店頭の長椅子に座り、しばらくの沈黙。そして織斑千冬は話し始めた。
「今でこそISはスポーツの一種として認知されているが、もとをたどればあまりにも強力な兵器だ。ISに乗っているとやはりそう思う。ISはあまりにも強すぎる。」
確かにISは強力だ。今まで兵器では太刀打ちできなくらい強い。それは「白騎士事件」で十分すぎるほど証明された。10年前の最悪と言っていいほどの大事件。軍関係の施設がハッキングされて、2000発の以上のミサイルが日本向かって飛んできた。それをすべて落とし、日本を守ったのは正体不明の兵器。それがISだった。
あの日の光景はよく覚えている。テレビ中継される空を駆ける白い騎士がミサイルを落としていく姿はあまりにも衝撃だった。そして同時に怖くなった。その力に、俺は心のどこかで恐怖していた。
俺はISに興味がなかったんじゃない。心のどこかで、ISという強大すぎる力を恐れていたんだ。
「そしてその兵器の使い方を教えている私は、人としてまだまだ未熟なんだと思う。」
織斑千冬の声には力がなかった。
「兵器を扱う人間は善良でなければならない。昔、ある人にそんな事を言われたよ。あの時は意味が分からなかったが、今ならわかる。兵器を扱う人間こそ良識と正しい倫理観を持たなければ、その力に酔っていき、最後は殺人鬼に変わっていく。だから私はISという兵器の力に飲まれないように日々自分に厳しくしてきたつもりだ。だが・・・。」
うなだれるように頭を垂れた。
「それを他人に教えるとなれば話は別だ。教えることはあまり難しい。今日はそれを痛感したよ。中学生向けのISの講義をしてくれと頼まれてここまでやってきたが、やはり教えるのは難しい。」
「何を?」
「ISを兵器として認知してもらう事、だな。」
苦笑する織斑千冬。その顔は世間で「ブリュンヒルデ」と呼ばれる人間とは思えないほど、弱弱しかった。
「みなが『白騎士事件』を過去のものとしてみている。そして『アラスカ条約』によってISは兵器として
扱われないと認知されてしまった。だからだろうな。みながISをあまりにも軽く見ている。そしてISの『欠点』である女性にしか乗れないという面ばかりを見て、世界の情勢までも変わってきた。」
へぇ、IS操縦者がISの特徴を「欠点」と言い切ったか。これは結構な問題発言なんじゃないか?
「たとえ私が1人で頑張っても世界そのものを変えることはできない。変えるには時間がたちすぎた。そう思ったら、私の今まで頑張りがなんだが虚しくなってきてな・・・。」
何もかもに疲れた。そんな顔を、織斑千冬はしていた。
きっと想像もつかないほど努力を重ねてきたんだと思う。俺とは違って何かを積み上げてきた人だ。そして、そんな人でも壁にぶつかる。
「すまんな、完全に愚痴になってしまったな。」
「いや、俺から言った事だし、気にしなくていい。」
「それでもさ。年下にこんな事を言ってしまうと、少しばかり恥ずかしくもなる。」
そういうと立ち上がり、屈伸や腕を伸ばしてストレッチを始めた。
「すっかり話し込んでしまったな。少し体も冷えた。私は民宿に戻るとするよ。」
「なあ?」
「どうした?」
「どうしてあんたはそんなに頑張ってこれたんだ?」
少し考え込んでから、織斑千冬が言った。
「私は両親に捨てられているんだ。そして私に残されたのはたった1人の弟だ。家族を守るために必死になっていたんだと思う。」
それが理由。家族を守るために1人で戦ってきた。
「そっか・・・。悪いな引き止めて。」
「いや、おかげで少し楽になった。感謝している。」
「あと、」
「?」
「たまには誰かに頼るものいいんじゃないかって思うよ。・・・俺が言えた義理はないけど。」
「ふふ・・・。」
なぜか笑われた。少しクサかったか?いや、そんな事はないはずだ。
「なんだよ?」
「いや、君も葛西先生と同じ事を言うのかと思ってな。やはり教え子は教師に似るものだな。」
「げ!あいつ同じ事言ったのかよ!」
「ふふ、照れなくていい。その言葉は胸にとどめておくとしよう。」
「照れてねぇよ!」
「そういうことにしておこう。それではな。」
そういうと織斑千冬は走り出した。来た道の逆を行っているので、民宿に戻っていったのだろう。
「はぁ、最悪だ。」
なにが似てくるだ。確かに葛西と話すようになってから口調が荒っぽくなったのは事実だけどよ。まさか言うことも似てくるとは。もしかしたら最後には顔まで似てくるのか?あの極道には絶対になりたくないがな。
そんな事を思いながら空を見た。夕焼けのオレンジ色にかすかに夜の黒が混じり始めている。
今考えれば、俺が織斑千冬にアドバイスなんておこがましいほどがあったんじゃないかと思い始めた。努力をしてもどこかで壁にぶち当たる。それでもあがいていかなければいけないのに、俺はその努力すらしていない。そんな俺が努力をしてきた人間に対してアドバイスをするなんて、その資格すらないのに。
だからせめて、対等とまではいかなくても、できるだけの事はしたい。そう思った。
「少しはまじめにやるか・・・。」
俺は店の中に入っていった。その時に目に留まったのは雑誌「インフィニット・ストライプ」だった。さっきの言葉が浮かぶ。
ISは兵器
さっきまでどうでもいいと思っていたものが急に違って見えた。そしてISに興味がないと偽っていた心が壊れ、はっきりと自覚した。
俺はISが怖いんだ。
他の人のを見てると自分がやたら短く感じる今日この頃です。