オーバーヒート(AI小説) 作:匿名希望
デルムリン島、出発前日の朝。
海からの風は相変わらず気持ちよくて、空も晴れているのに――レオナの表情は、なんとなく落ち着かない。
(……今日の夜、なのよね)
あの約束。
「出発前夜に、二人で話そう」と相馬が言った夜から、ずっと心の端っこで光っている予定。
ぼんやり空を見上げたとき、
ふと、自分の頭上のパネルが目に入った。
【レオナ】
相馬 150/220
「……あれ?」
思わず二度見する。
(昨日までは、たしか“220/220”って出てたはずよね……?)
数値そのものは150に戻っている。
けれど、上限値の方は“220”のまま。
パネル全体も、以前オーバーヒートしたときの派手な点滅はしていない。
「……下がったわけじゃないのよね?」
誰にともなく呟く。
返事の代わりのように、
パネルの端に小さく文字が浮かんだ。
【表示スケールを調整しました】
【レオナ→相馬:150/220(カンスト状態)】
「つまり、“150のままだけど上限が増えた”ってことね……」
恋愛システムの都合はよく分からない。
でも、気持ちが薄れたわけではないらしい――それだけ分かれば、とりあえずはいい。
そこへ、丘の下から声が飛んできた。
「レオナー! そーまー! 朝ごはんできたぞー!」
ダイだ。
「……はいはい、今行くわよ!」
レオナは、少しだけほっとした顔で階段を降りていった。
◇ ◇ ◇
朝食は、昨日と同じように、島の魔物たちと一緒に囲む簡素なものだった。
焼いた魚に、簡単なスープ。
戦後で物資は潤沢ではないが、それでも温かい。
「お、レオナ。なんか顔色いいじゃん」
ポップがスープをすすりながら言った。
「昨日、一番働いてたのに」
「王女はタフなのよ」
レオナは肩をすくめる。
「それに、今日までにやれることは全部やっておきたいしね」
そう言いながら、ふと視線が斜め前に座る相馬へ滑る。
――顔イベント。
胸が、ドクンと跳ねる。
【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】
『……同じ食卓で、ご飯食べてるの、すごく好き。
旅に出ても、ずっとこうしていたい……』
「っ」
レオナは慌ててスプーンを置き、顔をそらした。
(今日こそは、落ち着いて過ごそうと思ってたのに……!)
だが、羞恥システムは相変わらず空気を読まない。
【電子音声:レオナ/システムモード】
『相馬。
恋愛的要望:
“旅のあいだ、時々こうやって一緒にご飯を食べたい”
――今のうちに、“できるだけそうする”程度でいいから、口約束を推奨』
「……朝から営業熱心だな、お前は」
相馬が空に向かってぼそっと言う。
「わ、わたしの意思じゃないからね!?」
「分かってますよ」
相馬は苦笑して、
わざと何でもない口調で続けた。
「できる範囲でなら、今までもそうしてるでしょう。
この先も、よほど危険な状況でなければ、
同じ鍋をつつくくらいの余裕は持っていたいですね」
「……っ」
その何気ない一言だけで、
レオナの胸の中で何かがまた熱くなった。
【レオナ→相馬 150 → 155/220】
今は、上限が220になっている。
150で一度“カンスト扱い”だったところから、
少しだけ数字が伸びた。
(……あ、普通に増えるのね)
上限に達していない分については、
普通に好意が増えるということらしい。
◇ ◇ ◇
午前中は、ほとんど「旅支度」に費やされた。
レオナはパプニカ兵との最終確認。
ダイはガンガディアたちとの別れの稽古。
ポップはブラスから名残惜しそうに説教されている。
「いいかポップ。わしの名前を出して恥ずかしくない魔法使いになれよ」
「はいはい、分かってるって!」
そう言いつつ、ポップの頭上数字は素直に動く。
【ポップ】
ブラス 48/150(友情寄り)
相馬はというと、
島の隅に残された小さな魔物たちの様子を見て回っていた。
「このあたりの岩場は、もう少し補強しておいた方がよさそうですね」
「たのむぞ、そーま」
ガンガディアが、鼻息荒く頷く。
「わしらだけでもなんとかするが……
お前の“ちょいちょいっとやる魔法”、地味に便利なんじゃ」
「便利扱いは嫌いじゃないです」
そんなやり取りをしながら、
レオナは少し離れたところからそれを眺めていた。
(……ほんと、どこ行ってもこうやって誰かに頼られるのね、この人)
それを「危険」と見るか「頼もしい」と見るか。
レオナにとっては、もうとっくに後者だった。
つい、顔を見てしまう。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……危険因子なのに、みんなのために動いてるところが好き。
わたしも、その“頼る側”の一人でいたい……』
数字が、また少し伸びる。
【レオナ→相馬 155 → 160/220】
(……この調子で夜までに、どこまで行くのかしら)
自分でも、少し怖くなってきた。
◇ ◇ ◇
午後。
出発の準備も一段落し、
一行は高台で簡単な「打ち合わせ」をしていた。
「いい? 明日の朝、パプニカの船が来るわ」
レオナは、地面に簡単な図を描きながら説明する。
「ダイはそこで正式にパプニカ王女護衛兼勇者候補として合流。
ポップは……」
「ついて行くよ!」
ポップは若干震えながらも言い切った。
「怖ぇけど……ここでダイとアバン先生を見送って、
自分だけヌクヌクしてるとか、死んでも嫌だ」
【ポップ】
ダイ 45 → 49
アバン 86(変動なし/青くも赤くもならない)
【電子音声:ポップ】
『……先生、見ててくれよな……』
数字は変わらないが、
彼の決意だけはしっかり見えた。
「そして、相馬」
レオナが彼に視線を向ける。
顔イベントしかけて、
慌てて一度だけ息を整えた。
「あなたは――」
「勝手について行きますよ」
相馬はあっさり言った。
「勇者の旅路を外から眺めるには、ここまで巻き込まれすぎましたし」
「最初から“勝手に”って言わないで」
レオナは苦笑しながらも、その返事にほっとしていた。
【レオナ→相馬 160 → 165/220】
(……ほんとに、この人は)
顔を見てしまうたびに、
数字と一緒に胸の奥まで揺さぶられる。
そして、その先に控えているのは――
今夜の「二人だけの話」だ。
◇ ◇ ◇
夕食が終わり、
島に夜が降りる。
焚き火の火が小さくなり、
ダイはすでに布団にくるまって寝息を立てていた。
「……レオナ」
静かになった高台で、
相馬が彼女に声をかける。
「そろそろ、行きますか」
「……ええ」
心臓が、さっきから落ち着かない。
(大丈夫。王女でいる。
王女モードでいれば、うろたえなくて済む……)
そう自分に言い聞かせながら、
二人は丘の上の洞窟の入り口へ向かった。
月明かりだけが頼りの、
少し冷たい空気。
洞窟の前には、小さな岩が並べて置かれており、
簡易のベンチのようになっていた。
◇ ◇ ◇
「……ここなら、誰にも聞かれませんね」
相馬が周囲を見回して言う。
レオナは一つ頷き、
岩に腰を下ろした。
すぐ隣に、相馬も座る。
微妙に距離を空けて。
その距離が、妙に意識される。
(近い……)
意識した瞬間、顔を見てしまう。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……隣に座ってるだけで、苦しくなるくらい好き。
本当は、もっと近くにいたい……』
【レオナ→相馬 165 → 170/220】
「……さすがに、システムもうるさいですね」
相馬は苦笑する。
「慣れたくないけど、もう慣れつつある自分が嫌だわ」
レオナも肩をすくめた。
「さて、と」
相馬は、少しだけ姿勢を整えてから口を開いた。
「約束通り、“レオナとしてどうしたいか”って話を、
聞かせてもらえますか」
「そっちから来るのね……」
レオナは、胸の奥をギュッと握りしめるような感覚を覚えながら、
ゆっくりと息を吐いた。
「……わたし、“王女レオナ”としては」
まず、そちらから。
「勇者と一緒に旅をして、
世界の状況を自分の目で見たい。
魔王軍の動きも、各国の反応も、
ただ報告書で読むだけじゃなくて、自分の足で確かめたい」
それは、何度も自分に言い聞かせてきた「正しい理由」だ。
「そのために、ダイのそばにいる。
王女として、指揮官として、勇者の道を支える」
「それは、ちゃんと分かります」
相馬は頷く。
「でも――」
レオナは、彼を見た。
今度の顔イベントは、
さっきまでよりも深く胸を抉る。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……“レオナとして”は、
あなたと一緒に旅がしたい。
王女じゃなくて、ただの一人の女の子として、
あなたの隣に立っていたい……』
【レオナ→相馬 170 → 180/220】
数字も、気持ちも、じわじわと上がっていく。
「王女レオナとしては、勇者と世界のために旅をする。
……けれど」
レオナは、膝の上で拳を握る。
「“わたし”としては、
あなたがいるから旅に出たいと思ってる」
「……」
相馬は黙って聞いていた。
「あなたがいなくても、
たぶん私はダイと一緒に旅に出た。
でも、それは苦しいだけの旅だったと思う」
月明かりの中で、
レオナの瞳が少し揺れる。
「危険因子とか、物騒なことを言ってるけど。
――本当は、あなたがいてくれるのが、
一番心強いのよ」
その言葉と同時に、
頭上の数字が、また跳ねた。
【レオナ→相馬 180 → 190/220】
(……まずい)
自分でも分かる。
あと少しで、上限に届きそうだ。
「だから、ね」
レオナは、ようやく真正面から言った。
「わたしは、“王女レオナ”としても、
“レオナ”としても、あなたの隣にいたい。
危険因子だろうがなんだろうが、
あなたを信じて一緒に行くって、決めてる」
そこまで言って、ふっと笑った。
「……重い?」
「軽いとは思いませんね」
相馬は、少しだけ笑って返した。
「でも、“王族からの期待”に比べれば、
よっぽど分かりやすいです」
レオナの胸の中で、
何かが溶けていく。
【レオナ→相馬 190 → 200/220】
◇ ◇ ◇
「じゃあ、今度はこっちの番ですね」
相馬は、夜空を一度見上げてから言った。
「“俺がどうするつもりか”」
「……うん」
レオナは、ごくりと唾を飲み込んだ。
パネルが、静かに点滅を続ける。
【相馬】
レオナ 90/150
(90……)
すでに“ラブラブ期”の手前。
その意味を、レオナは嫌でも知っている。
「まず、王女としてのレオナに対して」
相馬は、真面目な声で言った。
「俺は、あなたを信頼しているし、
指揮官としても頼りにしている」
「それ、聞き慣れたわね」
「改めて言っておきたかったんですよ」
軽口を挟んでから、
少しだけ間を置く。
「その上で、レオナとしてのあなたを、
“異性として好きだ”って自覚は――
今の数字の通り、かなりはっきりあります」
「……数字の通りって言い方やめなさいよ」
レオナは顔を赤くしながらも、
内心では少しだけ安心していた。
(90。
“危険なレベルだけど、まだ戻ってこられる”ってライン……)
でも、相馬は続ける。
「ただ――」
「ただ?」
「今、この90を、むやみに95とか100にするのは、
あまり賢い選択じゃないとも思っています」
「……それは、そうね」
レオナも頷く。
「100を超えたら、“その人のためなら何でもできる”領域。
それ以上は、“何にでもなりうる”領域」
「俺も危険因子ですが、
“お互いが何にでもなりうる状態”は、
さすがに制御しづらいですから」
「言い方」
でも、間違ってはいない。
「だからこそ、今のところは――」
相馬は、少しだけ照れくさそうに言った。
「“本気で好きだけど、ちゃんと理性を残しておきたい”っていう、
非常に都合のいい90を、しばらくキープするつもりです」
「……ずるい。
ほんと、ずるいわ、その言い方」
レオナは、笑いながら、
でも目尻に少しだけ水を溜めていた。
【レオナ→相馬 200 → 210/220】
限界に近づいているのが自分でも分かる。
◇ ◇ ◇
「その上で」
相馬は、最後の一歩を踏み出した。
「レオナ」
「……なに?」
「俺も、あなたのことが好きですよ」
それは、今までで一番ストレートな言葉だった。
王女としてでもなく、
危険因子としてでもなく。
ただ一人の人間としての、
率直な「好き」。
その瞬間――
レオナの頭上の数字が、一気に跳ね上がった。
【レオナ→相馬 210 → 220/220(カンスト)】
同時に、胸の奥から、
今までで一番強烈な“顔イベント”が立ち上がる。
【電子音声:レオナ(甘々MAX)】
『……好き。
好き。
好き……!!
ちゃんと言ってくれて、嬉しくて、苦しくて……
今すぐ抱きつきたいくらい、好き……!!』
言葉に合わせて、
レオナの身体は本当に前に倒れかけた。
「わ、ちょっと!」
相馬が慌てて支える。
その瞬間――条件が揃った。
◇ ◇ ◇
好感度が上限値までカンストしている状態。
かつ、強烈な顔イベント。
羞恥システムが、それを見逃すはずがなかった。
レオナの頭上で、
220/220が激しく点滅し――
――ガラガラガラガラッッ!!!
洞窟の入口近くの小さな岩が、
まとめて崩れ落ちるような音がする。
「うわっ!?」「な、何!?」
ダイたちが起きてこないか心配になるほどの大きな音。
【レオナ→相馬:強烈オーバーヒートを検知】
【上限値のみ拡張します】
数字が、また伸びた。
【レオナ】
相馬 220/250
「ま、また増えた……!」
レオナは、ほとんど涙目でパネルを睨んだ。
「ちょっと、もうやめてよ……!」
【システム補足】
『※好感度数値は据え置きです(220のまま)。
上限値のみ拡張されました。
ご安心ください?』
「どこに安心要素があるのよ!!」
叫びながらも、
レオナは支えられている自分の体勢に気付いて、
なおさら顔を真っ赤にした。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……ほんとは、このままくっついていたい……』
「……システム、空気を読め」
相馬が小さくため息をつく。
◇ ◇ ◇
しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻したレオナは、
そっと相馬から身体を離した。
「……ごめん。取り乱したわ」
「取り乱す要素はいくらでもありましたしね」
相馬は、少しだけ困ったように笑う。
「でも、正直――
ああやって“好きだ”って言われるのは、悪くないですよ」
「っ」
胸が、また鳴る。
でも、それ以上はもう上がらない。
今は220/250。
あと30も余裕があるのに、
それでも“これ以上は危ない”とシステムが判断しているのかもしれない。
「それで、ね」
レオナは、少しだけ真面目な顔に戻った。
「さっき、“90をキープする”って言ったけど」
「はい」
「それでも、あなたが“好きだ”って言ってくれたのは、
……本当に、嬉しかったわ」
それは純粋な感謝だった。
「わたしも、今はそれでいいと思う。
王女と危険因子で、“お互い好き”って自覚があるだけで、
十分に手一杯だもの」
「それは否定しません」
二人は、少しだけ笑い合った。
◇ ◇ ◇
「じゃあ――」
相馬は、立ち上がりながら言う。
「約束は、これで履行完了ってことで」
「まだよ」
レオナが、珍しく食い気味に言った。
「まだ“一番大事な約束”が残ってるわ」
「一番大事、ですか」
「ええ」
レオナは、彼の目をまっすぐ見た。
もう、逃げない。
「“死なないこと”。
勝手に一人で死なないこと。
勇者のためでも、世界のためでも、
わたしを置いていくような死に方だけはしないって――
ここで、もう一回約束して」
それは、恋愛パラメータうんぬんを超えた、
一人の少女としての、本気の願いだった。
数字がどうとか、上限がどうとか関係ない。
相馬は、一瞬だけ息を飲み――
やがて、静かに頷いた。
「――分かりました」
目をそらさずに言う。
「勝手に一人で死にません。
勇者のためだろうが、世界のためだろうが、
レオナを置いていく死に方だけはしません。
それは、俺の約束です」
その言葉に、
レオナの胸の中で、何かがようやく落ち着いた。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……ありがとう。
本当に、ありがとう……
それだけ約束してくれたら、
わたし、どこまでだって一緒に行ける……』
【レオナ→相馬 220/250(変動なし/安定)】
今度は、数字は上下しなかった。
ただ、静かに、安定した光を放っている。
◇ ◇ ◇
話がひと区切りついたところで、
二人は洞窟の前から立ち上がった。
「そろそろ戻りましょうか」
「ええ」
帰り道。
レオナは、少しだけ隣との距離を詰めた。
「あの」
「はい?」
「さっきの、頭なでなでの件だけど」
「はい」
「……たぶん、またお願いすると思うわ」
それは、少しだけ照れくさい宣言だった。
相馬は、苦笑しながらも頷く。
「そのときの数字と、
崩れる岩の量を見てから判断します」
「岩の量で判断しないで!!」
夜のデルムリン島に、
二人の声が小さく響いた。
頭上の数字は、相変わらず騒がしい。
レオナ→相馬は220/250。
相馬→レオナは90/150。
羞恥システムは、今日も派手に動き回っている。
それでも――
出発前夜の約束は、確かに果たされた。
王女として。
レオナとして。
危険因子として。
それぞれの立場のまま、
互いを好きだと言えた夜は、
デルムリン島の海風に、静かに溶けていった。