「どうすっかな・・・。」
俺こと木瀬亮太は途方に暮れていた。上京をしてきたはいいものまさかの迷子になり入学式を遅刻。今も道がわからず、適当にぶらぶらしている。荷物のほとんどはIS学園の寮に送ったため、今あるのはリュックに入れた少々の教科書と財布である。
俺はさきほどコンビニで買った炭酸飲料を口にして、一息をつく。ちなみ俺の地元にはなかったコンビニを発見し、買い物をしたことによって若干テンションが上がっていたりする。
「とりあえず連絡とらねぇとな・・・。」
そうだ、まずはIS学園に連絡だ。
そう思ったが俺は携帯、もしくはスマホを持っていない。あたりを見渡したが公衆電話も見当たらない。
まあ、しばらく歩けばなんかあるだろ。そんな楽観的な思考でしばらくはぶらつくことにした。
。あたりはビルが立ち並び、大勢の人が忙しそうに歩き回っている。いつも閑散とし、人がまだらに歩いている俺の地元と大違いだ。
しばらくは人の多さと今まで自分の周りの環境の違いに驚いていたが、ここでまったく自分の目的が果たされていないことに気付いた。
「見呆けてる場合じゃねぇよ。」
自分に言い聞かせるように言う。
さっさと連絡とらねぇと・・・。
手元の腕時計を見ると10時を過ぎていた。さすがにこれはまずい。
駆け足で歩こうとした時、目の前の女の肩と肩をぶつけてしまった。
「あ、すいません。」
「・・・なにあんた。それだけ?」
肩をぶつけてしまった人は女性で、端正な顔立ちをしているのだが目がやたらときつい。俺を睨みつけているようだ。いや、睨みつけているようだではなく、睨みつけているのだけど。
「それだけって言われても・・・。」
「ぶつかっといてそんな謝り方なわけ!?」
・・・・・・なんだこの女?
確かにぶつかってしまったのは事実だが、軽く当たった程度でこれは大げさなんじゃないかと思う。しかもお前も前を見ないでスマホ見てたじゃねぇか。
「いや、だってあんた。」
「だってじゃないわよ!なんなのあんた!警察呼ぶわよ。」
こっちが呼びてぇよ。
そう言いたかったが、ここで事を荒げることは最善じゃない。つか、めんどくさい。そういや女尊男卑が一般的になり始めてるんだったな。俺の地元でそういった事がまったくなかったので油断してたが、ここら辺ではそれが一般的なんだろうな。
その証拠に周りの奴ら、特に男連中はこちらを見ないように足早に去って行っている。女たちは女たちで冷たい視線を俺に向けていた。
なるほど、これが今の現状ってわけか。
「ちょっと!なんか言いなさいよ。」
「えっと・・・とにかくすいません。自分も急いでいたので。」
「本当に腹立つわ!これだから男は嫌いなのよ!」
わかったわかった。言いたいだけ言えばいいから。さっさ終わってくれ。
「ISも使えないくせに調子に乗ってんじゃないわよ!」
いや、俺も使えるんだけど・・・。・・・言わねぇほうがいいか。
もうそろそろ終わりにしたいんだけど、女はここぞとばかりに悪口をいい、収まりがつかなくなっていた。野次馬、特に女が増え始めそろそろ面倒なことになってきた。
女はヒートアップし始め、手を出しかねない勢いになってきた。
やべぇな、この雰囲気。周りの女たちも共感し始め、謎の団結感が出ている。
「男なんて必要ないのよ!」
そしてとうとう女は俺の頬をビンタした。
「てめぇ・・・!」
「なによ!」
さすがに俺もここまで我慢できるほど大人じゃない。拳を握り、女の顔面めがけて殴りかかろうとした。
しかし、その拳は女に届く寸前で止まった。正確には止められた。
「何をしているんだ、馬鹿者。」
俺の腕がつかまる。聞き覚えのある声に顔を上げるとそこにいたのは織斑千冬だった。
え、なんでここにいるんだよ。
「え、・・・ブリュンヒルデ・・・?」
「うそ、なんでここに・・・?」
周りには騒然とし始めた。テレビでしか見たことのない有名人の登場に写真を取り出す始める者も現れる。
「どうやら私の生徒が迷惑をかけたようだ。私の方から謝罪させてもらう。申し訳ない。」
織斑千冬は頭を下げる。いや、ちがうだろ。なんであんたが謝ってんだよ。
「おい、まて!なんで謝ってんだよ!」
「手を出そうとしたのはおまえだろ。」
「こいつが先にてー出したんだよ。」
「ほう・・・。」
それを聞くと織斑千冬は意地悪そうな笑みを浮かべる。
「私は今の状況をしっかり理解しているわけではないのだが・・・。説明をしてくれるかな。」
織斑千冬は女に向かって言う。
「だ、だってこいつが先にぶつかって謝りもしないのよ!」
「しかし私が見た限りは手を出していたのはあなたのよう見えたのですが?」
「そ、それは・・・。」
「私も大人であると共に教師であり、彼は私の生徒だ。あなたがそういうつもりなら私もそれなりの対処はさせてもらいますよ。」
「ひっ・・・!」
織斑千冬の言葉に女は小さく悲鳴を上げる。初めて見たよ、迫力だけで人を怯えさせる奴。
「それでは失礼します。行くぞ、亮太。」
織斑千冬は背をむけてその場を立ち去ろうとしたが、振り返り、女の方を向いた。
「それとだ。君はニュースをしっかりと見た方がいい。」
そう言い、織斑千冬はもう一度背を向け立ち去る。さっきまでの野次馬は道を開け、覇者みたいな風格をだしながら織斑千冬はその場を後にした。俺もそのあとに続く。後ろから「あっ!」という声が聞こえた気がした。
そこからしばらく離れてから、織斑千冬が口を開いた。
「まったく、入学式にも出ず、問題を起こしているんじゃない。」
「・・・悪かったよ。」
そう言いながら織斑千冬は手を上げ、タクシーを拾った。
「乗れ。」
「おう。」
そのまま2人で後部座席に座る。
「IS学園前までお願いします。」
この時は俺は最初からタクシー使えばよかったじゃんと今更ながら思った。タクシーが動き出し、IS学園に向けて走り出した。
「で、言い訳くらいは聞こうじゃないか。」
そう言う織斑千冬の顔には青筋が立っていたし、明らかに怒っている雰囲気が漂っていた。
「えっと・・・ホテルを出てから道に迷ってしばらくぶらぶらしてたらああいう事になってしまいました。」
「つまり迷子になっていたというわけか。」
改めて言われるとなんかきついものがある。その時、織斑千冬のゲンコツが俺の頭を直撃した。
「いってぇ!!」
「これで少しは反省しろ。」
織斑千冬の教育方針は体罰がありらしい。
俺を殴っていくらか気が晴れたのか、怒気が収まった。
「それで、あの騒ぎの原因はなんだ?」
「・・・肩がぶつかってああなった。」
「・・・それだけか?」
「それだけだ。」
「なんだそれは・・・。」
織斑千冬は呆れていた。
「おかげでビンタまでくらったしよ。今日は最悪だよ。」
「災難だったな。」
「それとよ。」
「ん?」
「俺はさ、女尊男卑なんて今まで感じた事なかったけど、今日それを初めて感じたよ。」
女尊男卑の現状。俺が思っているよりもひどいものだった。あんなに差別をするか。たかがISを動かせる事ができるだけで。
「・・・みながみなああいった人間とはかぎらない。あれは今の風潮に流されている最たる例だ。同じ女として嘆かわしいよ。」
「・・・だろうな。あんたはそういう人間じゃないし。」
織斑千冬はため息をつく。どこか疲れた顔をしていた。
「社会は男女が協力することによって成り立っている。だがその協力がなくなればいつか社会は崩壊する。私はそう思っている。だからIS学園ではそういった差別のない教育もしている。まあ、それは本人の意思しだいなのだろうがな。」
そう言った時の織斑千冬の声はどこか達観して、諦めに似たものが入っているような気がした。
「まあ、それは入学すればおいおいわかるだろう。それよりもお前の捜索に多数の先生方が駆り出されたのだ。あとでしっかり謝っておけよ。」
「うーす、千冬さん。」
どうにもこの先は一筋縄ではいかないようだ。