もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする 作:東雲るぅ
「残念ながら、私にもそのポケモンのことは分からないね」
マグノリア博士は、コーヒーをすすりながら、そう答えた。
場所は、ブラッシータウンの東端にある、ポケモン研究所。
研究所のテーブルに、マグノリア、ユウリ、ダンデとソニア、ホップの五人が着席していた。
ちなみに、カービィはすぐ隣で、ユウリのヒバニーとホップのウールーと戯れている。
あの後、ユウリとカービィは、ソニアたちに連れられて、ポケモン研究所の中に入った。
ホップは先に到着していて、熱心に書物を読みふけっている。
椅子に座ったマグノリアが、新しく発表するであろう論文を執筆しているようだ。
ソニアは、そんな二人を呼び寄せて、席に座らせ、今に至る。
マグノリアの結論に、ソニアは疑問を口にする。
「おばあさまでもカービィのことが分からないの!? じゃあ、カービィって結局、なんなのかしら?」
「さあ、未知のポケモン……いや、ポケモンとさえ呼べる存在なのかどうかね」
その時、突然ホップは、がたん、と椅子から立ちあがって叫ぶ。
「つまり、カービィは宇宙人だったのか!!」
「う、宇宙人……?」
ユウリは、呆れたような声を出す。
「だってそうだぞ。カービィは空から謎の乗り物に乗って、やってきたんだろ? じゃあ宇宙人で間違いない!」
「言われてみれば……そうかも」
「絶対にそうだぞ。宇宙人は絶対に存在するって、なにかのテレビ番組で見たことがあるし! カービィは小型宇宙船に乗ってやってきた異星人だ!」
「うーん……」
ヒートアップするホップを抑えるように、ダンデが別の話題に切り替えた。
「ちょっと待て、カービィのことは一旦置いておこう。それより、まどろみの森で遭遇した、ポケモンたちのことを聞かせてくれないか?」
カービィについていくら話しあっても、埒があかない。
なので、もうひとつの議題。
まどろみの森でユウリ達が遭遇した、二匹のポケモン。
それについて、話が移行した。
それから一通り話が終わったあと、マグノリア博士はカービィのデータを入手したいと頼んできた。
ユウリが承諾すれば、カービィはあっという間にソニアに抱きかかえられてしまう。
そして何かよく分からない機械。そこから伸びたいくつもの触診器のようなものにカービィが接続される。
ソニアとマグノリア博士は、パソコン画面に出現している集計データを食い入るように見つめる。
「……なにこれ? カービィから、未知のエネルギーが検出されている?」
「よくごらん、ソニア。ありえないエネルギー量だわ。……それこそ大量破壊兵器なんて豆粒程度……まさに無限だわ」
「こ、これって本当に生き物なの? カービィの体内は、もはや一つの宇宙そのものよ……」
ソニアは、青ざめている。
そして化け物か何かを見るような目つきで、カービィに視線を送っていた。
一方、マグノリア博士は、老婆とは思えぬような剣呑としたまなざしで、キーボードを叩いている。
「どうやら、エネルギーの成分はねがいぼしに酷似しているみたいね……。ソニア! もうすこしデータを集計して、分析するわよ」
「え、ええ……おばあさま。とにかくこの未知のエネルギーを調査すれば、ねがいぼしの研究も大きく進歩するわね」
二人の間で科学用語やら何やらが飛び交い、ユウリは話についていけない。
ただ、カービィが尋常ではない存在であるということは、伝わってくる。
この場にいても、自分はあまり意味がないだろう。
そう思ったユウリは、カービィの口にポフィンをつっこませて、その場から離れた。
「ぽよ?」
そしてやはり、当のカービィは、ぼんやりとしているのであった。
しばらくした後、ソニアとマグノリア博士は、カービィの検査を終えた。
解放されたカービィは、ニコニコとユウリの元を駆けよる。
「カービィの正体が何かわかりました?」
ユウリがそうたずねると、ソニアはどこか遠い目をする。
「……あれは、現代科学では解明できない、いや、人が触れてはならない、禁忌のオーパーツだわ」
それはまるで、覗いてはならない深淵を覗き、真理を得てしまった……そんな研究者の姿であった。
★
「アニキ! オレとユウリに、ジムチャレンジの推薦状をくれよ!」
いきなり、ホップがダンデにそう頼み込んだのは、カービィの身体検査が終わった直後である。
──ジムチャレンジ。
それは、ポケモントレーナーが、ガラル地方の各地にある8つのジムを攻略し、ジムバッジを得ることを指す。
そしてこのジムチャレンジを突破した者は、ガラル地方の頂点を決めるチャンピオンリーグの出場権を手に入れる。
そのジムチャレンジの開催が、もう間近に迫っている。
ホップはこのジムチャレンジになんとしても、参加しようとしているのだ。
憧れの兄ダンデを超えるという目標をかかげているからこそ、ジムチャレンジ参加はもはや必須なのである。
「ユウリだって、ジムチャレンジに参加したいだろ?」
「うーん、わたしは別にいいかな……」
「もったいないって! あんなに強いカービィを相棒にしているんだろ? ユウリなら、オレと頂点を競い合えるぞ!」
ユウリは、ジムチャレンジに参加する気がなかった。そもそも自分が推薦される可能性などないと考えている。
つい数日前に、自分のポケモンを手に入れたばかりで、自分にはまだ早すぎると思った。
「なあ、頼むって、アニキ!」
「ダメだ。弟だからって、お前に推薦状を渡すことはできない」
「そんな!!」
腕組みしたダンデは、ただし、と付け加えた。
「お前が、ジムチャレンジに参加するに足りうるトレーナーか、俺に見せてみろ」
「おお! わかったぜ、アニキ!」
くるりと、ユウリの方へ振り返ったホップは、息を荒くする。
「ユウリ! ポケモンバトルだ! アニキにオレたちの可能性を見せるぞ!!」
「……わかった、ホップがそこまで言うなら、やろっか」
ユウリには、ホップのような、大きな目標がない。
一流のポケモントレーナーになりたいとか、チャンピオンになりたいとか、そんなものは何もない。
そんな人間がジムチャレンジに参加していいわけがないのだから。
せいぜいホップの活躍を、故郷の町から見守るぐらいでいい。
そうして、ユウリとホップの、一度目の対戦が始まる。
場所は、研究所のすぐ外にあったバトルコート。
ユウリとホップの試合はそこでおこなわれた。
ユウリの手持ちポケモンは、ヒバニーと、ココガラ。ココガラは、ユウリが一番道路で捕まえた個体だ。
一方、ホップの手持ちポケモンは、サルノリとウールー。
試合において、ユウリは、カービィを使用することを禁じられた。
「カービィは、今ちょうど検査を終えたところだ。『1時間は激しく運動するのを禁止しろ』とマグノリア博士に口ずっぱく言われてしまったからな……」
それに、この試合はあくまで、ポケモントレーナーとしての素養や実力を測るのが目的だ。
カービィはあまりにも強い。
ホップのポケモンたちはなすすべもなくやられてしまう。
あるトレーナーはこんな格言を残した。
『つよいポケモン よわいポケモン
そんなの ひとの かって
ほんとうに つよい トレーナーなら
すきなポケモンで かてるように がんばるべき』
たとえ強いポケモンを持っているからといって、そのトレーナーが一流たりえるとは言えない。
必要なのは、ポケモンバトルのセンス、知識、経験。そしてポケモンたちとの信頼関係。
推薦状を渡すのに値するトレーナーかどうか、結局はトレーナーの能力次第なのである。
かくしてユウリとホップの試合が始まった。
ユウリのココガラが<つつく>をくりだし、ホップのウールーが<たいあたり>をおこない、激しい接近戦となっている。
それを固唾をのんで見届けるのは、ベンチに座っている観客たち。
ダンデ。そしてソニアとマグノリア博士の三人である。
「ぱやや~い」
その観客席へ、コック帽を被ったカービィが現れた。
どうしてカービィはコック帽を被っているのだろう?
いや、そもそもあのコック帽をどこから手に入れたのか?
そんな三人の疑問は、これから起こる超常現象によって吹き飛んでしまう。
突然、虚空から、フライパンと巨大な大鍋が現れる。
「はーい!」
カービィがフライパンを手にして、大鍋にあてて、カンカンと鳴らす。
すると鍋から次々と、食べ物が飛び出す。
カレー。
ハンバーグ。
オムライス。
チャーハン。
すし。
ハンバーグ。
にくまん。
おでん。
ローストチキン。
なんでもござれ。
何種類もの料理が、出来立てほかほかで、出現する。
「な、な、なんじゃこりゃあぁぁ!!」
ソニアは悲鳴を上げ、「ついに頭がおかしくなっちゃった? あたし?」と白目をむいて、ふらふらする。
「ますます興味深いわね。こんなわざは見たことも、聞いたこともないわ」
マグノリア博士は、興味深々なようすで、すしを口に運ぶ。
「うまいなこれは!!」
ダンデはというと、鍋から飛び出したカレーを平らげつつ、ユウリたちのバトルをしっかりとウォッチしていた。
「どちらとも素晴らしいバトルだった!」
ダンデは、爽やかな笑顔でそう告げた。
試合の結果は、ユウリの勝利で終わった。
どちらが勝つか負けるかわからないほど、接戦であった。
最後は、ユウリのヒバニーが繰り出した<ひのこ>が、サルノリのきゅうしょに当たり、勝敗が決したのである。
「約束通り、ホップに推薦状を送ろう。たいへん惜しいが、ユウリには推薦状を渡せない」
「えー! アニキ、なんでだよ? ユウリが勝ったじゃないか?」
「……ジムチャレンジ参加の意思がないものを推薦することはできない。俺個人としては、ユウリも推薦したいがな」
ひとしきりダンデに文句をぶつけたあと、ホップはユウリを説得しようとする。
「ユウリ! 考え直してくれよ! オレと一緒にジムチャレンジしようぜ」
「やめておくよ。今回は見送ることにするから」
「もったいないって! カービィは滅茶苦茶ツエーし、ユウリならジム制覇も楽勝なのに?」
「ジムチャレンジは来年もあるんだから。その時に参加するかどうか、ゆっくり考えるね」
「うーん、そこまで言うなら、仕方がないかぁ……」
ホップは残念そうな表情で、肩を落とす。それからユウリは、ホップから視線をうつす。
ユウリの視線の先には、ユウリとホップのポケモンたち。
ヒバニー。ココガラ。サルノリ。ウール。彼ら4匹はカービィが召喚した料理にありついている。
ユウリもお腹が空いてきたので、カービィの能力で生み出した、おにぎりを口にする。
(お、美味しい……)
ダンデたちが言うには、コック帽を被ったカービィが鍋を召喚し、その鍋から料理がぽんぽんと飛び出したのだという。
それは<わざ>といえるのだろうか?
もはや魔法やら超常現象と呼べる領域である。
ホップも同様に、カービィが生み出したラーメンを、美味しそうに啜っている。
ちなみにカービィはというと、いつのまにかコック帽を脱ぎ捨て、少し離れた場所でソニアのウィンディと日向ぼっこをしているのであった。
ユウリが料理を食べ終えたところで、ダンデが話しかけてくる。
「さて、次は、俺からの個人的な頼みになるんだが……ユウリ、ひとつお願いしてもいいかな?」
「なんですか、ダンデさん?」
ダンデの一言は、ユウリの想像だにしていないものだった。
「俺と勝負してくれないか?」