 

「認めない。お前たちに負けたなんて、認めない」

 

 ビートは敵意を向けながら、手に持っていたモンスターボールを投げた。

 

「ガラルポニータ! 今度こそ僕が特別であることを示せ!」

 

 ビートはガラルポニータに指示を出し、攻撃を繰り出す。

 

「ちょ、ちょっと待って! 危ない! カービィ、よけて」

「ぷいっ」

 

 ガラルポニータは、ユウリの隣にいたカービィに向けてふみつけを放つ。

 カービィは後退し、攻撃を回避した。

 

「落ち着いてね。えっと、ビート君!? いきなり攻撃をしかけるのは反則だよ」

 

 ユウリがどうにか宥めようとするが、それがかえって相手に逆燐に触れたらしい。

 

「うるさい、うるさい。カービィ、カービィ、カービィ。みんながあなたと、あなたのポケモンを賞賛する! 虫唾が走って仕方がない!」

 

 それからビートは嘲笑を浮かべた。

 

「たしかにあなたのそのポケモンは特別な存在なのでしょう……。

 それは認めざるを得ません。

 けれど、あなた自身はたまたまカービィを手に入れただけで、所詮はカービィの強さにあやかっているコイキングのフン!

 本来であれば、僕より格下なのですよ」

 

 ひどい言いようだ。

 しかしユウリは、冷静に聞いていた。

 だってその暴言は、ユウリを傷つけるというより、何か必死にごまかそうとしているように思えたから。

 

(それにまあ、反論できない事実だし……)

 

 ビートの襲撃に、カービィはユウリに目配せしながら、戦いの構えをとっている。

 

「……カービィ、いいよ」

 

 ユウリは落ち着き払った声音でそう伝え、カービィを引き下がらせる。

 それからビートにこう提案した。

 

「カービィ抜きのわたしと君が勝負したら、君が勝つ……そう言っていたよね?」

「ええそうです」

「じゃあ、やろっか」

「は?」

 

 ユウリは、にこやかに笑みを浮かべた。

 

「わたしは、カービィ以外の手持ちで君と勝負をする。それでいいよね?」

 

 ビートは呆気にとらえた顔をしたあと、意気揚々とうなずく。

 

「あはは! いいでしょう! これでようやくどちらが上なのか見せつけることができる!」

 

 ひどい暴言を吐き、こちらを嘲笑する態度。

 はっきり言って相手にする義理はない。だが────。

 

(向こうから対戦を申し込んでくれる相手は久しぶりだからねー)

 

 自分から勝負を仕掛けるトレーナーはここ最近、ほとんど遭遇していない。

 というかユウリの方から申し込んだら、相手側がおこづかいを置いて、逃げていく始末。

 悲しい現実である。

 

 

 ★

 

 

「エースバーン、かえんボール」

 

 ユウリは淡々と命令した。

 

 跳躍したエースバーンが、火の玉をサッカーボールのように蹴りつける。

 対してテブリムは、エースバーンの俊敏さに対応しきれない。

 そのまま高速で迫りくる火の玉を喰らい、テブリムは一撃で戦闘不能となった。

 

「……ばかな、ありえない」

 

 ビートは呻き声をあげて、その場で崩れ落ちる。

 うなだれたビートのすぐそばには、彼の相棒であるテブリムが無残な姿で気を失っていた。

 

「なんだか、こっち悪者のような気分になってきた……」

 

 ユウリは、見事にテブリムを倒したエースバーンの頭をなでつつ、顔をしかめる。

 

 試合の結果は、ユウリの勝利で終わった。

 圧勝ともいえる試合内容だった。

 お互いに手持ちは5体で勝負し、ユウリ側は1体のみ戦闘不能で済んだ。

 ちなみに試合中、カービィは手持ちぶさたなので、ベンチに座らせて、近くの売店の「トマトダブルチーズバーガー」を与えれば、すなおに観戦してくれた。

 

「な、なぜ? カービィのいないあなたなんて、取るに足らない存在のはずだ!!」

「そういえばビート君って何個バッジ持っていたんだっけ?」

「……まだサイトウジムリーダーのところで止まっていますよ」

 

 そういうことか、とユウリは合点がいった。

 

「君はまだポプラさんを攻略していないんだね……」

 

 このビートという少年はバッジをまだ3つしか集めていないのか。

 

「ごめんね、君も悪くいうつもりはないんだけど、その……」

 

 ユウリは気まずさで目をそらした。

 

「はっきり言って、君のポケモンより、わたしのポケモンの方が強いから……」

 

 もしユウリが3つ目のバッジを所持している時点で、今のビートと戦えば、負けていた可能性はある。

 それにユウリは、手抜かりなく手持ちポケモンの育成をおこなっている。

 たとえカービィなしの実力でも、苦戦しつつもポプラは突破できていたに違いない。

 

「は、あはは」

 

 ビートは壊れたラジオのように、かすれた笑い声をあげる。

 

「色々事情があるみたいだけど……次の街にいかなくちゃいけないから、それじゃあ頑張ってね」

 

 ユウリはなにか声をかけてあげるべきではないか、と思った。

 だけど、どう話しかけてあげればいいか分からない。そもそも励ましても、相手を余計に怒らせるだけだろう。

 ビートから離れたユウリは、ベンチで観戦していたカービィへ歩み寄る。

 

「うわっ、カービィ、口にトマトの汁がついているよ!」

「ぱや?」

「ほら、拭いてあげるから」

「ゆうり!」

 

 ちらり、とユウリが振り返ると、その場にはすでにビートの姿はなかった。

 

(あの子、どこかに行っちゃったみたい……本当にこれでよかったのかな?)

 

 後味の悪さを感じた。

 けれど、自分にはどうしようもできないと思って、迷いを振り切った。

 

「いこっか、次の街に」

「はぁーい!」

「今晩は一緒に大盛カレーを食べようね。……そうすれば、ちょっとは気分が晴れるかな?」

 

 

 ★

 

 

 逃げ出すようにビートは、その場から走っていた。

 

 みっともなかった。

 恥ずかしかった。

 認められなかった。

 

 やがて息をついたビートは、道端でしゃがみこんだ。

 

「あはは」

 

 笑いがこらえきれなかった。

 

「わかっていました。わかっていましたよ」

 

 それは、自分の愚かさに対する嘲笑だった。

 

「僕は特別なんかじゃない……」

 

 いや、ずっと以前から自分は理解していたのだ。

 鉱山であのユウリが繰り出すカービィに敗北した時から。

 だけどそれを必死にごまかそうとして、だから今まであんなにユウリたちを否定してきた。

 

「けど、もう認めるしかないじゃないですか……」

 

 心がぽきりと折れた。

 自分は特別でもない。

 ただそう思い込んでいただけの、世間知らずのガキだったのだ。

 

 ビートはバッグから、一枚の用紙を取り出す。

 それはローズ委員長が直筆の、ジムチャレンジの推薦状だ。

 ビートにとって、かけがえのない宝物である。

 だが今や、その宝物が紙くずにしか見えないのはどうしてだろう。

 

「クソッ、こんなものっ!」

 

 ビートは推薦状をぐしゃぐしゃにして、放り投げた。

 推薦状を破棄するということは、ジムチャレンジを辞退するのと同義。

 もはやビートは、ジム攻略を進める気力も、チャンピオンの座に就く夢さえも、なくなってしまった。

 

「後継者を探して、ふらふらしていたら、とんでもない逸材を見つけたねぇ……」

 

 ビートは振り返る。

 背後に杖をついた老婆がいた。

 老婆は、シニカルな笑みを作った。

 

「あなたはポプラジムリーダー……」

「おやおや、若者に人気ってのは辛いねぇ」

「ええ、屈指の変人だという意味で、知名度は高いですがね」

「……冗談さ、真に受けるんじゃないよ」

 

 突然ポプラはビートに近づき、ぺたぺたと体に触れた。

 なんだこのセクハラババアは、とビートは不快感で眉をひそめる。

 

「ふんふん、いいねぇ、まさしくピンク色だ! 歪んでいるが、まっすぐさもある……ただ、今は歪みの方が大きくなっているがちぃっと気にかかるね」

「なんなんですか離れてください。人を触る趣味でもあるのですか?」

「合格だよ」

「は?」

「あたしの弟子になりな」

 

 ポプラの言動に、ビートは困り果てるしかなかった。

 

「けど、その前に、あんたのことを知りたい。今のあんたについて話してくれないかい?」

「別にあなたに話す義理はない」

「そうかもね、けど、そのままあんた1人で抱えていたら、潰れてしまうんじゃないかい? あたしにはそう見えるけどね」

「……」

 

 

 

 

 

 それからビートは、洗いざらいポプラに話した。

 自分が味わった絶望と挫折を。

 誰かに話せば、少しはスッキリできるかもしれないと思ったのだ。

 

「なるほどね、あのカービィっていうポケモンが怖いんだね」

「怖くありません」

「正直になりな。あんたがあいつについて話すたびに、声が震えて、目の焦点があっていないよ」

「あんなプリンもどきなんて……」

 

 ビートの話を聞いたポプラは、予想だにしないことを口にする。

 

「あたしも怖かったさ」

「へ?」

「あのカービィってやつを一目見た時、ついこう思ったんだ。『この化け物をどう倒せる?』ってね」

「なんですって!?」

 

 ビートにとって、予想外の言葉だった。

 ガラルの現ジムリーダーで最も年長者であり、歴代でもジムリーダーの勤続年数が最長と呼ばれる、ポプラがそう言ったのだから。

 

「だからね、あたしはユウリ選手を揺さぶって隙を作った。それしか勝機はなかったんだ。それに、まだあのまん丸ピンクは本気を出していない」

「本気を出していない……?」

 

 耳を疑うような話だ。もしそれが事実なら、救いようがないほどに絶望的だ。

 

「……すぐに分かったよ。カービィの方が、ユウリ選手の指示にあわせて動いているんだよ」

 

 ポプラは真剣に語る。

 

「きっとあのまん丸ピンクは、あの子のポケモンであろうとしているだろうね。それが却って、自分を抑えつけて、弱くなっているのは皮肉というべきか……」

「ふ、あの悪魔のようなプリンもどきがそれほどまでに強いのでしょう? なら、大人しく僕は夢を諦めた方がいい。どうせ勝てないのだから」

 

 ポプラと話して、ビートは余計に馬鹿らしくなってきた。

 自分がチャンピオンになるなんて、はなから無理だったのだ。

 

「本当にそれでいいのかい?」

「……」

「あんたはチャンピオンになって、ローズ委員長に認められたいんだろう?」

 

 諦めよう。

 そう口にしようとしたところで、ビートは口をつぐむ。

 

 どうしてだろう。

 なぜ、その一言が出てこないのだろう。

 

 いや……。

 

 絶望に覆われたはずの、自分の心にふつふつと沸き上がるものがある。

 

「終わってたまるものですか……」

 

 これはそう、悔しさだ。

 自分は今、あのユウリというトレーナーに敗れて、カービィという存在に絶望して、ひどく悔しがっている。

 

「まだ、僕は負けてはいない」

 

 くしゃくしゃにして路上に投げ捨てた推薦状を拾い上げ、ビートはよろよろと立ち上がる。

 そんなビートに対して、ポプラはこう告げた。

 

「あたしの弟子になるつもりは?」

「いいえ、あなたの手を借りるつもりはありません」

「……そうかい」

「チャンピオンカップへの挑戦権はある。まだ希望はあります。なら、強くなるしかない」

 

 ビートの瞳は、さきほどのように暗く淀んではいなかった。

 暗い瞳の中に静かに炎が燃え盛っている。

 

「強くなって、来るべきチャンピオンカップで、僕がユウリ選手とカービィをくだします」

 

 その宣告を聞いたポプラは、杖を突きながら、踵をかえした。

 

「旅には気をつけな」

 

 ビートは思う。

 ポプラの提案を受け入れて、弟子となっていたら、自分はどうなっていただろう?

 ゆくゆくは実力を伸ばし、アラベスクのジムリーダーの座を受け継ぐ……なんて未来もありえたかもしれない。

 そっちのほうが自分にとって正しい選択なのかもしれない。

 

 だが自分は違う道を選んだ。

 1人で強くなると覚悟をきめたのだ。

 

 ビートはふと、前を向く。

 

 そこには幻影がいた。

 自分にとっての絶望の象徴。

 あの恐るべきピンクの悪魔(カービィ)と、それを従える魔王(ユウリ)だ。

 

 手が震えた。足がすくんだ。喉がしめつけられた。

 

 けれど────。

 

「……今に見てなさい。かならず、あなたたちを倒してみせます」

 

 一歩踏み出して、歩いた。

 その歩みを決して止めることはなかった。

 

 




ビート君、フェアリー堕ちルート入らず、別ルートへ分岐。はたしてユウリ&カービィを倒せるか?
今回でアラベスクタウンのエピソードはおしまいです。次の町へさっさと進みます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。