もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
シュートシティを出発したユウリは、北西にある7ばん道路と8ばん道路を経由し、キルクスタウンへ向かった。
キルクスタウンに近づくにつれ、気温が下がり、雪が降り始めた。
雪の中でも、ユウリはいつものようにポケモンたちを鍛えながら街へ向かった。
この寒さの中、外をかけまわるのは、ユウリにとって辛いものであるが、ポケモンの育成に手を抜くつもりはないので、我慢するしかない。
「……カービィ、寒くない?」
「ぷや?」
ふと、ユウリは冷静にツッコミをいれる。
気温がマイナスを下回る場所だから、手持ちポケモンでさえ寒そうにしている。
だがカービィはいたって平然としていたのだ。
(んー、まあカービィだし、寒いとか熱いとか感じないのかもね)
とりあえず「カービィだから」と一度考えれば、ユウリはそれで納得してしまうのだった。
★
キルクスタウンにたどり着いたユウリは、息をのんだ。
雪国の街。しんしんと雪が降り積もり、その中心地には、『英雄の湯』と呼ばれる巨大な温泉がある。
「ちょっと観光しようかな……」
雪国の景色に、ユウリはみとれる。
いつもならそのままジムに直行するはずが、観光したいと思わせるほど、キルクスタウンは美しい町なみだった。
その時である。ユウリは街の人混みの中に一瞬、見知った人物の姿を目にする。
「ん……ホップ?」
青髪の少年の後ろ姿……遠目なのではっきりと判別できないが、おそらくホップだろう。
「あれ、なんでホップがキルクスタウンに来ているの……? たしかララテルジムを攻略中だったはずなのに」
おかしい。
なにか用事でもあって、キルクスタウンに訪れたのか?
「うーん、気のせいかな? 後ろ姿だし、人違いだったかも……」
ユウリは首をかしげながら、この件は水に流すことにした。
その後、ユウリはカービィをつれて、街の中をめぐる。
街の中を見て回ったり、実家にいる親に送るためにお土産を買ったり、料理屋の食べ放題で、カービィが店の食材を食い尽くしてしまったり……色々ありつつも、ユウリにとっていい気分転換となった。
それからユウリたちは、キルクスジムのスタジアムへ向かうのだった。
★
ホップは、周りの声を聴いた。
「わたし、カービィのお面を買っちゃったぁ」
「ユウリ選手のサイン欲しいなぁ。カービィと写真撮りたいー」
カービィ、カービィ、ユウリ、カービィ、カービィ、カービィ、ユウリ。
……みんなの話題はそればっかりだ。
「ねえねえアタシおこづかい溜まったし、みんなでワドルディの街に遊びにいようよ」
「いいねー」
ホップは、耳栓をするようにイヤホンを挿して、その場から静かに離れた。
いつから、こんなことになってしまったのだろう。
あの開会式の時から、ユウリとの距離がどんどん離れていっているように感じる。
自分はなにか大きなうねりのようなものに飲み込まれかけている。
ホップは、そんな感覚を味わった。
日が経つにつれ、カービィと、それを所持するユウリは加速度的に有名になっていった。
当初は物珍しさや可愛らしさが注目されていたが、やがて人々の関心は、その異常な強さと多彩な能力へと移っていった。
カービィを知った者は、あまりの異質さに誰もがこう思う。
──いったい、このポケモンはなんなんだ?
いつしかユウリがジムで試合を行うたびに、現地のスタジアムが湧き、ネットでも異様な盛り上がりとなっていった。
(……どうしてこうなっちまったんだろう)
いつもぼんやりとしていた幼馴染が、気が付けば巨大な台風の目となっている。
その頃からだろうか。
自分は、その台風の中心に近づけず、ずっと遠くから眺めているような気持ちだ。
『あの子、カービィのおまけでしょ?』
ポケッターをスクロールすれば、そんなコメントが目についた。
『強いポケモンを持っているだけで、チヤホヤされてイキっているだけだろ』
有名になるということは、その分だけ、ユウリに対する批判や誹謗中傷が集まるということだ。
「……こいつらは、ユウリの何を知っているんだよ」
ホップは不快なあまり眉をひそめた。
「どうしてそんな風にがんばっている他人にケチをつけられるんだ?」
沸き上がったのは、怒りの感情だった。
幼馴染が、大勢の悪意を受けていることが許せなかった。
けれどそれと同時に、ホップはまた違和感を感じる。
見ず知らずの誰かに悪意を向けられるほど、ユウリは多くの人に知られている。
自分はそうじゃないのに……。
「聞いて、聞いて! ユウリ選手がこの町に来たんだって! ジムにチャレンジ中だってさ!」
「カービィとツーショット取れるかなぁ?」
少し離れた場所で、ホップはイヤホンをはずす。
現在、キルクスタウンはユウリたちの来訪で色めき立っているらしい。
ホップがキルクスタウンに来た理由は、ユウリの試合を観戦するためだった。
本来なら自分のジム攻略を進めるべきだろう。それでもユウリの試合をこの目で見たくて、わざわざシュートシティから足を運んだ。
ホップは腰のホルダーから、相棒のウールーが入ったモンスターボールを取り出した。
──『わたし、応援する』
──『ホップがチャンピオンになるのを、最強のポケモントレーナーを、隣で見ているから』
──『それがわたしの夢だよ!』
もうずっと昔の思い出だ。
それは、自分の夢を支える大切な源。
『兄のダンデを越えて、最強のポケモントレーナーになる!』
そう口にすると、みんな、どこか信じていないような目で見てくる。
だけど、ユウリだけは自分の夢をまっすぐに信じてくれた。
そうして今も夢に向かって、『最強のポケモントレーナー』へ至るために、走り続けられる。
「くよくよすんなって!」
ホップは自分の両頬をぱちん、と叩いた。
歩く先は、キルクスタウンのスタジアムだ。
「ユウリの隣にいるのは、オレだからな! あいつの活躍をこの目で見届けてやるぜ……」
心なしか、その笑い声は無理やり絞り出したように聞こえた。
★
スタジアムの2階にある、スタンド席にたどりついたホップは、空席がないか探した。
しかし、どこも人で埋まっている。ユウリの試合を知ったファンたちが殺到したのだ。
仕方がなく、ホップは立って観戦することにした。
人波の切れ目に、かろうじて立てる場所があった。
そこは通路である。
ただ、人が行き交うために空けられたはずの細い隙間に、いつの間にか観客が折り重なるように立っていた。
(……まるでスターみたいだな)
昔、ダンデの試合を観戦しにいったとき、これぐらいの盛況ぶりだった。
1人の選手にここまで人々が注目するのは、おそらくダンデ以来なのではないか。
ホップは人の波に体をすべりこませる。そこから顔を突き出し、どうにかコートを視界におさめる。
(それにひきかえ、オレはどうなんだろうな……)
自分とユウリは幼馴染だ。旅の始点では、同じところからスタートした。
きっと自分たちは、おたがいに切磋琢磨して、ポケモントレーナーとして成長していく……はずだった。
それがどうして、ここまで大きな差が開いてしまったんだろう。
スタジアムの情景がうつる。
円形状の氷のフィールド。その中心にあるのはバトルコート。
コートの両端には、ジムリーダーのメロンと、ユウリとカービィがいた。
観客たちの熱気が静かに高まっていく。そんな熱狂の渦の飲みこまれがら、ホップは試合の光景を眺めるしかなかった。
試合が始まった。
最初にメロンが繰りだしたポケモンは、モスノウ。
対してカービィは、ユウリの指示に従い、あらかじめ持たせていた<きあいのタスキ>をのみこむ。
スタジアム全体が、おおっ、という観客のどよめきに包まれる。
カービィの姿が変身する。
(……あれは、かくとうタイプか?)
深紅のハチマキを頭に巻きつけたその姿は、さながら、ファイターのようだ。
そこからの、試合の展開は一方的なものだった。
モスノウが動き出すより早く、カービィがわざを繰り出す。
青色のエネルギー弾……おそらくはどうだんだろうか。
回避する暇もなく、はどうだんはモスノウを打ち抜く。
モスノウはそのまま動かなくなった。
(強ええ……)
強い。
ただ、ひたすらに強い。
モスノウはこおりとむしの複合タイプ。かくとう技ならば等倍になるだろうが、それでも一撃でモスノウの体力を削り切った。
スタジアムがざわっと、盛り上がった。ホップは会場内の異様な熱気に圧倒されかける。
次に、メロンはコオリッポを繰り出す。
コオリッポは、こごえる風を呼び起こし、カービィを攻撃する。
しかし俊敏な動きで回避したカービィ。肉薄したコオリッポをそのまま上空へ放り投げ、自身も跳躍し、上昇しながらアッパー攻撃をおこなう。
コオリッポはコートの外まで吹き飛ばされて、戦闘不能となった。
「カービィ! カービィ! カービィ!」
「ユウリ! ユウリ! ユウリ!」
盛り上がりは最高潮に達し、観客たちはコールを連呼する。
(なんだか……気分が悪くなってきたな……)
あそこで戦っているはずの幼馴染が、自分の手の届かないずっと遠くにいるような気がする。
──ユウリ、すげえぞ!
そう言いたかった。
なのに、声が出ない。
本当は応援したいはずなのに。
ユウリはすごい活躍をしている。
自分も声を出して、応援をするべきなのだ。勝利しているのだから、喜ぶべきなのだ。
「なんでだよ……」
だけど、ホップはその場で、ただ立ち尽くすことしかできなかったのだ。
カービィが圧倒し、勝利を重ねるたびに、観客たちは湧く。
膨れ上がっていく歓声。拍手の音。叫ばれるコール。
それらがすべて、壁のように感じるのはどうしてだろう?
試合はものすごい速度で進行……いや、蹂躙されていく。
メロンの3匹目であるガラルヒヒダルマも、カービィによって、なすすべなく一撃で沈められた。
そしてついに最後の手持ちであるラプラスを繰り出したメロン。ラプラスをキョダイマックスさせて、カービィに猛攻をしかける。
だがユウリの指示により、ワープスターに乗ったカービィは、ラプラスの攻撃をさばきながら、反撃といわんばかりに、拳による連撃をくらわせる。
ラプラスが崩れ落ちた。
「……あ」
その時、ホップの中で何かが壊れる音がした。
だけど必死に取り繕うようにつぶやいた。
「やっぱり強えな……カービィのやつ。おめでとう、ユウリ」
★
「うーん、だめだったなぁ……」
「ぽよ?」
「あ! カービィ、気にしないでね、別にカービィがダメだったとかそういうわけじゃないから」
「はぁい」
ジムリーダーのメロンとの試合を終え、キルクスジムのバッジを手に入れたユウリは、カービィを引き連れ、スタジアムを出た。
ユウリは試合の勝利に喜ぶこともなく、どこか浮かない顔をしていた。
「どうすれば、あれを再現できるんだろ……」
前回のポプラ戦でゾーンに到達しかけたユウリは、今回のメロン戦で、そのきっかけを掴もうとしていた。
しかし、結局それは叶わなかった。
メロンは、ポプラのようにカービィに対して対策をおこなわず、あくまで通常の手持ちポケモンで試合をおこなったからである。
(あの時、どうしてああなったんだろう?)
あの瞬間をどうすれば引き出せるのか。それがまったく分からない。
(もしかして、ダンデさんの時は、まぐれなのかな……)
──『あんたは本当の意味でポケモントレーナーとして成長できていないのさ』
ポプラの言葉を思い返した。
もしかしたら、それが原因なのだろうか?
「本当の意味でのポケモントレーナーとしての成長……か」
その成長とやらを果たしたあと、自分はあの瞬間にたどりつけるだろうか?
いや、それも定かではない。
ユウリは悶々としながら、街の中を歩いていると、なにかが目の前を通せんぼしていることに気づく。
「……ん?」
そいつは、ユウリの隣にいるカービィに視線を寄こし、野太い声でこう告げた。
「久しぶりだな、カービィよ」
ユウリは瞠目する。
でっぷりとした腹に、ガウンコートを身に着けた人間のような体型。
だがその顔立ちは、人間のものではなく、デリバードみたいな鳥ポケモンのようだった。
間違いない。ソニアが言っていた新種のポケモンとは、この生物のことだろう。
「デリバードの進化系……?」
「なにが『デリバードの進化系』だ!」
「……う、うわ! しゃべった!!」
「不敬なやつらばかりだ。おれはデデデという名があるのに」
ん? あれ? このくだり、何回目だろう?
そう、このデリバードもどきの謎の生命体。
ユウリはずっと以前に見覚えがある。あのワドルディの街で鑑賞したカービィの映画。あの作中内で登場する人物とそっくりだ。
「ででで! ででで!」
カービィが嬉しそうに、ぽよんぽよんと飛び跳ねる。
「ふん、相変わらずお前はのうてんきに過ごしているな、カービィよ」
ぼすんぼすんと足音を鳴らし、デデデはカービィの頭を掴みあげてぶんぶん振り回す。
乱雑な扱いだが、彼なりのスキンシップなのだろうか。
「この星の連中は変なやつらばかりだ。『デリバード』だとか訳の分からん名前を付けてくる! しかもモンスターを従えて襲いかかってくるわ、おまけにヘンなボールを投げつけてくるわ、散々だ……」
カービィを放したあと、デデデは、うっとうしそうな顔で文句を垂れていた。
「あの……えっと、もしかしてデデデさんは、カービィと同じようにプププランドから来られたのですか?」
「来た!? できればこんなおかしな世界なんぞ迷い込みたくなかったわ」
「あの……いろいろとお疲れ様です」
「ぷいや!」
ユウリは同情せざるをえない。
きっとこの人は突然異世界に飛ばされて、苦労しているのだ。……デリバードの進化系扱いされて。
カービィも労いの声をかけていた。
「カービィと知り合いなのですか?」
「知り合いもなにも、こやつとは因縁の仲だ」
メタナイトと同様に、やはりデデデもカービィと面識があるようだ。
「あなたは何者ですか? ……カービィの敵ってわけではなさそうだけど」
「おれはプププランドを治める大王だ。そう! 一目見てわかるだろう! このカリスマ性あふれる面影! 王のような貫禄ある出で立ち!」
「うーん」
本当に、この人が一国の王様なのだろうか。
仮にこんな人が統治しているプププランドは、国の法制度や政治体制はどうなっているのだろう?
「……カービィ。プププランドって、ちゃんとした国なの?」
「ぽよ?」
「いや、なんでもない」
これ以上聞くのはやめておこう。ユウリはそう判断した。
「……あれ、デデデ大王さん、その手に握っているものって」
ユウリはあることに気が付いて、指さす。
指で指し示した先にあるもの。
デデデ大王の手には、スターロッドのかけらが握り締められていた。
デデデ陛下の参戦です。