ありふれた異世界で転生特典【ボカロ曲】を使って楽しんでみる 作:夢のまた夢
ワープホールから出ると、そこは洞窟の中だった。こういうときの相場って街とか城とかじゃないのか?
(ここはメルジーネ海底遺跡といって、先ほど話した神代魔法の眠る場所です)
いやなんでいきなりそんな場所に転移するんだよ。俺はまだ何も戦う用意なんてしてないぞ。
(実はここを入るには複雑な条件があって……、なら最初のうちに踏破しておいた方が楽かも、と……)
聞いた話によるとこの世界はトータスといい、その中にある宗教として聖教教会があり、その唯一神であるエヒト神が今回の元凶である。
そのエヒト神は、人を駒としてみており、度々起こる魔族と人間族の戦争はこのエヒト神が遊び感覚で引き起こしているものらしい。暇なのかな?もうちょっと生産的なことをした方がいいと思う。
(伊織さん危ない!)
「!【すろぉもぉしょん】」
天使の声に反応し、即座に知覚スピードを上げることで回避に徹する。
(大丈夫ですか!?)
「ああ、問題ない」
自分の元いた場所を見るとまるでレーザーによって抉られた後があり、撃たれた方向を見るとフジツボのような生物がそこにはいた。
「あれが……、魔物なのか?」
(はい。しかし他の魔物と比べると強いですが、神代魔法のある迷宮などでは比較的弱い方ですね)
あれで弱いのか……。あんなもん当たったら即死だぞ。
「とりあえず、【サラマンダー】」
小さなドラゴンを召喚し、フジツボを焼き尽くす。そう簡単にはやられないかと思っていたが想像以上に脆いようだ。そう時間もかからずに灰と化した。
「さてと、先へ進むか」
(はい!)
伊織は一人で遺跡の奥へと歩いていった。
──────────
「なんだあれ?スライムか?」
(さぁ……?なんでしょう?)
目の前に現れたゼリー状の生き物に困惑する俺。そもそも生きているという言葉自体あっているのか微妙なところだ。
しかしここまで冷静なのも『スライムは雑魚キャラ』という、ある種RPGによって刷り込まれた先入観があったからである。本当にドラクエって影響力すごいよね。
しかし、実際のところは、そんな優しいモンスターではないのがスライムだ。なにせゼリー状になっているため、物理攻撃はほとんど効かない。しかも……
「【サラマンダー】」
スライムはドラゴン2体の炎を浴びてもなお、死ぬことなく前身していく。このスライムは魔法を溶かしているのか、ドラゴンの火力が先ほどのフジツボのときのと比べて落ちていた。
あとで知ったのだが、一部の能力は異世界に適応し、物質を変化させるようである。この世界では炎系の能力などは魔力へと物質を変化させていたため、このスライムに吸収されたようだ。
「なら……【初音ミクの消失】」
スライムに触れてそう呟くと、瞬く間にスライムは砂のように消えていき、最後にはクリオネの形をした小さな肉片が残った。
「……おおかた九割くらいまでしか消せないっぽいな。しかし、よく見るとこれクリオネっぽいな」
さっさとトドメを刺したいところだが、残念ながらトドメをさせる手段がない。
……にしても、よく見てみるとこのクリオネ、愛着が湧く見た目しているな。
「【オブソミート】」
何かテキトーに食べ物を生み出し、クリオネに近づけてみる。
コイツも生き物だから、食べる物のために本能的に行動したかもしれないし、もしかしたらないついてくれたりするかもしれない。あまり無用な殺生は良くないからな。
するとクリオネは食べ物に触れ、溶かして自分の体内へと吸収していく。そしてさっきよりわずかに大きくなった。
「美味いか?」
クリオネの色が無色から青に変わる。
「そうか、よかった」
(……あの、どうしてその魔物と意思疎通が取れてるのですか?)
「それはだな、【いーあるふぁんくらぶ】の効果だ」
(なるほど!なら納得ですね)
【いーあるふぁんくらぶ】。能力は言語理解で、勝手に自分の言葉を相手に伝わるように翻訳し、相手の言葉や行動を理解することができる。さらにこれは人間以外にも、動物とかにも適応される。なので今もこうやってクリオネと意思疎通できているのだ。
「よかったらついてくるか?」
クリオネはコクリと頷く。飯をくれるならいいよと、なんとも現金な返答に苦笑いをして、旅の仲間となったのだった。
ついでにこの子の名前も天使と協議した結果、リオネという名前になり、リオネ本人も喜んでくれた。
──────────
「……なんじゃこりゃ?」
結構歩いて着いた先にあったのは難破した船だった。それも大量な数。にしても何百隻もある船が、なんでこんなところにあるんだ?
しかもその全てにおいて激しい戦闘跡がある。海の上で戦争が起きたのだろうか。何にしろ関係ないか。
しかし、その考えは直後に否定される。
――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
大きな雄叫びが聞こえ、空間が歪みだす。
「……まじかよ」
落ち着いたとき、あたりを見回すとそこにはどこかの国と、どこかの国との戦場があった。
飛び交う魔法弾。噴き上がる血飛沫。神を信仰し、死すら厭わない狂信者。その全てが俺の元いた異世界にはありえない光景だった。
俺は戦争を否定するつもりはない。なぜなら人間の歴史は争いが繰り返されることで成り立っていると俺は思うからだ。パソコンだってインスタント食品だって戦争の技術から生まれたものだ。他の企業と戦い、その上に立つために、より良いものを開発する競争社会も、ある意味そこに当てはまっている。
だがこれは、これはあまりにも……
「気持ち悪いな……」
(……そうですね)
戦争を体験していない俺としては堪えるものがあり、軽い吐き気と眩暈を抑える。
しかし、感傷にひたっている時間はなく、炎弾が飛んでくる。
「リオネ!」
「……!」
リオネは自らのからだを大きく引き延ばし、魔法を吸収する肉壁となって炎弾を吸収した。
(その人達は魔力のこもった攻撃をくらわせれば消滅します!)
「了解。【白い雪のプリンセスは】」
徐々に頭上に雲ができ、白い粉雪があたりに舞い、戦っている者達にハラハラと降りかかっていく。
異変が起きたのはその十数秒後だった。
兵士が一人、うめき声をあげながら倒れた。それを皮切りに、周りの兵士達がどんどん死に絶えていく。
そして十分もしないうちに、戦場に立つのはリオネと俺だけとなった。
(あの……、今のは?)
「……毒だ」
(毒?)
「降り積もった雪の中には、魔力で作られた少量の毒が含まれている。その毒は十数秒もすれば死に至る猛毒だからな。まあでも魔力で作った毒が効くのかはわからなかったから、結果オーライだな」
その説明を聞く天使は少し引いた声で俺を嗜めた。
(あの……あんまりその能力使わないでくださいね?こんな毒をこんな広範囲に蒔けるって、被害が甚大ですので……)
「もちろんだ。流石にそこの分別はついている」
あまりこの能力は使いたくなかったが、数が数だから殲滅力の高いこれを使わざるを得なかった。
「……」
ことが終わるまでは我慢できていたが、戦いが終わり、気分が悪くなる。良くないもの見たな……。
血反吐として吐かれた赤黒く濁った血の色。毒によって言葉にならずに苦しむ声。それでも笑う狂信者の狂った虚ろな瞳。
その全てが俺の力によって生まれたもの。
……しかし不思議と罪悪感は感じなかった。あるのは何かを失った喪失感。多分俺は自分のためならどんな人でも、何にも感じず殺せるような気がする。なんなら能力を使えばどんな強敵でも勝てる。だからこそ、力に溺れそうで、先の未来に不安感を覚える。
(だ……大丈夫ですか?)
「……!……?」
心配そうに声をかける天使。何が起きたのか困惑しながらも支えようとしてくれるリオネ。
こんな俺にも、心配してくれる人がいると思うと、前を向けることができる。
「……ああ、大丈夫だ」
二人に声をかけると、自然と不安は消え、俺は心を切り替える。
(あまり無理をしないでくださいね……)
「……?……!」
「ああ、もちろんだ。二人を不安にさせたくないからな」
俺は平穏に暮らし、平凡に生きて、ひっそりと死んでいきたい。でも、それと同時に、自分だけでなく、周りの人にも幸せに生きてほしいと思っている。
だから俺は周りを助け、周りの幸せに貢献する。
たとえそれが自己満足でも。それら全て意味はないんだとしても。
そう決めた俺の顔には、決意が宿っていた。
──────────
先に進むとまた、一つの船が見える。今回は一機しかないが、先ほど見た船を全て結集させたような大きさだった。視界に収まらないレベルだ。
そして、案の定また空間が歪み始める。
「はぁ……。また凄惨な光景を見させられるのかよ」
(気をしっかり持ってくださいね?)
「わかってる」
空間が正常に戻ると、そこはパーティー会場だった。
一瞬さっきまでの光景は嘘なのかと疑ったが、自分の人を殺した実感を理由に否定する。しかもここは神代魔法の眠る海底遺跡である。
多分ここの海底遺跡を作った人は性格が悪いのだろう。このパーティーも、きっとあげて落とすタイプだろ。
そんなネガティブなことを考えていると、初老の男は緩やかで優しい声でスピーチを始める。
「諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」
お、良いこと言ってる。そうそうこういうので良いんだよ。そしてこのまま平和に終わってくれ頼むから。
スピーチが進み、終盤に入り、最後に一言でくくる。その時の表情はこの先忘れないだろう。
「──こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………実に、愚かだったと……」
その顔はつい先ほどみた狂人達とそっくりな、熱に浮かされた表情とどこを見ているかわからない虚ろな眼をしていた。
「……結局コレかよ」
そう呟いた時にはもうすでに一人殺されていた。こうも予想が当たるとは、やはりここを作った人は性格が悪い。
あまり時間の経たないうちにあれだけ華やかなパーティーは赤に染まり、スプラッタな地獄絵図へと早変わりし、そこで世界が元に戻る。
「……天使のアンタはどっちだと思う?この世界の民度が悪いのか、はたまた神に操られているのか」
俺はまだこの世界の住人を見たことがない。住んでる人全員がこの映像に登場したような人物なら、もはや皆殺ししていいと思うレベルだ。
しかし、アイツらが操られてると考えると辻褄が合うところがあるのも事実。だから強大な力を持っている天使に聞いてみた。
(そうですね……。私は後者だと思います。あの人の性格がどうなのかは知りませんが、明らかに人格が変わりすぎている)
そう、そこである。スピーチをした人はこの場にいる全員を愛おしいと思うような眼で見ていた。しかし、スピーチを区切った直後、人が変わったように表情が変わった。人とはそんな簡単に変われるものじゃない。
「やっぱり、神に操られているってことだよな」
(そうですね)
「はぁ、めんどくさい」
これから戦う強大な敵である神相手に、少しめんどくさいと思いながら、神代魔法を手に入れるために船の中を散策するのであった。
──────────
船内は当たり前のように暗く、魑魅魍魎の類が出てきそうな風格だった。
「流石にくらいな……」
何か光源を生み出せる能力がないか探ってみて、一つの能力を使う。
「【アトラクトライト】」
すると自分を中心に光の輪のような波動が同心円状に広がっていく。同時に周りが明るくなっていき、瞬く間に暗闇が消えていく。
「よし、明るくなったな」
(すごいですね、その能力。しかもその光、邪を払う力もありますし)
「え?そうなのか?」
(またまたー、そんなこと言ってわかって使ったんですよね?)
「……………」
(え?本当に知らなかったんですか?)
ギャァァァァァァァ
遠くから甲高い悲鳴が聞こえてき、まだ何もしていない幽霊タイプの魔物がくたばった。幽霊側もまさか場外で死ぬとは思っていなかっただろう。すまん。
──────────
「いやぁ、長かった」
(ですね)
「──!」
とうとう最深部に辿り着き、部屋へと入る。そこには魔方陣があり、そのほかには特に何もなく、仕方なく魔方陣の中へと入る。
「お?」
直後体に違和感を覚え、魂に何かを刻まれる感覚をうける。
(おめでとうございます!無事に神代魔法を手にすることができましたね)
「再生魔法……、あんまり使う機会はなさそうだな」
ただでさえ俺には数え切れないほどの能力が俺の中に眠っている。わざわざ再生魔法を使おうとは思えなかった。
魔方陣の輝きが光の粒子を放って徐々に失われていき、次第にその粒子は人のような形を作っていく。
「私の名前はメイル・メルジーネ」
その名前から、この遺跡を作った本人だとわかった。その人はエメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持つ、綺麗な女性だった。どうやらここへ来た人のためにメッセージを残したそうだ。
この人達解放者は人類を玩具としか思わない神と戦い、敗れたことで、自分の力を次の解放者となる人のために自身の力を残したのだという。
「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」
一通り話し終えると、再び光は霧散していき、ついには消えた。そして彼女の座っていた場所にコインが一枚置かれていた。俺はそれを拾う。
「……このコインは、もしかしたらこの場所を攻略した証か?」
(そのようですね)
コインをしまった途端、神殿が振動し、外からの海水が流れ込む。どんどん水位が上がっていき、すぐさま膝下まで溜まっていく。
「まずいな……、【深海少女】」
自らの肉体を周りの海水に適応させ、自分が溺れないようにする。
凄まじい勢いの海水に体が持ってかれ、水流に身を任せることとなる。すると天井が次々とスライドしていき、最終的には海底遺跡の外の海へと飛ばされた。
とりあえずは真上に泳ぎ、海から顔を出す。
「───ぷはぁ。あの見た目であの人荒々しすぎないか?」
(まあ人は見た目によりませんし……)
「さて、この後はどうするか……?」
残り6つ。場所もわからず進まなければならないと考えると、少しめんどくさいがしらみつぶしに探すしかないだろうか。
「ま、とりあえず陸地に向けて泳ぐか。ってうわ──」
そう思い泳ごうとすると下から何かが徐々に競り上がっていき、何事かと思いと下を見ると、リオネがめちゃくちゃデカくなって、俺の下いた。
「おいおい、どうしてそんな大きくなったんだ?」
「───!」
「え?いろんな魚をいっぱい食った?おいしかったって?腹減ったんなら俺に言えよ。いくらでも食い物出してやるから」
どうやらリオネは食べれば食べるほど体を大きくなるようだ。一応体を縮めることはできるらしいが、今はちょうど船代わりになるためここのままにしてもらうことにし、海の上の旅が始まるのだった。