ありふれた異世界で転生特典【ボカロ曲】を使って楽しんでみる   作:夢のまた夢

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テンセイ異世界譚

「紹介するぜ!右から八重樫雫、天之河光輝、最後に白崎香織だ!」

「いやアンタが仕切るんじゃないわよ」

 

そう龍太郎の紹介が入ると、横に並んだ男女3人は一人ずつ自己紹介をしていく。

 

「八重樫雫よ。龍太郎がお世話になってるようでいつもありがとう。何かあったら相談してくれると嬉しいわ」

 

「天之河光輝だ。何か困ったことがあったら、俺を頼ってくれ!」

 

「白崎香織です!仲良くなれると嬉しいな!」

 

そして最後に、印象を悪くしないためにも、俺からも自己紹介をした。

「神崎伊織だ。……よろしく」

 

ど、どうしてこうなった……?

 

 

 

 

 

 

遡ること三日前。龍太郎といっしょにいつものコースを走っていたときのことである。

 

「そういや伊織」

 

「なんだよ龍太郎」

 

「お前って友達いないのか?」

 

グサッ

 

「う……」

 

悪意のない龍太郎の質問が俺のメンタルに牙を向く。

 

「別にいないわけじゃあないけどさ……」

 

「じゃあさ、俺の友達を紹介してやるよ!」

 

「いやいいよめんどくさい。俺は交友関係は狭く深くが良いんだ」

 

「まあまあそう言わずにさ、んじゃ三日後な!」

 

「いやおい待て!ちくしょう速いなおい!!」

 

伝えることだけ伝え、龍太郎はダッシュで先を行く。

あの野郎言うだけ言って逃げやがった。

 

確かに友達が欲しいとは前に言ったけどさぁ。

 

「はぁ、めんどくさい」

 

 

 

 

 

 

そして現在に至る。

その後仲を深めるためだとか言ってゲームセンターや衣料品店などが集まった商業施設に俺達は来ている。その後、香織が洋服を見たいと言い出し、龍太郎と光輝が連行され、俺と雫は3人の用が終わるまでカフェで休憩しながら待っているのだった。

 

「ほんとすみません。そちらの予定とかあったかもしれないのに」

 

「いいのよ、むしろこっちこそいつも龍太郎がお世話になってるわ。よく龍太郎が貴方の話をしてくれてね、興味も持っていたのよ。それにそんな畏まらなくて良いわ」

 

「そうか、そうだな。友達だもんな」

八重樫さんは、このメンバーのまとめ役みたいだな。単純に俺のことを気遣ってくれて嬉しい。

 

ただ……

 

「あんたは大変そうだな」

 

「……わかる?そうなのよもう色々と」

 

少しの間いるだけでもわかる。筋肉バカの龍太郎、どこか正義感に振り回されている光輝、超高校級(まだ中学生)のド天然こと香織。この別々の方向で世話のかかる三人を一人でまとめる唯一の良心(良親)である雫。

 

当然ストレスも溜まるわけで……。

 

「もう本当に嫌になってくるわ……、別に嫌いって訳じゃないのよ?でも例えどれだけの親友でも不満はあるわけ。本気で焦ったのはやっぱりアレね。香織の変なところで発動するよくわからない突っ走り。最初は頭を抱えたわ……」

 

出会って初日の人に愚痴をこぼす、どころかひっくり返すレベルの不満を俺にぶつける。溜まってるんだなぁ、文句。

 

「あ!ごめんなさい!つい……」

 

「良いよ良いよ、そんくらいの愚痴を話せる相手いなかったんだろ?じゃあ俺がその愚痴全て聞いてやるよ」

 

「良いの?でも……」

 

多分この人は人に甘えるようなことは出来ない。私がしっかりしなきゃと自らを奮い立たせ、周りを気遣っていくタイプだ。そして周りは安心してその人に寄りかかる。

 

「良いんだよ気にしなくて。友達だろ?」

 

しかし、そういう人は誰に寄りかかる?彼女だって人間である。吐き出したいことだってあるに決まっている。それを必死に抑え込むうちにだんだんと自分の本音が見えなくなってくる。

 

そして最後には、決壊しまう。俺は彼女にそうなってほしくなかった。

 

「愚痴を話し合える友達が欲しかったんだ。だからその相手になってくれないか?」

 

雫は、その言葉に目を丸くする。

 

「……いいわよ。こうなったらめいいっぱい吐き出すわ」

 

「ああ、そうしてくれ」

そう言った雫の飲む、黒く澄んだコーヒーに映るのは、微笑だった。

 

ちなみにその後に来た問題児三人組は雫の愚痴が聞こえてしまい、しばらくの間は雫に迷惑をかけないようにしようと各々の心の中で決心した。(それでも根底にある問題までは直せなかった)

 

──────────

 

中学生とは三年間しか存在せず、そのおよその記憶は生きている人生の中では特に思い出に残ることもなく抹消されるだろう。そう、つまりは影が薄い期間である。少なくとも同じ三年間なのに記憶にこびりつく高校生と比べると。

 

 

 

それは昼休みの時間に起こった、平穏とは程遠い日々の始まりの瞬間である。

 

 

 

高校生になると人は変わるものである。それは人間関係にも影響している。勿論変わらない関係もある。あの四人組とは仲良くしてるし、清水は俺の親友だと思っている。しかし、あのときはまだお兄ちゃんと呼んでくれた恵里も、今ではすっかり言ってくれなくなってしまっている。それも中学生までの話だが。

 

別に呼び名が変わっている訳ではないのだが、それはそれとして距離感は感じるんだよなぁ。悲しい。

 

「はぁ……」

 

「どうしたの神崎君?」

 

つい抑えず出てしまったため息に、いつのまにか友達になっていた南雲(なぐも)ハジメが心配そうに声をかける。

 

「いや、なんでもない。別に心配するような内容じゃないから安心しろ。つうかそれよりハジメは自分の体調の心配しろ。なんだその隈は」

 

「あ、これ?実は親の仕事を手伝ってて……」

「そうか、休め」

 

ハジメの親は父がゲーム会社の社長、母は少女漫画家という、ものすごく特殊な家庭である。もちろんそんな人から生まれたこともあって、ハジメはオタク気質であり、俺の会話とも話が合う。なんなら親のツテでボカロPにも会いました。いい体験でした、本当にありがとう、俺が女なら結婚してた。愛してる。

 

そんなハジメさんなのだが、彼は時々親の仕事を手伝っており、忙しいときによくこき使われている。ハジメが言うには仕事分の給料はもらっているし、大人になって会社を継ぐ時に必要だからと言っているが、徹夜でやらされるって児童虐待にならないんですかね?

 

「お前は自分の体を酷使しすぎだ。しかもそれで碌なもん食べてないだろ?」

 

「一応ゼリー飲料とかで栄養は取ってるから大丈夫だよ」

 

「はぁ……お前ならそう言うと思ったよ。ちょっと待て」

 

自分のバッグを漁り、ハジメに弁当を手渡す。俺が【オブソミート】の能力で使った弁当だ。味は絶品で、さらに見た目も美しい。これを毎日ハジメに渡している。ハハ、多分クラスの誰よりも女子力高え自信ある。

 

「いつもありがとうね、神崎君。いつも美味しい弁当を作ってくれて」

 

「まあ作ってるこっちも楽しいから別にいいんだけどな」

 

実はこの能力は、何の材料もなしに食べ物を生み出すことが可能なのだが、それだと面白くないので自分で作ってみたが、やればやるほど上達するところに快感を覚え、気づいたら趣味の一部になっていた。前の人生では料理なんてしなかったからな。

 

「お!いたいた!伊織!」

 

大声の方向を向くといつもの四人組がおり、龍太郎が俺に手を振る。

 

「ハジメくん!一緒にご飯食べよ!」

 

そして香織はハジメに昼飯のお誘いをする。ハジメはそれに対して少し嫌そうな顔をしながらも返事をかえした。

 

「うん……、ごめんね、白崎さん。これから神崎君と一緒に食べるから……」

 

「そういうことだ。ごめんな龍太郎」

 

そう言って俺は龍太郎達に断りを入れる。ハジメは香織のことを嫌っている訳じゃないのだが、若干苦手意識があるようで、すぐ距離をおこうとする。人と合う合わないがあるから無理に合わせる必要はないと思うけどね俺は。

 

「じゃあ私もそっちで食べるよ!」

 

「いやさっきのと何も変わってねぇからなその提案」

 

と、何が何でもハジメと一緒に食べたい香織を嗜める。

 

しかし、そこに無自覚に余計なことをするありがた迷惑の擬人化こと天之河光輝が、香織に話しかける。

 

「香織、あっちで一緒に食べよう。ハジメにはもう先約があるようだしさ」

 

お、天之河にして珍しく正論。断ってるのに何でそんなハジメと食べたいのかねぇ?

 

「ならみんなで食べようよ!」

「まぁ……、それなら問題は、……ないか」

「確かにいいな!それでいいよな伊織!」

 

「えぇ……」

 

急に団結し始めた問題児三人組に、少し戸惑い、ハジメの方を見る。

 

「……まあ、しょうがないね。一緒に食べよう」

 

 

おう……、マジか。俺はハジメと二人で静かに食べたかったんだが……。ハジメがいいならいいか。

 

「わかったよ」

 

そうしてみんなと昼飯を食べるために席を移動させる。席は香織はハジメの隣、その隣に光輝、香織の正面に俺、俺の隣に龍太郎、その反対側に雫という位置となった。

 

「ごめんなさいね、香織が無理を言って」

 

そう言って雫は俺に対して迷惑かけたと言わんばかりの哀しそうな顔をする。

 

「やめろやめろ、そんな顔するな。飯が不味くなる。百歩譲って香織がそんな顔するならわかるが、今回お前は何も悪いことしてないだろ」

 

「でも……」

 

この人は昔から人の失態を自分の犯した罪のように感じてしまうのか、本人以上に深刻に考えてしまう節がある。なお、本人達は全く反省していない。

 

「お前は周りの失態に関して深く考えすぎだ。もうちょい自分のこと優先しろ」

 

ハジメと雫はもっと自分のことを大事にしてほしい。ゆくゆくは幸せになってほしいし。

 

「そうね……、そうだわ、本当にいつもありがとう。いつも私のことを気遣ってくれて」

 

「そっちも、いつもの三人組をしっかりと支えてくれて助かる。おれなら心労でぶっ倒れそうだしな」

 

他愛のない会話。美味い飯。平和な日常。これが一生続けばいい。そう、本気で思っている。しかし、平穏は一番だとわかっていても、つい非日常を求めてしまうのは、人の性というものではないか。

 

そして転生者である彼もそう思ってしまった。

 

(……なんか、平和でいいんだけどなぁ。異世界みたいな場所に行ってみたいな。この世界ってそんな異世界感ないし)

 

そんなしょうもないことをかんがえていた脳内が、教室の中心から、幾何学模様の陣が現れたことで現実と化す。

 

「は?」

 

ほとんどの人は頭の上に?が現れる。

 

その間にも、幾何学模様は俺の不安とともに広がっていく。そして光が教室を包み、その場にいる全ての生徒および先生は目を瞑る。

 

「……くそ、なんだったんだ今の?ってここは……」

 

目が眩むような光が収まり、次第に視界が開ける。その視界に映るのは教室ではなく、今から十数年にも来たことのある、スキマだった。

 

──────────

 

「ここに来たってことは、俺って死んだのか?」

 

「いえ、死んでませんよ」

 

そう言って目の前になんの脈絡もなくあのとき転生させてもらった天使が現れる。

 

「他の方々はみんな異世界に飛ばされました。あなたをまたココに連れて来たのは、伝えるべきことがあるからです」

 

「ほぉ。んでそれはなんだ?」

 

「誠に申し訳ございませんでしたー!」

 

大声で謝罪してめちゃくちゃ綺麗な五体投地をする天使。すごい、五体投地なんて初めてみたぞ。こういう時の相場って土下座じゃねぇのか。天使ってイメージはキリストな気がするんだがなんでチベット仏教なんだよ。

 

「さっさと顔上げろ。お前の五体投地に価値はない。んで、理由は?」

 

「はい、初めて会ったときに少し愚痴った天使がいましたよね?」

 

ああ、あの極楽蜻蛉とか言われてた天使か。

 

「ああ、覚えてる」

 

「そのドブクソ蜻蛉の管理する世界が異世界からの召喚に成功してしまって……。それが貴方の世界で召喚されてしまいまして……」

 

なるほど、つまりそれが俺らだったと……。にしてもそんなことある?確かに異世界みたいなところに行きたいとは思ったけどさぁ。まさかしっかり異世界に転移されるとは……。

 

「しかもその失態を追求しようにもアイツはその異世界に逃げ出しちゃって……。しかもその世界に入る権限はあのドブカスにあるので神々も参っちゃってて」

 

「それで唯一天使とかとの接触が会った俺に会いにきたのか」

 

「はい、そういうことなんです。なので、手伝ってくれませんか?」

 

「……」

 

さて、どうしたことか……?普通に考えるなら手伝う流れなんだが……、ぶっちゃけるとこれ俺だけ帰ることもできるよな?手伝う必要なんてないし。

 

しかし、どことなくこの現状は俺のせいがしてきた。

 

俺の能力の一つである【超主人公】。この能力はその名通り主人公補正。自分を主人公に仕立て上げるための土台をつくるような、まるで自我を持ったような能力。俺はなんとなくでONにしてたが、その結果がこれである。

 

多分ハジメから借りていたラノベを読んで、まさにその展開にしようと勝手に発動していたのだろう。迷惑な能力である。

 

とりあえずは一旦この【超主人公】はOFFにしといてと。よし、これでもう発動することはないだろう。俺は主人公なんかじゃなくていい。平穏な生活にこんな盛大なハプニングなんて不要だ。

 

そう思うと、平穏な人生の周りに誰もいないって嫌だな。頭の中で、ポツリポツリと友達の顔が思い浮かぶ。

 

そうして、最後に恵里の顔を思い出したとき、決心がついた。

 

 

「わかった。じゃあ俺は手伝うことにする。ハギア(・・・)

 

 

なんか【超主人公】外したはずなのに、主人公みたいなセリフを言っててすごいヤダ。手のひらで踊らされてる感覚。

 

「名前、覚えてくれたのですね」

 

「は?んなもん当たり前だろ。天使の名前なんて忘れるはずないだろ」

 

「あ、はい、そ、そうですよね。あ、後少し説明しないといけないことがありました!」

 

「聞かせてくれ」

 

「はい!」

 

 

曰く、この厄介ごとを起こした元凶がいるところは、そう簡単には辿り着けない場所にいるようで、その場所に行くには7つの神代魔法を集めないといけないらしく、この上なくめんどくさい。何も情報がないよりかはマシか。

 

「なるほどな、だいたいわかった。んじゃ、基本的なやることを学んだし、レッツ異世界と行きますか」

 

「あ、そうそう。勿論私も同行しますからね」

 

「え?」

 

「当たり前じゃないですか。そもそも貴方は転生者。私がいないと存在が認められないんですから」

 

俺勝手に一人で行くと思っていたんだが。そもそもさっきの話だとその世界に干渉することができないんじゃなかったのか?

 

「ですが、このままだと私は異世界に入ることすらできません。なので、裏技を使います」

 

そう言ってハギアは俺を指差す。

 

 

「私の魂を貴方の肉体に宿して、異世界に入ります」

 

 

「……はぁ?」

 

常識を逸脱した発言に俺は疑問の意思を示す。肉体を捨てて、魂を俺の肉体に宿す?何言ってんだこの天使?

 

「そんなことが可能なのか?」

 

「まあ一応天使なので。嫌ならやめますがどうしますか?」

 

俺は即答する。

 

「わかった。それなら入ってもらうとするか」

 

「わかりました。では、向こうで会いましょう」

 

天使の肉体がサラサラと砂のように消えていき、白く光輝く物体が残る。これが魂なのだろうか。そしてその魂はそっと俺に近づき、心臓のある部分にピタリとくっつく。その後、魂は俺の中へと入っていく感覚を覚える。

 

「……さて、行くか」

 

(ええ!行きましょう!)

 

脳内から天使の声が聞こえ、何もないスキマの空間から一つのワープホールのようなものが出現する。

 

全ては平穏に暮らすために、そして悔いのなき人生のために。平穏とは遠い異世界の異世界に足を踏み出した。

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