ありふれた異世界で転生特典【ボカロ曲】を使って楽しんでみる 作:夢のまた夢
「そこのお前、何者だ!また攫いにきたのか!?」
「は?」
漂流してから数日、やっと岸っぽいものが見えたと思うと、海人族に絡まれることとなった。
「ちょっと待て。俺はまだここにきたばかりだ。何と勘違いしているのか知らないが、とりあえずその矛を納めてはくれないか?」
「騙されんぞ!さっきのヤツの仲間だろう!今度という今度は守ってみせる!」
ああ、これ話を聞いてくれないヤツだ。めんどくさい。
(ええと……どうするんですか?)
「そうだな、とりあえずは……」
俺は腕を天へと掲げて唱える。
「【magnet】」
途端に海人族の持っている全ての槍が掲げた指先に集まる。
「んな!?」
「なに!?」
その異様な光景に海人族達は目を見開く。
「あんまり争いは好みじゃないんだ。話をしよう。少し前に何があったのか教えてくれないか?」
しかし、そんな簡単に話を聞いてくれるはずもなく……
「たとえこの身一つになっても……これより先に行かせるわけにはいかない……!」
「……【サラマンダー】」
(落ち着いてください?一般の方にあの炎を当てたら消し炭ですからね?)
全くもって一歩も引かない海人族に若干苛立ち、つい焼き魚にしてやろうかと能力の行使とするが天使に止められる。
「はぁ……。人のいないところに撃ってくれ」
召喚したドラゴンに指示して海人族の後方に向かって一発撃ち、巨大な水の柱が出来上がる。
その光景を見た彼らは顔が真っ青になる。
「……そのつもりなら、最初からアンタら全員殺してる。俺はアンタらの言ってる人攫いのような姑息な手を使う奴とは違う。わかったならとりあえず話を聞け。いや、話を聞かせろ。あ、そうそう。ここでの出来事を他人に話したら……、わかるよな?(邪悪な笑み)」
コクリと頷く海人族達。さっきまでの威勢はどこへ行ったのやら。やはり命が惜しく感じたのかは本人のみぞ知るが、とりあえずは話を聞いてもらうことになった。
──────────
「───はぁーん、なるほどな。とある海人族の少女が人間族に攫われたと。どこにいるかまではわからないのか?」
「いや、わからない。ただ、襲っていたのは人間族だったのだ……だから貴方を仲間だと思って襲ってしまった」
一旦リオネの上に海人族を乗せて、話を聞く。とりあえず攫った奴らのいそうな場所を質問したが、特に足取りはつかめなかったそうだ。
「ところで人間族の暮らす街でここから近いのはどこだ?」
「?そうだな……」
俺の問いかけに少し首を傾げながらも、質問に答えてくれる。
「ここの近くだと、アンカジ公国あたりになると思うが……」
アンカジ、アンカジね、アンカジ。おk。インプット完了。
「なるほどな、ありがとう」
「にしてもなんだってそんなことを聞くのだ?」
やはりそこ突っかかってくるかぁ……。なんて言い訳しよう?
「ま、まあ少し隔離された場所で生活していたからな、あんまり地理がわからないんだ」
くそ、いい案が思いつかない!これで誤魔化せてくれ!
「………そうか、辛いことを聞いた。すまない」
「え?」
「いやはや、配慮が足らず、申し訳ない……」
急に入るお通夜ムードに混乱が隠せず、天使に聞いてしまう。
「ちょっと待てどういうこと?」
(た、多分ですけど、実はこの世界は奴隷とかが許されているのです。なので、さっきの伊織さんの言葉を聞いて、小さい頃に奴隷商人に買われたのかと、そう勘違いしたのではないでしょうか……?)
「な、なるほどな」
通りですごい腰を低くするわけだ。攫われた子も奴隷商人によるものだろう。同情が入るわけである。
「まあ、そんなことは気にしなくていい。過ぎたことだしな。とりあえずアンタの町に連れてってくれないか?」
「ああ、俺は宿を経営している。お詫びと言ってはなんだが、タダで泊まらせてあげよう」
あ、そうか。そういえばこの世界にもこの世界の通貨とかあるのか。忘れていた。
「助かるよ、後町のことも教えてくれないか?」
「もちろんだ」
──────────
少し話をしている内にいつのまにかエリセンに着いてしまう。できればもう少し話を聞きたかった。
「……こんな言い方はアレだが、思ったより栄えているんだな」
ここエリセンの町に着くまでに聞いた話で、ハイリヒ王国という大きな国では亜人族は魔力を持たず、穢れている者として人間族から虐げられているのだが、唯一例外として亜人族の中の海人族だけは迫害されておらず、なんなら保護して国交を結んでいると聞いた。理由は海産系の食料の八割は海人族によるものだかららしい。なんとも現金な人達である。
「ああ、自慢の町だ」
そう宿屋の亭主は鼻高々に誇る。
「んで、攫われた少女の母親ってのはどこにいるんだ?」
話の中で誘拐事件の情報を詳しく説明してもらったとき、その子の母親の足が怪我しているとの話も聞いたので、治してあげようと考えてのことだ。
「……ここの家だ」
家の前に立ち、扉にノックする。
「すみませーん、誰かいますか?」
「ミュウ!?ミュウなの!?」
ガバッとドアが開き、メルジーネさんによく似た美しい海人族の方が姿を表した。───怪我した足を引きずりながら。
「あ……すみません。人違いでした……ッ」
そう言った彼女は足の痛みからか、顔を引き攣る。
「あ、すみませんこちらこそ。私はそのミュウちゃんを探すのに協力しようかと思ってここにきました。……ですがひとまずは貴方の足の治療からですね。すみません、そちらのお宅にお邪魔してもよろしいですか?」
(え!?伊織さんって敬語使えたんですか!?しかも一人称も変わっているし、違和感半端ないですね……)
何事も時と場所と場合が大事なんだよ。日本社会の重圧をあまり舐めて掛かるなよ?上司と部下の板挟みの辛さ、わかるか?俺はわからん。何故なら働いている時ずっと下っ端だったからな。出世どころじゃねぇ。
(そうなんですね……。一つ申し上げるなら、私は同僚の悪ノリが一番嫌いです)
そうか……、天使。アンタも苦労してんだな。というか苦労しているからここにいるのか。
「え、ええ、あ、はい」
そんな天使との心の会話は一旦切り上げ、俺の話をなんとか飲み込み、頷くミュウちゃんの母親。大丈夫かなこの人。押しに弱くないか?
「あ、後お名前を教えてくれませんか?」
ミュウちゃんに会った時、母親の名前を出せば、少しは安心できると思ってだ。
「は、はい。レミアです……」
「レミアさんですね、今日はよろしくお願いします」
俺はレミアさんの足の痛々しい傷をみて、治療法を考えながらレミアさんの家の中へ入っていった。
──────────
「この怪我はいつ頃からですか?」
「な、七日前です……」
「七日前……。ちなみにその時の状況を教えてくれませんか?」
「……はい。ええと……」
その時の彼女の心境や犯人の特徴、この傷の理由についてポツポツと説明する。
はぐれてしまった娘を探していると、怪しげな男がおり、その男に気を取られている隙にもう一人の男に殴られて転倒。そして追い打ちの足に向かっての炎弾。そのまま気を失い、一命は取り留めたが、足の神経がやられて、歩くことも泳ぐこともままならない。
「──なるほど。だいたいわかりました」
「お、お役に立てたならよかったです」
「ええ、随分と。それでは本題となる治療をいたしましょう」
レミアさんの足に手をかざす。
「あ、それと一つ」
「な、なんでしょう……?」
「ここから先のことは他言無用でお願いしますね」
右手に魔力を集中させ、赤黒い魔力の光を彼女の足に纏わせる。
「少しだけ、耐えてくださいね。【アヴァターラ】」
「ッ!?……、?」
強烈な痛みが彼女の足を蝕む。しかし、それも一瞬。光の纏いが解かれると、そこには火傷の後もなく、痛覚も感覚もしっかりとある、普段と変わらない彼女の足があった。
確認のためレミアさんにそこかしこを歩いてもらうと、先ほどのおぼつかない足取りではなく、しっかりと地に足つけて歩く姿に俺はうんうんと頷く。
「よしよし。しっかりと歩けているようでよかったです」
「あの、い、今のって……」
「言ったでしょ?他言無用って。ね?」
「は……はい」
この力は流石に他の人達にバレたらめんどくさい。口止めをしとくべきだ。
ちなみに後で知ったのだが神代魔法には適正があり、俺との相性は悪かったらしい。まあそもそも膨大な種類の能力が既にあるので似たような能力である再生魔法は特に興味を引くようなものではなかったから、そこまで痛手ではない。
「あ、あとは……【マジック・メイド】」
魔力をゴッソリ消費して、トランシーバーを二つ用意する。そのうちの一つをレミアさんに渡しておく。今度自分の魔力量を確認する手段があったらしっかり見ておきたいな。
「それは遠距離用の通信アーティファクトです。ミュウちゃんが見つかりましたらそちらへ連絡します」
「す、すみません。まさかここまでしてもらえるとは……」
レミアさんはここまで手厚く支援してもらえるとは思っていなく、申し訳なくなっている。
「いえいえ、お気になさらず。これは私のエゴです。ただ私は後悔したくないためにやったことです。ですから、どうせなら謝罪の言葉より、感謝の言葉を述べて欲しいですね」
後悔してなかったら、人生二周目なんてやらないしな。そう、これは全て、ただの俺の都合だ。自己満足だ。よって、ついで感覚でこの依頼をこなそうと思う。……まあできる限り早めを心がけるつもりだが。
「そうですね……、ありがとうございます」
そんな内心を知らず、彼女は頭を下げる。
「では、また。貴方の人生に祝福がありますように」
そう言って俺はこの家を後にした。
──────────
(もう少し滞在しなくてよかったんですか?)
あの後俺は宿屋に泊まり、さっさとこの町を後にした。
「ここにもう用はないからな。とりあえず目指すはアンカジ公国かな。どうせならこの世界の観光もしたいし」
(それなら別にいいのですが……)
「それに依頼を請け負ったんだから少しは探すために動くべきだろ。というわけで早め早めの行動といこう。【ラグトレイン】」
周りに人がいないことを確認し、列車を召喚する。この列車は俺ら以外が見ることはできないからな。しかも自動操縦付き、目的地まで勝手に線路を敷いてくれる(空中に敷くことも可)。
なんだこのデン◯イナー。電車に利便性求めすぎるとこうなるのか。
「さ、これならココからでも十数分くらいで着くだろ」
列車が発車し、急速なスピードで走行する。すると思っていたより早く、ものの数分で着いてしまう。
「想像以上に早かったな」
(初めて電車に乗りましたけど、結構速いんですね)
列車を降りて辺りを確認する。見渡す限りの砂漠で、交通手段が乏しいこの異世界だと大変そうだなと観察する。
「そこの者、止まれ」
門をくぐろうとすると門番と思われる兵士に止められる。
「なんだ?」
「ステータスプレートは持っているか?」
「?いや、持ってない」
初めて聞く単語に頭にはてなマークを浮かべる。何それ美味しいの?
(ああぁ……、そういえば説明し忘れてました)
天使からステータスプレートの説明を受ける。
名前の通りステータスや技能、天職を知ることができる、この世界の身分証のような役割を持っているカード……らしい。
「ここで作ってもらうことってできるか?」
「ああ、待ってろよ。それとどう言った理由でここに?」
「なに、ただの観光だ」
俺の回答に頷き、門番は一旦どこかへ行った。その後少ししたら戻ってき、俺に一枚の板を差し出す。これが話に聞くステータスプレートか。しかし一緒に針も渡されたがなんだコレ。
「その針で軽く自分の指を刺してくれ。その血をそこのステータスプレートに垂らすんだ」
言われるがままに従い、血を垂らす。
すると表にしっかりと表示される。
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神崎伊織 17歳? 男 レベル:3?
天職:
筋力:10000?
体力:10000?
耐性:10000?
敏捷:10000?
魔力:10000?
魔耐:10000?
技能:電子曲再生・言語理解・再生魔法・?
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なんだか数値がバカ高い気がする。しかもところどころはてなマークがあり、良くわからない。年齢にはてなマークがついてるのは、もしや転生者だからか?技能に【電子曲再生】があるのは多分【ボカロ曲】だよな?
「なんだこりゃ?なんかところどころ壊れてねぇか?まぁいいか。通っていいぞ」
結構テキトーなタイプの門番で助かった。面倒ごとはごめんだからな。
門をくぐった先で見た景色は、エリセンでみた街並みとは別ベクトルで美しかった。
東側にオアシスがあり、砂漠のはずが緑豊かな自然を感じることができる。オアシス自体も大きく、船がオアシスの上へ何隻も浮かぶほどだ。
北側は農業地帯のようで、オアシスから水を引いており、遠目から見てもたくさんの種類の果実を栽培していることが確認できる。
西側には宮殿らしき建物が立っている。他の建物は乳白色だが、宮殿は純白であり、他の建物とは格の違う壮大な美しさがある。周りの建物は区画整備がなされており、いろんな商店が並んでいる。
エリセンとの中継地であることから、エリセンと果実と鮮魚の取引が盛んのようで、交易が盛んに行われている。
「……綺麗だな。こりゃ観光地人気も高そうだな」
とりあえず、今日一日はゆっくり休むかー。エリセンでは町を堪能する前に出ちゃったからなぁ。自分の判断なんだけどさ。
(あのー、お金の問題はどうするんですか?転移してまだ二日ですし、お金なんて持ってないですよね?)
「それに関しては問題ない。昨日の夜に換金して倍に増やしたからな」
世の中にはハイリスクハイリターンで金を増やす方法がある。そう、ギャンブルである。【バビロン】は魔物の死骸などを換金し、その金でギャンブルができる能力。しかもその金はこのトータスに対応し、増やした金は【マジック・メイド】で作った四次元ボックスに入っており、自由に取り出すことが可能である。
つまり俺は今、小金持ち状態というわけである。ちなみに俺は決めた金額までしかギャンブルで溶かさないタイプである。
「だから俺は今日は豪遊できるのさ。すみませーん、その串焼きくださーい!」
「あいよ!何本だい?」
「とりあえず五本で!」
「いい食い意地だね!おまけで一本追加してやるよ!」
「ありがとうございます!」
食べ歩きしつつ、宿屋を見つけ、六本のうちの二本をリオネに食わせる。すると喜び、もう一本とねだってくる。仕方なくもう一本上げた。リオネの好感度が上がった。
宿屋で横になりながら今日一日の楽しい楽しい観光を通して、平和を実感する。そしてふと思い出す。
「そういえば他のクラスのメンバーはどこに転移されたんだ?」
(そうですね……。元々召喚したのが教会関係者です。なので神山に近いハイリヒ王国ではないでしょうか?)
天使の回答に少し今後のことに関して思考する。
「そうか、ワンチャンアイツらに会うことできねぇかな?」
(まあ……向こうでどういう扱いをされているかは分かりませんが、可能なのでは?)
神代魔法がそれなりに集まったら、アイツらのいるところに行こうかな。そうかんがえながら俺は眠りについた。