オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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18話 羞恥システム製ライデイン

 ロモス王国の沿岸が、だいぶはっきり見えてきた。

 

 港町らしき影。

 そのさらに奥に、低い山と城壁のシルエット。

 

「うわぁ……!」

 

 船べりにかじりつくようにして、ダイが目を輝かせた。

 

「ねえレオナ、あれ全部ロモス?」

 

「全部、って言うと雑だけど……だいたいそうね」

 

 レオナは海風に髪を揺らしながら、いつものように説明する。

 

「手前が港町、その奥が城下町。

 魔王軍との戦いの最初の拠点になるはずの国よ」

 

 頭上には、もはや見慣れた数字が浮かんでいる。

 

【ダイ】

 レオナ 70/150

 相馬  71/150

 

【レオナ】

 相馬 250/250

 

【相馬】

 レオナ 90/150

 

(……250/250、ね)

 

 レオナは、自分の数字を見て小さくため息をついた。

 

(昨日の夜、“好き”って言われてから、ずっとこのまま。

 ……もう増えようがないって、変な意味で安心だわ)

 

 そう思って、隣に立つ相馬を横目で見た。

 

 ――顔イベント。

 

 胸の奥が、ふわりと熱を帯びる。

 

【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】

『……あなたと一緒に、ロモスに行けるのが嬉しい。

 この先どんな怖いことがあっても、隣で笑っててほしい……』

 

「っ」

 

 自分の声に、自分でびくっとなる。

 

「レオナ、大丈夫か?」

 

 ダイが振り向き、ポップも苦笑する。

 

「またシステムが悪さしてんのか? 朝から甘すぎだぜ」

 

「わたしのせいじゃないって言ってるでしょう!」

 

 レオナが抗議している、そのときだった。

 

◇ ◇ ◇

 

 空気が、ぴち、と弾けた。

 

 船の上。

 頭上に浮かんだ好感度パネルたちが、一瞬だけバチッと青白く光る。

 

「……今の、見たか?」

 

 ポップが眉をひそめる。

 

「なんか、数字が一瞬ぐちゃぐちゃになってたぞ」

 

「え?」

 

 見上げると、確かにおかしかった。

 

 いつもの整然とした数字列の横に、

 ノイズのような文字が一瞬だけ走る。

 

【レオナ】

 相馬 250/250

 ??? ■■/◆◆

 

「なに、今の……?」

 

 レオナが目を凝らした瞬間――

 

 全パネルが、いっせいに真っ白にフラッシュした。

 

「うわっ!」「まぶしっ!」

 

 ダイが目を押さえ、ポップがしゃがみ込む。

 

 白い光は、一点に収束していった。

 

 相馬の頭上。

 

 ビシィィィィィッ!!

 

 天へ向かって伸びた光の柱が、

 空で稲妻に変わって跳ね返り、

 そのまま相馬の頭上へ落ちてきた。

 

「――っ!! 相馬!!」

 

 レオナの悲鳴。

 ダイもポップも、反射で駆け寄る。

 

 稲妻が直撃した瞬間、

 船のマストがぎしりと軋んだ。

 

 煙が立ちのぼる。

 焦げた匂い――

 

 が。

 

「……………………」

 

 相馬は、何事もなかったようにそこに立っていた。

 

 髪の先がほんの少しだけ逆立っているのと、

 肩にかかったマントの端がちょっと焦げた以外は。

 

「おい、あんた大丈夫かよ!?」

 

 ポップが本気で青ざめた顔で叫ぶ。

 

「痛みは? 痺れとか、頭の中に変な声が聞こえるとか!」

 

「いやぁ……」

 

 相馬は、なぜか妙に軽い声で答えた。

 

「ビリビリって来るかなと思ったけど、

 なんかこう、“ドーン!”て感じだったな」

 

「それどっちかっていうと爆発じゃねぇ?」

 

 ポップのツッコミのテンポより、

 相馬の口調の軽さの方が目立った。

 

「――あれ?」

 

 レオナが、違和感に気づく。

 

(今の喋り方……)

 

 今までの相馬は、

 皮肉っぽい冗談は言っても、どこか落ち着いた口調だったはずだ。

 

 さっきのは、妙に軽い。

 現代っ子っぽいノリで。

 

「あっぶな~。

 これ、もうちょい威力あったら髪型終わってたわ」

 

 相馬は、自分の髪を撫でつつ言う。

 

「いや、そこ気にするところ!?」

 

 ポップが素でツッコむ。

 

「他になんか変な感じは?」

 

 レオナが真剣な顔で尋ねる。

 

「んー……」

 

 相馬は、顎に手をやって考え込む――が、

 その視線が、ごく自然にレオナの全身を一周した。

 

「ん?」

 

「…………」

 

 視線が妙に長い。

 

 今までの相馬なら、

 レオナの身体を露骨に眺めるような真似はしなかった。

 

 彼は普通に理性を持った大人だったからだ。

 

 だが今の相馬は、

 じろりと、足の先から頭のてっぺんまで、

 あからさまに“女として”値踏みするような目をした。

 

「……何か?」

 

 レオナが眉をひそめる。

 

「いやぁ~~~」

 

 相馬は、にやっと笑った。

 

「改めて見ると、マジで可愛いな、お前」

 

「……………………は?」

 

 ダイとポップが同時に固まる。

 

 レオナは、耳まで真っ赤になった。

 

「ちょ、ちょっと待って。

 あなた、今なんて――」

 

「いやいやいや、普通に褒めただけじゃん?」

 

 相馬は、やけに軽いノリで続けた。

 

「顔もスタイルも上玉だし、王女っていう肩書きもエグいし。

 デルムリン島出たら、モテモテ確定でしょ?」

 

「な、なな――」

 

 そんな言い方をされたことがなくて、

 レオナの言葉が絡まる。

 

 それでも王女のプライドが、必死に形を保たせる。

 

「……褒め方が下品よ」

 

「お? 照れてる?」

 

「照れてない!!」

 

 即答だった。

 

◇ ◇ ◇

 

 その間にも、頭上のパネルは正直だ。

 

【レオナ→相馬 250/250】

【相馬→レオナ 90 → 92/150】

 

(……上がってるじゃないのよ、これで)

 

 レオナは自分にツッコみたい気持ちを抑え込んだ。

 

(そうよね、顔は好きなのよね顔は……でも今の性格は全然好きじゃないわよ!?)

 

 数字と感情のギャップが、胃に悪い。

 

「おい、そーま」

 

 ポップが眉間に皺を寄せながら言った。

 

「なんか、キャラ変してねぇ?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ! もっと落ち着いてたろいつも、

 “危険因子だから”とか言ってクールぶってたじゃん!」

 

「いやー、俺も思ってたんだよな」

 

 相馬は、あっけらかんと笑った。

 

「“異世界来てまでクール気取ってもしょうがなくない?”って」

 

「言ってねーだろ絶対!!」

 

 ポップのツッコミが、いつになく切実だった。

 

◇ ◇ ◇

 

 その日の午後。

 

 船は無事ロモス港に入り、

 一行は上陸許可を得るべく、軽く入国手続きを行った。

 

 港町は活気にあふれている。

 行き交う人々、露店の香り、酒場の笑い声。

 

「うわぁ~!」

 

 ダイは目を輝かせ、

 ポップは「人多いなぁ……」とやや腰が引けている。

 

 そして――

 

「……はーい、可愛いコ発見」

 

 相馬が、完全に別方向に目を輝かせていた。

 

「は?」

 

 レオナが振り向くより早く、

 相馬はすたすたと前へ出ていく。

 

 視線の先、酒場の軒先で談笑している女たち。

 どう見ても成人済みの、町娘というよりは“飲み慣れた客”の類いだ。

 

「ねぇねぇ、お姉さん方」

 

 相馬が、迷いゼロの足取りで話しかけた。

 

「今夜、このへんで美味い店、教えてくれない?」

 

「えっ?」

 

「なに、あんた?」

 

 女たちが苦笑混じりに振り向く。

 

「見ない顔だねぇ」

 

「旅の魔法使いってとこ。

 勇者候補の護衛とかやってんだけど、

 初ロモスでさ。よかったら、一緒に飲まない?」

 

 さらっと「一緒に飲まない?」と口にする男。

 

 それがいかに“この世界の相馬像”からズレているか、

 レオナたちは嫌でも分かった。

 

「ちょっと!!」

 

 レオナが慌てて駆け寄る。

 

「あなたなにやって……!」

 

「紹介しとくわ、パプニカの王女様」

 

 相馬が、なぜか自分から紹介した。

 

「レオナ=パプニカ。見ての通り、超良家。

 で、俺はその護衛兼お目付け役」

 

「お目付け役を自称するナンパ男って何よ!!」

 

 レオナが全力でツッコむ。

 

 女たちは、完全に面白がっていた。

 

「へぇ、王女様ねぇ」

 

「そっちの坊やが勇者って噂の子かい?」

 

「えっ、あ、はい!」

 

 ダイが慌てて頭を下げる。

 

 その横で、ポップが相馬の頭上パネルを見て固まった。

 

【相馬】

 レオナ 92/150

 酒場の女A 47/150

 酒場の女B 42/150

 酒場の女C 38/150

 

「お前、瞬間で40台叩き出すなよ!!」

 

「え、見える?」

 

 相馬が自分のパネルを見上げて、逆に楽しそうに笑った。

 

「へぇ~、やっぱ可愛い子見ると数字上がるんだな、これ」

 

「実験すんな!!」

 

 ポップが本気で叫ぶ。

 

(本気でナンパしてる……)

 

 レオナは、心底めまいがした。

 

 しかも――

 

【酒場の女A】

 相馬 31/150

 

【酒場の女B】

 相馬 28/150

 

「微妙にモテてるのも腹立つ!!」

 

 レオナの叫びが、港町に響いた。

 

◇ ◇ ◇

 

 そのあともしばらく、

 相馬は本当に「街で見かけた可愛い子」を片っ端から声をかけていた。

 

「そこのお団子髪のお姉さん、よかったら一緒に――」

 

「仕事中なんだけど」

 

「忙しい方が、終わったあと飲むの美味いって知ってる?」

 

「うるさ」

 

 軽くあしらわれてもめげない。

 

「そこの露店のお姉さん。

 そのアクセ、似合ってる。誰かにもらった?」

 

「へ? じ、自分で選んだわよ!」

 

「センスいいね。今度、選ぶの付き合ってくれる?」

 

「なっ……!」

 

【相馬→露店娘 44/150】

【露店娘→相馬 33/150】

 

「……本気でやってる……」

 

 レオナは、呆れるのを通り越して、

 だんだん寒気さえ覚えてきた。

 

(記憶はそのままって言ってたわね。

 つまり、この性格は“元の世界での成功体験込み”ってこと……?)

 

 彼の中にある「ワンナイトの成功体験」という言葉が、

 頭の片隅で嫌な意味を持ちはじめていた。

 

◇ ◇ ◇

 

「――で、何がどうなってんだよ、これ」

 

 夕方。

 宿の一室に集まった四人と一匹(ダイ、ポップ、レオナ、相馬、そしてチウ代わりの小鳥的な魔物)が、

 真剣な顔で向かい合っていた。

 

 中央には、例の好感度パネル。

 今は、全員分が静かに並んでいる。

 

「状況整理しましょう」

 

 レオナが、すでに半分仕事モードの顔で言った。

 

「相馬に稲妻が落ちたのは、

 好感度システムが一瞬おかしくなった直後」

 

「数字がぐちゃっとなったと思ったら、

 天に向かってビームみたいなの出してたもんな」

 

 ポップが補足する。

 

「で、そのあと今の“チャラ相馬”が爆誕、と」

 

「チャラ相馬って言うな」

 

 本人は全然堪えていない。

 

「じゃあ、なんて呼べば」

 

「そうだなぁ……自分で言うのもアレだけど、

 “本来の俺”とか?」

 

 レオナとポップが、同時にすごい顔をした。

 

「「それはない」」

 

 ダイだけが、「えっ、そうなの?」と首を傾げる。

 

「でもさ、記憶はちゃんとあるんだよ」

 

 相馬が、真面目な声で続けた。

 

「アバン先生のことも、デルムリン島のことも。

 ダイやポップの戦いも。レオナに“好きだ”って言ったのも、全部」

 

「全部、覚えてるの?」

 

「覚えてる覚えてる」

 

 軽い口調のまま肯定する。

 

「ただ――なんか、ブレーキが緩んだ感じ?」

 

「ブレーキ?」

 

「“こういうこと言ったら迷惑かな”とか、

 “こういう行動はやめとこう”とか、

 今までわりと真面目に考えてたんだけどさ」

 

 相馬は、肩をすくめた。

 

「今は、“楽しそうならとりあえず行っとけ”って感じの方が、

 しっくり来るんだよね」

 

「つまり――」

 

 レオナが、こめかみを押さえる。

 

「元から女好きの素質はあったけど、

 それを理性で抑えてたのが、

 落雷でリミッター外れたってことね」

 

「ひでぇまとめ方だな!」

 

 ポップは吹き出した。

 

◇ ◇ ◇

 

 そこへ。

 

 頭上のパネルが、ふっと震えた。

 

 今度は、誰もがそれを見逃さなかった。

 

「また何か来るぞ!」

 

 ポップが身構える。

 

 だが、先ほどのような大きなフラッシュではなく、

 パネルの隅に小さな“注意マーク”が灯っただけだった。

 

【⚠】

 

 レオナの目の前に、小さなウィンドウが開く。

 

「……なに、これ」

 

 そこには、簡素な一文が表示されていた。

 

【好感度システム:挙動異常を検知】

【推定原因:外部からのウイルス様干渉】

 

「ウイルス……?」

 

 レオナが読み上げる。

 

 ポップが顔をしかめた。

 

「は? ウイルスって何だよ。

 魔王軍の呪いとか、そっち系?」

 

「“様”ってついてるから、

 文字通りのウイルスじゃないかもしれないけど……」

 

 レオナは眉を寄せながら、スクロールを続ける。

 

【症状:特定ユーザー(相馬)の人格パラメータが軽度~中度に変動】

【記憶データは保持されています】

 

「軽度!? どこが!!」

 

 レオナが即座に叫んだ。

 

「これで“軽度”なら、重度はどうなるのよ!」

 

「そこツッコむとこじゃないと思うけど……」

 

 相馬は、笑ってる場合じゃないのに笑っている。

 

「で、治す方法は?」

 

 ポップが本題を突いた。

 

「ウイルスなんとかする魔法とか、

 パッチとか、そういうのねぇの?」

 

「パッチって言い方はやめなさい」

 

 レオナが睨みつつ、表示を下へスクロールする。

 

 そこには、ひときわふざけているようにしか見えない一文があった。

 

【推奨対処法】

・獣王クロコダインの尻尾の先端部の皮を採取し、

 煮込んだポーションとして摂取させてください。

・※痛みを最小限にするため、尻尾のごく表面のみで構いません。

・※クロコダインは高い再生力を持つため、適切な処置を行えば後遺症はほぼありません。

 

「……………………」

 

 レオナは、無言でウィンドウを閉じた。

 

「今の、“読み間違い”とかじゃないよな?」

 

 ポップがおそるおそる聞く。

 

「残念ながら。

 クロコダインの尻尾の先っぽの皮を剥いで、

 煮込んで飲ませろって書いてあったわ」

 

「雑ゥ!!」

 

 ポップが両手で頭を抱えた。

 

「おいおいおい、

 ウイルス対策が物理なの、マジでどうなってんだよこの世界!」

 

 ダイだけが、「クロコダインって誰?」と純粋な顔をしている。

 

「ロモスの周辺を荒らしてるっていう、

 獣王の噂は聞いたことがあるわ」

 

 レオナが、今度は王女としての情報を引っ張り出す。

 

「魔王軍幹部の一人。

 ドラゴンに匹敵する力を持つ魔獣族の長――

 それが、クロコダインよ」

 

「ドラゴンに匹敵って、

 ガンガディアクラスってことだよな?」

 

 ポップが青ざめる。

 

「そんなやつの尻尾の皮剥ぐって、

 普通に命がけだろ!?」

 

「しかもウイルスのせいで、

 その作戦の要が今の“チャラ相馬”っていうのが、

 またなんとも言えねぇんだけど……」

 

「おいおい」

 

 相馬が、わざとらしく肩をすくめる。

 

「俺はやるときゃやる男だぞ?

 美女と酒のためなら、結構頑張るタイプだから」

 

「いや、それ動機が間違ってるから!」

 

 レオナが全力でツッコむ。

 

 それでも――

 頭の片隅で、うっすらと認めざるを得ない部分もあった。

 

(クロコダインの尻尾の皮を取るなんて、

 本気で命を懸ける価値があるのかどうかはともかくとして。

 

 ――この性格のまま旅を続けるのは、絶対に嫌)

 

 羞恥システムは、そこだけは空気を読んだのか、

 余計な電子音を流さなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

 結局、一行は結論をこうまとめた。

 

「クロコダインを倒す必要は、

 もともと魔王軍対策としてあった」

 

 レオナが指揮官らしく言う。

 

「そのついでに、尻尾の先っぽの皮をちょっといただいて、

 このチャラ男を元に戻す。――そういう方針で行きましょう」

 

「ついでって言い方やめてくんねーかな!?」

 

 ポップが悲鳴を上げる。

 

「いやぁ~、なんか得した気分だな」

 

 相馬は、本気で楽しそうだった。

 

「魔王軍幹部倒すわ、ウイルス治るわ、

 尻尾の皮で新しいポーションレシピできるわ。

 ロモス来た甲斐あるじゃん」

 

「前向きさの方向性がおかしいのよ、あなたは!!」

 

 レオナが机を叩く。

 

 その頭上で、数字だけは相変わらず真っ赤だ。

 

【レオナ→相馬 250/250】

 

(……この数字に、全部まとめて押し込んでおきたいわね)

 

 怒りも、呆れも、好きも、期待も。

 全部ひっくるめて。

 

◇ ◇ ◇

 

 夜。

 

 ロモスの宿屋の屋上で、

 一行は明日の作戦会議をしていた。

 

「獣王クロコダインは、

 城の北側の森に陣取ってるって噂だ」

 

 ポップが、さっき仕入れてきた情報を披露する。

 

「魔王軍の兵士も何匹かうろついてるってよ。

 城の連中も手ぇ焼いてるらしい」

 

「そこへ、勇者候補とパプニカ王女と危険因子が殴り込み、ってわけね」

 

 レオナは、わざと軽い口調で言った。

 

「ついでに尻尾の皮も」

 

「ついで強調すんなよ……」

 

 ダイは、いつになく真剣な顔で拳を握る。

 

「クロコダイン……

 魔王軍の幹部、か」

 

「怖い?」

 

 レオナが尋ねる。

 

「……ちょっと。

 でも、オレが勇者になるって決めたから」

 

 ダイは、しっかりと前を見た。

 

「オレ、行くよ。

 絶対、負けない」

 

【ダイ→レオナ 70 → 72】

【ダイ→相馬 71 → 73】

 

 その数字の揺れを見ながら、

 相馬は、少しだけ前のめりになった。

 

「じゃ、明日は張り切って“獣王狩り”だな」

 

 軽い声の奥に、

 ほんのわずかだけ、元の彼の冷静さが見えた気がした。

 

(……元に戻せる保証はないけど)

 

 レオナは、屋上から見えるロモスの夜景を眺める。

 

(クロコダインを倒して、尻尾の先っぽの皮を取って。

 それを煮込んだポーションを飲ませて。

 

 ――それでも戻らなかったら、そのときはそのとき)

 

 好感度システムがどうバグろうと。

 ウイルスがどう暴れようと。

 

(わたしは“今の相馬”ごと、

 ちゃんと危険因子として面倒を見るわ)

 

 王女として。

 レオナとして。

 

 そして、250/250の数字を掲げてしまった女として。

 

 ロモスの夜風は、

 新しい騒動の匂いを、少しだけ甘く、少しだけ苦く、

 一行のもとへ運んでいた。

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