もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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今回と次の話で第一章終わりです。


1-8.エンジンシティ

 キャンプで一晩明かした後、ユウリとカービィは、ワイルドエリアを北上しはじめた。

 目指す先はエンジンシティ。だが、ミロカロ湖からエンジンシティにたどりつくまで、半日は歩いてかかるだろう。

 長い道のりだ。ユウリはちょっとげんなりする。

 そんなユウリを見かねてか、カービィは突然、ぴょんとジャンプして、叫んだ。

 

「ワープスター!」

 

 すると、不思議なことが起きた。

 

 上空の雲をつっきって、黄色く発光する物体がこちらに飛翔する。

 それは、黄色の星型の乗り物。ワープスターだ。

 ユウリは、それを以前見たことがある。そう、カービィと初めて出会った時、これに乗っていたのだ。

 

「ぷぃ」

 

 ワープスターの乗りこんだカービィ。カービィは、自分の隣に座るようにユウリに促す。

 

「乗って、ってことだよね?」

「はぁい」

 

 ユウリがワープスターに乗り込むと、ぶぅんとワープスターは地面から浮上する。

 ユウリとカービィを乗せたワープスターは、急加速し、そのまま空へ駆け上がっていく。

 地面がどんどん、遠のいていく。

 やがて、ミロカロ湖の全体が視界に収まってしまうほど、天高く飛び上がった。そのまま垂直に、エンジンシティへ向かって、まるでジェット機のごとく超高速で、推進する。

 

「ちょ、ちょちょ」

 

 ユウリは振り落とされまいと、カービィをしっかり抱きしめながら、目を閉じる。

 

(こわい、こわい、高いところ苦手だから……というか、速すぎて、もっと速度を落としてほしいな、けど風圧でまともに口が開けない……)

 

 その状態のまま数分間たったあと、ワープスターが減速していく。

 ユウリはおそるおそる、閉ざしていた目を開いた。

 

「すごい……」

 

 ユウリは、息をのんだ。

 

 視界にいっぱいに、巨大な工場都市が広がっていた。

 エンジンシティは、ガラル地方の産業を支える工場地帯。

 田舎者のユウリは、この大都市の光景には圧倒される。テレビで見るように、ずっと鮮明で、まるで別世界にたどり着いたかように錯覚してしまった。

 

 ユウリとカービィは、エンジンシティに到着した。

 

 

 ★

 

 

 ワープスターを着陸させたあと、ユウリはカービィを連れて、スタジアムに向かい、エントリーの手続きを済ませた。

 開会式は明日なので、時間は余っていた。

 なのでまず、ふたりはエンジンシティのポケモンセンターでアイテムを買いそろえる。

 その後は、町を探検し、ブティックに立ち寄り、時間をだらだらと潰した。

 そうしていると夜になったので、ホテル「スボミーイン」に向かう。

 開会式に参加するジムチャレンジャーは、皆、今晩このホテルを利用し、一泊するのである。

 

「よぉ、ユウリ、もう到着していたのか! さすがだぞ!」

 

 スボミーインへ行く道中で、ホップと出くわした。

 どうやらホップも、エントリーを終えて、これからスボミーインの受付に向かうようであった。

 

「調子はどう?」

「ああ! たくさんポケモンと戦ってけいけんちを稼いだし、新しいポケモンもゲットしたぞ。……まぁ、カービィに比べたら、オレのポケモンなんてこれからって感じだな」

「うん、わたしもがんばって、ヒバニーたちを育てるね」

「ぽよ!」

 

 そんな三人が騒ぎの場に居合わせたのは、スボミーインのエントランスホールだった。

 なにやら、受付付近で人だかりができている。

 変な衣装を身にまとった男女4人組が、周囲にいるジムチャレンジャーの列に割りこみ、他の人が受付できないように、1時間近く妨害しているらしい。

 周囲のチャレンジャーたちは、4人組の妨害に困っているようであった。

 

「われらエール団、ジムチャレンジャーの応援のために、遠路はるばるここまでやってきたのです!」

 

 派手なパンクロック風の黒とピンクの衣装を身に着けた連中だった。都会とはこのような人たちがいるのか、とユウリは戦慄する。

 

「あなたたちには、われらスパイクタウンの田舎者の気持ちは分からないでしょね!!」

 

 ユウリは、ずかずかとエール団と名乗る集団に近づいた。

 

「ちょっと待って! 田舎者だからってこんなことしていいわけないでしょ? 迷惑行為だよ」

 

 ユウリも田舎出身であるが、このような常識はずれな行為はしない。

 なんというか、ここにいる人たちが田舎者に悪印象を持ちそうなので、それを払拭したい気分であった。

 

 エール団のうちの一人が、眉間にしわを寄せて、ユウリとホップを指さした。

 

「ん!? あなたも、その隣にいる少年もジムチャレンジャーですね! ということは、マリィの敵! あなたがたは邪魔ものです」

「ん? マリィって誰だよ。ユウリ、この人たちをおまわりさんに通報するか?」

「なっ! われわれのエールを邪魔するのですか?」

「ならば、ここで痛い目を見てもらいますね。すべてはマリィにエールを届けるため!」

 

 ホップが「通報」と口にした瞬間、エール団4人組は、ユウリ達に敵意を爆発させた。

 

 ユウリは、ホップに注意した。

 

「ホップ、この人たち、ここでポケモンを繰り出して、暴れるつもりだよ!」

「なっ、ホテルのロビーでポケモンバトルかよ? ここで暴れたら周りの人の迷惑になっちゃうぞ」

「ううん、大丈夫。カービィ、お願い、あの人たちを落ち着かせて」

「ぽよ!」

 

 エール団の4人組は、それぞれ自分のモンスターボールをロビーの床に投げた。

 

 1体目は、ジグザグマ。

 2体目は、クスネ。

 3体目が、ワンパチ。

 4体目が、ココガラ。

 

 合計4体のポケモンが、鳴き声を上げながら、モンスターボールから飛び出す。

 それに相対するのは、カービィのみだ。

 

 エール団のうちの一人が、鼻で笑う。

 

「ふん、ずいぶん舐められたものですね。あなたその……プリンみたいなポケモンだけで、われわれに太刀打ちできるとでも?」

 

 さらにもう一人が、こう付け加えた。

 

「いいでしょう。見せしめとして、あなたのポケモンをボコボコにして、われわれのエールが絶対であると証明します」

 

 もう二人が、声を上げた。

 

「うおー!」

「マリィ、最高ー!」

 

 ユウリは、冷静に告げた。

 

「カービィ、1分で終わらせられる?」

「うい!」

 

 カービィは、ぽよんぽよんと体をはねながら、ユウリに応える。

 ホップはというと、腕を組んで「いいぞいいぞ、やってやれ」と言わんばかりの表情でニヤニヤしていた。

 

「はっ、終わるまでに1分!? あなたが敗北するまでの時間のことですかぁー!?」

 

 エール団のひとりが、メンチを切らして叫んだ。その言葉が、バトル開始の合図だ。

 

 4体のポケモンたちが、カービィに向かって殺到し、それぞれのわざを繰り出そうとする。

 ユウリは、カービィに命令する。

 

「ぜんぶ、回避して!」

 

 カービィは、疾風のように敵陣を駆け抜ける。

 

 まずカービィは、正面から迫るジグザグマの<かみつく>を転がって避ける。

 次に右側面からひねりだされたクスネの<ひっかく>を、ジャンプして飛び越える。

 さらに左側面から襲いかかるワンパチの<ほっぺすりすり>を、バックステップでギリギリかわす。

 最後に死角から放たれたココガラの<つつく>を、バク転することで華麗に回避。

 

 すべての攻撃を、さばききった。

 

 ホテルのロビー内に、拍手が響き渡った。

 周囲にいるジムチャレンジャーやホテルマンなどの人々のものだった。

 中には、カービィに向けて、応援の声を上げる者もいた。

 

 エール団の四人組は、カービィの回避行動に呆然としているようだった。 

 だが次に、各々がわざを命令しようとする。

 それを遮るような、ユウリの指示。

 

「カービィ、ジグザグマに向かって、吸いこみ!」

 

 カービィは口を開けて、吸い込みだした。対象はジグザグマ。

 

 ユウリは、思考した。

 もしワンパチを吸い込めば、カービィは雷の力を得るのではないだろうか?

 あるいは、ココガラを吸い込めば、以前のように鳥の能力を得るだろう。

 クスネを吸い込めば……どうなるか分からない。

 

(カービィは、相手ポケモンあるいは物体に反応して能力を得る……。なら、もしジグザグマの背中にある、針のような硬い毛皮を取り込めば、どうなる?)

 

 ジグザグマは、地面にしがみつき、カービィに吸い込まれまいと耐えている。

 そのうち、吸い込みの吸引力によって、ジグザグマの毛皮が数本、カービィの口に吸い込まれた。

 そして、カービィに変化が起きる。

 

 カービィの頭頂部に、何十本ものトゲが生えたヘルメットが出現する。

 コピー能力<ニードル>だ。

 

(……初めて見る、能力だね。どんな感じなんだろう。というか何タイプに分類されるんだろう? ノーマルとか?)

 

「カービィ、なるべくホテルのフロアが傷つかないように、注意しながら攻撃してね」

「うい」

 

 ユウリの指示により、カービィは攻勢に打って出た。

 

 カービィは、まず最初に近寄ってきたジグザグマに、その鋭くとがったトゲのヘルメットでずつきをする。

 ジグザグマは、数メートル吹き飛ばされて、戦闘不能になった。

 次に、左右から接近するクスネとココガラに<バーンニードル>をおこなう。

 ヘルメットから針が二匹に向けて射出される。

 まるで銃弾のような速度。二匹は避ける暇もなく、針に撃ち抜かれて、戦闘不能になった。

 最後に残された、ワンパチは勇猛果敢に攻撃をしかけるが、カービィの針頭突きで倒れた。

 

 バトルの始まりから終わりまで、ちょうど1分だった。

 

「もう大丈夫だよ、お疲れ様」というユウリの一言。

 それを聞いたカービィは、<ニードル>を捨てて、ノーマル状態に戻った。

 

 その瞬間、爆発のような歓声があたりに響き渡った。

 周囲のロビーにいた人たちが、ユウリとカービィの勝利に喜びの声を上げていたのだ。

 拍手と、称えるような声の満たされた空間。

 ユウリは、あっという間に、他のジムチャレンジャーたちに囲まれた。

 

「たしか、ユウリっていう名前だよな。覚えておくよ」

「すっごい強いんだね。わたし、同じチャレンジャーだけど応援している」

「本当にかっこよかったです。握手してもいいですか? ユウリさんのファン第一号です!」

 

「あ、あはははは……」

 

 ユウリは、なんだか複雑な気分になった。

 まるで自分がとんでもない超大型新人トレーナーのように持てはやされている。

 ただ実態は、あまりにもカービィが強すぎるため、ごり押しで秒殺できてしまうのである。

 もし伝説ポケモンを手持ちに加えたトレーナーがいれば、こんな感情になるのだろうか。

 

 歓声の中心で、カービィはいつものように自身のダンスを披露している。

 それで笑いが起きて、場はさらに活気づいた。

 周囲には、スマホロトムを構えて、ダンスをしているカービィを撮影している者もいた。

 

 ユウリは、その光景を苦笑いしていた。

 

 ……ここで、もしユウリがこの撮影を止めるように言えば、後々あのような大きな事態に発展することはなかった。

 だが、未来予知などできなければ、ユウリには想像することすらできない。

 ユウリが後悔した時には、すでにもう手遅れになってしまっていたのだ。

 

 一方、エール団の4人組は、それぞれが、怒りのあまり地団太を踏む者、あるいは負けた事実を受け入れられず呆然とする者、絶望し憔悴しきった者、泣きわめている者がいる。

 

「あ、ありえないです。おれ、おれたちのポケモンがぁ……こんなまん丸ピンクのやつに負けるなんて……」

「し、しかも4体でかかったのに、瞬殺……?」

「こ、こんな大型新人が今年のジムチャレンジに参加するなんて、聞いていないよぉ」

「このままじゃあ、われわれのマリィがぁ、このピンクの悪魔にコテンパンにやられしまうっ」

 

「なにやっとんの?」

 

 そんなエール団たちの前に、一人の少女が呆れたような声を出して現れた。

 

 

 ★

 

 

「ごめんね。あいつら、私の応援団なの。迷惑かけてほんとうにごめん」

 

 少女の名は、マリィという。

 マリィは、エール団を数分間にわたって説教したあと、ユウリとホップに向かって謝った。

 

「いいの、気にしないで」

 

 ユウリはそう言いつつ、目の前の少女に見とれた。

 剃りこみを入れた黒髪ツインテールという、特徴的な髪型。綺麗なエメラルド色の瞳。

 可愛らしいピンク色のワンピースに、派手な黒のジャケットを羽織っているのも、ギャップがあり、魅力的。

 常にクールな仏頂面で、かっこよさがある。

 つまるところマリィという少女は、田舎者のユウリが憧れる、いかにも都会風な女の子である。

 

「ああ、謝ることはないぜ。むしろユウリとカービィが活躍してくれて、オレは鼻が高いぜ」

「ほんとうにごめん。あいつら、私のことになると、すぐに暴走してまうんよ」

「エール団って、なんなんだ? マリィの関係者なのか?」

「一言でいえば私のファン。あいつらは。それも厄介ファン……」

「あー、そういう感じかー」

 

 このマリィという少女も、ジムチャレンジャーであるらしい。

 そしてエール団とは、このマリィを応援するため日々活動しているのだそうだ。

 ただ、あまりにもマリィ推しが激しすぎて、周囲に度々迷惑をかけているという。

 

「さぁ、帰って、帰って」とマリィは諭し、エール団員たちはすごすごとホテルから出ていった。

 

「ユウリ、やったけっけな。ありがとうね。あいつら止めてくれて」

「ううん、大丈夫だよ」

「聞いてたけど、4人相手どって瞬殺したって? ユウリは相当な実力者? もしかして他地方から来た名のなるトレーナーだったりして?」

「いやいや! 全然っ初心者だよ。ポケモンバトルを初めて、ちょうど今日で1週間ぐらい……」

「は……? 嘘でしょ」

「カービィが強いだけだよ」

 

「ぽよ?」

 

 ぽてぽてと、カービィがユウリ達の元へ近づいてくる。

 カービィがマリィに視線をよこした。マリィとおたがいに見つめ合った。

 

「はぁい!」

 

 と、カービィは手をあげて、愛くるしい表情を浮かべて、マリィに挨拶する。

 するとマリィのエメラルドの瞳は、カービィにくぎ付けになる。

 それから数秒間、金縛りにあったようにマリィは硬直し、その場から微動だにしなかった。

 

 マリィは「か、か、か」とつぶやいた。

「か?」と、ユウリは首をかしげた。

 

 

 

「可愛すぎるけん!!!!」

 

 マリィは、カービィに、にじり寄り、ぺたぺたとあちこちを触る。

 

「ぷ、ぷい」

「ぜんぶなにもかも、よかよ!! このつぶらな瞳も、もちもちしたほっぺも、あどけない口も、全部が最高やけん! こんな推したくてたまらんポケモン初めてやんね! もう毎晩一緒にベッドで抱きしめて眠りたいし、一緒に湯舟につかりたいけん。うちとうちのモルペコとアニキと一緒にずっと暮らしたいんね!」

 

 突然のマリィの奇行に、ユウリは顔を引きつった。ホップも若干引き気味であった。

 気のせいか、マリィの瞳にうっすらとハートマークのようなものが浮かんでいる。

 そして、癖のある訛り言葉で口をつむいだ。

 

「こ、この子はカービィって言うんか……」

「う、うんそうだけど」

「どこで捕まえたんよ」

「うーん、家の近くで拾ったの」

「たしか、ハロンタウン出身やったね。ということは、カービィは一番道路あたりに生息しとるんか? 見たこともないポケモンやから、個体数は少ないんか」

「それが実は……」

 

 ユウリは、マリィにカービィのことを教えた。

 ガラル地方に生息していないポケモンであること。

 それどころか新種の存在で、いまだに世界で一匹しか発見されておらず、それがユウリのカービィであること。

 

 それらの内容を伝えると、マリィは瞬きを忘れたように、時間が止まったみたいな顔をする。

 まるでそれは好きな人を他の女に奪われ、脳が破壊されてしまったみたいである。

 

「そ、そんな……カービィはこの個体しかおらへんのね……世界にたった一匹だけ……じゃ、じゃあ、うちがカービィをパートナーにはできないってことやんね」

 

 マリィは、よほどショックだったのか、シュン、と項垂れる。

 それからしばらく経った後、立ち直ったのか「チャンピオンは私がなるからね」と去り際にそう言い残し、マリィはホテルの個室へ向かったのだった。

 

 ホップが、なんといえない複雑な表情でつぶやく。

 

「カービィって罪なやつだな。いつか刺されるぞ」

「……うん、そうだと思う」

「ぷい?」

 

 そうして、ユウリとカービィはホテルで一晩過ごして、翌日の開会式に備えた。

 

 

 




どうしよう、マリィちゃんがキャラ崩壊しちゃった。書き直そうにも、他の展開を考えられないし。うーむ、本当にこれでよかったのか。
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