ありふれた異世界で転生特典【ボカロ曲】を使って楽しんでみる 作:夢のまた夢
ライセン大峡谷。
この場所は魔法が使えない土地であり、その理由は魔力がその場で霧散するからで、そのせいでだいぶ危険な場所とされているが、俺の能力は環境によって使うものが変化する。なので、魔力の代わりに体力を消費することで自身の転生特典を使っていた。
「………」
〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟
そうどこかふざけて書かれた看板を、血走った目で睨んだ。
「あ、あの……、少し休んでは?だいぶ体力を消耗しているように見えますし」
「ん、どうかん。さっさとやすめ」
「……いや、問題ない。逆に今頭痛のせいでいつもより多く思考が回転している」
「それはダメなヤツだと思います……」
迷宮のあまりにもな分かりにくさ。
体力の消費によって起こる脳への過剰な負荷。
鬱陶しく蝿のように邪魔してくる魔物。
そんな苦行をおよそ五日。
俺は今、非常に苛立っていた。それはもう迷宮をぶっ壊したくなるほどに。
「……ここの迷宮がサンドバッグに適していることを願おう」
「イオリ、キレてる。めずらしい」
「よほど力を使いすぎたのでしょう。リオネさん、今はそっとしておきましょうね」
お前ら聞こえないと思って言ってるだろうけど普通に聞こえてるからな?お前らの食事抜いてもいいんだぞ?
「無駄口叩いてないでさっさと行くぞ」
そう一歩目を踏み出したとき、
ガコッ
「……最悪だ」
四次元ボックスから人一人身を隠せるほどの大盾を取り出し、飛んできた矢を防ぐ。
「お前ら、大丈夫か?」
「もんだいない」
「はい、右に同じく」
ボックスに閉まった後、後ろにいた2名の安否を確認し、迷宮の奥を進む。すると、こう記載された石版が置かれていた。
〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟
〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟
「……」
「……」
「……」
すこしの間無音が響き渡り、俺はこう結論を出した。
「……この遺跡、ぶっ壊すか」
「ストップ!?おちつけ!」
「そうですよ!?確かにこの記述には悪意がありますけど、貴方は今冷静じゃありません!」
四次元ボックスから核ミサイルを取り出そうとしたが、他の二人に羽交締めにされて止められる。
「邪魔をするな!俺は至って冷静だ!冷静にここをどうやってぶっ壊そうか考えている!」
「うるさい!ぶっこわそうとしていることじたいアウト!」
「いいから寝てください!寝て疲れを取ってからこの迷宮攻略しましょう!?……はぁ、なんで地球の方はこの言い回しが好きなのでしょうか」
結局、近くで一旦野宿をして、再度ライセン大迷宮へと行くこととなった。
──────────
昨日の疲れをしっかり抜ききり、体力も完全回復した今日。俺はシェルネから何度も聞いた注意を再度聞かされていた。
「いいですか?どれだけイラついても迷宮を全破壊だけはしないこと。神代魔法を貰えなければ、エヒトのいるところにいけないですからね?」
「分かってる分かってる。ようは魔法陣さえ壊さなければ何をしてもいいってことだ」
「違いますからね?」
「シェルネ、いってもむだ。イオリはもうなぐりこむことしかかんがえてない」
俺は、この迷宮を攻略する作戦を二人に告げる。
「俺は今から一人で迷宮の奥へ向かう。俺がそこに着いたら、事前に作っていたGPSで俺を目指して追いかけてくれ」
「ちなみに、それはなぜ?」
「単純な私怨」
「「却下(きゃっか)」」
まあ言われることはわかってたので、一応しっかりとした理由を説明する。
「あとちゃんとした理由を挙げるとすれば、二人が寝てる間に忍び込んで行ってみたら、見事に迷宮の場所がガンガン入れ替わることが分かったから、確実性を高める為。ゴールさえわかれば後は壁ぶち破れば問題ないだろ」
「へぇ……、私たちに内緒で迷宮に行ったんですね?今この場で言うその度胸は認めましょう。それで、怒られるのを覚悟の上で申し上げたのですのよね?」
「ヤベッ」
鬼ごっこが展開されるいつものやりとりの中、今まで黙っていたリオネが、口を開いた。
「イオリ、そんなにわたしたちのこと、しんようできない?」
その表情は、質問を茶化したりする気が失せるほど、真剣な眼差しをしていた。
「いや?信用も信頼もしている」
「じゃあなんで?」
リオネにしては珍しく、涙目になっている。
よほど信用されていないと感じたのだろうか。俺がそんな薄情な人間でないことを一番知っているはずだろうに。
「俺は二人のことを大切に思っている。いつも危ないところを助けてもらっている。だからこそ、できるだけ傷ついてほしくないと思うんだ。どれだけ過酷な道でも、俺の心の支えになってほしい」
「だから、リオネも俺のこと、信用してくれないか?」
その言葉を聞いたリオネは、驚いたとも、嬉しくなったとも取れる、そんな表情をしていた。
「……むぅ。こんかいだけ」
「そう言ってくれると助かる」
「私はまだ許してませんが、リオネに免じて、今回は許すとしましょう」
「……シェルネはホント厳しいな」
「天使ですので。それにこういう役割は、メンバーの中で必要なことですよ」
正論で返された。ちくしょう反論出来ねぇ。
「んじゃ、行ってくる」
自身の能力を多数使用する。
「【少女レイ】、【インビジブル】、【G◯ogleマップ◯ね】」
【少女レイ】のすり抜ける体、【インビジブル】の透明化、そして【G◯ogleマップ◯ね】のマッピング能力と、多種多様な能力を発動させる。
「そ、そんな三つも一気に能力を使って……」
「大丈夫、死にはしない」
そう言い残し、迷宮内を駆け抜ける。
なぜこの三つの効果を選んだのか。それは魔物に見つからず、かつ迷わずに向かえるからだ。
【G◯ogleマップ◯ね】でマッピングした場所に向かって、【少女レイ】のすり抜けで壁を貫通しながら進む。これが一番早い。そして追い打ちとして【インビジブル】で気付かれずに侵入する。
……本当はここに加速できる能力を入れたかったが、体力が足りなくなる危険があるから、断念した。
ただ、真っ直ぐ突っ切っている過程で様々な
「おし、この先の部屋を抜ければ目的地っぽいな」
そして魔法陣の部屋まで後一歩のところで、別の問題が発生した。
「はぁ、ホントに盛大に壊したなぁもう。直る前に挑戦者が来たらどうすんのさ……って、え?」
「お?」
方やゴーレムらしきもの修理中、方や神代魔法を手に入れるため壁のすり抜け中に、
「「何してんのアンタ(君)?」」
ばったりと出くわしてしまったのである。迷宮のラスボスに。
──────────
「へぇ、迷宮の主?」
「そーだよ!ミレディさんは、この迷宮の管理人なのさ!いいよいいよ!もっと褒めても」
鼻高々にそう宣言する小ゴーレムことミレディ。なるほど、どおりでここの迷宮の
「……見えないな」
「近頃の子は失礼だねー。これでも君よりはよっぽど生きているけど?」
「最近の老人は敬ってもらいたがるな?そんなだから尊敬されないんだよ」
「……」
「……」
「「さてはお前(君)性格悪いな(ね)?」」
自らの性格の悪さを棚に上げてお互いの性格の悪さを指摘する。なんとも不毛な構図である。
「まあ一旦スルーしておこうかな?じゃあ君も自己紹介してくれる?私はもうしたし」
「そうだな。俺の名前は神崎伊織。性格ドブカスの神によって連れてこられた転生者だ」
「連れてこられた?前の攻略者も同じこと言ってたな」
前にここを攻略した、というのも驚きだが、+αで同じような理由でここトータスに来たという衝撃の事実が軽々とミレディの口から告げられた。
あの自称神がなんども転移させてたなら、人違いの可能性もあるが、もしそうでなければ同じクラスメイトがクリアした可能性が高い。その中でもハジメの可能性が濃厚だな。生きていると仮定すれば。
そう思考の海に沈みかけていたとき、ミレディの質問によって意識をミレディの方へ浮き上がらせる。
「ところでテンセイシャ?っていうの?言葉の意味を教えてくれない?」
ミレディは首を傾げる。それに対し、俺は説明下手ながらも、なんとか説明する。
「転生、つまりは死んで生まれ変わるってことだな。俺はここへ飛ばされる前の世界の、さらに前の世界で死んだんだ」
「ちょっと待って?頭がこんがらがるんだけど?」
わかる。俺も説明するとき混乱したからな。
「俺もだ。まあそこら辺は別によしとしよう。それ以外で何か気になる点はあるか?」
「そうだねー、じゃあここの神代魔法の管理人として一つ」
空気が変わる。先程まで楽しそうにしていた声が、氷のような冷たい声へと変わり、真剣な表情で聞く。
「君は何のために、神代魔法を集めているのか、教えてくれるよね?」
「んなもん当たり前だろ。驕った自称神を殺す。それ以外に何があるっていうんだ?」
その言葉を聞いて、満足そうに頷く。欲しい回答を手にしたかのように。
「そう言って貰えて嬉しいよ。さっきまでいた別の攻略者達も君を見習ってほしいね」
「へぇ、俺以外にも誰かここに来ていたのか。相当なストレスを溜めることとなったろうな」
「ま、そういう試練だからね!ホントは君と戦ってから神代魔法をあげたいけど、前来た人に壊されちゃったからなー、どうしようかな……」
そう言って困った顔をするミレディ。演技かと少し考えたが、どちらにしても直さないとこの先に進めなさそうなので、俺の優しさをみせる。
「なら直してやろうか?」
「え?いいの?でも、どうやって……」
思ってもない提案だったらしくミレディは少し懐疑的な質問をする。だがとりあえずはYESかNOかが先だ。
「はいかいいえで答えてくれ」
「え、じゃ、じゃあしてもらおう……かな?」
その言葉を聞くや否やすぐさまミレディの頭に手を翳し、一応警告してから能力を使う。
「んじゃあ、今からアンタの記憶を全部みるから、そのつもりで。【リンカーネイション】」
「え!?ちょ、え!?」
騒がしい。わざわざ能力が使いにくい場所で使ってやるんだから、感謝して欲しいものだ。
「心配するな。過去にへんなことしてても特に誰かに言うつもりはない」
「いや、そ、そうじゃなくて!」
?他に何に心配することがあるんだ?
「私何千年も生きてるけど、本当に大丈夫なの?」
「ゑ?」
突然のカミングアウト。止まらない術式。固まる表情。停止する思考。そして始まる記憶の旅路。
「待ってそれは聞いてな
ガクッ
「え!?ちょっと?イオリさーん!?」
それがミレディの記憶旅行をする前の最後の言葉だった。
──────────
伊織が気絶する少し前。
私達は伊織さんの命令通り、ライセン迷宮の外で待機していました。
「おや、GPSの動きが止まりましたね。もしかしたら魔法陣を見つけたのでしょうか」
「ならさっそくレッツゴー」
「そうですね、あまりあの人を一人にはしたくありませんし」
伊織さんは何をしでかすかわかりませんし早めに合流したい、という思いが少し先走っている自覚はありますが。なるほど、これが母性、というやつでしょうか?
──────────
これはゲームでよく見るBAD END。
これまでの積み上げてきた大切な仲間達が、戦いの果てに命を刈り取られていく物語。
守るべき者達から石を投げられ、排斥され、多くの仲間を失った解放者の物語。
あれだけいた大勢の仲間は、今ではたった七人となり、仲間達のリーダーであるミレディは自分をずっと責めている光景は、この何千年の間の中でひどく記憶にこびりついている。
ああすればよかった、こうすればよかった、そんな変えることのできない過去と自分に文句を言い、涙を流すミレディの姿を見て、俺がこんなに泣いたことがあったかと、自分の過去の記憶を探るも、そんな思い出が見つかることはなかった。
不謹慎かもしれないが、羨ましいとすら思った。何かに打ち込んだり、何かのために必死になったりすることがなかったから。
そこからのミレディ達は、自分が死んでも、同じ志を持つ者が現れることを信じ、自らで遺跡を作り、神代魔法をそこに残し、そして生涯を費やして守った。
解放者の一人であるラウス・バーンを頼り、自らの肉体を捨て、ゴーレムとして自分の迷宮で当時のミレディ達と同じ、神を殺す意志をその眼で見るために生きたミレディを除いて。
そしてあれから数千年と経った今、神を殺す意志を持ちうる人物が、二人現れた。
──────────
「───うぅ……」
視界がぼやけ、記憶がハッキリしないままで、それらを取り戻すために重い体を動かす。
人の人生を視たのはこれで二回目だ。
一度目に視たのは、中村恵里の記憶。およそ六年間の年月を視てきた。そのときにわかったこと。
それは記憶の中の一年は、現実世界の一秒であり、体感と実際の時間には大きな差があること、また途中で記憶の閲覧を止めることもできないということだ。
前回はたった六年に対して、今回は数千年の時を視てきたのだ。体が怠いだけで済んでいるのは奇跡なのだろう。危ねぇ、寿命縮んだぁー。
「…………オリ……オリ……イオリ!」
「うわぁっ!?なんだ?急にどうしたリオネ」
徐々に大きくなる呼びかけに反応すると、そこには涙を流すリオネがいた。
「よかっ……た。しんで……ない」
「ああ、元気ピンピンだよ。でもなんでお前がここに?」
「あれみて」
「解放者とはこの程度の力なのですね。れならその反吐が出る仮面を叩き割って差し上げますよ!」
「できるものならやってみなよ?ま、
リオネの指先に見えるのは、シェルネとミレディの戦闘する姿だった。
「え?なんで?」