「え、本気で言ってんの?」
「もちろん本気だ。」
一夜明けて今は朝の7時で朝食前である。俺は昨日夜からたっぷり睡眠をとったため早めに目が覚めてしまい、軽くランニングで汗を流すことにした。その途中で千冬さんに言わなければいけない要件を思い出し、1年の寮長室を訪れた。部屋に入ろうとしたら千冬さんに全力で止められた。千冬さんらしくもなく結構焦っていた。珍しい光景だ。そんなわけで寮長室の前で要件を言う事にした。
簡単に言えば放課後にISの練習機の使用を許可をしてほしいというものだ。決闘まで1週間という短い期間で実力を底上げするには教科書などの資料を見るよりは実際に使った方が良いと考えた。しかし現実はまさかのものだった。
「練習機は予約制でもう予約は埋まっている。もちろん決闘の日までだ。使用はできない。」
「最悪だ・・・・・・。」
まさかの使用不可であった。ちょっとまて、どうやって戦えばいいんだよ。
ISが登場した際に多くの科学者がその性能に驚いていたらしいが、その中でももっとも注目されたのが機動性と飛行性だったと言われている。急発進、旋回、ホバリング、バック、そのすべてが既存の飛行機やヘリコプターの性能をやすやすと越えていた。ISの絶対防御やハイパーセンサーなどに目がいきがちだが、その機動性、飛行性はあまりにも異常で、人類がまだ到達していない領域だと言われている。そしてそれを作ってしまった「天災」篠ノ之束はある意味で異常者と言えるかもしれない。
「・・・まあISに乗るだけが訓練ではない。ISは操縦者の動きをほぼ誤差なく動かすことができる。これを機会になにか武道や格闘技をやったらどうだ?幸いここには様々な部活がある。」
「武道ねぇ・・・・・・。」
「どうした?不満か?」
「いや、そうじゃねぇけど。・・・・・・なあ、確かここって射撃場とかあったよな?」
「?・・・・・・ああ、あるが。」
さっき千冬さんが言ったようにISは操縦者の動きを誤差なく動かす事ができる。これは操縦者の動きをまったく制限しないという事である。パワードスーツと言うよりは着なれたジャージを着ているとようだと教科書では表現されている。それはつまり格闘技をやっている奴はその動きがISを着たまま行う事ができると言うことだ。剣道をやっている奴は剣道の動きを、ボクシングやっている奴はボクシングの動きを。動きをほとんど制限されず操縦者の意のままに動かすことのでき、圧倒的な性能を誇る兵器、それがISだ。
しかし残念ながら俺は武道や格闘技を生れてこのかたやったこともないのでそんな動きはできない。そしてそれを今から1週間をかけてやっても中途半端な動きになり、逆にダメになるんじゃねぇかという疑問があった。
「今からやって中途半端になるよりは、できるだけISを使った時でも遜色ない動きができる射撃を磨いておきたいと思ってよ。」
「ん?それではお前はオルコットと同じ土俵に立つことになるぞ?」
「ま、そうなるけどな。」
セシリアの専用機に関してはある程度の情報は知っている。と、言っても雑誌で見た程度だが。
「オルコットの専用機は射撃に念頭を置いた機体『ブルー・ティアーズ』だ。ビットによる複数の射撃が予想されるぞ。オルコットの首席代表は伊達ではない。射撃の素人であるお前がオルコットと同じ土俵に立つのはきついんじゃないか?」
「誰がバカ正直に撃ち合うかよ。あくまでも俺の技術を底上げしたいだけだよ。それに近づけるかもわかんねぇんだからよ、格闘よりも可能性はある。」
「・・・・・・なるほどわかった。放課後に射撃場の使用の許可は出しておく。場所はわかるな?」
「もちろん。そんじゃ、飯食いに行きますわ。」
「そうか・・・・・・それとだ。」
千冬さんはどこからか取り出した出席簿を俺の頭に振り下ろした。鈍い衝撃が頭に響く。
「教師には敬語を使えば馬鹿者。」
「うっす・・・・・・。」
「それとだ、今日の放課後は空けておけ。」
「デートっすか?」
「・・・・・・殺すぞ?」
「すいません、調子に乗りました。」
ただのジョークです。ジョーク。
「お前の専用機が発注される事が決定した。お前の担当は『浅木技研』だ。放課後には担当者が来るからもう一度寮長室まで来い。・・・・・・勝手に入るなよ。」
「わかってますって・・・・・・。」
「あと、汗はしっかり流せよ。」
「うーす。」
それにしても俺の専用機が発注されることになったのか。うれしいようなそうでないような。
頭をさすりながら俺はその場を後にした。
部屋に戻るとセシリアはもう食堂に向かったらしく、部屋には誰もいなかった。軽くシャワーを浴び、食堂に移動した。今日の朝はどうするかと一瞬考えたが、すぐにラーメンという結論に落ち着いた。辛味噌ラーメンを注文して席に着く。おばちゃんにさえ、「またラーメン?」みたいな顔をされた。いいだろ別に、好きなんだから。
とりあえず食いながら今後の予定を考える事にした。
今考えると代表候補生相手になかなかの啖呵を切ったと思うがまあそれはいい。とりあえずどうやって戦うかだ。セシリアは射撃メインの機体で、セシリア自身の射撃の腕も相当のものだ。とくにビットを使った複数射撃をされたら逃げ道がなくなる。だったら格闘に持ち込めばいいじゃんと思うが、そんな簡単な話でもない。簡単に近づけるようなら代表候補生なんてやってねぇだろ。もし近づけたとしても何かしらの策を張っているはずだ。
できればISを動かしたかったがまあ無理なもんは仕方ない。とりあえず基礎理論をきっちり頭に叩き込んでおくか。いざ乗った時悩まないようにしねぇと。
とにかくどうやって相手に近づくかだ。今から射撃の練習をしても多分命中率は低いからな。どうやってもある程度は近づかないといけない。
とにかく相手に近づくこと。それが俺の課題だ。
「どうすっかね・・・・・・。」
悩みながらもラーメンをすする。うん、うまい。
「お、亮太早いな。」
「よう、おはようさん。」
「おはよう木瀬。」
「よう、篠ノ之さん。」
一夏が遅れて食堂に入ってきた。篠ノ之さんも同伴だ。仲のよろしいことで。一夏は納豆定食、篠ノ之さんは焼き魚定食をもって俺の向かいの席に座った。
「お前、またラーメンかよ・・・・・・。」
「偏るぞ。」
「いいんだよ。俺は太く短く生きるから。」
食事くらい自分の好きなものを食いたいもんだ。ダイエットとかで食事制限する意味が分からない。食った分動けばいいだけなのによ。
「そういや一夏、お前は訓練とかどうすんだ?練習機は使えないらしいぜ。」
「ああ、さっき千冬姉に聞いたらそんな事言ってたよ。」
「なんだ聞いてたのか。」
「ああ、それと亮太。お前も専用機用意されるんだってな。よかったな!」
と、一夏は笑顔を向けて言ってくる。なぜ人の事にそんなに笑顔になれるんだ?いや、多分こいつはこういう奴だな。
「らしいな。放課後に呼び出されたよ。」
「どんなやつなんだろうな。俺のは近接特化って千冬姉が言ってたんだけど。」
遠距離タイプのセシリアに対して近接特化の機体って・・・・・・。新手の嫌がらせっぽいな。
「ずいぶん難儀だな。」
「え、そうなのか?」
「セシリアの機体の情報を調べろよ。多分絶望するぜ。」
「え、なにそれ?」
「みりゃわかるよ。」
俺はそういってラーメンをすすった。
それから時間が経ち放課後。俺は千冬さんに連れられて廊下を一緒に歩いている。「浅木技研」の客と会うために応接室に移動しているところだ。
「これから会うのは浅木技研の所長だ。これから長い付き合いになるだろうから印象はよくしておけよ。」
「うーす。」
浅木技研。ISの研究において国内でもっとも早く研究に乗り出した機関と言われており、日本政府からの信頼は厚いらしい。研究と言ってもISの開発を主にしているのではなく後付けの武装などの強化武装の開発を思うに行っているらしい。らしいが多いと思うが、ついさっき千冬さんに聞いたばかりなので俺もこれくらいしか知らない。
応接室の前に立ち、千冬さんがノックをする。
「織斑です入ります。」
そう言ってドアを開け、中に入るとソファーに座り足を組んでいる白衣を着た女性がいた。黒の長い髪を一つに束ね、銀縁のメガネの奥底の目はなんだか気だるげだ。さきほどまで煙草でも吸っていたのだろうか?部屋には煙草特有のにおいと煙が漂っていた。そう思っていると胸ポケットから煙草を取出し吸い始めた。
「・・・・・・恵子、煙草はやめろと言ったろ。生徒の前だ。」
「無理だね。私は煙草がないと死んじゃうんだよ。」
そう言うと恵子と呼ばれた銀縁メガネの女は立ち上がり、こっちに近づいてくる。そして俺の前に立ち顔を近づける。煙草をくわえたままなので危ないんすけど。
「・・・・・・どうも。」
とりあえず挨拶してみた。しかし返事は聞かれず、そのまましばらく見つめられていた。そして何かに満足したように俺から顔を離した。
「男でISを使えると聞いたが・・・・・・なかなか普通そうだな。」
・・・・・・ここでも言われるのかよ!
どうやら俺の第一印象は万人共通で普通らしい。
「お前は相変わらずだな、恵子。」
「あんたも相変わらずだよ、千冬。」
なぜか俺が置いてけぼりな感じがする。会話から察するに多分こいつらはもともと知り合い的なもんなんだろう、とりあえずそう納得することにした。
「まず座れ、話はそれからだ。」
「わかったよ。」
銀縁メガネはそのままはソファーに座った。俺たちもそれに倣うように向かい合って座る。
「とりあえず自己紹介だ。私は浅木技研所長の浅木恵子。そこの織斑千冬とは高校からの同級生だ。」
どうやら俺の考えは当たったらしい。銀縁メガネ改め浅木恵子さんは千冬さんの高校からの同級生である。
「君の専用機の件だけど日本政府から頼まれてうちが用意することになったから。ま、これは千冬から聞いてるよね?」
「ええ、まあ。」
「悪いけどこっちも用意には時間がかかる。なんだっけ、確か決闘?だったけ?それには間に合わないからそこはあしからず。」
浅木恵子は煙草を吸いながら事務的な案件を言っていった。なんとなくではあるがその動きの一つ一つがどこかめんどくさそうな感じが漂っている。
「それと君の専用機は悪いけど完全なワンオフではない。うちの本業はISの後付け武装の開発。ISそのものを開発してるわけじゃない。だから千冬、こっちの要望としては練習機のISを一個貸してほしいんだけど。それをある程度改造して専用機っていう形にするけどいいだろ?」
「かまわん、そっちの好きにやってくれ。」
「きみもいいだろ?」
「はい」
どうにも早くに話はまとまりそうだった。というより初めから話が決まっているようなそんな印象を受けた。ま、普通に初めから話は通してたわけだし、当たり前と言えば当たり前か。
「それにしても・・・・・・。」
浅木恵子はまたしても俺に顔を近づける。せめて近づけくんなら煙草の火消せや。
「男でISを動かすのか・・・・・。ばらして調べたいものだな。」
・・・・・・え、なに、俺殺されんの?
なかなかにエキセントリックな発言をした浅木恵子を千冬さんがたしなめる。
「恵子、うちの生徒をビビらせるな。」
「冗談だよ、冗談。・・・・・・半分くらい。」
おい、後半ぼそっと恐ろしい事言ってたぞ。え、この人俺の事殺すの?
それを聞こえたのだろうけど多分あえて触れずに千冬さんは話を進めていく。
話の後半はそれについての予算だとか、権利書の委託だとか大人の会話をしていたのでここは割愛、要約すれば「練習機を一台浅木技研に貸し、それを俺の専用機として運用する」と言う事だそうだ。そして浅木恵子はちょくちょく俺に視線を向けては「ばらしたい・・・。」とつぶやいていた。こえぇよ。
「ま、内容はこれくらいだな。」
「そのようだな。さて、私は帰らせてもらう。どうにもやる事が山積みのようだ。」
「迷惑をかける。」
「そうでもないよ、それじゃ」
そう言って浅木恵子は部屋を出て行った。部屋には俺と千冬さんが残された。
「先生、俺殺されるんですか?」
「・・・・・・否定はできん。」
「否定しろよそこは!!」
まさかの担任にも死亡宣告をくらった。助かる道がなくなった。
「深くかかわらなければ大丈夫だ。あれでもあいつは冗談が通じる。」
「目が本気でしたけど・・・・・。」
「・・・・・・気のせいだ。」
「そう思うなら目を合わせろ。」
どうにもぶっとんだ知り合いが俺にできたらしい。マッドサイエンティスト風の女科学者である。そのうち本物のマッドサイエンティストになりそうだけど。
「すげー心配なんだけど・・・・・・。」
「あれでも腕は確かだ。篠ノ之束がいなければあいつがISを開発していたと言われているほどの頭脳の持ち主だだ。正直あいつに任せておけてよかったと思っている。」
別の意味で心配なんだよ。そのうち俺はあいつに拉致られるんじゃないかという不安がある。
「まあそれは置いておいてだ。決闘まで一週間だ。やれることをやっておけよ。」
「うーす。」
どうにもやれることはかなり限られている気もするがこの際そこらへんはどうでもいい。今の自分に足りないものを補っていくしかない。
そう改めて決意し、時間が経過していった。
一応来週からバトルに入っていく予定。