ただの普通の一般人がISに乗ってみた。   作:酢酸

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時間がとんで決闘当日。



決闘当日

「ふー。」

 

朝のランニングを終え、タオルで汗を拭きながら俺は中庭のベンチに座っていた。IS学園はとにかく広いので走る場所には事欠かさなかった。

セシリアとの決闘宣言から早いもんで、もう今日が当日だった。時間がたつのは早いもんだ。今日までに俺がしたことと言えば教科書を熟読したり、射撃場で銃を撃っていたことくらいだ。あと今のような朝のランニング。中学で運動部に入ってなかった弊害で俺には体力がない。そのために朝のランニングが日課になっていた。

 

「つか、こんなんで大丈夫かね・・・・・・。」

 

不安を覚えずにはいられなかった。結局練習機には乗れずじまいで、今日がぶっつけ本番となっていた。専用機は今日には間に合わないようなのでIS学園の練習機を使うことになった。一応学園側が俺用に設定をしてくれるようだが、それだけだ。結局俺は実戦経験ゼロのまま戦うことになった。

セシリアには大見得切った以上、無様に負ける真似にはしたくない。つか、負けたくねぇし。

そんな事を思っていると見覚えのある縦ロール金髪が俺の視界にうつった。

 

「亮太さん。」

 

セシリアだった。制服に着替えていた。

 

「ありゃ、どした?」

「どうしたじゃありません。もう朝食の時間ですよ。」

「え、もうか?」

 

腕時計を見ると時間は7時になっていた。やべぇ、休みすぎた。

 

「あー・・・もうめんどくせぇな・・・・・・。」

「早くしてください。朝食の時間が終わってしまいますわ。」

「わあったよ・・・・・・。」

 

朝食の時間は7時から8時の間。それ以降は食堂に入る事はできない。つまりこの時間を逃せば食堂に立ち入ることはできなくなるのだ。

まあ別に朝食抜いても俺は問題ないけどよ。

そんな事を思いながら俺はベンチから立つ。

 

「そういやお前は食ったのか、朝飯?」

「いえ、まだですわ。だから早くしてください。」

 

そう言ってセシリアは歩き出した。俺のその隣に並んで歩く。

 

「わざわざ待ってたのか?」

「ち、ちがいますわ!たまたまです!たまたま!」

「あ、そう。」

 

この一週間、セシリアと食事をする機会が多かった。ルームメイトであるために二人で食堂に向かう事が多く、そのまま一緒の席に座って飯を食っていた。二人で食っていても特にたわいのない話しかしていないがな。

 

「とりあえずシャワー浴びてこねぇとな。」

「そうしてくださいね」

 

たわいのないやり取りをしながら俺とセシリアは行内に戻って行った。それは今日決闘する相手たちとは思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

朝食も食い終わり、今の時間は1時間目が始まる予定なのだが、俺はジャージに着替えて、アリーナの入り口で軽く準備運動をしている。千冬さんが1、2時間目をつぶして俺たちの決闘の時間にあててくれた。一応これも授業の扱いなため、1組のクラスメイトがアリーナの観戦席に座っていた。

一夏も準備運動をしているが、俺と唯一違う点がある。それはISスーツというものを着ていることくらいだろう。やたらぴっちりとしたウェットスーツみたいなもんである。なんでも体を動かす時にでる筋肉の電気信号を増幅して伝える効果があるらしい。要はISをよりタイムラグなく動かせる便利スーツと教科書に書いていた。ちなみに必ずしも必要ではないらしく、げんに俺は自分の用のISスーツがないためジャージで挑むことになった。後で浅木さんが用意してくれるらしい。ついでに言えば篠ノ之さんも応援に来ている。

 

「そういや亮太、お前のISも専用機だろ?」

「いんや、俺はこれには間に合わないらしいんで練習機を使う。確かラファール・りヴァイヴだったな。」

 

フランスのデュノア社が開発した第二世代のIS。その性能は初期の第三世代にも劣らないらしい。どうやらこの日のために俺専用に設定をしてくれたようなのでまったくもってIS学園には感謝したい。

それはそうと問題が一つ。

 

「にしても来ねぇな。」

「ああ・・・・・・。」

 

なぜか一夏の専用機が届いていないという事だろう。仕事が遅いぞIS学園。千冬さんが(勝手に)決めた対戦の順番はセシリアと一夏、そのあとに俺とセシリアという順番のはずなのだが、今まさに第一試合の始まる時間が迫っているのに一夏の専用機はまだこっちに届いていなかった。

 

「あと箒!俺にISの事教えてくれるんじゃなかったのかよ!剣道ばっかだったじゃないか!」

「仕方ないだろ!お前のISが届かなかったんだから!」

 

どうにも言い争っているようだが、会話から察するにどうにも一夏が篠ノ之さんにISの事を教えてもらう予定だったのだがそれがうまくいかなかったらしい。

 

「つか一夏、お前剣道やってたのか?」

「え?ああ、小学校までだけどな。中学はバイトで忙しかったらまともにできなかったんだけどな。」

「いいなー。俺はまとも武道なんてやった事なかったからよ。」

 

剣道か。確か一夏の専用機は近接特化のはずだから一夏の剣道で鍛えた技は無駄にはならないはずだ。そう考えると俺はずっと射撃場で模擬弾撃ってただけだから何とも言えんな。

そんな事を思っていると千冬さんがやってきた。

 

「織斑、どうやらお前の専用機は到着が遅れるようだ。先に木瀬とオルコットの試合を最初に始めることにするが、異論はないな?」

「問題なーし。」

 

どうせ戦う事になるんだ。早いか遅いは問題じゃない。

 

「それでは木瀬。カタパルトの方まで来い。」

「亮太、勝手こいよ!」

「頑張れ木瀬。」

「おうよ。」

 

一夏たちに拳をあげて返事をする。

千冬さんについていき、ピットの先にあるカタパルトにつく。カタパルトの上には俺が乗るIS「ラファール・リヴァイヴ」が設置されていた。本来カタパルトは使用しないのだが、ISを乗るものなら誰もが経験する飛行に対する抵抗感を薄くするためにカタパルトが使用される事になった

当然だが人は本来空を飛ぶことはできない。飛行機やヘリコプターなどといったものを使えば話は別だが、人間の器官に「飛ぶ」ことを実現するものは備わっていない。しかしISはほとんど人の体の一部のように機能し、空を飛ぶことができる。しかしその「飛ぶ」という感覚が人にはないため、IS初心者はISの飛行にかなり苦労するらしい。それは本来人にはない感覚だからだ。そこでカタパルトによる強制射出で空に打ち上げることによって「飛ぶ」という感覚をつかませるらしい。

今回は俺たちもそれにならってカタパルトを使用することになった。

 

「お前用に設定したISだ。武装はアーミーナイフ、アサルトライフル、ミサイルポッド、手榴弾、スナイパーライフルだ。どれも実弾仕様で手榴弾に関して言えば使い方は一般のものと変わらん。」

「・・・・・・。」

 

これが俺が初めて乗るIS。ネイビーカラーで、背中に4枚の推進翼がついている。俺がこれを選んだ理由はこのISが全体的に平均的に作られておりピーキーな仕様ではない事、それと同時に操縦者を選ばない汎用性にすぐれていることだ。これほど俺にあった機体はない。

 

「思ったよりもかっこいいな。」

 

俺はそれに触れてみる。なめらかな金属の感触が肌につく。

これがIS。世界最強の兵器にして天災が生み出した産物。

 

「・・・・・・木瀬、ISは怖いか?」

「大げさに怖がるほどじゃねぇけど、少しな。」

 

ISと言う大きすぎる力に対する俺の見解は「恐怖」だ。その圧倒的な力を。そしてその力の矛先が自分に向けられるのを。心の奥底で俺は恐れている。

 

「でもよ、だからって逃げるのは違うよな。」

「・・・・・・その言葉を期待していたよ。」

 

俺の答えを聞いて千冬さんは微笑んだ。

それに恐怖していても、逃げることは嫌だ。それに向き合わなくていけない。多分それが今なんだと思う。

 

「最適化に入る、それに乗れ。あとはISがすべて自動でやってくれる。」

「ういっす。」

 

俺はラファール・リヴァイヴぽっかりと空いたスペースに背中をあずける。それに合わせて腕と脚のパーツが俺の体にゆっくりと固定された。

 

「搭乗者木瀬亮太、認識を完了しました。操縦方法はマニュアル、武装展開は音声認識を選択しています。また自動姿勢制御はオンにしますか?」

「オンで。」

「了解しました。それでは最適化に1分ほどかかります。そのままでお待ちください。」

 

合成音声の妙に高い声が勝手にISのフォーマットをやってくれていた。

 

「どうだ?最適化はうまくいっているか?」

 

横から千冬さんが声をかけてくる。ラファールに乗っているため、俺が千冬さんを見下ろす形となっている。

 

「ああ、勝手にやってくれてる。あとよ、なんで武装選択が音声認識なんだ?」

 

教科書ではISの武装はIS内部に搭載されている拡張領域に保存されている。IS使用者はそれを頭で思い浮かべ、それの電気信号を拡張領域に送り、手元に転送されるはずだ。

 

「見たこともない武装をどうやって思い浮かべる。それは完全な初心者用の設定だ。自動姿勢制御もオンにしたか?」

「一応。」

「ならいい。」

 

自動姿勢制御もIS初心者によく使われる設定だ。危険な体勢での衝突や落下などの際にISが衝撃をもっとも少ない体勢へと変化させる、またはブーストを吹かせ衝撃を和らげるなどといった事をすべて自動でやってくれる設定である。ある程度乗りこなせるようになれば早々にこの設定は使わなくなる。IS学園の1年生はこの二つの設定を使わなくなることが目標とされている。

 

「しかし大丈夫かね?今日がいきなりの操縦だってのにいきなり戦うとか。」

「そんなものは体で覚えろ。今日は負けてもそれを糧にすればいい。」

 

どうにも千冬さんは俺と同じ考えをもっているらしい。

 

「そういやなんで俺の最適化はこんなに早いんだ?ホントならもっとかかるはずだろ?」

「そうだな本来なら最適化はその場で操縦者の身体データ、思考パターンを解析し、操縦者が乗りやすいように最適化する作業だが今回はかなり時間のかかる作業だが、あらかじめのこのラファールにはお前の身体データを最初から組み込んでいる。かなりの時間は省略できるはずだ。」

「なるほど。」

「最適化が終了しました。」

 

そんな会話をしていると、ラファールの最適化が終了したようだ。

 

「コアナンバー77、ラファール・リヴァイヴ、あなたを歓迎します。」

 

合成音声が最適化の終了を伝えた。

 

「終わったようだな。」

「みたいで。」

「よし、なら今から射出する。」

「おっけい。」

 

俺は前を向き、しっかりと見据える。

これから俺はISを使って戦う。正直少し怖い。それでもこれは俺が選んだ道だ。今はその始まりなんだ。

 

「亮太。」

「ん?」

 

千冬さんが射出のレバーに手をかけ、俺に声をかけてきた。

 

「この戦いでISに対するおまえなりの答えを見つけてこい。私からはそれだけだ。」

「・・・・・・うっす。」

「蹴散らして来い。」

 

そう言って千冬さんはレバーを下げた。カタパルトが動き、俺はアリーナへと飛び立った。

 

 

 

 

 

セシリア・オルコットはアリーナの上空で浮かびながら、ピットから出てくるはずの木瀬亮太の事を考えていた。

女尊男卑の風潮になり始めてからセシリアに近づいてくる男たちは皆自分に媚びへつらうような者たちばかりだった。自分の保身のためにそのような態度をとる男たちがかつての父と重なり、それがさらに男嫌いを加速させていった。

そんな中で木瀬亮太に出会った。彼は今までの男たちと違い、決してそのような態度はとることはなかった。男でISに乗れるという状況を受け入れ、その中でできる最大の努力をしていた。それは木瀬亮太と一週間も過ごしていた彼女にはわかっていた。

今の実力が自分にかなわないとわかっているが、それでも努力する事をやめなかった。朝早くに起きてはランニングをし、放課後になれば射撃場に行き、消灯ぎりぎりまで戻ってこなかった。さらに部屋に戻ってからも自分が寝静まったのを確認してから参考書に目を通し、明け方まで勉強をしていた。後半に関してはセシリアがたまたま起きて知った事実であったが。

 

(そういえばあの時は気を使ってくれたのかもしれませんね・・・・・・。)

 

IS学園の入学初日。織斑一夏の言い争いになってしまいそのうわさが悪い意味で学園内に広がり、セシリアの周りに誰も近づいてこようとしなかった。

木瀬亮太を除いては。

あの時食堂で1人でご飯を食べている時は正直言ってさびしかった。両親を亡くし、寂しさを感じることが多かったが、そんな時でもセシリアの幼馴染のチェルシーがいてくれた。彼女にはなんども救われた。しかし彼女は家の留守を任せているため、IS学園には一緒にはこれなかった。そんな中で誰もがセシリアを避けて行った。本当はさびしくてたまらなかった。このIS学園で新しい友達を見つけよう思っていた。その矢先にこれだ。セシリアの心中はひどく落ち込んでいた。もう友達は作れないだろうと。

そんな時に木瀬亮太は自然に私の元に来たのだ。

なぜ?あなたにもひどい事を言ったでしょ?

しかしとうの木瀬亮太はそんな事をまったく気にしていないようだった。今思えばあれは私の事を気遣ってくれたのかもしれない。しかしその心遣いに、あの時少しだけ救われた。

それからも木瀬亮太と一緒にご飯を食べる機会が多くなった。ルームメイトである事が最大の要因ではあるが。

二人で食べる時も特にたわいのない話をしていた。それこそ自然体で、気兼ねなく話していた。

 

(まさか私が殿方とあんなにしゃべるなんて思いもしませんでしたわ。)

 

そんな事を考えていると自然と笑みが浮かんだ。

その時ピットから勢いよくISが飛び出してきた。ラファール・リヴァイヴに身をつつんだ木瀬亮太だ。彼は射出された勢いをゆっくりと減衰させ、地面に降り立った。初めての操縦であの動きは多分自動姿勢制御をオンにしているのだろう。

 

「どうですか、初めてのISは?」

「なかなかに快適だよ。」

「それはなによりです。」

 

昔のセシリアならここでいろいろな事を言っていたかもしれないが、木瀬亮太という男性に出会ったことで、今までの女尊男卑の考え方が少しずつではあるが、改善されていた。少なくとも、木瀬亮太は今までの男たちとはちがう。これだけははっきりセシリアは言えた。

 

「二人ともいいな?」

 

アリーナの拡声器から千冬さんの声がひびく。

 

「ルールは単純だ。どちらかのシールドエネルギーをゼロにすればいい。それで勝ちだ。」

「ずいぶん単純だな。」

「そういうものですわよ。」

 

お互いにそう言いながらも意識を集中させていた。セシリアは上空でスナイパーとしての絶好の位置をとっていた。木瀬亮太もセシリアの動きを見逃さまいと集中していた。

 

「それでは始め!」

 

織斑千冬の言葉で二人の決闘が始まった。




まさかのバトル直前。こんなはずではなかったのに。
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