オーバーヒート(AI小説) 作:匿名希望
ロモスの朝は、デルムリン島とは違う匂いがした。
海風の塩気に、街のパンと肉の匂いが混ざっている。
宿の窓から身を乗り出すと、細い路地と石畳、その向こうに港の人いきれが見えた。
(……ロモス、か)
寝台から起き上がったレオナは、まず習慣で頭上を見上げる。
【レオナ】
相馬 250/250
(うん、知ってた)
数字は、もう笑うしかないレベルで振り切れている。
むしろ最近は、ここから一ミリも動かないことに妙な安心を覚え始めていた。
(でも、これ全部“顔”のせいなのよね……
性格はともかく、顔だけは本当に、致死級にどストライクだもの)
自分で自分にそう突っ込みつつ、髪を整えて部屋を出た。
◇ ◇ ◇
階段を降りると、ちょうど宿の食堂に相馬の姿が見えた。
カウンター越しに、宿の看板娘らしき若い女性に話しかけている。
「いやいや、朝から働く姿って、マジで尊いよな~」
「も、もう……何それ、いきなり」
昨夜からずっとこの調子だ。
軽い。とにかく軽い。
(……でも、顔はいいのよね、顔は)
心の中で毒づきながら、ついそちらに目が行ってしまう。
相馬がこちらに気づき、あっさりと顔を向けた。
――顔イベント。
視界いっぱいに飛び込んでくる、見慣れたはずの顔。
その瞬間、胸の奥が「ズギューン!!」と音を立てて撃ち抜かれる。
ほとんど条件反射で心臓が跳ね、足元が一瞬ふわっと浮く。
【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】
『……あ、もう。
やっぱり顔だけはずるいくらい好き……
性格がチャラくなっても、見た目だけで心臓やられる……』
自分の甘ったるい声が、食堂のあたり一帯にふわっと広がった。
「~~~~っ!!」
レオナは、階段の途中で一瞬足を踏み外しそうになった。
「お、レオナ。おはよ」
相馬が、いつもの軽い声で笑う。
「やっぱ朝イチで見ると、なお可愛いな」
「可愛いって言い方やめなさい!!」
反射で怒鳴る。
顔は真っ赤。でも心臓はもっと赤い。
【レオナ→相馬 250/250(上限250)】
数字はもう動かない。
その代わり、パネルの縁が、かすかにぶるぶる震えた。
(……これ以上上がる余地がないからって、
反応が抑えられるわけじゃないのよね)
むしろ、内部では毎回オーバーヒートしている。
◇ ◇ ◇
「おはよう、レオナ!」
ダイがテーブルの向こうから手を振る。
「早く早く! パンが焼きたてだよ!」
「はいはい、今行くわ」
レオナはなんとか平静を装って席についた。
すると――また視界の端に、相馬の顔が入る。
真正面。
さっきより近い距離。
――顔イベント。
ズギューン!!
【電子音声:レオナ(甘々度増し)】
『ち、近い……!
テーブル挟んで向かい合ってるだけで、心臓もたない……
その顔で普通に微笑まないで……しゅき……』
甘ったるい声が、皿とパンの間をすり抜けて飛び交った。
「レオナ、今日も絶好調だな」
ポップがスープをすすりながらぼそっと言う。
「絶好調“じゃない”わよ!!」
レオナはパンを握りつぶしそうになりながら叫ぶ。
頭上で、好感度パネルがわずかに点滅した。
【レオナ→相馬 250/250 → 250/260】
数値は変わらない。
ただ、上限値だけが、こっそり10増えた。
(……また増えたわね、上限だけ)
岩が崩れるような音は、さすがに船では鳴らなかったが、
どこかで何かがきしんだ気はした。
◇ ◇ ◇
「でさ」
パンをかじりながら、相馬が気楽な声で続ける。
「今日の予定、ざっくり確認しとこうぜ」
「まずはロモス王に挨拶ね」
レオナが仕事モードに切り替える。
「アバン先生の教え子として、勇者候補として、
正式に魔王軍への協力を申し出る。
――そして、クロコダインについて情報をもらう」
「獣王、だっけか」
ポップが顔をしかめる。
「ドラゴン並みの怪物って噂の。
そいつの尻尾の先っぽの皮を剥いで煮込んで飲めって、
システム正気か?」
「正気かどうかはともかく」
相馬は、案外真面目な表情で言った。
「治せる可能性があるなら、試す価値はあるだろ」
「自分のチャラさを“病気扱い”されて怒らないの?」
「いやー?」
本人はケロっとしている。
「元の俺も嫌いじゃなかったけど、
この性格もこれはこれで楽しいしな。
でもレオナが本気で困ってるなら、
治療法あるに越したことないだろ?」
「……っ」
また、心臓がきゅっと締め付けられる。
顔だけじゃなく、
こういうことをさらっと言うところも、
元の相馬そのままだった。
視線が、自然と彼の顔へ向く。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々MAX寄り)】
『そんなこと言われたら、
“元に戻さなくてもいいかも”って、一瞬思っちゃう……
……だめ。だめだけど、好き……』
もう抑えようがない。
◇ ◇ ◇
ひと通り食事を終えたあと、
一行はロモス城へ向かった。
城下町の通りは、人であふれている。
「うわぁ……! すごい人だね!」
ダイがきょろきょろと周囲を見回す。
その体を、レオナがさりげなく引き寄せた。
「はぐれないようにね。
勇者候補が迷子になったらシャレにならないわ」
そう言いながら――視界の端には、やっぱり相馬の顔がある。
横顔。
夕方の光で輪郭がはっきり見える角度。
――顔イベント。
ズギューン!!
【電子音声:レオナ(甘々)】
『横顔も好き。
歩いてる姿も、振り向く瞬間も、ぜんぶ好き……
だから、ナンパしてるところ見ると、すごく腹立つ……』
「今の最後の一行、めちゃくちゃ本音じゃん」
ポップが、肩越しにパネルを見て吹いた。
「見るな!!」
レオナは真っ赤になりながら叫ぶ。
そのレオナの視線が一瞬逸れた隙を突くようにして――
「おっと、ごめん」
相馬は、角を曲がるところで、
干し果物を売っている露店の娘と肩がぶつかりそうになった。
「大丈夫?」
「あ、すみませんっ!」
栗色の髪をリボンで結んだ、可愛らしい娘だ。
年齢的にも、完全に大人側。
「お姉さん、このあたりで一番おいしい店、どこ?」
「へ? えっと……」
「よかったら、案内してよ。
可愛い子が勧める店なら、間違いないだろ?」
「なっ……!」
【相馬→露店娘 44 → 47/150】
【露店娘→相馬 33 → 38/150】
「増やすな!!」
レオナの怒号が飛ぶ。
「あなたのナンパで数字増やすの、やめてくれる!?」
「いや、俺の自由でしょ?」
相馬は悪びれもせず笑う。
その笑顔が、また致命的に顔だけ良い。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々悲鳴混じり)】
『なんでそんな顔で他の女に笑いかけるのよ……
わたしだけ見ててほしいのに……好き……』
自分の声で、自分にトドメを刺してくる。
◇ ◇ ◇
ロモス城は、思ったよりも質素だった。
高くそびえる城壁と塔はあるものの、
装飾は最小限。
戦いの国、という印象が強い。
「ようこそ、ロモス王国へ」
レオナたちを謁見の間へ案内したのは、
王の側近と思しき老臣だった。
「アバン殿の教え子たちと聞きました。
陛下もお待ちかねです」
「こちらこそ、お招きありがとうございます」
レオナは、王女としての顔に切り替える。
玉座の前に進み出て、膝をついた。
「パプニカ王国王女、レオナ=パプニカ。
勇者候補ダイと、その仲間を連れて参りました」
ダイとポップ、相馬もそれにならって膝をつく――はずだったが。
「へぇ~、立派な玉座だな」
相馬は、膝をつきながらも余裕たっぷりに周囲を見回している。
「パプニカのもそうだったけど、
王様ってやっぱ椅子からして格が違うよな~」
「黙りなさい」
レオナが小声で肘を入れる。
と、その横で。
ロモス王が、白いヒゲを揺らして笑った。
「よいよい、硬くならんでよい」
声からして、かなり豪放な王だ。
「アバンめが、“とんでもない異邦人を連れて行った”と書き送ってきておったが……
その男が、そなたか」
視線は、まっすぐ相馬に向けられていた。
「相馬、なのであります」
とりあえず語尾だけ合わせてみる。
「いやぁ、アバン先生に“とんでもない”って評されるとか光栄っすね」
「そういう意味ではないと思うぞ」
王は苦笑する。
「だが、そのアバンが命を賭して守った少年が、
このダイか」
「はい!」
ダイは緊張しつつも、はっきりと答えた。
王の頭上のパネルが、少しだけ色を変える。
【ロモス王】
ダイ 48/150(期待)
レオナ 57/150(信頼)
相馬 33/150(警戒混じり)
(まぁ、そうよね)
レオナは、王の数字を見て内心頷く。
(この状況で相馬の好感度が高かったら、それはそれで怖いわ)
◇ ◇ ◇
「さて――」
儀礼的な紹介が一通り終わったあと、
ロモス王はすぐに本題に入った。
「そなたらに頼みたいのは、ただひとつ」
王の表情が、ぐっと引き締まる。
「獣王クロコダインの討伐だ」
謁見の間が、ぴんと張り詰めた空気に包まれる。
「やはり、魔王軍幹部がここに?」
レオナが確認する。
「うむ。北の森に根城を構え、
時折、配下の魔物を率いてこの国を試すように攻めてくる」
王は悔しそうに拳を握った。
「わしらの兵も決して弱くはない。
だが、クロコダインの力は桁違いだ。
何度出撃しても、あやつの猛攻の前に押し返されるばかり……
このままでは、いずれ城壁が破られる」
「そこへ、勇者候補登場ってわけね」
相馬が軽口を挟む。
「おいそこ、空気読め」
ポップが小声で突っ込むが――
ロモス王は、不思議とその軽さを嫌がっていないようだった。
「アバンの弟子たちならば、信じられる」
王はダイたちを見渡す。
「どうか、獣王を退けてくれ」
「はい!」
ダイが、まっすぐに頷いた。
「オレ、やります!
アバン先生の仇を討つためにも!」
【ダイ→アバン 92 → 95】
【ダイ→ロモス王 48 → 53】
その決意を見て、レオナの胸も熱くなる。
隣を見ると――
相馬も、さっきまでの軽さを引っ込めた顔で王を見ていた。
思わず、その顔を凝視してしまう。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々+誇らしさ)】
『クロコダインの話になると、ちゃんと真面目な顔するところも、好き……
顔だけじゃなく、こういうときの目も、ほんとに好き……』
【レオナ→相馬 250/260 → 250/270】
また、上限だけが、こっそり伸びた。
◇ ◇ ◇
「それと、もう一つ」
謁見の終盤、ロモス王が思い出したように言った。
「北の森への道すがら、小さな村がある。
そこが、最近クロコダインの配下に狙われておってな」
「小さな村……?」
ダイが首を傾げる。
「“ニセの勇者”が出たとかいう噂もあったが、
あまり気にする必要はないだろう」
王は苦笑した。
「どうせなら、そことも協力関係を結んでおいてくれれば助かる」
「了解しました」
レオナが頷く。
(小さな村――
クロコダインの配下に狙われている村)
どこかで、物語の分岐点になる予感がした。
◇ ◇ ◇
城を出て、町へ戻る道すがら。
「いや~、王様って意外と話しやすいんだな」
相馬が伸びをしながら言う。
「もっと堅っ苦しいかと思った」
「あなたが堅苦しさの欠片もないからよ」
レオナが即ツッコミを入れる。
「でも、クロコダインの話になるとさすがに空気変わってたな」
ポップも真面目な顔をしている。
「ドラゴン級の化け物に幹部補正乗ってるって、
想像しただけで冷や汗出るわ」
「その尻尾の皮を剥がなきゃいけないのよね……」
レオナが、ため息交じりに言う。
「尻尾の先っぽだけとはいえ、
本人にとってはけっこうな屈辱じゃない?」
「まあ、そうだろうな」
相馬は、悪びれもなく笑う。
「でも、あっちも魔王軍幹部なら、
勇者に尻尾剥がされるくらいは覚悟しといてもらわないと」
「開き直り方がおかしいのよ、あなたは!」
レオナは呆れながら、
ふと横に視線を投げる。
そこにはやっぱり、
笑っている相馬の顔がある。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々+ツッコミ)】
『そんなこと言って笑ってる顔も、やっぱり好きなのが悔しい……
性格と顔、別々に評価できないの、ずるい……しゅき……』
好感度パネルは、もう何をどうしても真っ赤なままだ。
◇ ◇ ◇
宿に戻り、作戦会議。
「明日は朝イチで、北の森に向かう」
レオナが地図を広げる。
「途中で問題の村があるから、
そこに立ち寄って情報を集める。
クロコダインの配下の動きも、
できるだけ正確に把握しておきたいわ」
「よし、オレ、がんばる!」
ダイが拳を握った。
「ポップは?」
「行くって言ってんだろ」
ポップは、わざとそっぽを向いている。
「ビビってねぇとは言わねぇけどさ。
ここで怖じ気づくとか、勇者の仲間の名折れだし」
【ポップ→ダイ 52 → 55】
その様子を見て、相馬もニヤリと笑った。
「じゃ、俺は――」
わざとらしく手を挙げる。
「獣王の尻尾剥ぎ担当ってことで」
「さらっと決めるな!!」
レオナが机を叩く。
「実際、一番向いてるだろ?」
相馬は、少しだけ真面目になった。
「俺はデカブツ相手の立ち回り、
そこそこ得意な方だし。
ダイは正面からぶつかる役。
ポップは支援と削り。
レオナは指揮と防御。
だったら、一番やらかすのが似合うのは俺だろ?」
「……反論できないのが悔しい」
レオナは、唇を噛む。
その顔を、相馬がふと覗き込んだ。
わずかに距離が近い。
真面目な目で、自分を見ている。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々+信頼)】
『危険因子なのに、“一番やらかす役”を自分から引き受けるところ、好き……
怖いけど、それでも信じたい……』
【レオナ→相馬 250/270 → 250/280】
上限は、また静かに伸びた。
◇ ◇ ◇
その夜。
レオナは、宿の屋上で一人、風に当たっていた。
ロモスの夜空は、デルムリン島とは違う星の並び方をしている。
街の明かりが、星の輝きを少しだけ薄くしていた。
(クロコダイン……
尻尾の皮……
ウイルス……)
情報量が多すぎる一日だった。
「お、こんなとこにいたのか」
不意に声がして、心臓が跳ねる。
振り向けば、やっぱり相馬が立っていた。
月明かりの下、その顔はいつも以上に整って見える。
――顔イベント。
ズギューン!!
【電子音声:レオナ(甘々MAX寄り)】
『月明かりで見ると、さらにかっこいいとか反則……
こんな顔で“好きだ”って言ったの、ずるい……
……でも、やっぱり好き……』
致死級の刺さり。
足元が一瞬ふらつく。
「お、おどかさないでよ」
レオナはどうにか平然を装う。
「眠れないの?」
「まぁな」
相馬は、手すりに寄りかかって夜空を見上げる。
「ワンナイト狙えそうな酒場も、一通り閉まってたし」
「そんな理由で眠れないって言わないで!!」
思わず素で叫ぶ。
「冗談冗談。
まあ、半分は本気だけど」
「半分本気なんかい!!」
ツッコミが止まらない。
それでも――
相馬の横顔を見てしまう。
――顔イベント。
【電子音声:レオナ(甘々+諦め混じり)】
『こんなにチャラくなっても、
顔見ちゃうと全部どうでもよくなりそうになるの、
ほんとにどうかしてる……しゅき……』
数字は、もう増えようがない。
ただ、レオナの中で「好き」がどんどん形を変えていく。
「なぁ、レオナ」
ふいに、相馬が真面目な声を出した。
「クロコダイン、倒したあとさ」
「なに?」
「もし、本当に尻尾ポーションで俺の性格が戻ったら」
少しだけ間を置く。
「“今の俺”のことも、ちゃんと覚えといてくれよ」
「……え?」
「この性格のままじゃ、
たぶんどっかで取り返しのつかないことやらかすだろうし」
苦笑しながら、続ける。
「でも、こいつはこいつで、
“レオナが好きだ”って気持ち、本気で持ってるんだよ」
胸の奥が、また痛くなる。
【相馬→レオナ 90 → 94/150】
【電子音声:レオナ(甘々)】
『……ずるい。
そんなこと言われたら、“今の相馬”ごと好きになっちゃう……』
どうしようもない。
「……分かったわ」
レオナは、少しだけ笑った。
「元に戻っても戻らなくても。
わたしは、“危険因子の全部”をちゃんと覚えておく。
チャラくても、真面目でも。
好きって言った相馬は、全部、相馬なんだから」
「お、告白返し?」
「違う!!」
即座に否定しつつ――
顔は、どうしようもなく熱かった。
◇ ◇ ◇
その頃。
ロモスの北の森では、
別の“尻尾”が夜風に揺れていた。
「グオオオオ……」
獣王クロコダイン。
巨大な斧を片手に、
森の中腹に構えられた砦の上から夜空を睨んでいる。
「勇者の噂が、ここまで届き始めておる……」
分厚い尻尾が、岩を叩いて小さく震えた。
その先端部――
誰かが狙っているなどとは、
まだ露ほども知らずに。
「アバンの弟子どもめ。
貴様らの力、見せてもらおうか」
獣王は、牙を見せて笑った。
その笑い声は、
森の奥へ、ロモスの空の下へ、低く響いていく。
好感度システムのウイルスが、
どこまで世界をかき回すのかはまだ分からない。
ただ一つだけ確かなのは――
明日、北の森で、
危険因子と王女と勇者と魔法使い、そして獣王の尻尾が、
とんでもなく面倒くさい形で出会う、ということだった。