ありふれた異世界で転生特典【ボカロ曲】を使って楽しんでみる 作:夢のまた夢
「『七元徳』?」
聞き馴染みのない言葉に聞き返す。
「はい。『七つの大罪』をご存知ですか?」
「ああ、『強欲』『嫉妬』『憤怒』『怠惰』『色欲』『暴食』『傲慢』の七つの原罪だろ?」
「ええ、その通りです。実はその『七つの大罪』の対となる存在が『七元徳』であり、それぞれ『信念』『慈愛』『正義』『希望』『知慮』『勇気』『節制』の七つを司る天使がいるのです」
へー、そんなものがあるのか。片方が有名になりすぎてもう片方の影が薄くなるってことは往々にしてよくあることだもんな。
「ははぁ、そいつらがこの世界にいるってのか?」
「ええ、その通りです。それに今回の彼女の洗脳も、七元徳の一人【慈愛】のカルミアによるものでしょう」
「ああー……ところでそこにいる黒髪の女は誰だ?」
ティオを指差すハジメ。そういや説明を一切挟まず会話スタートしちゃったもんな。
「こちら、竜人族のティオさんだ」
「いかにも、妾が竜人族の生き残りであるクラルス族の一人、ティオ・クラルスじゃ」
その名乗りにいち早く反応したのはユエだった。
「竜人族……!?」
「なんだユエ。なにか知ってるのか?」
「……ん、三百年前、王女をやっていたとき、そのあり方を参考にさせてもらった。だから今この時代に竜人族に会えたこと、嬉しく思う」
そう言われたティオは、自分の種族の誇りを肯定されたことが嬉しいのか、どこか上機嫌にニコニコしている。ああ、ドラゴンの尻尾をブンブン振ってる幻覚が見える……。
「よもやこの時代に竜人族のあり方を知る者がいるとは……。もしやそちらは吸血鬼族の王女か。まさか生きておったとは。名は確か──」
「──ユエ。それが今の私の名前。そう呼んでほしい」
食い気味に言葉を遮るユエ。次第にティオは頷き、そこから口をユエに関して口を開くことは無かった。
話す前に幸利たちが何やら急いだ姿で乱入してきたからだ。
「おう幸利に妹。そんな焦った顔してどうした?」
「おいお前ら、窓から森を見てみろ。やべぇことになってるぞ」
「……うん、集合体恐怖症じゃなくてもアレはキツいかな」
「えぇそんなに?どれどれ……───うわぁナニコレ」
目下の先に見えるは遠目から見てもわかるレベルの大量の魔物たち。それが一丸となって町の方向に向かって行進しているのだ。
すげぇや渋谷ハロウィンよりも綺麗に整列してやがる。
ま、そんなのはどうでもいい。さすがにこの魔物侵攻の犯人はカルミアとやらで間違いないだろう。竜人族であるティオでさえ抵抗できないほどの洗脳能力なら、魔物を支配することなど造作もないことだ。
「おし、これから二手に分かれるぞ。片方はこの魔物の群れを食い止める。もう片方はウルの町に行って市民の避難を任せたい。ハジメ、行ってくれるか?」
「……はあ、しょうがねえな。何かあったらすぐに逃げろよ。安全を確保したら俺らもそっちに行くから」
「りょ。あと、二人って戦闘いけるか?」
「あー、できないことはないんだが……多分足手まといになるな」
「ボクも同じかな。残念だけどお兄ちゃんの役には立てないや」
そうだな。明らかに俺と幸利たちじゃレベル差がありすぎる。あの大群との中で二人をカバーできる気はしない。ウルの町に置いていくのが正解だ。
「……なあ」
「それはあなたの能力です。相当なことでもない限り、止めはしませんよ」
「助かる。いつもありがとうな」
二人に能力を預ける。一応、能力の使い方は【リンカーネーション】で記憶に流し込んでおいたから、即戦力として使えるはずだ。
「これは……すごいな。今までと比べものにならない力だ」
「これならお兄ちゃんたちの足をひっぱらなくてすみそうだよ」
「おし、んじゃここから飛ぶぞ」
「「「え?」」」
いやぁ、紐なしバンジーなんてやったことないから楽しみだったんだよね。
そう言い残して俺だけ車窓から飛び、他は【ワープアンドワープ】で空中に放り出した。
──────────
「あら、もう気づかれたようね」
はるか遠くから爆音が聞こえる。誰だか知らないけれど、あの魔物の群れに怯えず突っ込む根性は素直に認めてあげたいわね。
でも、無駄死にであることには変わらないわね。
なにせ、およそ三千万という魔物軍隊、たかが数人程度でどうにかなるものではないもの。にしても……
「この子、私のタイプじゃなあい♡」
目に映るは赤髪の碧眼の子。こういうまるでオシャレに無頓着な服装で幸薄そうな子、私が幸せにしたくなるのよねぇ。いわゆる母性ってやつ?
「感じちゃうわぁ♡」
「き、気持ち悪……」
「あら、いらっしゃい。さっきまであなたの話をしていたのよ?……うん、私の目に狂いはなかったわ、やっぱり私のタイプ♡でも、どうやってここまで来たのかしら?」
「どうしたもこうしたも、普通に探知系の能力を使って。それよりも、趣味悪いですよ俺がタイプとか。こんな性格の悪いやつ、将来苦労しますよ」
それがなんだというのかしら?もしや照れ隠しってやつね?まあ私の美貌を見たならそう思っても仕方ないわ。
「うふふ、かわいいわね♡大丈夫よ、私にはわかっているから。それと、お名前を聞かせてくれるかしら?」
「お断りします
「……!へえ、私の名前、知ってくれてるのね♡嬉しくなっちゃうわ♡だからこそ……」
「貴方を私のものにしたいの」
私の触手たちが蠢く、貴方を捕まえるために。彼は動かず、静止している。そして口を開いた。
「残念だが、こちらからお断りだ。特に人をもの扱いする神にはな」
とたん、触手がずれ、切り落とされる。あまりにも綺麗な太刀筋に、切られた私でさえ地面に落ちるまで気づかなかった。
その実力に舌なめずりする。
「美しいわぁ、これは何がなんでも私のものにしなくちゃ♡」
「さあ、審判の時だ」
そう言って彼はどこからともなく剣を取り出した。
「普通は審判をするのは私の方なのだけどね」
──────────
「お、もう本元についたみたいだな」
【〇〇は受信機なんです】からなにか伝達されてきた。どうやら【拝啓ドッペルゲンガー】で生まれたもう一体の俺がボスに接触したようだ。
とりあえずは一安心だ。まあまあ不安だったからな、もとの楽曲がアレだったから、命令と別の行動を取られると面倒だった。
実際はしっかりと任務遂行に動いてくれたので、気苦労で良かった。
「そんなことより早く倒してください!この量を相手するのはさすがにキツいです!」
「さっさとしろイオリ!」
「わかってるって、姿勢低くしとけ。【ずれていく】」
指で真横に線を描く。その線が刃となり、視界一帯の魔物が真っ二つにされる。だいたいこれで何体分だ?まあいいか。
「イオくんの馬鹿!あと少しで首と頭が離れ離れになるところだったじゃん!」
あ、ミレディ、そこにいたのか。
「すまん気づかなかった」
「いいよ。そのかわり、もっと頑張ってもらうからね」
「うへえ」
周りを見渡すと大量の魔物の死骸がそこら中に落ちている。恵里はその死体を操り、渡した能力【マダラカルト】を上手く使って死体機械化させて生物兵器を生産、そのまま大群にぶつけて同士討ちさせている。
うん、さすがは俺の妹、魔物相手とはいえ倫理観を捨てた戦闘をしている。恵里、俺誇らしいよ。
ちなみに幸利には【 】を与えた。残念ながら表記揺れじゃなくて実際にそういうボカロがあるんだよね。ホントボカロって無限大だわ。
能力はシンプルに触れたものに
……わけではなく、単純に出口のない亜空間に飛ばされるだけだ。帰ってくる方法はないから、実質的に確殺ってわけである。
うーん、与えた俺が言うのもなんだけど、ラノベのチートものかな?
今現在の使い方は闇魔法で魔物を使役、「 」を付与して特攻と、恵里と似た戦法をとっている。
やっぱり二人とも相性良さそうだよね。お兄ちゃんも恵里の彼氏が幸利なら、ブチギレながら許す。
俺も【ずれていく】や【白い雪のプリンセスは】、【隕石が落ちてきた】などを使って殲滅はしているが、それでもなかなか減らない。もうかれこれ最低でも百万は倒した気がするんだけどなぁ。数の暴力とは恐ろしいものだ。
「すまねえ、遅くなった」
「お、ハジメか。人手が増えるのは助かる。さっそくご自慢の銃火器で敵を殲滅してくれ」
「おう、任せろ。ちなみにあとどのくらいだ?」
「まだ八割きってないくらいだ」
「そりゃだいぶ不味くねえか!?」
そう、だいぶ不味い。指揮官系統の魔物がいればよかったのだが、見た感じいなさそうだったしなぁ。
「しょうがない。一つ、手札を切るか。【マネマネサイコトロピック】」
手首に『0』と書かれた腕輪が現れ、それに触れる。
するとどうだろう。白い光が集まり、もう一人の俺が現れた。違う点は腕輪の数字が『Ⅰ』と書かれているくらいだ。
「な、増えた!?」
「「ああ、そういう能力だからな。でも本物よりかはだいぶ劣化するけどな」」
俺は『Ⅱ』、『Ⅲ』、『Ⅳ』とどんどん増やしていく。
最終的に『Ⅹ』まで増やした。やっぱ能力あるなら使わなきゃ損だよね。ん、どうしたハジメ?そんな顔して。
「……まあ、いいや」
そう言ってハジメは思考を放棄し、ガトリングを手に持ち走っていった。頑張って削ってくれよー。
──────────
ハート型の弾幕が俺を追尾する。それを周りの魔物を盾にして防ぐ。お返しに【プリズムキューブ】の光線を触手に浴びせるが、すぐさま再生し、また俺を狙っていく。
「チッ……!しぶといな」
「あら、嬉しい。貴方に初めて褒められたわ」
カルミアの腹立つ返しに、一層指に力がこもる。
カルミアの主な攻撃はタコのような触手。だが存在する数は八本ではなく、十三本と多い。それに加えて洗脳状態にする弾幕も飛んでくるため、アホほど手数が多い。しかも触手は再生するオマケつき。
うん、ふざけんなアホ。
レイド用の敵なのに同志討ちさせるような能力までつけやがって。あまりにもクソゲーがすぎる。
「そんなに怖い顔しないで?貴方の全てを私に委ねてくれればいいの。ね?簡単でしょ♡」
「死んでも嫌だね。【THE WORLDS】」
ブロック状のダイナマイトを大量設置し、すぐさま着火。そして自分の周りを黒曜石ブロックで囲う。
ドカーンと、鼓膜が破れるような音があたりに響く。その爆発は壁越しに伝わり、振動は黒曜石ブロックすらも貫通した。
「やったか……とまでは言わないが、痛手は負っといてほしいな」
そう呟いたが、黒曜石に穴を開けた触手がそれを否定する。
「はあ……いい加減死んでくれねぇかな!?」
剣を振り上げ、触手を黒曜石ごと切り刻む。
触手の再生に対抗できないか、色々試してはいるのだが、いかんせん決定打が見当たらない。炎も風も電気も、散々試した。しかし、それでもなお再生する。
「おいおい、もしや不死身か?明らか再生力おかしいだろ」
「ウフフ、褒め言葉として受け取っておくわ。でも、貴方もなかなかよ?ここまで私の攻撃を避けたのは貴方がハジメテなんだから♡」
いちいち俺をイラつかせるなこの女。だが、あらかた予想は着いている。
これだけの攻撃を無条件に回復なんてなかなかできることではない。よって何かしらのデメリットがあるはずだ。そこで頭に浮かんだのは、これだ。
「洗脳したヤツの生命力を吸ってんだな?」
「……フフ、やっぱり貴方がほしいわ。こんなにすぐに気づいちゃうんですもの。でも、気づいたところで、絶望が近づいただけではなくて?」
ビンゴだ。そして、それならいくらかやりようがある。
「いや?むしろ希望に繋がった。ありがとよ。【イヤイヤヨ】」
現れるは無数の黒い手。その全てが中指を立てている。カルミアは何か危険を察知したのか、弾幕と触手をフルで活用し、襲いかかる。
だが、もう遅い。
無数の黒い手による弾幕は、まるで弾丸のように触手を貫き、ついには神であるカルミアの心臓に穴を開けた。
カルミアは生命力を吸い上げようとするが、
「なん……で、……再生……が」
「ああ、あんたが洗脳した魔物との関係を
普通にめんどくさい相手だった。
「てことは私の……負け……かな。最後に……ひと……つ……いい……かな」
「断る。最後の最後で道連れされたら嫌だからな」
「フフ……徹底……してる……ね。じゃあ……最後に」
「愛してる」
それを伝えたあと、カルミアの体は砂のように風に流された。
「いや興味な。聞く意味なかったな」
──────────
「お、どうやら倒したみたいだな」
伝達によると、これで洗脳が解除されるらしい。じきに正気を取り戻し、元いた住処へ戻っていくだろう。
「まあ九割がた殺したけど」
やっぱ戦力ってのは量×質の掛け算で求められるんですわ。つまり俺が最強ってわけ。
いやそこまで驕り高ぶるつもりはないけど。謙虚堅実って大事だからね。
「さ、分身ども、戻ってこい」
「しょうがねえな」
「えー、もうちょっといたいよ」
「また呼び出せよ」
「じゃないとしばくからな」
いっぺんにしゃべるな俺は聖徳太子じゃねえんだぞ。なんで全員俺なのにこうも統率が取れてないんだよ。
そう心で愚痴っている間に、【マネマネサイコトロピック】で増やした俺の後処理が終わった。正確に言うと取り込んだ。
「よし。生きてるか他の奴ら」
そう言って周りの仲間に声をかけるも、全員が等しく満身創痍であったため、とりあえずウルの町まで【ワープアンドワープ】を繋げて全員放り投げておく。
さて、もう一人の俺が来るまで暇だな。こんなことなら話し相手として一人くらい残せばよかったな。
お、そこに座るのに最適な岩あるじゃん。座って待ってよ。
………。
……。
…。
「んで、いつまでそうして隠れてるつもりだ?
木の影に隠れていた
「あら、あらあらあら。やっぱりあなたってすごいのね。まさかこんなにも早くバレるなんてね。さすが私の旦那様♡」