オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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17話 デルムリン島を後に

 デルムリン島、出発当日の朝。

 

 太陽はもう高く昇っているのに、

 レオナの胸の奥は、まだ昨夜の月の色を引きずっていた。

 

(……ちゃんと言われちゃったわけよね、“好き”って)

 

 寝返りを打つたび、布団の中で何度も思い出しては、

 そのたびに心臓がうるさくなる。

 

 観念して起き上がり、髪をまとめる。

 ふと、習慣で自分の頭上を見上げた。

 

【レオナ】

 相馬 220/250

 

「……はあ」

 

 小さくため息。

 

(220のまま、上限だけ250って、

 “普通の人の好き”の枠じゃないって、

 システムに公式に判定されたってことよね……)

 

 喜ぶべきなのか、真顔で抗議すべきなのか分からない。

 とりあえず現実逃避して、顔を洗いに外へ出た。

 

◇ ◇ ◇

 

 高台へ続く道を下りていくと、

 すでに誰かの声が聞こえてきた。

 

「そーまー! レオナー! 朝ごはんできたぞー!」

 

 ダイだ。

 

「おはようございます、王女殿下」

 

 声のした方を振り返ると、

 ちょうど丘の陰から相馬が上がってくるところだった。

 

 夜より少しだけラクになった顔。

 それでも、目の下の疲れは隠せていない。

 

(……生きてる)

 

 その事実を、今さらのように確認してしまった瞬間――

 

 胸の奥が、ドクンと跳ねる。

 

 顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々】

『……おはよう、相馬。

 ちゃんと“約束通り”生きててくれて、ありがとう……』

 

「っ!」

 

 自分の声に自分でびくっとなり、

 慌てて視線をそらす。

 

 数字は、僅かに伸びた。

 

【レオナ→相馬 220 → 225/250】

 

(……今の、完全に“生きてるか確認したかっただけ”じゃない、わたし)

 

 恥ずかしさで頭を抱えそうになりながら、

 どうにか平静を装う。

 

「お、おはよう。今日でお別れね、デルムリン島とも」

 

「ですね」

 

 相馬は、いつもの調子で肩をすくめる。

 

「最後くらい、まともな朝食を味わっておきましょうか」

 

「あなたのまとも基準は当てにならないけど、同意するわ」

 

◇ ◇ ◇

 

 朝食の場は、いつもと同じようで、少しだけ違った。

 

 ブラスが妙にしんみりし、

 ガンガディアが妙に張り切り、

 島の魔物たちが落ち着かない顔でダイを見ている。

 

「ダイ坊、もっと食え! 旅は体力勝負じゃ!」

 

「うん! ありがとう、ガンガディア!」

 

【ダイ】

 ガンガディア 62 → 65

 

【電子音声:ダイ】

『ガンガディアとも、また会いに戻ってこよう……』

 

 ポップは、スープをすすりながら頭上のパネルを眺めていた。

 

【ダイ】

 レオナ 68/150

 相馬  69/150

 

【ポップ】

 ダイ  49/150

 レオナ 34/150

 相馬  32/150

 

「……おいダイ、お前、相変わらず節操ねーな」

 

「え、なにが?」

 

「レオナと相馬、どっちも60後半ってとこだよ」

 

「だって二人とも好きだし!」

 

 即答だった。

 

 レオナは、魚の身をほぐしていた手をぴたりと止める。

 

(“好き”の種類が違うって分かってても、

 やっぱりちょっと胸がチクッとするわね……)

 

 つい相馬の方を見てしまう。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『……本当は、“勇者としてのダイの好き”と、

 “相馬としての好き”が、

 同じ数字で並んでるの、ちょっとズルいって思ってる……』

 

【レオナ→相馬 225 → 230/250】

 

「……あんまり面白いこと言ってませんね、今のは」

 

 相馬がスープを飲みながらぼそっと言う。

 

「聞いてないで忘れなさい!!」

 

 レオナは反射的に怒鳴った。

 

◇ ◇ ◇

 

 午前中。

 

 小さな「出発式」が開かれた。

 

 デルムリン島の高台。

 アバンのしるしを中心に、小さな祭壇のように花と石が置かれている。

 

「アバン先生」

 

 ダイが一歩前へ出て、木剣を握りしめた。

 

「オレ、行くよ。

 世界を救う勇者になるために。

 

 先生みたいに、誰かを守れるようになるために!」

 

【ダイ→アバン 89 → 92/150】

 

 ポップも、ぎこちなく続いた。

 

「せ、先生。

 オレだって、やってやるからな。

 

 いつか、どっかで会ったらよ……

 “まぁまぁだな”くらいは言わせてやるよ……!」

 

【ポップ→アバン 86 → 88/150】

 

 レオナも、胸元でアバンのしるしを握る。

 

(先生。

 あなたの弟子と、あなたが頼んだ“危険因子”と、

 王女レオナは、ちゃんと一緒に歩みます)

 

 視線をほんの少しだけ横にやれば、

 相馬の姿が見える。

 

 顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『……先生。

 あなたが託してくれたこの人のこと、

 わたし、本気で好きになっちゃったみたい……』

 

【レオナ→相馬 230 → 235/250】

 

 アバンの前で言わされるのは、

 さすがにどこか申し訳なかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 昼過ぎ。

 パプニカの軍船が、島の沖へ姿を現した。

 

 白い帆に、光の紋章。

 レオナの故郷の色。

 

 浜辺で、ダイが目を輝かせる。

 

「おお~~~! でっかい!!」

 

「パプニカの軍船だからね」

 

 レオナは、少しだけ誇らしげに言った。

 

「ダイ、ポップ。

 あれが、これからあなたたちを乗せていく船よ」

 

「なんか一気に緊張してきた……」

 

 ポップが胃を押さえる。

 

 相馬は、波打ち際で足場を確認しながら、

 船をじっと見ていた。

 

(……この世界の“文明レベル”で、

 この規模の船を維持できるってのは、

 やっぱり王国の力の象徴なんだよな)

 

 無意識にそういうことを考えてしまうあたり、

 異邦人らしさは抜けていない。

 

 レオナが、その横顔を見る。

 

 顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『……あなたがパプニカの船を見て、

 “どんなふうに感じてるか”もっと聞きたい。

 自分の国のこと、あなたにたくさん話したい……』

 

【レオナ→相馬 235 → 240/250】

 

 数字がまた少し伸びる。

 

(……250まで、あと10)

 

 自分で数えてしまって、

 ますます落ち着かなくなった。

 

◇ ◇ ◇

 

 タラップが下ろされ、

 パプニカの兵たちが整然と浜に降り立つ。

 

「レオナ様!」

 

 先頭の一人が、跪いて頭を垂れた。

 

「お迎えに上がりました。

 デルムリン島での任務、まことにご苦労様です」

 

「顔を上げて」

 

 レオナは、王女の顔で答える。

 

「こちらが、デルムリン島で共に戦った勇者候補ダイ。

 そして、アバン先生の弟子の一人、ポップ。

 それから――」

 

 視線が、自然と相馬に向かった。

 

「パプニカ王国……いえ、この世界にとって重要な“人材”よ」

 

「紹介が雑なようでいて重いですね」

 

 相馬が小声で突っ込む。

 

 兵士の頭上には、さっそくパネルが浮かぶ。

 

【パプニカ兵A】

 レオナ 72/150(忠誠+敬愛)

 ダイ  31/150

 相馬  26/150

 

(……相馬の数字が“重要人材”扱いとしては低すぎる気もするけど、

 これはこれで都合がいいか)

 

 レオナは、王女としての打算も頭の隅で動かしつつ、

 表向きはにっこりと微笑んだ。

 

「さあ、行きましょう。

 勇者候補の旅立ちよ」

 

「おう!」

 

 ダイが大きな声で答えた。

 

◇ ◇ ◇

 

 船に乗り込み、

 デルムリン島がゆっくりと遠ざかっていく。

 

 甲板からその様子を見下ろしながら、

 ダイは何度も何度も振り返った。

 

「ブラスじいちゃん~~~!!」

 

「ダイ坊~~~!!」

 

 浜辺で小さく手を振るブラスと魔物たち。

 ガンガディアの大きな影も見える。

 

 ポップは、少し離れた位置から、

 そっと頭を下げていた。

 

 レオナも、胸元のアバンのしるしを握りしめる。

 

(行ってくるわ、先生)

 

 隣で黙って手を振る相馬の横顔を見て――

 

 顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々】

『……あなたと一緒に、この景色を見られてよかった。

 デルムリン島からの旅立ちを、

 あなたの隣で迎えられて、ほんとに嬉しい……』

 

【レオナ→相馬 240 → 245/250】

 

 数字が、限界に近づいていく。

 

◇ ◇ ◇

 

 日が傾き始めた頃。

 

 船の上にも、少しずつ「日常」が生まれ始めていた。

 

 ダイは、甲板で船員からロープの結び方を教わり、

 ポップは酔い止めの薬をもらってぐったりしている。

 

「うう……地面が揺れてる……」

 

「それは錯覚よ。船が揺れてるだけ」

 

「どっちでも気持ち悪いんだよぉ……」

 

 レオナは苦笑しつつ、

 ポップの頭上の数字をちらっと見る。

 

【ポップ→レオナ 34 → 36】

 

(……可愛い後輩枠としては、悪くない数字ね)

 

 そんなことを考えながら、

 甲板の手すりにもたれて海を眺めた。

 

 そこへ、隣にふっと影が差す。

 

「船は初めてでしたっけ?」

 

 相馬だ。

 

「パプニカの船は何度も乗ったけど、

 “勇者候補としての航海”は初めてね」

 

 レオナは、自然と声が柔らかくなった。

 

「あなたは?」

 

「こっちの世界では初めてですよ。

 向こうの世界でも、こういう大きな船はあまり」

 

「向こう、ね」

 

 異世界人であることを、

 口には出さない約束になっている。

 

 それでも、時々こうして、

 別の世界の風景を見てきた目だと感じさせる瞬間がある。

 

 思わず、相馬の横顔を見上げてしまう。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々MAXに近い)】

『……あなたの見てきた世界の話、

 もっとたくさん聞きたい。

 わたしの世界と、あなたの世界を、

 たくさん重ねて、一緒に見てみたい……』

 

【レオナ→相馬 245 → 250/250(カンスト)】

 

 胸の奥が、また限界まで熱くなる。

 

(まずい――)

 

 自覚した瞬間、

 胸の奥からもう一段階強い感情が噴き上がりかける。

 

(昨日より、さらに……)

 

 けれど――

 

 さっきの仕様どおり、

 “上限に張り付いた状態でのオーバーヒート”を感じながらも、

 今回は何も起きなかった。

 

 岩も崩れない。

 上限も、それ以上は伸びない。

 

(……そうよね。

 これ以上増えたら、本当に物理的に危ないもの)

 

 どこかで、システムが自重を覚えたらしい。

 

◇ ◇ ◇

 

「レオナ」

 

 相馬が、少しだけ真面目な声で言った。

 

「昨日も言いましたけど」

 

「なに?」

 

「俺は、90をキープするつもりです。

 当分は」

 

【相馬→レオナ 90/150】

 

「ふふ。

 “当分は”って言ってる時点で逃げ道ありそうだけど」

 

「危険因子ですから」

 

 悪びれもせずに言う。

 

「でも、その90を、

 “軽い好き”として扱うつもりもないです。

 

 さっきのデルムリン島の別れを見ていて、

 改めて思いましたが」

 

「思いましたが?」

 

「――俺は、レオナを置いて死なないって、

 昨日の約束、けっこう本気で守るつもりなので」

 

 さらっと言う。

 

 胸の奥が、再びぐしゃっと掴まれた。

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『……そんなふうに何度も言われたら、

 ほんとに信じてしまうじゃない……好き……』

 

【レオナ→相馬 250/250(変動なし/安定)】

 

 今度は数字は増えない。

 ただ、ぎりぎりのところで、高い熱を保ち続けていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 そのとき、

 船の見張り台から声が飛んだ。

 

「陸影~~~っ!!」

 

「ん?」

 

 ダイが甲板を駆け上がる。

 

「どこどこ!?」

 

「ほら、あの方角だ」

 

 船員が指さした先。

 かすかな地平線の向こうに、

 ぼんやりと影が見える。

 

「……ロモス王国の沿岸です」

 

 レオナが、風の匂いを確かめてから言った。

 

「明日の昼には、上陸できるわ」

 

「おお~~~!」

 

 ダイが目を輝かせ、ポップがげんなりする。

 

「マジかよ……

 もうちょっと船でダラダラしたかった……」

 

「今も十分ダラダラしてたでしょう?」

 

 レオナがあきれ、

 相馬は笑った。

 

「さあ、勇者の旅が、本格的に始まりますよ」

 

 その言葉に、

 頭上の数字たちが、ほんの少しだけ揺れる。

 

【ダイ→レオナ 68 → 70】

【ダイ→相馬 69 → 71】

【ポップ→ダイ 49 → 52】

 

 恋愛も、友情も、忠誠も。

 全部ひっくるめて“好感度”と呼ぶには、

 あまりに雑で、あまりに正直な数字たち。

 

 その中でひときわ狂った値を示している、

 レオナ→相馬の「250/250」は――

 今日もまた、のんきな海風に吹かれながら、

 静かに真っ赤に点滅していた。

 

(ロモス。

 勇者の試練。

 新しい国、新しい人たち……)

 

 そして、

 新しい羞恥と、新しい「好き」。

 

 パプニカ王女と勇者候補と危険因子の旅は、

 デルムリン島を離れ、

 いよいよ「外の世界」へと踏み出そうとしていた。

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