オーバーヒート(AI小説) 作:匿名希望
デルムリン島、出発当日の朝。
太陽はもう高く昇っているのに、
レオナの胸の奥は、まだ昨夜の月の色を引きずっていた。
(……ちゃんと言われちゃったわけよね、“好き”って)
寝返りを打つたび、布団の中で何度も思い出しては、
そのたびに心臓がうるさくなる。
観念して起き上がり、髪をまとめる。
ふと、習慣で自分の頭上を見上げた。
【レオナ】
相馬 220/250
「……はあ」
小さくため息。
(220のまま、上限だけ250って、
“普通の人の好き”の枠じゃないって、
システムに公式に判定されたってことよね……)
喜ぶべきなのか、真顔で抗議すべきなのか分からない。
とりあえず現実逃避して、顔を洗いに外へ出た。
◇ ◇ ◇
高台へ続く道を下りていくと、
すでに誰かの声が聞こえてきた。
「そーまー! レオナー! 朝ごはんできたぞー!」
ダイだ。
「おはようございます、王女殿下」
声のした方を振り返ると、
ちょうど丘の陰から相馬が上がってくるところだった。
夜より少しだけラクになった顔。
それでも、目の下の疲れは隠せていない。
(……生きてる)
その事実を、今さらのように確認してしまった瞬間――
胸の奥が、ドクンと跳ねる。
顔イベント。
【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々】
『……おはよう、相馬。
ちゃんと“約束通り”生きててくれて、ありがとう……』
「っ!」
自分の声に自分でびくっとなり、
慌てて視線をそらす。
数字は、僅かに伸びた。
【レオナ→相馬 220 → 225/250】
(……今の、完全に“生きてるか確認したかっただけ”じゃない、わたし)
恥ずかしさで頭を抱えそうになりながら、
どうにか平静を装う。
「お、おはよう。今日でお別れね、デルムリン島とも」
「ですね」
相馬は、いつもの調子で肩をすくめる。
「最後くらい、まともな朝食を味わっておきましょうか」
「あなたのまとも基準は当てにならないけど、同意するわ」
◇ ◇ ◇
朝食の場は、いつもと同じようで、少しだけ違った。
ブラスが妙にしんみりし、
ガンガディアが妙に張り切り、
島の魔物たちが落ち着かない顔でダイを見ている。
「ダイ坊、もっと食え! 旅は体力勝負じゃ!」
「うん! ありがとう、ガンガディア!」
【ダイ】
ガンガディア 62 → 65
【電子音声:ダイ】
『ガンガディアとも、また会いに戻ってこよう……』
ポップは、スープをすすりながら頭上のパネルを眺めていた。
【ダイ】
レオナ 68/150
相馬 69/150
【ポップ】
ダイ 49/150
レオナ 34/150
相馬 32/150
「……おいダイ、お前、相変わらず節操ねーな」
「え、なにが?」
「レオナと相馬、どっちも60後半ってとこだよ」
「だって二人とも好きだし!」
即答だった。
レオナは、魚の身をほぐしていた手をぴたりと止める。
(“好き”の種類が違うって分かってても、
やっぱりちょっと胸がチクッとするわね……)
つい相馬の方を見てしまう。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……本当は、“勇者としてのダイの好き”と、
“相馬としての好き”が、
同じ数字で並んでるの、ちょっとズルいって思ってる……』
【レオナ→相馬 225 → 230/250】
「……あんまり面白いこと言ってませんね、今のは」
相馬がスープを飲みながらぼそっと言う。
「聞いてないで忘れなさい!!」
レオナは反射的に怒鳴った。
◇ ◇ ◇
午前中。
小さな「出発式」が開かれた。
デルムリン島の高台。
アバンのしるしを中心に、小さな祭壇のように花と石が置かれている。
「アバン先生」
ダイが一歩前へ出て、木剣を握りしめた。
「オレ、行くよ。
世界を救う勇者になるために。
先生みたいに、誰かを守れるようになるために!」
【ダイ→アバン 89 → 92/150】
ポップも、ぎこちなく続いた。
「せ、先生。
オレだって、やってやるからな。
いつか、どっかで会ったらよ……
“まぁまぁだな”くらいは言わせてやるよ……!」
【ポップ→アバン 86 → 88/150】
レオナも、胸元でアバンのしるしを握る。
(先生。
あなたの弟子と、あなたが頼んだ“危険因子”と、
王女レオナは、ちゃんと一緒に歩みます)
視線をほんの少しだけ横にやれば、
相馬の姿が見える。
顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……先生。
あなたが託してくれたこの人のこと、
わたし、本気で好きになっちゃったみたい……』
【レオナ→相馬 230 → 235/250】
アバンの前で言わされるのは、
さすがにどこか申し訳なかった。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
パプニカの軍船が、島の沖へ姿を現した。
白い帆に、光の紋章。
レオナの故郷の色。
浜辺で、ダイが目を輝かせる。
「おお~~~! でっかい!!」
「パプニカの軍船だからね」
レオナは、少しだけ誇らしげに言った。
「ダイ、ポップ。
あれが、これからあなたたちを乗せていく船よ」
「なんか一気に緊張してきた……」
ポップが胃を押さえる。
相馬は、波打ち際で足場を確認しながら、
船をじっと見ていた。
(……この世界の“文明レベル”で、
この規模の船を維持できるってのは、
やっぱり王国の力の象徴なんだよな)
無意識にそういうことを考えてしまうあたり、
異邦人らしさは抜けていない。
レオナが、その横顔を見る。
顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……あなたがパプニカの船を見て、
“どんなふうに感じてるか”もっと聞きたい。
自分の国のこと、あなたにたくさん話したい……』
【レオナ→相馬 235 → 240/250】
数字がまた少し伸びる。
(……250まで、あと10)
自分で数えてしまって、
ますます落ち着かなくなった。
◇ ◇ ◇
タラップが下ろされ、
パプニカの兵たちが整然と浜に降り立つ。
「レオナ様!」
先頭の一人が、跪いて頭を垂れた。
「お迎えに上がりました。
デルムリン島での任務、まことにご苦労様です」
「顔を上げて」
レオナは、王女の顔で答える。
「こちらが、デルムリン島で共に戦った勇者候補ダイ。
そして、アバン先生の弟子の一人、ポップ。
それから――」
視線が、自然と相馬に向かった。
「パプニカ王国……いえ、この世界にとって重要な“人材”よ」
「紹介が雑なようでいて重いですね」
相馬が小声で突っ込む。
兵士の頭上には、さっそくパネルが浮かぶ。
【パプニカ兵A】
レオナ 72/150(忠誠+敬愛)
ダイ 31/150
相馬 26/150
(……相馬の数字が“重要人材”扱いとしては低すぎる気もするけど、
これはこれで都合がいいか)
レオナは、王女としての打算も頭の隅で動かしつつ、
表向きはにっこりと微笑んだ。
「さあ、行きましょう。
勇者候補の旅立ちよ」
「おう!」
ダイが大きな声で答えた。
◇ ◇ ◇
船に乗り込み、
デルムリン島がゆっくりと遠ざかっていく。
甲板からその様子を見下ろしながら、
ダイは何度も何度も振り返った。
「ブラスじいちゃん~~~!!」
「ダイ坊~~~!!」
浜辺で小さく手を振るブラスと魔物たち。
ガンガディアの大きな影も見える。
ポップは、少し離れた位置から、
そっと頭を下げていた。
レオナも、胸元のアバンのしるしを握りしめる。
(行ってくるわ、先生)
隣で黙って手を振る相馬の横顔を見て――
顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々】
『……あなたと一緒に、この景色を見られてよかった。
デルムリン島からの旅立ちを、
あなたの隣で迎えられて、ほんとに嬉しい……』
【レオナ→相馬 240 → 245/250】
数字が、限界に近づいていく。
◇ ◇ ◇
日が傾き始めた頃。
船の上にも、少しずつ「日常」が生まれ始めていた。
ダイは、甲板で船員からロープの結び方を教わり、
ポップは酔い止めの薬をもらってぐったりしている。
「うう……地面が揺れてる……」
「それは錯覚よ。船が揺れてるだけ」
「どっちでも気持ち悪いんだよぉ……」
レオナは苦笑しつつ、
ポップの頭上の数字をちらっと見る。
【ポップ→レオナ 34 → 36】
(……可愛い後輩枠としては、悪くない数字ね)
そんなことを考えながら、
甲板の手すりにもたれて海を眺めた。
そこへ、隣にふっと影が差す。
「船は初めてでしたっけ?」
相馬だ。
「パプニカの船は何度も乗ったけど、
“勇者候補としての航海”は初めてね」
レオナは、自然と声が柔らかくなった。
「あなたは?」
「こっちの世界では初めてですよ。
向こうの世界でも、こういう大きな船はあまり」
「向こう、ね」
異世界人であることを、
口には出さない約束になっている。
それでも、時々こうして、
別の世界の風景を見てきた目だと感じさせる瞬間がある。
思わず、相馬の横顔を見上げてしまう。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々MAXに近い)】
『……あなたの見てきた世界の話、
もっとたくさん聞きたい。
わたしの世界と、あなたの世界を、
たくさん重ねて、一緒に見てみたい……』
【レオナ→相馬 245 → 250/250(カンスト)】
胸の奥が、また限界まで熱くなる。
(まずい――)
自覚した瞬間、
胸の奥からもう一段階強い感情が噴き上がりかける。
(昨日より、さらに……)
けれど――
さっきの仕様どおり、
“上限に張り付いた状態でのオーバーヒート”を感じながらも、
今回は何も起きなかった。
岩も崩れない。
上限も、それ以上は伸びない。
(……そうよね。
これ以上増えたら、本当に物理的に危ないもの)
どこかで、システムが自重を覚えたらしい。
◇ ◇ ◇
「レオナ」
相馬が、少しだけ真面目な声で言った。
「昨日も言いましたけど」
「なに?」
「俺は、90をキープするつもりです。
当分は」
【相馬→レオナ 90/150】
「ふふ。
“当分は”って言ってる時点で逃げ道ありそうだけど」
「危険因子ですから」
悪びれもせずに言う。
「でも、その90を、
“軽い好き”として扱うつもりもないです。
さっきのデルムリン島の別れを見ていて、
改めて思いましたが」
「思いましたが?」
「――俺は、レオナを置いて死なないって、
昨日の約束、けっこう本気で守るつもりなので」
さらっと言う。
胸の奥が、再びぐしゃっと掴まれた。
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……そんなふうに何度も言われたら、
ほんとに信じてしまうじゃない……好き……』
【レオナ→相馬 250/250(変動なし/安定)】
今度は数字は増えない。
ただ、ぎりぎりのところで、高い熱を保ち続けていた。
◇ ◇ ◇
そのとき、
船の見張り台から声が飛んだ。
「陸影~~~っ!!」
「ん?」
ダイが甲板を駆け上がる。
「どこどこ!?」
「ほら、あの方角だ」
船員が指さした先。
かすかな地平線の向こうに、
ぼんやりと影が見える。
「……ロモス王国の沿岸です」
レオナが、風の匂いを確かめてから言った。
「明日の昼には、上陸できるわ」
「おお~~~!」
ダイが目を輝かせ、ポップがげんなりする。
「マジかよ……
もうちょっと船でダラダラしたかった……」
「今も十分ダラダラしてたでしょう?」
レオナがあきれ、
相馬は笑った。
「さあ、勇者の旅が、本格的に始まりますよ」
その言葉に、
頭上の数字たちが、ほんの少しだけ揺れる。
【ダイ→レオナ 68 → 70】
【ダイ→相馬 69 → 71】
【ポップ→ダイ 49 → 52】
恋愛も、友情も、忠誠も。
全部ひっくるめて“好感度”と呼ぶには、
あまりに雑で、あまりに正直な数字たち。
その中でひときわ狂った値を示している、
レオナ→相馬の「250/250」は――
今日もまた、のんきな海風に吹かれながら、
静かに真っ赤に点滅していた。
(ロモス。
勇者の試練。
新しい国、新しい人たち……)
そして、
新しい羞恥と、新しい「好き」。
パプニカ王女と勇者候補と危険因子の旅は、
デルムリン島を離れ、
いよいよ「外の世界」へと踏み出そうとしていた。