ただの普通の一般人がISに乗ってみた。   作:酢酸

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今回は少し長目。



プロローグ5

「あっちぃ・・・。」

 

次の日。朝の10時。

うだるような暑さの中、俺は進路指導室で高校のパンフレットを読み漁っていた。

 

「おい、葛西。エアコンつけろよ。」

「経費削減のためにうちわで我慢しろ。」

「ぜってぇ無理。」

 

進路指導室の立地的に窓を開けても風が通ら、部屋に熱気はこもりっぱなしだった。

 

「クソ、集中できねぇ・・・。」

「・・・だいたいどういう風の吹き回しだ?お前がやる気出すなんてよ。」

「ちょっとした心境の変化だよ。」

 

 

額の汗をぬぐいながら答える。葛西はどうにも腑に落ちない顔をしていたが、スルーする事にする。

 

「ま、やる気があるのはいいことだしな。で、目星はついたのか?」

「やっぱ高校卒業した後はすぐに就職がしたい。ばあちゃんに迷惑をかけた分、恩返しがしたい。」

「そうか、それもいいだろう。ま、とりあえずお前がやる気を出したのいいとして、その、髪夏休み中になんとかしろよ。まさか入試までそれで行くとかいうわけじゃねぇだろな?」

「当たり前だ。明日にでもやるよ。」

 

ただそうなると俺の存在感が一段と薄くなる危険性がある。けど背に腹は代えられない。受験が終わるまでは黒髪で通すことにしよう。終わったら金髪に戻すけどな。

 

「素直に聞き入れるとはな。・・・・・・お前、さては木瀬じゃねぇな?」

「なに失礼な事言ってんだお前は。」

 

そんなやりとりをしているとドアの前に人が立つ。

 

「葛西先生、挨拶に上がりました。」

「ん、織斑か。」

 

そこにいたのは織斑千冬だった。

 

「今から帰るところなのでお別れを、と思いまして。」

「なんだ、気にしなくていいのによ。」

「いえ、そういうわけにはいきません。それに、彼にもお礼を言おうと思いまして。」

 

織斑千冬は俺へと視線を向ける。

 

「ん?こいつにか?」

「はい。昨日少しお世話になったものですから。」

 

昨日の会話を思い出す。軽々しくアドバイスをした自分に嫌気がさす。

こちらにむかって歩いてきたのでとりあえず立ち上がる。

 

「私の話を聞いてくれてありがとう。おかげ少し楽になったよ。」

 

俺は頭をポリポリとかく。こうも正面からお礼を言われると気恥ずかしくなる。

 

「まあ、あんたがそれでよかったんなら・・・。」

「ふふ、感謝しているよ。」

 

織斑千冬は微笑んでいた。俺は目をそらしていた。

 

「それでは葛西先生、私はこれで帰ります。」

「ああ、一夏君も受験だろうから頑張れよ。」

「はい、それでは。」

 

織斑千冬はそういうと部屋から出て行った。部屋に残されたのは葛西と俺だけとなった。

 

「お前、昨日なんかあったのか?」

「別に、大したことじゃねぇよ。」

 

俺は座り直し、パンフレットに目を向ける。葛西は怪訝な顔をしていたがそれ以上は聞いてこなかった。

 

 

 

 

志望校探しは何とか午前中に終えることができた。俺の希望と葛西の俺への学力の見立てで、地元の工業高校へと狙いを定めた。葛西曰く「お前がもう少し頑張れば何とかなるレベル」らしい。とにかくこれで目標は定まり、あとは勉強をするのみとなった。

今考えれば俺の人生の中で今ほどやる気に満ちた時期はなかったと思う。それだけ織斑千冬との出会いが俺に変化を与えたといっても過言ではない。こればかりは織斑千冬に感謝しなければならない。

 

「さっき言っときゃよかったな・・・。」

 

さっきの織斑千冬との別れはあまりにも簡単すぎるものだった。確かに織斑千冬にとってはその程度の事かもしれないが、俺にとっては、多分人生を変えた・・・は言いすぎか。いや、でも俺の生き方の転機になったのは確かだ。そんな人物に対して、あまりに簡単すぎる、感慨も感傷もなにもない別れ方だった。今になって後悔している。

 

「今更だけどな・・・。」

 

そんな事を言いながら、俺は木瀬商店の店頭の長椅子に座りラムネを飲んでいる。昼下がりになり、日差しはさらに強くなっている。こんな暑い日にわざわざ外に出るやつがいるのかと思っていると、足元に猫が寄り添ってきた。ばあちゃんの飼い猫セリだ。

 

「なんだ、お前も暑いのか。」

 

セリは俺の足元を少しの間うろうろしていたが、長椅子の日陰の部分に寝ころび、寝てしまった。

 

「本当に猫は自由だな・・・。」

 

少し呆れながら、ラムネを飲む。

 

「ここの店は開いているか?」

 

妙に聞き覚えのある声のする方向を見ると、そこには先ほど別れの挨拶をしていった織斑千冬の姿があった。

は?なんでここにいるんだ?電車の時間はとっくに過ぎてるはずだろ。

 

「・・・なんでここにいるんだ?」

「まるでいたら悪いみたいに言うな。」

 

ジャージ姿の織斑千冬は、俺から人一人開いた間隔で、長椅子に座った。

 

「電車の時間はとっくにと思うんだけどな。」

「大人の事情だよ。」

「大人の事情ねぇ・・・。」

「大方忘れ物でもして戻ったら電車出ていたってとこか?」

「う・・・。」

 

どうやら図星だったらしい。

 

「ちなみに次の電車午後の1時だからな。」

 

ちなみに今の時間は12時。あと1時間ほどで電車が来る予定になっている。

 

「こっちは田舎だからな、電車の間隔も結構開くんだよ。」

「ああ、そうのようだな。しばらくはいろんな場所を見て回っていたよ。」

「ここは観光地じゃねぇから暇だったろ?」

 

俺の住んでいる場所は比較的田舎の部類に属すると思う。この町ででかい建物といえば学校くらいなもんだし、車よりもトラクターの方が公道をよく走っている。

 

「いや、そうでもないさ。久しぶりゆっくりと過ごすことができたよ。」

「そうかい。」

 

俺はラムネを口にするが、いつの間にか空になっていた。空になったラムネを捨てに行こうとするが、織斑千冬がラムネを物珍しそうに見ていた。

 

「なんだよ?」

「いや、それは何かと思ってな。」

「は?」

 

え、まさかこいつ・・・。

 

「おい、あんたラムネを知らないのか?」

「ああ、初めて見た。」

「うわぁ・・・。」

「おい、可哀想なものを見る目で見るな!」

 

まさかラムネを知らないやつがいるとは。ちょっとカルチャーショック。てか、この人俺より年上だろ、なんで知らねぇんだよ。

 

「飲んでみるか?」

「・・・まあ、どうしても言うならもらおう。」

 

どうしてもなんて言ってねぇよ。

どうやらラムネを知らない事が少しばかり気恥ずかしいらしい。

俺は販売用の冷蔵庫からラムネを2本取出し、1本を織斑千冬に渡した。

 

「ほれ」

「ああ・・・。」

 

渡したのだが、なぜか困惑している。ああ、そっか。開け方知らねぇのか。

 

「ちょっと見てろ」

「ん?」

 

俺はラムネのキャップシールをはがし、平たい円に突起がついている玉押しを取り出す。

 

「これを飲み口ビー玉につけて押す。」

 

パン、という音とともにビー玉が外れる。

 

「ほれ」

「・・・ありがとう。」

 

織斑千冬は恐る恐る飲んでみる。

 

「ん、中身は普通のサイダーだな。」

「そりゃそうだ。」

 

俺も自分のラムネを開けて飲む。

 

「都会にはないのか、ラムネ?」

「さあ、どうなんだろうな。私はあまり気にした事はなかったし、今ではアルコールの方が飲む機会が多い。」

「ふーん、そんなもんか。」

「ただ、これなら缶のほうが楽な気もするがな。」

「ま、きっとそうなんだろうけどな。俺は昔から飲んでいるのが缶よりもこっちだったって事なんだろうよ。」

 

しばらくは2人でラムネを飲んでいたが、これはチャンスだと思った。自分が言いそびれた言葉を言う機会は多分、もう今しかないのだろう。

 

「なあ、織斑さんよ。」

「なんだ。」

「ちょっとまじめな話するぜ。」

 

雰囲気を察してくれたのか、ラムネを置き、話を聞いてくれるようだった。

 

「俺はさ、今まではただ意味もなくだらだら生きてきたんだと思うんだよ。努力すればできるのに、何かと理由をつけてそれを避けて、生きてきたんだ。でもさ、昨日あんたと話して思ったんだよ。それじゃ、意味がないって。」

「・・・」

「俺は昨日あんたに言ったろ?「誰かに頼るのもいいんじゃないか」って。でもさ、俺みたいな今まで何もしてこなかった奴がそんな事言える資格はないんじゃないかって思ったんだよ。あんたみたいに努力している人間に対して俺が言っていい事じゃないんだよ。」

 

織斑千冬は黙って俺の話を聞いている。

 

「だからさ、俺はこれから努力をしてみようと思うんだ。精一杯生きていこうって思うんだ。あんたに胸をはって、対等に何かを言えるくらいにさ、頑張ってみようと思うんだ。」

「・・・」

「だから、・・・ありがとう。」

「・・・」

「俺の生き方を変えてくれて、ありがとう。」

 

今自分の思っている事をすべて伝えたつもりだ。

 

「大げさな奴だなお前は・・・。」

「別にいいさ。それだけ感謝してるってことだから。」

「そうか・・・。」

 

しばらくは沈黙の時間が続いた。しかし、その時間は何となく心地よいものだった。

織斑千冬は立ち上がり、ラムネを座っていた長椅子に置いた。

 

「そろそろ電車の時間だ。私は帰るとするよ。」

「ん、もうそんな時間か。」

「それとだ」

 

織斑千冬は財布を取出し、俺に向かって硬貨をなげた。それは500円玉だった。

 

「多いんだけど・・・。」

「気にするな、手持ちがないだけだ。」

「あっそ・・・。」

「そういえば。」

「?」

「君の名前を聞いていなかったな。」

「あ、そういや言ってなかったな。」

 

結構話していたのに、自己紹介すらしていなかった。それに気づいて、お互いに笑った。

 

「じゃ、俺から。俺は木瀬亮太。」

「私は織斑千冬だ。」

「もう、会うこともないと思うけどな。」

「そうでもないさ。人生はどうなるかわらないからな。」

 

織斑千冬はまた笑った。その笑顔に思わず見惚れてしまった。

 

「縁があったらまた会おう。」

「・・・うん、そうだな。」

 

織斑千冬は背を向け、駅の方向に歩き出した。

何となく、その姿をしばらく見ていた。

夏の日差しが降り注ぎ、セミが喧しく鳴いている。夏は始まったばかりだ。




山場は超えました。そろそろ原作にまで行きたい。
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