ありふれた異世界で転生特典【ボカロ曲】を使って楽しんでみる   作:夢のまた夢

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本編前から始まります。


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「おめでとうございます!あなたは死にました!」

 

「……………は?」

 

なんか死んだらよくわからん何もない部屋のような場所にきて、目の前に天使が俺に対してめっちゃ毒吐いてきた。

なんでコイツ俺が死んだ事で喜んでいるんだ?性格悪いなこの女」

 

「あの、声に出てますよ。いや気持ちはわからなくもないですが、少しは隠してくださいね?」

 

「ああ、すまん、ついうっかりな。ここはどこだ?俺は死んだんだろ?ここはあの世か何かか?そしてアンタは誰だ?」

 

「いやぁ、矢継ぎ早の質問ですね。いいですよ、時間に余裕がありますし。ここはですね、あなたのこれからの人生を決める、あの世とこの世の狭間、【隙間】と呼ばれる空間です」

 

「スキマ……?」

 

「この後ホントは地獄か天国かを決める裁判があるんですが、なんと!

 

 

あなたは!

 

 

ちょうど死者1兆人目という事で!

 

 

自由な世界へ転生する権利が得られました!!」

 

 

およそ数秒の間思考が固まる。

 

 

「………嘘……だろ?というかそんな遊園地の来場者数の記念みたいな理由で転生が決まっていいのか?」

 

「意外とそんなしょうもない理由で転生が決まってますよ。結構神様もヒューマンエラー……いや神だからゴッドエラーですかね、があったり、たまたま死者が管轄先の天使が好みで次の人生を見るためだったり、まあいろんな理由で転生の許可は取れてるんですよ」

 

「いや前者は置いといて後者の理由でOKでるの控えめに言って頭おかしいだろ」

 

「それでやる気が上がるならと、特別に許可が出たんですよ。なにせ仕事だけはできるますからねー、あの天使。クソが」

 

そう言う彼女の後ろからは般若のような殺意が込み上げてきている。笑顔なのが余計に怖い。

 

「あー、うん。そっちはそっちで大変そうだな」

 

「そうなんですよあの天使、顔が良いヤツと違うヤツとの対応さが違うんですよぉ、しかもそれでいて仕事はデキるしあの天使がいないと回らないところがあるからホントにムカつくんですよあの脳内色欲極楽蜻蛉……!!」

 

悲報。天使、天使がしていけない顔で地団駄を踏みながら呪詛を吐き散らす。しかも振動がこっちまで伝わってくる。

 

さすがに疲れたのか、数分経つとゼーハーしながら地団駄を止めた。

 

「まあ……、気持ちはわかるぞ」

 

意外も人間っぽいところがあるんだな。俺この人と良い酒飲み仲間になれそう。

 

「……すみません、取り乱しました。さてと、本題に入りましょうか。まずは転生先の要望があったら言ってください。私の管轄する世界の中で該当する世界に転生させますので」

 

「そうだな……、少なくとも俺は争いのない平和な世界が良いな。いたいのは嫌だし。それと娯楽がそれなりにある世界が良いな」

 

「はいはい、平和な世界で娯楽がある世界ですね」

 

「それと今とあんまり違わない世界だと嬉しい。まああくまであればだからなかったら考慮しなくても構わない」

 

「なるほどー、意外ですね。普通こういう時、真っ先にファンタジー世界に転生したいとか言いそうですのに」

 

「ファンタジーとか怖いだろ。常に死という文字がうろついてる世界だろ?んなもん碌な世界じゃない。ゲーム感覚で殺したいとも思わないしな」

 

「へぇー、珍しい人ですね。……あ、ありました。ではこの世界への転生でよろしいですね?」

 

そう言うと、何もない空間から球状のなにかが生まれる。何か聞いてみるとその星の模型らしい。いやそんなの見せられても……。

 

「ああ、いいぞ」

 

その言葉を聞くと満面の笑みで頷き、さっきの模型が消失する。

 

「それでは次へ移りましょう。次は転生特典となる能力を決めてもらいます。何か要望があったら言ってください」

 

「転生特典?」

 

「はい。例えば幸運とか、瞬間移動とか、好きに言ってもらってかまいませんよ」

 

「んー、そうだな。疲れない体とか?」

 

「え?そんなので良いんですか!?」

 

「いや、アンタも知っての通り死因が過労死だからな……」

 

ほんとに激務に激務で、疲れを取る方法もなかった末に死ぬし、改めて考えてみると碌な人生じゃねえな。

 

「ああ……そういえばそうでしたね。私も気をつけなければいけませんね」

 

「天使でも死ぬのか?」

 

「勿論ですよ。途中で成長は止まりますが、死ぬ事はありますよ。もしかしたら私達の死後も、今行っているように罪を測ったりしてるかもしれませんしね」

 

なにそれちょっと怖い……。

 

「……にしてももうちょっと欲望を出しても良いんですよ?魅了とか催眠かあるでしょう?」

 

「なんでそんな候補が不穏なんだよ……」

 

「え?男の一度は考える理想的な能力を挙げてみただけなのですが……?」

 

「違うからな?全員が全員脳内ピンクじゃねぇからな?ハァ……、もうめんどくさいからアンタが決めてくれ。気に入ったらそれにする」

 

「え!良いんですか!?」

 

「ああ、なんでも良いぞ。あ、でも生活に支障が出ないようなもので頼む」

 

さっきの話を聞いているとこの天使なんか苦労人な気がするから、少しでも良い思いして欲しいし、自分で考えるよりそっちの方が良さそうだし、何より楽だ。

 

「わかりました!では少し時間をください!」

 

そう言うと天使が後ろを向き、ブツブツと小声で独り言を言いながら考える。

 

別にそんな真剣に考えなくても良いんだけどな……。

 

──────────

 

ざっと1時間くらいだろうか……、よくもまあこれだけの時間で済んだものである。こんなもん日単位でかかるものだし。

 

「いやぁ……、ハハハ、張り切ってつい詰め込みすぎちゃいました……」

 

「どんなのになったんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれました!!能力名はズバリ!!【ボカロ曲】!!」

 

「ボカロ曲?ボカロ曲ってあの?」

 

「そうですよ!初音ミクとか鏡音リン、レンとかGUMIとかが歌っているボカロ曲ですよ!!実はだいぶメンタルがヤラれかけていたときに【命に嫌われている】を聞いて救われたんですよねぇ!!ホントにカンザキイオリさんの魂がここへ来た時には丁重に扱わなきゃなんの為の命でしょうか!しかもあなたのおかげでボカロ曲という名の素晴らしい世界に──」

 

まるで水を得た魚のようにすごい生き生きとしている……。まるでさっきの死んだ眼が嘘のようだ。ヲタク特有の早口だなぁ……。

 

「天使でもボカロ曲とか聞くんだな……」

 

そして俺の何気ない独り言に、また熱意が加速する。

 

「名曲というのはですね、種族の壁を超えるものですよ。最近は聞けてなかったのでこの後は有給とってまた新たなボカロ曲を探さなければいけませんね。にしても一番好きなボカロ曲だったらなんですかね〜、やっぱり最近はバグとか良いんですよね〜、あ、あとは──」

 

「……あの、とりあえず能力の説明をしてくれないか?」

 

「あ、すいません!つい熱く語りすぎてしまいました。この能力はですね──」

 

〜1時間経過〜

 

「それでですね!想像力さえあればですね──」

 

「……」

 

〜2時間経過〜

 

「しかもさらにさらに──」

 

「……」

 

〜3時間経過〜

 

「つまりはですね!「いい加減ストップしろ」あ!すみません……」

 

簡潔に説明すると、ボカロに関する能力が使えるという能力で、その能力は自身の解釈次第で好きなように変化するという、万能タイプのチート能力だった。

 

なんでわざわざ平和な世界に転生したいと言ったのに、世界観フル無視のチート能力を得ることになるんだよ。

 

「今更だが転生特典は無しとか出来ないか?」

 

「すみませんよく聞こえませんでした。何か言いましたか?」

 

「いや、転生特典を無「聞こえませんでした」いや、転せ「何か言いましたか?」……いや、なんでもない」

 

助けて、天使がNPC化した。もういいや、諦めよう。

 

「それでは、お別れですね。ほんの少しの間でしたが、楽しかったですよ」

 

「ああ、俺もだ。そういや聞いてなかったな、アンタの名前は?」

 

「そうですね、私の名前はハギアです。転生先でも覚えていてくださいね」

 

「ああ、覚えておく」

 

「それでは、第二の人生に祝福を」

 

──────────

 

「────んぁ」

 

小学生達の軽いじゃれあいの音で目が覚める。どうやら今は10分休憩のようだ。俺は授業中に寝てしまったらしい。

 

懐かしい夢だった。転生前のやりとりの夢だった気がする。

 

俺の名前は神崎(かんざき)伊織(いおり)。10年前、この世界に転生した。にしてもあの天使の言っていた人と奇しくも同じ名前なんだが、たまたまだよな……?

 

俺はこの10年間で、世界についてや自分の転生特典について調べた。

 

世界については元いた世界とほとんど変わらない、どころか変化がなくホントに異世界かここ?と半信半疑になりながら過ごした。普通に学校に向かい、勉学に励み、予習復習を欠かさずに、最適な温度で生きていくことが出来ている。親からはお前本当に俺らの息子か?という眼で見られているが、家族仲は結構良好だ。嘘じゃないぞ?

 

さらに小学校に上がり、スマホを買ってもらったことで好きにボカロ曲を調べることができるようになった。今の時代はこの年からスマホを持つのかと、時代が変わったのか異世界だからなのか考えたこともあったが途中でやめた。前世ではボカロ曲は千本桜程度しか知らなかったが、この世界でもボカロ曲はあるらしく、ホントにこの世界は前いた世界と変わらないなと思ったのは言うまでもない。

 

最近はプロセカというアプリで音ゲーをしながらボカロ曲を学んでいる。時々思うんだがこれ対象年齢4歳以上のはずなんだが時たまドギツい歌詞が聞こえるんだが、これはホントに楽曲として収録して良いのか?と思う。それとも俺の心が汚れているからそう聞こえるだけか?

 

また、俺の転生特典である【ボカロ曲】は、曲名を言わないと発動しないことがわかった。事故ってやらかすことが減るからありがたい。さらに中には常時発動するタイプの能力もあった。一応ON/OFFは可能のようだがめんどくさいのでやらない。やって困ることはないからな。

 

 

 

さて、本題はこれからである。

 

実はさっきの常時発動タイプのなか【イカサマライフゲイム】という未来予知の力があるのだが、その未来予知によると、帰り道に人が自殺をしようとする少女が現れるらしい。

 

別に正義感がどうとかじゃない。ただ、目の前で救える命があるなら、救わない道理はないってだけだ。要するに自己満足ってやつだな。

 

とりあえず、今しっかりと授業を受けるか。これも全て人生のため、ひいては第二の人生を謳歌するためだ。

 

──────────

 

授業が終わり、放課後。俺は一人ぽつんと家へと真っ直ぐ帰る。いや違うんだ、決して友達がいないわけじゃないんだ。ただこれからのことを考えると一人の方が動きやすいかなって、ホントだよ?ホントだって読者諸君。お前らにもあっただろ、子供の頃一人で帰りたい時くらい。あったよな?

 

さてと茶番は置いといて、確かこの先に橋があって自殺するとしたらここらへんかなぁと、なんとなくの予測を立ててはいたが、実際のところはどうだ?

 

この未来予知景色が見えるわけじゃなく、「〜〜したら〜〜しますよ」っていう感じでメッセージを残してくるだけなんだよな、もうちょい情報を残してくれよ。

 

やがて、雨が降り始め、ランドセルから折り畳み傘を取り出して、空へと翳す。

 

橋に向かうと、少女が橋に足をかけ、そのまま川へ落ちていく様子が見えた。

 

「ちくしょうタイミング悪すぎだろ!!」

 

 

ランドセルと傘をその辺へ放り投げ、そのまま川へ飛び込む。

 

「【深海少女】!」

 

この世界で初めて、自身の転生特典である【ボカロ曲】の能力を使い、まるで魚ような泳ぎで少女の手を掴み、川岸にへと引き上げる。

 

「ハァ……ハァ……、息はある。なんとか助けられたな」

 

「ケホッケホッ……なん……で、たすけ……たの……?」

 

肺に水が入ったのか、声がむせ返りながら俺に向かって話す。

 

「とりあえず……」

 

放り投げたランドセルと傘を持ってきて、傘を手渡した。

 

「ほれ。今更感は否めないが、雨は凌げるだろ」

 

少女は手渡した傘を振り払い、傘は雨音でかき消されながら地面へと落ちる。

 

「いら……ない……!」

 

「風邪ひくぞ。いや今更だけども」

 

「僕は……死にたか……たんだ……!なのに君は……邪魔をして……!」

 

俺は落ちた傘を取りに行きながら、会話を続ける。

 

「ハァ……、ここ最近の若者はそうやってすぐ死にたがる。あ、俺もそっち側か」

 

「君に……何がわかるの」

 

「わかるわけないだろ。エスパーじゃあるまいし」

 

「じゃあ」

「だがこれだけは言える」

 

前世の分の記憶も合わせて生きた経験則から、俺の思いを伝える。

 

「人生の中で、いつか絶対に生きてて良かったと思える日が来る。その日のためにも、ここで命を捨てるのはもったいない。もしその日が来ることに自信がないなら」

 

「俺がそこまでの道を整備してやるよ」

 

 

少女へ再び傘を差し伸べる。少女は少し悩むんだのち、俺の手と共に、傘を掴んだ。

 

「そういや聞いてなかったな。アンタの名前は?」

 

「……中村……恵里」

 

「そうか、恵里か。良い名前じゃないか。それじゃあ一旦家来るか?というか来い。流石に女の子をずぶ濡れの中で帰らせたくない」

 

「……うん」

 

──────────

 

「なるほどね……。事情はだいたいわかったわ」

 

おれは今世の母親である神崎(ゆい)に、この帰り道での出来事と帰り道の会話を細かく丁寧に話した。

 

父親の死、変貌した母、再婚した義父の下卑た眼、悪化する環境、家庭内暴力。

 

なるほど確かに、これだけの要因が揃えば自殺を考えてしまうのも無理はない。真面目に仕事していても時々死にたくなるんだ。多分だがここまで来ると死にたくないと思った回数より自殺したいと思う回数の方が多いだろう。

 

現在当事者である彼女こと恵里は川に入ったことで汚れてしまった服のこともあり、とりあえず服は洗濯し、風呂に入らせている。

 

「ともあれどうしましょうかね……?警察に通報は確定するとして、その後は……?」

 

「普通に養子縁組の制度使ってこの家の子になってもらったら?」

 

「その提案の前にいつその言葉養子縁組って知ったの?」

 

「罪に問えるとして家庭内暴力は長くて懲役2年だから、ワンチャン逆怨みで襲ってくる可能性があるし、家に住まわしてもらった方が対処しやすいと思う。確かに養育費とかを考えるとキツい面もあるかもしれないけど……、まさかこんな自殺まで及んだ少女を放っておくなんてしないよね?母さん」

 

「……わかったわ。いや元々そのつもりではあったのだけど、いつそんなに調べたの?まだ帰ってきて1時間と少ししか経ってないわよ?」

 

「最近はスマホ一つで解決策がたくさん出てくるってすごいよね。という事でこれからの方針も決まったことだし、自分の部屋(テリトリー)に戻りますねー。ここからは大人の仕事だ」

 

そう言いながら俺はダッシュで階段を駆け上がり、部屋へと消えていった。

 

 

 

「見た目と精神年齢が噛み合って無さすぎるし、しかもしっかり自分の意見を通すためにプレゼンみたいこともしてくるし、全く誰に似たのかしら……?怖くなってDNA鑑定してみてもちゃんと一致しているし、本当にあの子謎すぎるのよね……」

 

なお、実際はただの社畜時代を引き継いでいるだけであったりする。




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