もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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1-7.ワイルドエリア

 ゴトゴトと揺れる音を、カービィは夢うつつに耳にする。

 体が、小刻みに揺れている。

 目を覚ましたカービィは、どうやら自分が列車の座席で眠りこけていたことに気が付く。

 

「なぁ、ユウリ? どうする? エンジンシティに一直線に行っちまうのか?」

「うーんそうだね、わたしはせっかくだし、ワイルドエリアを散策してみようかな……」

「ほんとうか! オレもワイルドエリアで新しいポケモンを捕まえて! たくさん戦って、けいけんちを稼ぐからな!」

 

 カービィの座っている座席。

 その隣に、ユウリが座っている。斜め前……つまりユウリと対面の座席にホップが座っている。

 ふたりは、これからの冒険のことで盛り上がっているらしい。

 

 ダンデの試合から翌日、ホップとユウリは、ブラッシータウンにある駅の列車に乗り、エンジンシティへ向かっている。

 数日後、エンジンシティでジムチャレンジ開会式がおこなわれる。

 ジムチャレンジャーであるユウリとホップは、これに参加しなければならないのだ。

 だから二人は、エンジンシティに向かっているのである。もちろんカービィも、ユウリに付き従い、この列車に乗った。

 

「ユウリがジムチャレンジャーになってくれて、本当に嬉しいぞ」

「うん、わたしもびっくりしてる。だって参加する気なんて最初はなかったんだもん」

 

 カービィは、なぜかふいに寂しくなった。

 どうしてだろう、と考える。

 そして、故郷であるプププランドのことが頭に浮かんだ。

 

 ──プププランドにいるみんなは、今頃どうしているんだろう?

 

「それに、アニキとの試合すごかったなぁ! ユウリもすごかったし、なによりカービィがヤバすぎる! アニキのリザードンより強いなんて、そんなポケモンがいるなんて信じられないぞ!」

「さっきから……すごいとヤバイしか言ってない……」

「自分の語彙力がなくなっちまうぐらい、ヤバかったってことだ! ユウリなら、リーグの決勝戦まで楽勝だろうし、オレも……負けてられないぞ」

 

 たとえば、カービィのライバルであり、永遠の悪友である、デデデ大王の顔が浮かんだ。

 

 今日も、わるだくみを企てているのだろうか。

 それとも、部下のワドルディたちに手をこまねいているのだろうか。

 

 あるいは、かつてカービィと敵対していたが、今では戦友である、メタナイトの顔が浮かんだ。

 

 きっと今日もどこかで剣の修行をしているのだろう。

 もしかしたら己の力をつけるために、つわものを求め、どこかを放浪しているかもしれない。

 

 色んな人の顔が浮かんだ。

 それはカービィがこれまで冒険の中で出会った仲間。カービィにとって、大切なトモダチ。

 カービィは、向こうの世界にいるみんなに無性に会いたくなった。

 ずっと前まで、カービィは名もなき旅人だった。だから昔のカービィはそんなことを考えることはなかった。

 それがプププランドで根を下ろし、様々な人たちと出会っていくうちに、カービィは確かに変わったのだろう。

 

 

 ★

 

 

 ブラッシー駅から数時間、ユウリたちはワイルドエリアの区域内にある駅に降りた。

 エンジンシティにたどりつくには、現在の駅からワイルドエリアを北上して突っ切らないといけないのだ。

 

 ワイルドエリア。

 それは、ガラル地方の中央に広がっている、巨大な平原地帯だ。

 広大なこの区域には、さまざまな自然環境と、多種多様なポケモンが生息している。

 また<ポケモンの巣>と呼ばれる異空間が各所に点在しており、内部にはダイマックス化したポケモンが生息している。

 この巣穴の主を複数のトレーナーで倒す<レイドバトル>と呼ばれるものが、現在のガラルで流行しているのだ。

 

「じゃあな! ユウリ、カービィ、オレはポケモンたちを鍛えてくる! 次に会った時にあっといわせてやるからな!」

 

 そう言って、ホップは西側の<こもれび林>の方面へダッシュしていく。

 相変わらず元気な少年である。

 ホップが走り去ったあと、ユウリはカービィにたずねた。

 

「カービィは、どこにいきたい?」

「うぃ!」

 

 カービィは、自身の短くまんまるな手で指し示す。

 指し示した先は、東側にある<ミロカロ湖>であった。

 

「じゃあ、そっちにいこっか!」

「はぁい!」

 

 

 ★

 

 

<ミロカロ湖>はワイルドエリア南東を占める、巨大な湖だ。

 湖のふもとにたどりついたユウリたちはそこで見知った人物と遭遇する。

 

「ん? あれは、ソニアさん?」

 

 そこにいたのは、ソニアだった。

 たしかソニアは、マグノリア博士からの命を受けて、フィールドワークの一環でガラル地方をめぐらなければならないのだ。

 本人は「これも博士になるための修行!」と意気込んでいたが、どういった条件でポケモン博士になるのか、一般人のユウリにはさっぱりである。

 

「あら、ユウリ。それにカービィも。調子はどうかしら?」

「ぽよ」

「はい、順調です……ところで気になったのですが、そのポケモンたちは?」

「ああ、この子たちね……」

 

「わにゃわにゃ、わにゃわにゃ」

 

 ソニアの周囲に、見たこともない生物たちが群がっていた。

 見た目は、カービィと同じ丸っこい体に、短い手足。だが、その体色は橙色だ。

 彼らの合計は10体。よく観察すれば、微妙に体色の色合いが違ったり、個体差がある。

 

「この子たちは新種のポケモンよ。大発見だわ」

「新種の……。どこで出会ったんですか?」

「ちょっと前に、湖の近くの森林でフィールドワークをしていたら、この子たちに遭遇したの。お腹を空かせていたみたいで、ポフィンを上げたらずっと付いてくるようになったわ」

「つまり懐かれた……ということですか」

「どうやらそうみたいね。ただ、モンスターボールがこの子たちに機能しないから、捕まえられないの。そう、カービィと同じようにね」

 

 ユウリは、謎の生き物たちに視線をやった。

 すると彼らは「わにゃわにゃ」とユウリに挨拶してくる。

 とても野生のポケモンとは思えないほど友好的で、人間に警戒心がない。まるでカービィと同じだ。

 

「うぃぃ、ぽよ!」

 

 謎の生き物たちを前に、カービィは、突然らんらんと目を輝かせた。

 

「わにゃわにゃ!! わにゃっ!」

 

 謎の生き物たちも、カービィを見かけて、興奮しているようだった。

 

 はたから見れば、両者はまるで親しい友人のように見えた。

 

「カービィ……もしかしてこのポケモンたちのことを知っているの?」

 

 ユウリが問いかけると、カービィはこくりと頷く。

 

「うぃ、わどるでぃ! わどるでぃ!」

「ワドルディ……? それがこのポケモンたちの名前なのね」

「はぁい!」

 

 どうやらそうらしい。

 この謎の生き物はワドルディという名前だそうだ。そしてカービィはこの謎の生き物と親しい間柄みたいである。

 

(もしかして、カービィとワドルディって同じ生息地にいて、何か理由があってガラルにやってきたんじゃないかな?)

 

 そんな推測をするユウリであるが、結局は謎に包まれたままだ。

 

「おばあさまにこのポケモンたちのことを報告したいから、今からポケモン研究所に戻ろうと思うの」

 

 ワドルディの頭をよしよしと撫でながら、ソニアはそう言った。

 

「ワドルディたちを調べるためですか?」

「ええ、カービィもそうなんだけど、新種のポケモンが発見された場合、近日中に学会に告知してポケモン図鑑を更新する必要があるからね。それに……この子たちにはちょっと気になるところがあるの」

「気になるところ?」

 

 ユウリがそう尋ねかけたところで、ソニアを囲っていたワドルディの一体が、物欲しそうな目でソニアに視線を送っている。

 

「わにゃ……」

「ん、お腹が空いたのね。いいわ、クッキーを持っているから、あげる」

「わにゃ!」

「ちょうどいいわ、ユウリ。あたしの気になっていることなんだけど……そうね、これを見れば、言わずともわかるはずよ」

「はい?」

 

 ソニアは、ポケットからお菓子の入った袋を外に出す。

 中から、一枚のクッキーをとりだし、ワドルディの前に差し出した。

 そういえば、ワドルディに口がない。どこから食事を取るのだろうか?

 そんなユウリの疑問は、さらなる別の謎によって塗り替えられてしまう。

 

 次の瞬間、クッキーがワドルディの顔面を通過し、吸い込まれていった。

 

「!?!?!?」

 

 ワドルディは、ぼりぼりと音をたてながら、咀嚼している。

 

 なんだいまのは?

 なんというか、見てはならないものを見てしまった感が否めない。

 

「不思議でしょ? 口がないからどうやって食べるかしらって思っていたら、これよ。本当に奇妙な生態でしょ。だからこの子たちを連れ帰って、調べる必要があるわけ」

 

 それからソニアは、「わにゃわにゃ」と騒ぎ立てるワドルディたちを連れて、ミロカロ湖を去った。

 

「この謎の現象を解き明かさない限り、あたしの研究者魂が落ちつくことはないわ」

 

 そう言葉を言い残して。

 

 

 ★

 

 

 その後、ユウリとカービィは、ミロカロ湖周辺を散策した。

 散策中は、様々なことが起きた。

 

 カービィが、ミロカロ湖で釣りをして、コイキングを釣り上げて、それをユウリが捕まえたり。

 カービィが草むらにいる野生のバニプッチたちをアイスクリームだと勘違いして、突撃したり。

 ユウリの手持ちポケモンでは太刀打ちできない、野生のハガネールに出くしてしまったが、カービィが湖の水を吸いこんで<ウォーター>に変身し、あっさりと撃破してしまったり。

 

 そうこうしているうちに、あっという間に日が暮れてしまった。

 ユウリは、バッグからキャンプ道具一式を出して、テントを組み立てた。

 ガラル地方において、ワイルドエリアなどで夜を明かすときは、キャンプ道具を持参し自分のテントを張って夜を明かすのが、通例となっている。

 

 テントを張り終えた頃、日は沈み、夜になっていた。

 ぐぅ、とユウリのお腹が鳴った。カービィもお腹がペコペコなのか眉をさげている。

 

「ご飯たべよっか」

「はぁい!」

 

 ユウリは、カレーが好きだ。この世のありとあらゆるカレーを食べつくしたいとそう思っているくらいなのだ。

 そしてその好きが高じて、カレー作りが非常にうまい。

 多種多様なバリエーションのカレーを作ることができる。その手腕は、プロの料理人に匹敵するほどのものであった。

 ユウリの母から「もう私の代わりにユウリがご飯を作ればいいのにねぇ」と言われるほどだ。

 

 今晩のメニューは<からくちヴルストのせカレー>だ。

 スパイシーを効かせた、辛口のルー。外はぱさぱさ、中はもっちりのガラル産の大麦。

 それにヴルストと呼ばれる、ガラル地方の伝統的なソーセージを添えれば、完成である。

 

「ひばっ」

「ちちちちっ」

「ぱぎゅおんっ」

 

 ボールから外にだしたヒバニーとココガラ、コイキングが、美味しそうにユウリお手製のカレーにありついている。

 ユウリは、人もポケモンもどちらの口にもあったカレーを作れる。

 それは、まぎれもなく才能だろう。

「特にやりたいことないし、将来はカレー屋さんにでもなろうかな」と幼い頃のユウリが考えていたぐらいなのだから。

 

「ぽよぉ……ぷぃい」

 

 カービィはというと、それはもう満足にカレーを味わっている。

 いつもならば、吸いこんで数秒で平らげてしまうが、今回はスプーンでしっかりと一口ずつ味わっている。

 

「おかわりは三杯までだからね」と事前にユウリが口ずっぱく告げたせいだろう。

 カービィも、自分が食べすぎたら、ユウリや他のポケモンたちの分までなくなってしまうのを分かっているから、自重しているのだろう。

 

(……あれ、そういえば、カービィは自分でご飯を作り出すことができるんだよね?)

 

 ユウリはふと、コック帽を被ったカービィの話を思い出した。

 ユウリはあの時、試合中でカービィの姿を見ていなかったが、何もないところから鍋を召喚して、無数の料理を生み出したのだという。

 

 そんなに大食いなら、自分で料理を生み出して、自給自足すれば済む話じゃないか……。

 そう考えたユウリであるが、目をキラキラさせてカレーを食べるカービィを見ているうちに、どうでもよくなってきた。

 

「まぁ、いっか……」

 

 自分が手心かけて作ったカレーをあれだけ美味しそう食べてくれる。

 ユウリにとって、それはとても嬉しいことで、だからこのままでいいと思ったのだった。

 

 

 

 

 




今回はわかる人にはわかるアニカビのネタを仕込んでみました。
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