ありふれた異世界で転生特典【ボカロ曲】を使って楽しんでみる 作:夢のまた夢
大量の羽を避ける。何度か【ヒバナ】による銃弾をツヴォルツに撃ち込むが、ことごとく羽で防がれる。奇妙なことに弾丸が羽に触れた途端砂と化すところを見るに……
「これは分解……といったところか?」
「……ご明答です、イレギュラー」
となると、防御は不可ってことか。そんな考察を考える余裕もなく、また銀色にきらめく羽を避ける時間が続いた。
しかし、今度は銀羽だけでなく、大剣による攻撃も追加される。いよいよ【すろぉもぉしょん】を持ってしても捌ききれなくなってきた。そしてだんだん追い詰められていき、
やがて、初めて俺の体に一つの傷を負った。
「初めてかもな。この世界に来て怪我したのは」
傷のついたところに手を当て、傷の程度を確認する。幸いそこまで大きい傷じゃない。全然動ける。
「想定してた強さより遥かに上ではあったな。うん、俺は神の使徒の力を正直舐めてた。……リオネ」
ポケットに忍ばせていたリオネ(クリオネ体)を出す。
「
「──」コクリと頷くリオネ
俺の体にリオネが泥のようにまとわりつく。
だが次第にリオネが固まっていき、水色の鎧に変化していった。
「よしよし。初めてにしては上出来だな。しかし、まだ若干緩い……か?」
「どんな姿になったとしても、貴方の運命は『死』以外ありません」
「そう思っておけばいいさ。その慢心が、自分の足を引っ張るんだよ。今の俺みたいにな」
またも銀羽の猛攻が続く。ただ俺は一歩も動かず、ただ目の前の敵を見据えた。
辺りに轟音が響きわたり、砂嵐が舞う。
辺り一体が落ち着いたとき、伊織が立っていた場所は、使徒の銀羽によって分解され、小さなクレーターのような穴ができていた。
「……終わりのようですね。やはり、所詮は人間。この程度ならわざわざ殺す必要もなかったでしょう」
ツヴォルツは後ろへと振り向き、踵を返す。
その判断が、この後の勝敗を分けるものとなった。
「【ずれていく】」
「んな!?」
ツヴォルツの腕が遥か上空へと飛んでいく。作戦は成功と言っていい。
「言っただろ?そういうところが足を掬われる原因だって」
「貴方が、どうしてここに……。貴方の体は、完全に分解されたはず……」
その顔にあるのは驚愕でも、怒りでもなく、ただ『どうして』という疑問だった。
なぜなら、先程まで見ていた穴の前に俺、神崎伊織が無傷で立っていたからである。
「あいにく俺はわざわざ相手の得になることを言うほど馬鹿じゃないんでな。自分の頭で考えろ指示待ち天使」
ツヴォルツは学ばず銀羽を飛ばし続ける。
今度の俺は前に進む。銀羽にあたってもお構いなしに。
「……やはり効きませんか。───【劫火浪】」
放たれたのは津波のように波打つ炎の壁。その勢いと大きさは世界を焼き焦がすほどであった。
「やっと本気ってところか?」
しかしそれでも、歩き続けた。一歩一歩と少しずつ。
「……これも、ですか。もしやその鎧が……」
炎の壁が消え去ったタイミングで俺はツヴォルツの大剣による神速の一撃を籠手で受ける。
骨が折れるかと思うほどの衝撃に顔を歪め、片手でこの馬鹿力かよ、と心の中で悪態をつくが、その痛みにもついに終わりを迎えた。
「──んな……!?」
ツヴォルツの大剣が折れたのだ。そして、迂闊にも僅かな隙を晒してしまった。そんな隙を、俺がつかないわけがなかった。
「【鎖の少女】」
射程範囲内。どこからともなく現れた鎖が相手の体に巻きつき、拘束する。二度と動けないように。
「ぐぅっ……!?これは……」
「詰みってヤツだな。ああそうだ、冥土の土産に教えてやるよ。この鎧はお前の予想通り魔法を『吸収』する。そして吸収した分鎧の耐久性と防御力を上げるんだ。だから俺はバンバン魔法を受けまくった」
ゆっくりとツヴォルツの元に歩みを進める伊織。明らかに勝った言えるこの状況。その様子にツヴォルツは口を開いた。
「……認めましょう」
「ん?認めるって何をだ?」
「私は貴方のことをこれまで下に見て、全力を出さずに殺せると思っていました。ですが、そうも言ってられないようですね」
ツヴォルツの体が銀色の魔力で覆われていく。
バキィィンッ
そして、これまで拘束していた鎖を、難なく壊した。……片腕で。
「おっと、これは予想外」
バックステップで距離を空け、様子を見る。さっきまでとは違うことは一目瞭然だった。
ツヴォルツは自身の失った腕の元にいき、その腕からもう一つの大剣を取り上げた。
「ここから私は、貴方を侮らず、全力を出すことを誓いましょう。──全てはエヒト様のために」
「ホントにこれだから狂信者は……、戦うときくらい勝利のために全力を出せよ」
神速の一撃、しかし先程よりも数段速く、雷光の如き一撃に動きが遅れるが、なんとか間一髪で躱わす。しかも、それを連続で出し続け、破壊
「【プリズムキューブ】」
俺の背後に立方体が現れ、強大な力を持った波打つ波動によってツヴォルツは遠くまで飛ばされる。そして、追撃とでもいうように立方体が回転し始め、そこから光の線がツヴォルツを追いかける。
「こざかしい……!」
再度銀羽を展開し、光線に対抗する。しかし、圧倒的な光線の前に銀羽を増やしても防戦一方になる。
やがて、ツヴォルツは痺れを切らし、大怪我覚悟で前へと前進する。
まるで裁きを下すように振り続ける光の雨に擦り傷を大量につくりながら、高速で突進してくる。
「吸収した魔力ってのは、こんな使い方もあるのさ」
そのとき、光の雨が止み、あと一歩のところまで近づいたタイミングで、ツヴォルツは伊織の溜まった魔力による、高密度のレーザーによって、肩を残った腕ごと吹き飛ばした。
「……なぜ、急所を外したのですか?」
何もできないことを悟ったツヴォルツは、自身にトドメを刺さないことに疑問を感じたのか、聞く。
「そりゃ情報があれば探りたいと思ったからだろ。じゃなきゃお前みたいな奴こう、グシャグシャグシャーって圧縮して終わらせるからな」
「そうですか。でしたら無駄骨でしたね。私からは情報を得ることは出来ません」
「あ?誰も
「……は?今、なんと?」
あまりにも怪奇な俺の言葉に、脳が理解を得ようとしなかったのか、もう一度聞き返してくる。
「まあこっからは俺が何かするわけじゃないからな。じゃあ、さよなら。そして、
──────────
「───ん、ここは……」
記憶が曖昧で、倒れた前後の記憶がハッキリしない。
ここはどこだ?
「あら、起きましたか」
「!」
気づけば反射的に距離をとっていた。本能的に死の直面を理解する。
「あらあら、そんなに警戒しなくても良いのに。貴方は伊織さんに彼の能力で眠らされたのです。そしてここは貴方の精神世界。この後貴方のものではなくなりますがね。あ、そうそう、貴方って感情があったのですね。ほら、元々白い顔が、どんどん青白くなっていきますよ」
手汗が止まらない。
心臓の音が大きく聞こえる。
なるほど、この心が震えるような、絶望がすぐ隣にいるような、そんな感覚が。
「恐怖。そう、それが貴方の、最初で最期の感情です。これから貴方の魂とこの肉体を依代として使わせてもらうつもりですので。残念ながら拒否権はないですよ?」
そして、魂から記憶が消される感覚を覚えながら、ツヴォルツの命と意識は絶たれた。
──────────
「─────んあ……」
「お、起きたか」
ツヴォルツが起きるまで待っていたらいつの間にか夕方になってしまっていた。
「はい、大変素晴らしい目覚めです。何せ、久々に他の世界に来ましたからね」
さっきまでの殺気が嘘のように、そしてまるで人格が変わったような雰囲気で話すツヴォルツ。いや実際に人格は変わっているんだが。
「さっきまで殺し合ってたはずの顔で言われると、なんだかものすごく違和感を感じるな」
「それはそうでしょうね。先程まで殺し合っていたツヴォルツはもういないのですから」
わざわざ命を取らず、両腕を切り落とすだけで済ませた理由。
それは天使に肉体を持たせるためだった。そのために肉体と魂を残し、魂を上書き保存する必要があった。
「さて、改めて私の依代を見つけ、捕縛して私に差し出して下さり、本当にありがとうございます」
「いいってことよ。普段からよく世話になってるしな」
「にしても、両腕欠損はいささか不便ですね……。治しますので少しお待ちください」
腕から奇妙な触手が生え、それらが合わさって彼女の腕を形成していく。その姿は天使というよりも、どちらかというと悪魔のようだった。
「……今のは……なんだ?」
「失敬。堕天使ってあるじゃないですか?」
「あるな。だが急になんだ?」
「あれは天使が悪魔へと堕ちるものなんですが、私はその逆なんですよね」
速報。天使、実は元悪魔だった。
天使、もとい元悪魔の天使は話を続ける。
「何故か悪魔は改心しないってよく思われるんですが、んなこと言ったら堕天使なんてものは存在しないと思うんですよねー。元々天使は清らかだか聖なるものだとか、そんな訳ないじゃないと思ってたんですよね。同じように悪魔だから悪辣だとか残虐だとか馬鹿馬鹿しいんですよ」
「はあ……そういうもんか」
「そういうものですよ。神も天使も悪魔も人間も、本質は変わらないた考えているんです。ただ前から不満だったことに抗って、頑固頭共に実力で叩きつけ、天使となった。それだけです」
やってる功績はちゃんとすごいのに、それをひけらかさず謙虚に仕事を全うしているところが一番すごいな。いやひけらかす相手がいなかったのかもしれないけど。
「それはそうと、何かお礼を用意したいのですが、名前をつけてもらえませんか?」
あまり自分語りが好きじゃなかったのか、話を方向転換させる天使。……方向転換する方向間違ってねぇか?
「別に良いが……、なんでわざわざ?」
「いや、特に深い理由はないですよ?ただただ伊織さんにつけられた名前で、この世界を生きてみたいというだけで」
そんなこと思って名付けなきゃいけないの嫌だな。責任重大が過ぎる。
「うーん、ボカロに関係した名前の方が良いか?」
「できればその方が嬉しいです!」
「じゃあシェルネなんてのはどうだ?」
結構即興で考えたが、天使はボカロ要素に気づくだろうか?
「なんとなく『貝』という意味のシェルと、『月』という意味のルネを掛け合わせたように見えますが……。は!?もしや
「お、よくわかったな。マイナーなキャラを選んだつもりなんだが」
「わかりますよ!内容がホラーテイストでいいですよね!【細菌感染】!ホラー系で言うなら【コインロッカーベイビー】が好きです!MARETUさんの作品って昔はネタ系のボカロでしたのに、この作品あたりからホラー系が多くなっていって、有名になっていきましたよね!」
「あ、あの?天使さん?」
「ネタ系といえば!GYARIさんもといココアシガレットPも良いですよねー!【進捗ダメです!】とか聞いているとなんだかサボりたくなって何もかも投げ出したくなるんですよね!」
ああ、この好きなことに対して暴走していくこの感じ。
「懐かしいなぁ……」
「それとそれと!───」
俺は遠く紅い空を見上げながら、今日の晩御飯を何にしようかなと相槌を打ちながら考えていた。
──────────
「それでそのひとがてんし?」
「そうですよ?今は仮の体として先程戦った相手の体を使っていますが」
骨つき肉を齧りながら聞くリオネに答えるシェルネ。ちなみに今シェルネの顔は自らの力でスキマにいた頃の顔へと変えている。便利なもんだな。
俺も殺した顔の奴と一緒に冒険はしたくないから、ありがたい。
「じゃあイオリのいってたこと、ほんとだった?」
「お前まだ疑ってたのかよ……。まあ俺だって聞いたら疑うけど」
俺は転生者で二度目の人生を謳歌中に異世界転移したんだよね、と言われても嘘としか思えないし。まあ現実は小説より奇なりって言うからね。しょうがないね。
「貴女がリオネさんですね。彼の魂の中から見ていました。先程の戦いでも自身の体を鎧に変化させて伊織さんを守っていただき、ありがとうございます」
見た目が幼女の魔物リオネに対し、丁寧なお辞儀をする見た目美女の中身天使(悪魔)のシェルネ。
「しゅじんをまもること、テイムされたまものとしてトーゼン。だから、かおあげて」
「……やはり、貴方を仲間にできて良かったですね」
「なるほど。このえみはたしかにてんし」
自然に出た微笑みを見て、本当にこの人が天使だと確信したようで、頷くリオネ。
「それじゃあ、これからもよろしく、……えーと、なまえなに?」
「シェルネです。気軽にお呼び下さい」
「わかった。これからよろしく、シェルネ」
「はい、よろしくお願いします」
「それで、このあとどうするの?」
「そうだな、当初の予定通りライセン大迷宮を探そうかな」
シェルネによると場所が分かりづらいらしいが、どんくらい時間がかかっても問題はないからいいか。
「まあ、貴方がそういうなら別に良いのですが……結構探すの大変ですよ?」
「別に急ぐつもりはないさ。既に7個中2個も手に入っているんだ。ゆっくり焦らず攻略すれば良い」
「そうですね、焦らずじっくり行きましょう!」
まあ探索系の能力フルで活かして普通に探すんだけどな。野宿嫌だし。