もしもカービィがポケモン剣盾の世界に転移したとする   作:東雲るぅ

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1-9.開会式

 ────『レディースアンドジェントルメン! ごきげんよう、皆様。いよいよガラル地方の祭典、ジムチャレンジがはじまります!』

 

 広大なスタジアムに、大勢の人間の声であふれている。

 スタジアムの観客席は満席だ。なぜなら、この日、この場所で、ガラル地方最大の催しの開始が宣告されるのだから。

 

 スタジアムの中心の芝生には、ジムチャレンジャーたちが整列している。

 それぞれが、リーグ委員会から支給された白のユニフォームに着替え、誰もがこれから歩む栄光への道と試練に思いを馳せている。

 

 その中に、ユニフォームに着替えたユウリの姿があった。背番号は312。

 その隣には、カービィがいた。

 

(うう……ポケモンを隣に連れているのわたしだけだし、なんだか目立つなぁ)

 

 カービィはモンスターボールに収納することができない。

 開会式の直前、受付の事務員にそう伝えれば、あっさりとスタジアム内にカービィを同伴させてもいいと許可をもらったのだ。

 

 こてん、とカービィはその場で座って、目を閉じた。

 まずい、とユウリは思った。そして案の定、カービィはすぐに寝息を立てはじめる。

 

「お、起きてよ、カービィ」

 

 ユウリは、かがみこんで、カービィをゆすって起こそうとする。

 

 そうこうしているうちに、開会式は進行していく。

 スタジアムの奥にある壇上には、スーツを着こなした浅黒い肌の男がマイクを片手に、言葉を発した。

 ジムチャレンジを主催・運営を取り仕切る、ガラルポケモンリーグ委員会。その委員長であるローズだ。

 

『8人のジムリーダーを倒し、8つのジムバッジを集めた者が、栄光あるチャンピオンカップへの出場権を手に入れるのです!』

 

 ローズの発言と共に、スタジアムの入り口から7人の人物が現れる。

 彼らが、スタジアムの中心に進むと、観客席から熱狂の渦があふれかえる。

 

 ターフタウンジムリーダー、くさタイプ使いのヤロー。

 バウタウンジムリーダー、みずタイプ使いのルリナ。

 エンジンシティジムリーダー、ほのおタイプ使いのカブ。

 ラテラルタウンジムリーダー、かくとうタイプ使いのサイトウ。

 アラベスクタウンジムリーダー、フェアリータイプ使いのポプラ。

 キルクスタウンジムリーダー、こおりタイプ使いのメロン。

 ナックルシティジムリーダー、ドラゴンタイプ使いのキバナ。

 

 スパイクタウンジムリーダー、あくタイプ使いのネズを除き、ガラル地方のジムリーダーがここに集った。

 

 ユウリは、ぼんやりと彼らの姿をながめていた。

 

(……なんだか、あれよあれよという間に始まっちゃったなぁ)

 

 ここにいるジムチャレンジャーたちは、各々の目的と夢を掲げ、ガラルの頂であるチャンピオンの座を目指している。

 だが、ユウリはというとただ「ポケモンバトルがたくさんしたい」という、なんとも単純な理由で参加している。

 ユウリは、自分が場違いであると思った。

 だが、その考えをすぐに振り払う。

 そうだ、自分はダンデさんに、素質を認められたトレーナーなんだ。それに、自分が参加したことに、ホップは喜んでくれた。

 もっとポケモン勝負がやりたい、と思ったのだ。

 だから悩むことなんて何一つない。

 それに……。

 

(どんどん強い人たちとバトルできるんだもん。楽しむしかないよね……)

 

 ユウリは待ちきれない思いだった。

 あのダンデとの試合の時に味わった感動を、これからいくども味わうのだろう。

 ならば、このジムチャレンジに参加しない理由なんて、何一つない。

 

 一刻も早くスタジアムから飛び出して、一番目のジムに赴きたい気分であった。

 これからカービィと共に、このジムチャレンジを終わらせ、チャンピオンリーグへ出場権を手に入れる。

 そしてチャンピオンリーグで、さらに激しい戦いに身を投じるのだ。

 

 それこそが、ユウリの最も望んでいることだった。

 

 

 ★

 

 

 ホップにとって、幼馴染のユウリは、昔から同じ時間を過ごしてきた人物だ。

 同じ田舎町で育ち、同い年で、ご近所さん。

 

 彼女を一言で言うなら、どこにでもいそうな、普通の女の子。

 ポケモンスクールのクラスならば、2、3番目に可愛い……そんな女の子。

 カレーが大好きで、自前の道具でキャンプをするのが得意な、そんな女の子だ。

 

 ユウリが、ジムチャレンジに参加すると言った時、ホップはたいそう喜んだ。

 きっとこれまでも、その関係は変わらない。

 

 自分たちはお互いに、ポケモントレーナーとして切磋琢磨しあう関係になるはずだ。

 これから旅の間で、何度もバトルし、実力を確かめ合う。そしてチャンピオンリーグでお互いのすべてをぶつけあうのだ。

 

 そう、思っていた。

 

「おーい、ユウリ!」

 

 開会式が終わった後、ユウリの後ろ姿を見かけたホップは駆け寄る。

 他のチャレンジャーたちに交じって、ユウリと、手持ちポケモンであるカービィが、並んで歩いている。

 

 ──この後、よかったらポケモンバトルしようぜ! 腕試しだ!

 

 そう、後ろから声をかけようとした。だが、その言葉は、喉元でひっかかった。

 

 ホップの頭に浮かんだのは、ユウリとダンデの試合。

 あの時の試合のすべてが、今も、ホップの脳裏に鮮明に焼きついている。

 ユウリのカービィと、ダンデのリザードンの激闘。

 そして、カービィが様々な能力を使い、リザードンを追い詰める。

 

 戦闘不能になり、動かなくなったリザードン。

 

 ホップの価値観が、根底から覆された瞬間だった。

 

 ホップにとって、ダンデは憧れの存在だった。

 そしてダンデのリザードンは、ホップにとって強さの象徴であった。

 負けることなど、ありはしない。たとえ伝説ポケモン相手でも引けを取らないはずだ。

 それが、ああもあっさりとカービィに敗れ去ったのだ。

 幼少期から彼が抱いていた『絶対』であるはずの価値観は、壊れてしまった。

 

 だから彼は、こう思った。思ってしまった。

 

(……あ、今のオレの手持ちじゃ、ユウリに敵うはずがない。アニキのリザードンよりずっと強いカービィに勝てるはずがないよな)

 

「どうしたの、ホップ、体調悪いの?」

 

 ホップの存在に気づき、ユウリが振り返った。

 きょとん、とユウリは不思議そうにホップを見つめてくる。

 カービィも、そのつぶらな瞳で、ホップをとらえている。

 

「ああ……大丈夫だぞ。ちょっと緊張しちまったからな」

 

 そうホップが返すと、ユウリはほほ笑んで「じゃあ、また明日」と背を向けて、カービィと歩き出した。

 

 ホップは、錯覚した。

 その背中が、すぐ近くのはずなのに、遠くに離れてしまっているように見える。

 自分とユウリは対等なはずだった。

 なのに、今のユウリは自分を追い抜いて、手を伸ばしても届かない場所に行ってしまったように思えた。

 

 

 ★

 

 

「ついに、はじまったか」

 

 ダンデは、そうつぶやいた。

 開会式が始まってから、ダンデは特等席からずっと眺めていた。

 

 カービィとの試合の後、ダンデは自身のポケモンたちと鍛錬に明け暮れていた。

 一分一秒でも惜しい。自分の元に現れたあの新たなる頂(カービィ)に、少しでも近づきたい。

 そんな執念の炎を燃やしていた彼は、わざわざ時間を作って、この開会式に訪れたのには理由があった。

 

 それは、カービィとユウリの出場をこの目で確かめるためである。

 ダンデは、ユウリたちがジムチャレンジに参加したことを、狂おしいほど歓喜した。

 ユウリとカービィはジムチャレンジを達成し、必ずやリーグに出場するだろう。

 そしてほぼ間違いなく、リーグトーナメントを勝ち抜き、チャンピオンである自分のもとへたどり着くはずだ。

 

 だがそれと同時に、ダンデは不安に襲われた。

 推薦状をユウリに渡したが、もし彼女の気が変わり、参加を辞退するかもしれない。

 そうなれば、カービィと戦う絶好の機会は失われてしまう。

 それは、ダンデにとって最もあってはならないことである。

 

 そんな思いに駆られたダンデは、時間を捻出し、開会式に足を運んだのだ。

 もちろん、列に並ぶユウリを見つけ、安堵をし、カービィを目にし、今すぐに戦いたいと強く望んだ。

 

「ダンデ君。今年のジムチャレンジは君の弟くんが参加すると聞いたが……どうかね?」

 

 開会式が終わってしばらく経ち、ダンデはスタジアムの外へ出ようとした。

 そこへローズ委員長が現れる。ダンデはチャンピオンとして仮面を被り、彼に接する。

 

「ローズ委員長、ガラルに台風がやってきますよ」

「ああ、たしか来週辺りにカロス地方の方から……と、ニュースで報じられていたね」

「いいえ、そちらの方でありません」

 

 いずれ台風がやってくる。

 この数年間、ガラルリーグは、チャンピオンダンデという男が頂点に立ち、その絶対性は今まで揺らぐことはなかった。

 だが、そんなくだらないものは、あのポケモン研究所の試合で脆く崩れ去った。

 

 それは、孤高の王者だったダンデにとって、最も望んだことだった。

 

 まだ、人々は知らない。

 だが、いずれ人々はこの台風の存在を知る。

 そしてこの台風は、ガラル全土を席捲するだろう。

 

「……委員長、突然で申し訳ないが、数か月間お暇をいただきたい」

「ほぉ君が……珍しいですね。どこか旅行にでも行くのかね?」

 

 準備が必要だ。

 今の自分では、たやすく敗れてしまうだろう。

 もっと強くならなければならない。うかうかしても時間は待ってはくれないのだ。

 

「はい、これからカロス地方に赴きます。それからアローラ地方にも……リーグが始まるころには、戻ってきますよ」

 

 たとえどれほど巨大な台風がやってきたとしても、吹き飛ばされぬ堅牢な玉座を築きあげればいいのだ。

 

 最近、ダンデはよく胸騒ぎがする。

 それはまだ駆け出しトレーナーだった頃に、ダンデの中にあった感情。

 

 緊張、不安、喜び、期待、興奮、感動。

 それはポケモンバトルへの情熱。

 とっくの昔にダンデの中から失われていた、かつて心の中にあった炎。

 その炎が今は着火し、ダンデにこう囁くのだ。

 

 ────あの頂(伝説の星の戦士)を超えた先へ、と。

 

 

 ★

 

 

 エンジンシティのスタジアムを出たユウリとカービィ。

 ぽてぽてとユウリについて歩くカービィ。

 ユウリは「カービィ」と名前を呼んだ。カービィは、ユウリの方を向いた。

 

「ごめんね」

 

 ユウリの言葉に、カービィはわけが分からずキョトンとする。

 

「これからわたしはたくさんのポケモンたちと戦うことになる。そのたびに、君の力を借りることになる」

 

 カービィは思う。

 ユウリの話はあまりよく分からない。

 ただ自分はこのガラルの地をめぐり、ポケモンバトルに身を投じることだけは分かる。

 これまで幾度もなく、カービィは様々な世界を冒険し、つわものたちと戦った。

 きっと今回も、同じようなことをするのだろう。

 

 カービィはそれでもいいと思った。

 なぜなら、あのポケモン研究所で『ユウリのポケモンになる』と約束したからである。

 

「ゆうり」

「カービィ?」

「はーい!」

 

 自分は平気だよ、と伝えるように、カービィは元気な声を出した。

 ユウリはそれを悟って、頬をほころばせた。

 

「ありがとう、本当にカービィが一緒にいてくれてよかった……」

「ぽよ」

「今日のカレーは10杯までおかわりしてもいいからね」

「うわぁい!!」

 

 いずれ、プププランドの自分の家に帰らなければならない時が来るだろう。

 だからそれまでの間、カービィはユウリのポケモンとして力を貸す。

 そして彼女を、勝利に導くのだ。

 

 

 ★

 

 

 

 

 

 

「ん? ホップからだ……どうしたんだろう? ……『ポケッターを見てくれ!』……?」

 

 スマホロトムを起動したユウリは、ホップからのメッセージに気づく。

 ホップの言葉に従い、ユウリはポケッターを開く。

 ポケッターとは、この世界において、利用人口が数億を超えるほど広く普及されているSNSである。

 どうやら、今、ポケッターではある動画が出回っているらしい。

 

 その動画の閲覧数は、投稿されてまだ数時間しか経過していないのに、いいねの数は、もうすでに10万以上に達している。

 

「……げ」

 

 ユウリは、うめき声をあげた。

 

 その動画は、あるものを撮影していた。

 それはスボミーインのホテル内で、くるくると自慢のダンスを披露しているカービィの姿だった。

 

 ユウリの預かり知らぬところで、なんだか大変なことになっているらしい。

 

 

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