もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
「カービィ……モンスターボールに入って!」
場所は、ユウリの自室。
ぶぅん、とユウリがモンスターボールをカービィに向けて投げつける。
モンスターボールは放物線を描きながら、カービィの頭頂部にぶつかった。
「うぃぃ……」と痛そうに眉をひそめるカービィ。
モンスターボールは、何の反応も示さずに、室内の廊下をころころ転がる。
「ご、ごめん! カービィ! 痛かったでしょ」
「ぽよ」
「お菓子あげるから、許して!」
「はぁい!」
ユウリがお菓子を差し出せば、カービィはすっかりご機嫌になる。
カービィは優しい……というより、チョロイ性格なのではなかろうか。
(……それにしても、どうしてモンスターボールが反応しなかったんだろう?)
モンスターボールには、ポケモンを小型化し、内部に格納する仕組みが搭載されている。
本来であれば、ボールがポケモンに反応して、吸収しようとするはずである。
しかし、いくらやっても、モンスターボールはカービィに反応しない。
ユウリの母が持っている、スーパーボール、ハイパーボール。
他にも、ムーンボール、スピードボール、フレンドボールなど。
何種類ものボールを使用してみたが、どれもカービィに無反応だった。
「カービィは、どこから来たの?」
ユウリは、カービィのほっぺに両手を添えて、そう言った。
カービィは、珍しく悩ましげな表情を浮かべる。
「どう答えればいいのか分からない」と口にしているみたいで。
だからユウリは、それ以上聞かないことにする。
ピコン、とユウリのスマホロトムの通知が鳴る。
ユウリがスマホロトムの画面をつけると、ホップからメッセージがきている。
『ユウリ! ポケモン研究所にいこう。マグノリア博士なら、カービィのことが分かるかもしれないぞ!』
元々、ユウリたちは、今日、隣町のブラッシータウンにある、ポケモン研究所に向かう予定であった。
ついこの前まで、ユウリはポケモンを持っていなかった。
それが今や、ヒバニーとカービィ(手持ちかどうか不明)の2匹も所持しているわけで。
ポケモントレーナーとしてデビューを果たしたわけだ。
なのでガラル地方のトレーナーであるからには、ポケモンバトルにおいて必要な『ダイマックスバンド』を受け取る必要がある。
そして所持している自身のスマホロトムに、最新の研究データが反映されたポケモン図鑑をインストールしてもらうのだ。
ユウリは、スマホロトムをポケットにしまって、出かける準備をする。
「カービィ、今からお出かけするけど、ついてきてくれない?」
「はぁい!」
無邪気なカービィの笑顔。『一緒に行く』と、ユウリはそう言われた気がした。
それからユウリは、母に外出することを伝え、カービィと共に自宅を飛び出した。
★
この世界は、どこかプププランドと似ている。
カービィは、なぜかそう思ってしまった。
一番道路を通り抜けて、ブラッシータウンに到着した、カービィとユウリ。
ブラッシータウンは、どこか牧歌的な雰囲気がある、のどかな田舎町。
その空気感にあてられたのか、ユウリはカービィに、どこかで休憩しようと提案してくる。
カービィはもちろん、喜んでうなずいた。
そして近くにあったベンチに座って、最寄りのカフェで買ってきた飲み物を片手に、ふたりは休むことに。
ユウリは、砂糖たっぷりのモーモーミルクコーヒーを。
カービィは、トマト味のジュースを。
カービィは、わずか1秒で、トマトジュースを飲み尽くしてしまう。
一方、ユウリはチビチビとミルクコーヒーを飲んでいるようだったので、カービィは大人しく待つことにする。
その間、カービィは、静かに周囲を観察していた。
道行く人々は、誰もかれもが楽しそうにしている。
ポケモンたちも、幸せそうに、人間と共にいる。
つい、昼寝したくなってしまうぐらいに、平和だ。
そしてカービィは、こうも思った。
まるで、ここはプププランドみたいだと。
カービィの故郷であるプププランドはいつも穏やかで、住人達も全員のんきな、平和の国。
カービィの頭の中で、故郷と、この町の情景が被る。
だからだろうか。
カービィは、人とポケモンが共に生きるこの世界を、ちょっとずつ好きになっている。
「んんむぅ……カービィ……わたしのカレーをたべなひでぇ……」
いつのまにか、ユウリは寝言をつぶやきながら、ベンチで背を預けて眠りこけている。
普段であれば、カービィもお昼寝タイムを満喫するところであるが、珍しく、町中を歩いて探検してみようと思った。
「きゃぁー! チャンピオンダンデだ!」
「しかも最強のリザードンもいる!」
「写真撮ってー!」
「ぱぎゅあっ」
散策しているうちに、カービィは駅前の広場にたどりつく。
そこには、人だかりができていた。
人だかりの中心にいるのは、ダンデと相棒のリザードン。
ダンデは、かの有名なリザードンポーズを取り、ファンサービスに応えていた。
興味を失ったカービィは、にぎやかなこの場から離れようとする。
そこへ、背後から声がかかった。
「えっ、えっ、なにこのポケモン! 見たことがない! もしかして、新種のポケモン!?」
振り返ったカービィ。
そこにいたのは、見知らぬオレンジ髪の女性だった。
「しかも、めちゃくちゃ可愛い! ……連れて帰って調べたい!!」
女性は、口元を両手でおさえている。カービィのあまりの愛くるしさに感激しているのだろうか。
それからオレンジ髪の女性は、カービィをぎゅっ、と抱きしめる。
カービィは「んにぃー!」と悲鳴をあげてあたふたするが、そのまま女性に担ぎ上げられてしまう。
「なにをしているんですか?」
地の底にいるような低い声。空気が凍り付いた。
オレンジ髪の女性の前に、ふらりふらりと誰かが姿を現す。
空になったコーヒーカップを手にした、ユウリである。
「カービィを、どこに連れて行こうとしているのですか?」
メンチを切らしながら、ユウリはひきつった笑みを浮かべる。
そして手にもったコーヒーカップをみしっと音を立てて潰す。
人の気持ちに鈍感なカービィでも理解できた。
ユウリは、怒っている。それもかなり。
「あなたのような不審者はカービィに近づかないでください」
「ご、ごめんなさい!」
年下の少女に怒りをぶつけられ、オレンジ髪の女性は慌てて、その場で謝罪した。
★
「彼女はソニア。マグノリア博士の助手をしている。そして俺の幼馴染だ」
「この人は、ダンデさんと知り合いだったんですね」
「ああ、もう十年以上の付き合いになる」
「……あの、ほんとうにごめんね」
あの後、人だかりから現れたダンデが、ユウリ達の姿を見かけ、こちらまで来たのだ。
もちろんオレンジ髪の女性──ソニアは、すぐにカービィを解放し、ユウリの元へ帰した。
「カービィ、次から勝手に離れちゃだめだよ。変な人に捕まっちゃうからね」
「ぽよ」
「へ、変な人……」
ソニアは、がくっと項垂れる。
「ユウリ、彼女のことを許してやってくれ。ソニアの研究熱心が高じて、ああいった行動を取ってしまったんだ。……それに、カービィは気にしていないようだったな」
ベンチに腰かけたユウリのひざ元。そこでカービィがうとうとしている。
もうすぐ、お昼寝の時間だ。
ユウリは、カービィの頭をなでて、目を細める。
「別に気にしていないですよ。ソニアさんはカービィを持ち主のいない、野生のポケモンだと思い込んでしまったんですよね?」
「うう……そうだけど」
人のポケモンを盗むことは、犯罪である。
ソニアだって、もちろんそれは理解している。
ただ今回は、野生のポケモンが人里に入り込むケースはよくあるので、ソニアはそう勘違いしてしまったのだ。
「ソニアさん、カービィについて何かご存じですか?」
「いいえ、知らないわ。少なくとも、ガラルでは見かけたことがないわね」
ソニアは、カービィのほっぺをふにふに触りながら、こうつづけた。
「それどころか、ポケモン図鑑に、カービィの情報は登録されていないわ」
「つまり新種のポケモンということか?」
ダンデの質問に、ソニアは答える。
「そうはどうかしら。個体数がごくわずかな、希少な種族なのかもしれないわね。だから今まで未発見だったという可能性も⋯⋯」
「ダンデさん、ソニアさん、聞いてください、実はこういったことあって……」
それからユウリは、カービィに関することを全部、二人に話した。
カービィとの出会い。
まどろみの森で、謎の2匹のポケモンと遭遇したこと。そしてカービィが見せた異質な能力。激しい戦闘。
それから、モンスターボールが反応しないことも。
すべて話した後、ソニアは顎に手をあてて、ぶつぶつ呟いていた。
「飲み込んだ物質に応じて、タイプを変化させる……。
ひょっとして……カービィはシンオウ神話の創造神? いや、流石にありえない。
じゃあ、アルセウスを模した、シルヴァディ? 違う違う、シルヴァディの見た目はこんなプリンそっくりじゃない。
もしくはシルヴァディと似たコンセプトで作られた、人工的なポケモンだったり……?
じゃあ、なんでカービィはモンスターボールに反応しない? ひょっとしてウルトラビースト? 異界の存在なら、モンスターボールが効力を発揮しにくいだろうし……」
「あのソニアさん」
「……」
「ソニアさん……」
「おっといけないわ、つい考察に没頭しちゃった」
「何か、わかりました?」
「そうね、カービィに関しては、未知数ではっきりとは言えない。ただ、伝説のポケモン……あるいはそれに類する存在かもしれないわね」
ユウリも、その可能性を考えたことがある。
伝説ポケモンあるいは幻ポケモンと呼ばれる存在。
それらは神話や伝承でのみ存在を語られる、世界でごくわずかにしかいないポケモンだ。
カービィも、そういった一匹なのかもしれない。
まどろみの森で見せた、異質な能力と並のポケモンを凌駕する戦闘力。
それは、伝説ポケモンと呼ばれるに相応しいものだった。
「それにユウリがさっき言った、謎のポケモンについても気になるわ。それについても詳しく聞きたいわね」
そういって、ソニアはにこり、と笑った。
「これからあたしとダンデ君もポケモン研究所に向かうから、一緒にいきましょう」