もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
4-1.シュートシティ/再会
『なぁ、ユウリはさぁ、将来何になりたいんだ?』
ユウリは夢を見ていた。
『ユウリは、オレと同じでチャンピオンを目指すのか!?』
『うーん、どうだろ。あんまり興味がないや』
それは何年も前の昔の記憶だ。
『そうなのか!? なにか……こうなりたい職業とかあるんじゃないか? カレー屋さんとか』
『……そうかなぁ、カレー屋さんは悪くないかなぁ』
当時のユウリは、ぼんやりと口にするしかなかった。
『夢……とかよくわかんない。考えたこともないし』
なにかに憧れたことも、なにかの職業を目指したいと思ったこともない。
何者かになる、なんて考えたことすらない。
『そうか! なら俺はなってやるぜ! アニキより超えて、最強のトレーナーに!!』
当時のユウリは驚いた。
だって、自分はとてもそんな風に夢を語るなんてできないから。
『じゃあわたし、応援する! ホップがチャンピオンになるのを隣で見ているから』
幼馴染は夢を見ていた。
そんな幼馴染の姿が、まぶしく思えたのだ。
『それがわたしの夢だよ!』
それは夢じゃない。当時の自分は、きっと幼馴染の活躍を傍で見たかっただけにすぎない。
『おー、それはナイスな夢だぜ……ユウリが応援してくれるなら、アニキを超えちまうかなぁ!』
ああ、懐かしい。
そういえば、そんな口約束をしたっけ。
ホップのことだろうし、きっと忘れているだろう。
──今の自分はどうだろう? その口約束を叶えることはできたのだろうか?
「んんむぅ……」
ベッド付近の窓には、山脈の陰からうっすらと光があふれている光景がうつしだされている。
「すぅ……すぅ」
ユウリのお腹の上で、なにかがかすかに動いていた。
その何かへ視線をやって、ユウリは安堵する。
「ぷい」
それはカービィだった。丸模様のパジャマ帽子を被って、ぐっすりと就寝中だ。
「ああ、すっかり忘れてた……」
昨日の昼から、カービィはずっと眠ったままなのである。
原因は定かではない。
トマトカレーと一緒に、カービィがユウリの愛用している枕を吸い込んだ。
すると突然、カービィの頭にパジャマ帽子が現れて、その場で眠りだしたのだ。
そうして現在も、カービィは睡眠状態のままだ。
「……こうなったのも、能力のせい?」
ユウリはベッドの上に置いてあったバッグに手を伸ばし、もぞもぞと探る。
「あった」
取り出したのは、2つの物体。
スターロッドのかけらと呼ばれた、淡く発光する黄色の破片。
「勢いで承諾しちゃったけれど、本当によかったのかな……もしかして、自分ってかなりとんでもない状況に置かれているんじゃ」
ただ、このスターロッドとやらを集めないと、カービィたちの国が危機に陥るということはわかっている。
しかし、イマイチ実感がわかないというものだ。
「これも、カービィのためだよね」
自分と旅をしてくれている相棒のためなら、いくらでも苦労は買って出るつもりだ。
ごろん、と仰向けになって、ユウリは天井を仰ぐ。
「夢……かぁ」
スターロッドは、向こうの世界では人々に夢を与え守る、その源らしい。
実に皮肉な話だ。
夢を持たない自分。
そんな自分が、夢の源であるスターロッドを集めようとしているなんて。
★
アラベスクタウンを旅立ったユウリたち。
次の目的地は、6バッジ目のキルスクタウンだ。
そんな折、ユウリに電話がかかってきた。
「ソニアさん、どうしたんですか?」
お昼寝中のカービィを膝の上に乗せながら、ユウリはスマホを片手に、うんうん頷く。
「え! 近いうちに『ホップと一緒に集まらないか?』って! はい、ぜひ!」
どうやら近日中に、ソニアはワドルディの研究関係で、シュートシティに向かうらしい。
そのタイミングでホップもシュートシティに滞在するらしい。
そういった経緯で、久しぶりに3人で集まらないかといった話になったのだ。
「いやー、会うのが楽しみですね。今頃、ホップはどれくらい強くなっているんだろ」
その時、空いた左手が、なにかヌメヌメした感触に包まれる。
「……ん、なんだこれ、ってうわあっ、カービィ、わたしの手を食べないで!」
お昼寝中のカービィが、ユウリの左腕を口にいれて、もぐもぐしている。
「ちょ、わたし……吸い込まれちゃう? もしかしてカービィに取りこまれたら……死?」
★
シュートシティ、東地区にある、喫茶店『リンド・ロゼ』。
「ふたりとも! 元気にしてた!?」
ソニアはニコニコしながら、カフェラテをすする。
対面のテーブルには、カービィを膝に乗せたユウリと、ホップが着席していた。
「はい、ジム攻略は順調です、ソニアさん」
「もう5つ目のアラベスクを攻略したんだって? はやいねー、たぶん現役の頃の私だったら、まだ2バッジ目ぐらいだと思うよ」
「あはは、カービィがいるおかげですよ……」
気恥ずかしさに、ユウリはポリポリと頬をかく。
話題をそらすために、ホップに質問を投げた。
「えっと、そうだ! ホップは今、いくつジムバッジを集めたの?」
「3つだよ」
「……あ」
ユウリは少し気まずくなって、視線をそらした。
「いやー、サイトウさんが強くて苦戦しちまってな。ははは!」
「……」
「どうしたんだよ、ユウリ?」
「ごめん。なんだかマウント取るような言い方しちゃった」
「何言っているんだよ、ユウリの実力だろ!? それにユウリのポケモンとカービィが凄いってだけの話じゃん!?」
「そう、だね」
「まあ心配すんなって! すぐに追いついてやるからさ!」
カラカラと笑うホップを見て、ユウリは不安になったのが馬鹿らしくなった。
ソニアは面白そうに、肘をつく。
「……まあ、ホップ君の攻略スピードもかなり速いと思うわよ? というか今年のチャレンジャーは全体的にレベルが高いのよね。ほら、スパイクタウンのジムリーダーの妹でしょ? それに、ローズ委員長から推薦をもらったっていう子も。その二人も相当強いらしいわよ?」
「おお! 本当か! ライバルが多いってのはワクワクするな!」
「その年に1人いるかいないかレベルの注目株が数人もいるから、『今年はリーグ史上大豊作だ』って言われているもの」
ソニアは、ユウリにちらりと視線をよこした。
「まぁ、一番やばい扱いされているのが、ユウリ……というかカービィだけどね」
「あはは、期待に応えますよ」
自慢すればいいのか。
はたまた謙遜すればいいのか。
どう返せばいいのかわからなくて、ユウリは口ごもる。
「じゅーす! とまと!」
「ん? トマトジュースのおかわり?」
「はぁい!」
気まずい空気になりかけたが、絶妙なタイミングでカービィが声を出す。
ナイスカービィ、とユウリは心の中で感謝した。
ユウリがトマトジュースを注文する。
しばらくした後、まん丸の生き物がこちらに近づいてきた。
「わにゃ!」
店員の制服を身に着けたワドルディが、トレーを手にしてテーブルに歩み寄る。
トレーの上には、注文した通りの、トマトジュースだ。
どうやらこのワドルディは、カフェの店員として働いているようだ。
(なんだかすっかり馴染んでいるけど、ワドルディも向こうの世界から来た存在なんだよね?)
ソニアがこの姿を見れば、絶好の研究対象として食いつくだろう……。
「あれ、ソニアさんがいない……」
「ユウリ、あっちのほうだよ」
ホップが指さす先。そこにはメモ帳を片手に、目をギラギラさせたソニアの姿があった。
カフェの店長を呼び止めて、必死で聞き込みをおこなっているらしい。
「彼らはポケモンなのでは? 賃金も払っていると?」
「ええ、勤務形態もパートではなく、正社員として雇用しているのです」
「へえへえ、それはそれは」
ホップは呆れたようにため息をついた。
「最近、ソニアの奴、変なんだ。口を開けばワドルディワドルディ。ワドルディの研究のためって言っているけど……なんか妙なんだよ」
「うん、人それぞれ趣味趣向があるからそっとしておこうか」
その後、カービィがトマトジュースの飲みほしつつ、その傍らでユウリとホップは久しぶりに談笑して、時間はあっという間に過ぎ、解散となる。
カフェを出たユウリたち。
その直後、ソニアはこんなことを言った。
「本当だったら、ワドルディの研究じゃなくて、古代の伝承について調査するはずだったんだけどね……」
「古代の伝承……?」
「そう、元々おばあ様からその調査を依頼されていたんだけど、カービィとワドルディの論文発表の件で、流れちゃったの」
それはガラル地方における、古代の伝承だ。
ブラックナイトと呼ばれる、古来に訪れとされる厄災。
それを打ち払ったとされる、それぞれ剣と盾を持った二人の英雄の物語。
「もしカービィやワドルディがいなかったら、今頃、私は多分、ブラックナイトの伝承について調査していたかもね……なんて」
「歴史はあんまり興味ないですね」
「じゃあ、これはどうかしら?」
ソニアは自分のスマホロトムを取り出して、画面を見せてくる。
「キルスクタウンといえば……未知のポケモンの目撃情報があったみたいで。ほら、これよ、これ」
「ん?」
それは撮影した画像なのだろう。
画像には、見たことのないポケモンの姿があった。
そのポケモンは、デリバードっぽい顔で、まるで人間のようにガウンコートを身に着け、ハンマーを抱えていた。
「デリバードの進化系だ、とか『ガラルのすがた』だ、とか騒がれているのよ……わたしはカービィやワドルディ同様に、新種のポケモンだとにらんでいるのだけどね」
「なんだか最近、新しいポケモンがガンガン発見されるよな」
ホップとソニアが話し合っている傍で、ユウリは違和感を覚えた。
なんだろう、妙な既視感がある。
そう、メタナイトの時と同じように、自分はこの未知の存在をどこかで見たような……。
「ユウリ、ひょっとしたらキルクスタウン付近の草むらで遭遇するかもしれないわよ?」
ソニアがそう冗談めかすが、ユウリには冗談に聞こえなかった。
★
ソニアと別れたあと、ユウリはホップと並んで歩く。
その数歩先には、ぽてぽてとカービィが進んでいる。
前方にいるカービィの背中に癒されたおかげか、ユウリはある決心がついた。
「ねえ……ホップ」
「ん? どうしたんだよ」
ユウリは、少しためらったあと、こう聞いた。
「あのね、覚えている? 昔さ、わたしたち……」
────『じゃあわたし、応援する! ホップがチャンピオンになるのを隣で見ているから』
昔、交わしたあの約束は覚えている?
そう言いかけたけれど、口ごもった。
あんな口約束なんて、どうせ忘れているはずだろうし……。
「ゆうり」
ユウリは、ハッとして正面を見据えた。
カービィがぽよぽよとこちらに近寄る。心配していそうな顔つきだ。
(なんだか最近、カービィを心配させてばかりなような……カービィって色々ぶっ飛んでいるけど、案外気遣いできる子なんだよな……)
「大丈夫……ちょっと考え事をしていただけだからね」
そう言って、カービィの頭をなでるユウリ。
その様子をじっと見ていたホップは、少し黙り込んだあと、こう口を開いた。
「……そういやさ、昔、ユウリが言ってくれたこと覚えてるか?」
「え?」
「『オレがチャンピオンになるのを隣で応援する』……ってな」
ユウリは唖然とした。
それから胸が締め付けられるような気持ちと、じわじわと喜びが沸き上がる。
「覚えていて……くれたんだ」
「おうよ!」
「もうずっと昔のことだから、忘れていたんじゃないかって思っていて……」
ユウリが安堵の息をつくと、ホップは屈託のない笑顔を作った。
「約束したもんな。オレがチャンピオンになってやる! だからすぐに追いついてやるぜ」
「うん!」
覚えていてくれた。
あんな大したことのない口約束を、この幼馴染は。
それだけでユウリの心は満たされていた気分だった。
その後、ユウリとホップは久しぶりにお互いに話し合う。
自分たちの冒険の近況や、旅先で出くわしたこと。カービィについて。
一度口を開けば、話題はいくらでも出てきた。
(やっぱり……気のせいだったんだ)
エンジンシティでホップと出会った時、なぜか距離感を感じた。
だけど、今はそれを感じない。だからきっと気のせいだったのだ。
「ねえ、わたしたちって、これからもずっと幼馴染だよね?」
別れ際、カービィと手を繋ぎながら、ユウリはホップへそう尋ねた。
なんとなくだった。
ホップは一瞬だけ目を丸くした。
「……何言ってるんだよ」
それから、いつものように屈託のない笑顔を浮かべる。
「当たり前だろ!」
その言葉に、ユウリの胸が温かくなる。
だけど、違和感はぬぐえない。
なぜなら、その場を離れる直前、ホップは一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべていたのだから。
今回の章のメインはホップ君です。繋ぎ回なので、ちょっぴり退屈な内容だったかも。
カービィ側の転移の影響で、ソニアは原作とは異なり、ワドルディの研究に勤しんでいるようです。
ザシアンザマゼンタにつながるイベントが全部潰れてしまいますね。どうなるのでしょう