オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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14話 約束

 デルムリン島の朝は、妙にうるさかった。

 

【好感度表示システム:羞恥モード Ver.4.8 を適用しました】

【アップデート内容】

・顔イベント発生時の恋愛的要望ボイスを再調整しました。

・サンプリング精度向上により、本人とほぼ同一の声質で再生されます。

・恋愛的要望が発生した際、相馬ユーザーに対し「約束履行」を強く促すメッセージを追加しました。

 ――恋愛の前進のため、当システムは本気です。

 

「……本気じゃなくていいから」

 

 レオナは、まだ寝癖の残る髪を押さえながら、空を睨みつけた。

 

 昨日の戦いの余韻は、まだ島のあちこちに残っている。

 砂浜にはメガンテの跡が焼き付き、

 魔王軍の残骸を片付ける魔物たちの姿も見えた。

 

 それでも、朝は来る。

 勇者候補も、王女も、危険因子も、生きている。

 

 そして、好感度パネルも――しれっと復活していた。

 

【レオナ】

 相馬 150/150(MAX・赤)

 ダイ  63/150

 ポップ 37/150

 

【相馬】

 レオナ 85/150

 ダイ  65/150

 ポップ 52/150

 

(……85。昨日より、ちょっと上がってる……)

 

 見たくないのに、自分から見に行ってしまう。

 そのたびに、胃のあたりがくすぐったくなる。

 

(そもそも、わたしの150がどうしようもないんだけど)

 

 ため息をついて振り返ると、

 ちょうど相馬が丘の上へ上がってくるところだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「おはようございます、王女殿下」

 

 いつもの軽口。

 少しだけ疲れの残る顔。

 

 それを見ただけで、胸がドクンと鳴った。

 

 顔イベント。

 

 羞恥システムが、嬉々として起動する。

 

【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】

『……おはよう、相馬。

 本当は、朝いちばんに“生きてる?”って抱きしめて確認したかった……』

 

 声が、もう完全に“自分”だ。

 イントネーションも息継ぎも、悪い冗談みたいにそのまま。

 

「~~~~!!」

 

 レオナは、その場で膝から崩れ落ちそうになった。

 

 だが、羞恥システムの本気はここからだった。

 

【電子音声:レオナ/システムモード(同じ声・少し事務的)】

『相馬。

 現在の恋愛要望:

 “抱きしめて、生きていることを確かめたい”

 ――この約束、いつ履行するつもり?

 今ここで、でもいいのよ……?』

 

「システムゥゥゥ!!」

 

 さすがに叫んだ。

 

「そんな約束した覚えないから!! 今勝手に増やしたでしょ!!」

 

 相馬は、ほんの一瞬だけ目を瞬かせ――

 なんとか笑いをこらえた。

 

「……相変わらず、悪趣味ですね」

 

「どっちの話?」

 

「システムの方です」

 

「最初からそう言いなさい!!」

 

 レオナが噛みつく横で、

 ダイとポップが「また始まった……」という顔で見守っている。

 

◇ ◇ ◇

 

「とにかく、今日の予定を確認しましょう」

 

 羞恥を力技で押し込み、レオナは王女モードに切り替えた。

 

「デルムリン島の被害状況の確認。

 魔物たちの負傷者の手当て。

 それから――」

 

 彼女の視線が、少しだけ遠くを向く。

 

「アバン先生の残したものを、きちんと整理して。

 ダイたちが島を出る準備を始める」

 

「オレ、本当に行くんだね……」

 

 ダイが拳を握った。

 

 頭上の数字が、微かに揺れる。

 

【ダイ】

 レオナ 63 → 65

 相馬  65 → 67

 

【電子音声:ダイ】

『レオナも相馬も、一緒に来てくれるかな……』

 

「もちろんよ」

 

 レオナは即答した。

 

「勇者の旅立ちに、王女と危険因子が付き添うのは、

 世の中のバランス的にもちょうどいいわ」

 

「そのバランス、大丈夫なんですかね」

 

 相馬が小声で突っ込む。

 

 レオナは、それには答えず、

 さっさと丘を降り始めた。

 

(とにかく、“普通の会話”を続けるのよ。

 顔さえ見なければ、システムも黙るはず……)

 

◇ ◇ ◇

 

 午前中は、戦後処理で忙殺された。

 

 負傷した魔物に薬草を配り、

 倒れた木を片付け、崩れた岩場を応急修理する。

 

 相馬は魔法で作業を効率化し、

 レオナは兵士と魔物をまとめて指示を出す。

 

「そっちの岩は危ないから、ダイとガンガディアに任せて。

 ポップは、魔法で焼け焦げたところの火消しを」

 

「了解!」

 

「りょーかい!」

 

 てきぱきと動く姿は、完全に“指揮官”だ。

 

 ――だからこそ、ほんのふとした瞬間のギャップが、危険だった。

 

「相馬、次はあの――」

 

 振り返った先。

 すぐ近くで、相馬が額の汗をぬぐっていた。

 

 太陽の光の中で、いつもより少しだけ柔らかく見える横顔。

 さっきまで“戦後処理の作業効率”でいっぱいだった頭が、

 一瞬にして違うことで満たされる。

 

(……やっぱり、好きだなぁ……)

 

 顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『作業してる横顔も、好き。

 本当は、いちばん近くで見ていたい……

 終わったら、“よく頑張ったね”って、

 頭なでてほしい……』

 

「っっ!」

 

 レオナは慌てて口をつぐむ――が、

 新機能は容赦してくれない。

 

【電子音声:レオナ/システムモード】

『相馬。

 恋愛的要望:“作業後に頭なでなで”。

 ――約束を取るなら、今よ?

 “あとでなでてあげる”って、はっきり言って?』

 

「なんで口調までわたしなのよ!!」

 

 レオナが顔を覆う。

 

 相馬は、一瞬だけ固まり――

 少しだけ、視線を横にそらした。

 

「……希望が明確ですね」

 

「希望とかじゃなくてシステムの暴走よ!!」

 

「とはいえ」

 

 相馬は、わざと何でもなさそうに言った。

 

「後で時間が取れそうなら、一回くらいは検討してもいいかもしれませんね」

 

「け、検討!?」

 

 数字が、ぴょこんとはねるように変わった。

 

【レオナ→相馬 150(MAX・変動なし/点滅リズム加速)】

 

【相馬→レオナ 85 → 87】

 

【電子音声:システム】

『相馬→レオナ:恋愛パラメータ上昇を検知。

 “なでなで検討中” ステータスを付与しました』

 

「そんなステータスいらないから!!」

 

 レオナの悲鳴に、

 近くで岩を動かしていたダイとポップが、そっと目を逸らした。

 

◇ ◇ ◇

 

 日が傾き始めた頃。

 

 片付けと応急処置は一段落し、

 丘の上には、疲れ切った一行が座り込んでいた。

 

「はあ~~~……生きてるって、体力使うな……」

 

 ポップが大の字になる。

 

「でも、ちょっとだけ島がきれいになってきたね!」

 

 ダイは、まだ元気そうだ。

 

 レオナは、腰のポーチから小さなメモを取り出した。

 

「デルムリン島の復旧見込み。

 魔物たちの戦力。

 それから……」

 

 視線の先に、相馬がいた。

 

 今日一日、ずっと作業に付き合ってくれていた危険因子。

 魔王の炎で焼け残った岩場を、

 涼しい顔で片付けていた男。

 

(……約束)

 

 昨日、爆発の前に交わした言葉が蘇る。

 

『ダイが島を出る前日。

 その夜に、“レオナとしてどうしたいか”と、

 “俺がどうするつもりか”を、ちゃんと話しましょう』

 

 あれは、もう立派に“恋愛面の約束”だ。

 

 羞恥システムが、それを忘れてくれるはずがなかった。

 

 うっかり相馬の顔を見てしまった瞬間――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『……ねぇ、覚えてる?

 デルムリン島を出る前の夜に、

 “レオナとしてどうしたいか”話してくれるって約束……

 本当は、今からその夜のこと考えるだけで、胸がいっぱいで……』

 

 そこまでは、いつもの“甘い嫌がらせ”で済んでいた。

 

 問題は、その次だ。

 

【電子音声:レオナ/システムモード】

『相馬。

 約束履行の確認です。

 ・場所はどこ?

 ・時間はいつ?

 ・二人きりで話すって、本気で決めてる?

 今ここで、具体的に決めて。

 “なんとなく”の約束は、恋愛の敵よ?』

 

「システムが恋愛語るなぁぁぁ!!」

 

 レオナの絶叫が、丘にこだました。

 

 相馬は、さすがに吹き出しそうになるのを耐えた。

 

「……だいぶ、具体的な項目が飛んできましたね」

 

「わ、わたしじゃないからね!?

 システムが勝手にオプションつけてるだけだからね!?」

 

 顔は真っ赤だが、

 本音の何割かは否定できないのがまた苦しい。

 

(本当は、ちゃんと決めてほしい。

 “そのうち”じゃなくて、“この日、この時間”って)

 

 でも、それを素直に言う勇気はない。

 

 だから――システムに押し付けている自覚も、少しはある。

 

「……まあ」

 

 相馬は、少しだけ空を見てから言った。

 

「“出発前夜のどこかで”じゃ、たしかに逃げ道が多いですね」

 

「え?」

 

「じゃあ――」

 

 彼は、穏やかな声で続けた。

 

「デルムリン島を出る前の日の夜。

 丘の上の、あの洞窟の入り口のところ。

 

 ダイたちが寝静まってから。

 レオナと俺、二人で話す。

 

 ――そういう約束に、今はっきり変えておきましょう」

 

 レオナの時間が、一瞬止まった。

 

 頭上の数字が、眩しいほどに点滅する。

 

【レオナ→相馬 150(MAX/点滅パターン乱れ気味)】

【相馬→レオナ 87 → 89】

 

【電子音声:システム】

『相馬→レオナ:恋愛パラメータ上昇を検知。

 “出発前夜デート約束” ステータスを付与しました』

 

「で、デートって言わないで!!!」

 

 レオナは本気で泣きそうだった。

 

 でも――胸のどこかが、暖かくなっているのも事実だった。

 

(約束を、“曖昧な夢”じゃなくて、“現実の予定”にしてくれた)

 

 だから、恥ずかしくても、

 怒りだけで終わらせることはできなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「……いいの?」

 

 少し時間を置いてから、レオナは小さく尋ねた。

 

「何がです?」

 

「そんな具体的に約束して。

 魔王軍だって、いつまた襲ってくるか分からないのに」

 

「だからこそですよ」

 

 相馬は、特に迷う様子もなく言った。

 

「“いつか話しましょう”は、戦場に似合わない。

 “この日、この時間に話す”って決めておいた方が、

 その瞬間まで生き延びる理由になるでしょう?」

 

「……ずるい」

 

 レオナは、思わず笑ってしまった。

 

「そういう言い方、本当にずるいわ」

 

 頭上の数字が、また少しだけ跳ねる。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『そうやって、“生き延びる理由”にしてくれるところも、好き……

 出発前夜まで、ちゃんと生きててね。

 そのとき、絶対に約束破らないって、今ここで誓って……』

 

 続けざまに、新機能が追撃をかける。

 

【電子音声:レオナ/システムモード】

『相馬。

 出発前夜の約束、“絶対に破らない”って口にして。

 はい、どうぞ?』

 

「誘導尋問がひどい!!」

 

 相馬が素でツッコんだ。

 

 ダイとポップは、何かを察して物陰に避難している。

 

 レオナは、顔から火が出そうになりながらも、

 相馬の返事を待った。

 

(言ってほしい。

 でも、強制はしたくない。

 でも、システムは強制してくるし――

 ああもう、どうしてこんな嫌がらせ仕様なのよ……)

 

◇ ◇ ◇

 

「……分かりましたよ」

 

 静かな溜め息のあとで、相馬が口を開いた。

 

「出発前の夜。

 丘の洞窟の前で、レオナと二人で話す」

 

 言葉を一つずつ、確かめるように。

 

「その約束は――

 俺が死なない限り、絶対に破りません」

 

 レオナの胸の奥で、何かが爆発した。

 

 頭上の数字は、もう増えようがない。

 

【レオナ→相馬 150(MAX/常時オーバーヒート)】

 

 代わりに、声の方が限界突破した。

 

【電子音声:レオナ(甘々MAX)】

『しゅきしゅきしゅき……!!

 そんなふうに言われたら、本当に楽しみにしちゃう……

 出発前夜まで、絶対生きてて。

 それまで、ずっと、ずっと好きでいさせて……』

 

 それを聞いた瞬間、

 相馬の頭上の数字も、ぎりぎりのところまで跳ね上がる。

 

【相馬→レオナ 89 → 90】

 

【システム警告】

『好感度が90に到達しました。

 このままでは、思考リソースの相当部分が恋愛感情に割かれるおそれがあります。

 ※しかし、本人が“それでもいい”と思っている場合、当システムは静観します』

 

「……そこまで言います?」

 

 相馬は、半分呆れ、半分諦めた顔で空を見上げた。

 

「じゃあ、“それでもいい”ってことで」

 

 レオナが、ぽそっと言った。

 

「……え?」

 

「あなたが少しぐらい、わたしのことで頭いっぱいになってくれても、

 ――別に、悪くないと思うから」

 

 その一言で、羞恥システムが軽くショートしそうになる。

 

【電子音声:レオナ(本人・甘々)】

『……だめ?

 相馬が、ちょっとぐらいわたしでいっぱいになってくれるの、

 嬉しいって思っちゃうの、変かな……』

 

【電子音声:レオナ/システムモード】

『相馬。

 現時点での結論:

 “恋愛に多少思考を割くのは許容範囲”

 ――よって、90到達への警告は当面保留します。

 その代わり、“約束破ったら本気でしょげる”って理解しておいてね?』

 

「了解しましたよ、システム」

 

 相馬は、苦笑しながらも、

 その言葉をきちんと胸の中に刻んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

 夕日が、デルムリン島の海を赤く染めている。

 

 アバンのいない高台で、

 勇者候補と王女と危険因子と魔法使いが、

 新しい約束をいくつも胸に抱えながら、

 それぞれの明日を見つめていた。

 

 好感度の数字は、また少し騒がしい。

 

【レオナ→相馬 150/150】

【相馬→レオナ 90/150】

【ダイ→レオナ 65/150】

【ダイ→相馬 67/150】

【ポップ→アバン 86/150(変動なし)】

 

 羞恥システムは、相変わらず遠慮がない。

 顔イベントが起きるたび、レオナの甘々な声が、

 約束と要望と「好き」を、相馬に向けてしつこく流し続ける。

 

 それでも――

 

(出発前夜まで、生きる理由が、またひとつ増えた)

 

 レオナは、胸元のアバンのしるしを握りしめながら、

 そんなことを思っていた。

 

 危険因子と勇者と王女の旅路は、

 羞恥システムの嫌がらせを引き連れたまま、

 ゆっくりと、しかし確実に、次の一歩へ進んでいくのだった。

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