もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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1-3.まどろみの森

 ザシアンは、じりじりとユウリ達と距離を詰めてくる。

 

「ユウリ! こいつ、襲ってくるぞ!」

「戦おう、ホップ。お願い、カービィは危ないから下がっていてね」

 

 ユウリの脳裏によぎったのは、カービィの様々な姿。

 例えばいつも美味しそうにごはんを食べているカービィ。あるいは、うとうとお昼寝しているカービィ。

 小さなピンクボールの体に、穏やかな性格。とても戦えるとは思えない。

 いや、それどころか戦ってほしくないのかもしれない。

 

 だからユウリは、カービィが戦いに巻き込まれないように、後退させようとした。

 それは、ユウリの優しさによる判断だった。

 

「ぽよ……」

 

 ユウリの真剣な言葉に、カービィは大人しく従う。

 

 ユウリとホップは、バッグからモンスターボールを取り出し、放り投げる。

 それぞれ、ユウリはヒバニーを、ホップはサルノリを繰りだした。

 対して、ザシアンは静かにたたずんでいる。どこか威厳のあるような、それでいて幽霊のように存在が不確かだ。

 

「ヒバニー! ひのこ!」

「サルノリ! えだづきだ!」

 

 ヒバニーとサルノリは、わざを繰り出す。

 しかし、その攻撃は全く意味をなさなかった。

 両者の攻撃は、ザシアンの体をすり抜けていく。

 

「えっ、こいつ、わざが効かないぞ?」

 

 ホップのつぶやき声の通り、それから何度攻撃を浴びせても、ザシアンの体を通り抜けていく。

 まるで幽霊のようだ。これでは、倒せることなどできない。

 ユウリは、気が付く。

 あのポケモンは、自分たちなど眼中にはなく、その目はカービィを捉えている。

 カービィが、狙いなのではないだろうか。

 

「──ウルォード!!!!」

 

 ザシアンが、再び、遠吠えをした。

 すると、ザシアンの反対側の方角──先ほどユウリたちが通ってきた方角から、何かが姿をあらわす。

 ザシアンと双子のようにそっくりなオオカミの姿。ただ、その体色は正反対のように深紅だ。

 ──つわものポケモン、ザマゼンタ。

 ザシアンと同じく『れきせんのゆうしゃ』のフォルムで出現したザマゼンタは、ユウリたちの逃げ道を塞いだ。

 

 

 ★

 

 

 カービィにとって、『戦う』というのはどういうことだろう?

 これまでカービィは数多の冒険を繰り広げてきたが、その中で強敵と戦うのは、もはやお約束である。

 

 悪夢の化身。

 闇の一族に連なる者たち。

 道化師。

 銀河最強の剣士。

 魔法の鏡に巣くう魔物。

 異星の船の操者。

 天空の女王。

 機械会社の支配人。

 破壊の神。

 旧世界の侵略者。

 

 数えれば、きりがない。

 いつのまにかその者たちと対立し、打倒し、世界を救ってしまっているのだ。

 カービィは、戦いを好まない。

 美味しいゴハンとぐっすり寝られたら十分なのだ。

 

 ──ではどうして、カービィはいつも巨悪と対峙しているのだろう?

 

「ホップ! わたしのヒバニー、もうひのこが撃てなくなっちゃった……」

「ユウリ……サルノリも、えだづきする体力がなくなっちゃったぞ」

 

 カービィの目の前で、戦いがおこっている。

 ユウリのヒバニー。そしてホップのサルノリは、何度も攻撃を放つ。

 しかしザシアンとザマゼンタには全く効かない。どんなに力をこめたわざも、彼らの体を透過していく。

 ホップはウールーにも指示を出して、わざを出させる。

 だがやはり、攻撃は無効化される。

 

 そんな応酬がずっと続き、ユウリとホップのポケモンたちは、スタミナを消耗し、ついにわざが出せなくなった。

 ひのこも、えだづきも、たいあたりも……もはやその場で『じたばた』するしか戦う術がないほどに。

 では、撤退すればいい話だろう。

 しかしそれは不可能である。

 逃げようにも、元来た道にザマゼンタがたちふさがっている。

 

「カービィ、逃げて!」

 

 ユウリは、カービィにそう叫んだ。

 どうやら、ユウリは気が付いているらしい。

 ザシアンとザマゼンタの目的は、カービィなのだろうと。

 

 そしてそれは、カービィも感づいている。

 おそらくカービィという、異なる世界から迷い込んできた異物に、彼らはひどく警戒しているのだ。

 

 ユウリのヒバニーが、その場でへたりこんだ。

 ホップのサルノリが、息を切らして硬直する。ウールーは、疲れて鳴き声すら上げられないようだ。

 

 カービィの胸に去来したのは、ある疑問だ。

 

 ──なんのために、自分は戦ってきたのだろう?

 

 美味しいゴハンを食べるため?

 キモチよく眠れるため?

 平和な毎日を過ごすため?

 

 いや、そのどれでもなかった。

 自分の目の前に、困っているヒトがいた。

 そのヒトを助けてあげたいと思った。

 ただ、それだけのことだった。

 

 そして、この世界にやってきても、カービィの考えは変わらない。

 

「ぽよ!!」

 

 カービィは、ぽてぽてと前に進み、ユウリとホップに並びたつ。

 

「カービィ……逃げてっていったでしょ!!」

 

 怒鳴るユウリに、カービィは振り返って、ほほえんだ。

 悲しんでいるヒト。

 困っているヒト。

 そんなヒトたちにどう言ってあげればいいのか、カービィには分からない。

 カービィは、深く考えることができないし、そもそも喋ることができない。

 だから行動で、その悲しみも苦しみも、晴らそうと思うのだ。

 

 カービィは、口をいっぱいに開ける。

 

「スォォォォ!!」

 

 ほおばり吸い込みをするカービィ。まるでブラックホールのような口が、周囲にあるものを吸引していく。

 やがて引き寄せられた石ころがひとつ、カービィの口の中に入る。

 カービィの姿が変化する。頭頂部に岩の形をした被り物が現れる。

 それは、カービィをカービィたらしめる、唯一無二の力。

 コピー能力だ。

 

 コピー能力『ストーン』となったカービィは、今度は逆に、ユウリとホップをかばうように、前へ出た。

 そしてカービィは、燃えるような闘志を相手に浴びせる。

 それに対して、ザシアンとザマゼンタは、同時に遠吠えをする。

 

「──ウルォード!!!!」

 

「──ウルゥード!!!!」

 

 

 すると、不思議なことにザシアンとザマゼンタの姿は、消えてしまった。

 そう、あれは彼らが生み出した幻影だったのだろう。

 だからユウリたちがいくら攻撃しても、効かなかったのだ。

 そして逆に彼らが攻撃してこなかったのは、実体のない幻影だったからに違いない。

 

 ならば、本体はどこにいるのか。

 

 空気が、異様なほど研ぎ澄まされている。

 息もつかせぬような緊張感と、見えない相手の敵意が充満している。

 

 その緊迫した空間は、一気に破裂する。

 カービィの右側面と、左側面から、黒い影が飛び出してくる。

 それは本体である、ザシアンとザマゼンタ。

 カービィに肉薄した、ザシアンは<アイアンヘッド>を、ザマゼンタは<かみくだく>を繰り出す。

 

 

 ★

 

 

『そのポケモンは、俺のリザードンより強い』

 

 ユウリは、その言葉を全く信じてはいなかった。

 だってそうだ。

 カービィは、まるっこくて愛くるしい見た目をしている。

 たしかに、見た目に反して強いポケモンなどいくらでもいる。

 しかしカービィはいつもお昼寝して、ごはんを食べるばかりで、のほほんとしている。

 

 そんなカービィが強いわけがない────。

 

 だが、その考えは一瞬で覆された。

 

 ユウリの目の前に、マッスルポーズをしたマッチョな男の石像が、そこにはあった。

 そしてそのマッチョの石像に、頭をぶつけているザシアン。牙でかじりつくザマゼンタ。

 相手の攻撃がぶつかると同時に、カービィは突然、あの石像に変化した。

 そして敵の不意打ちを見事にガードしてみせた!

 

 石像から、元の姿に戻ったストーンカービィは、跳躍し、またもや別の姿に変化する。

『8t』と表示された巨大な台形の重りに。

『8t』の重りとなったカービィは、ザシアンらにめがけて、落下する。

 すぐさまザシアンとザマゼンタは、バックステップし、衝突を回避した。

 重しになったカービィが地面に激突し、どすんと、地響きを起こす。

 

 変化を解いたカービィは、木々の間を俊敏に駆け抜ける。

 その後をザシアンとザマゼンタは、疾風のような速度でカービィを追走する。

 それから、戦いは過熱していく。

 ザシアンとザマゼンタが地形を生かし、あるいはさまざまな攻撃を織り交ぜる。一方カービィはそれらを防ぎ、反撃する。そしてザシアンたちはそれを回避する。

 

 三者は、それぞれ拮抗しているようだ。

 

「すげぇ……」

 

 そう声を漏らしたのは、ユウリの隣にいたホップ。

 ホップは放心しているようだ。

 

 ユウリ自身も、驚きに包まれている。

 カービィには、あのような能力があったとは。カービィがあれほど強かったなんて。

 それ以上に、ユウリは鳥肌が立つ。

 

(さっきのカービィの攻撃はいったい、どんな『わざ』なんだろう?)

 

 ユウリは考察した。メタモンやドーブルが使うような<へんしん>だろうか?

 いや、<へんしん>は相手ポケモンに姿を変えるわざだ。あのようなものではない。

 

 戦いは、激しさを増していく。

 カービィは<ストーン>を解除する。そして、もう一度吸い込みをする。

 すぐ近くにある木々の葉っぱが、カービィの口に入れば、カービィの頭に大きな葉っぱを付けた冠が現れる。

 カービィは、コピー能力<リーフ>となった。

 

「えいっ!」

 

 そんなかけ声とともに、カービィは、木の葉を空中に生成し、ザシアンたちに向けて放つ。

 

「ワゥッ!」

 

 無数の木の葉が、手裏剣のようにザシアンとザマゼンタに迫る。

 それをひらりひらりと、避ける2匹。

 そこへ、木から木へとジャンプしたカービィが、上方向から<リーフみだれうち>をする。

 5枚の、鋭く巨大な葉っぱが、2匹に襲いかかる。

 前方向から攻撃に集中していた2匹は、カービィの奇襲をよけられず、かすり傷を負う。

 

(あのポケモンたちは、おそらく……ダンデさんのポケモンたちよりずっと強い)

 

 そして、あの2匹と拮抗しているカービィも。

 

 それから戦いの中で、カービィは何度も姿を変えた。

 水たまりの水を吸い込んだかと思えば、頭に水を乗せた冠が現れた、水を操って戦う。

 コピー能力<ウォーター>だ。

 

 あるいは、野生のココガラを吸い込んだカービィ。

 すぐにココガラを吐き出したあと、体に色鮮やかな鳥の羽が生えて、軽快に空を舞う。

 コピー能力<ウィング>だ。

 

 カービィは能力を披露し、相手を翻弄しようとする。

 ザシアンとザマゼンタは、見事な連携で、カービィに順応していく。

 彼らの戦いは、まるでチャンピオンカップの決勝戦に匹敵……いや、それ以上に激しく、鮮烈だった。

 

(すごい、あんなにたくさんのわざを出せるなんて……)

 

 ユウリは、魅入った。

 あそこで繰り広げられる激闘。

 それは、テレビ中継で観戦したチャンピオンダンデの試合よりも、ユウリの心をどうしようもなく、揺さぶってくる。

 ずっと見ていたい。次の一手はどうなるのだろう? 戦いは膠着したままだろうか? 数秒後の展開はどうなっているのだろう? 

 

 だから、ユウリは自分の置かれている状況に気が付かなかった。

 

「あぶない! ユウリっ!」

 

 ホップの叫び声が聞こえる。

 戦いの余波で崩れた大樹が、ユウリめがけて倒れてくる。

 ユウリはその場で、尻餅をついてしまう。

 このままでは下敷きになってしまうだろう。

 

 すると横からカービィが飛翔する。

 ウィングカービィは、翼を広げ、<コンドルずつき>を繰り出す。

 まるで弾丸のような速度で頭突きをして、大樹を破壊。ユウリを危機から救う。

 

「……カービィ、ありがとう」

 

 そう感謝を伝えるユウリ。

 そこで、先ほどまでの殺気に満ちた空気が弛緩していることに気が付く。

 

「ウルォード!」

 

 後退したザシアンが、吠えた。

 それに反応したザマゼンタが、攻撃の手をやめる。

 二匹は、おたがいに目配せする。まるで何かをやりとりしているようだった。

 

 何か、大技をしかけてくるのだろうか。そう思ったユウリだったが、予想が外れる。

 

「ウルゥゥゥゥ」

 

 そう吠えたザマゼンタはカービィに視線を一度送る。

 ザマゼンタの瞳には、さきほどまであった敵意がなかった。

 ザシアンも、カービィに攻撃する意思がないようだ。

 それはまるで、何かを確かめたからもう戦う必要がない。そんな風だった。

 

 それからザシアンは、もう一度、ちらりと、カービィに視線を送ったあと、霧のようにその場から消えた。

 つづいてザマゼンタも、森の奥へ去っていった。

 

 戦いの終わりを見届けたユウリは、余韻のようなものを味わった。

 自分の中で、なにか熱いものがくすぶり続けている。

 これは何だろう。

 ユウリには、分からなかった。

 

 

 ★

 

 

「二人とも無事か? ケガはないか?」

 

 ザシアンとザマゼンタが立ち去った直後、ユウリたちが来た道の方角から、リザードンを引き連れたダンデが現れた。

 どうやらまどろみの森に入ったユウリたちを探しにここまで来たらしい。

 

「アニキ……? 方向オンチなのに、よくここまで来たね」

「心配させておいて、何を言っているんだ? さあ帰ろう。ここは人が立ち入ったら危ない」

 

 ユウリは、どこか現実味がない心境だった。

 やはり、さきほどの戦いを目撃した余韻がまだ続いているせいだ。

 ホップも、珍しく黙りこくっていた。いつも陽気でおしゃべりで、バトルを観戦したあとは、長々と感想を語るのだが……よほど、あのバトルが衝撃的だったのか。

 

 ホップも、ユウリと同じように、こう思っているのかもしれない。

 自分たちが目にしたあの光景は、とんでもないものだったのかもしれない。

 たしかにポケモントレーナーの卵である二人にとってみれば、ついさっきの戦いは、遥か先に位置する高次元のものだ。

 

「ぽよぉ……ぷぃ?」

 

 そんな二人を、当の本人であるカービィは、訝しげに視線を送るのであった。

 それから、ユウリたちはまどろみの森の出口まで戻った。

 




・まどろみの森で暮らすワンコ二匹
異世界からの来訪者であるカービィを異物であると断じ、はじめは排除しようとしたが、ユウリを助けるカービィを目にして、危険な存在ではないと判断。攻撃をやめて去った。


・カービィ
この世界でもカービィのスタンスは変わらない。
基本はグータラ。けど困っている人がいれば手を差し伸べる、善良なる旅人。

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