オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

19 / 38
19話 ロモス王謁見

 ロモスの朝は、デルムリン島とは違う匂いがした。

 

 海風の塩気に、街のパンと肉の匂いが混ざっている。

 宿の窓から身を乗り出すと、細い路地と石畳、その向こうに港の人いきれが見えた。

 

(……ロモス、か)

 

 寝台から起き上がったレオナは、まず習慣で頭上を見上げる。

 

【レオナ】

 相馬 250/250

 

(うん、知ってた)

 

 数字は、もう笑うしかないレベルで振り切れている。

 むしろ最近は、ここから一ミリも動かないことに妙な安心を覚え始めていた。

 

(でも、これ全部“顔”のせいなのよね……

 性格はともかく、顔だけは本当に、致死級にどストライクだもの)

 

 自分で自分にそう突っ込みつつ、髪を整えて部屋を出た。

 

◇ ◇ ◇

 

 階段を降りると、ちょうど宿の食堂に相馬の姿が見えた。

 

 カウンター越しに、宿の看板娘らしき若い女性に話しかけている。

 

「いやいや、朝から働く姿って、マジで尊いよな~」

 

「も、もう……何それ、いきなり」

 

 昨夜からずっとこの調子だ。

 軽い。とにかく軽い。

 

(……でも、顔はいいのよね、顔は)

 

 心の中で毒づきながら、ついそちらに目が行ってしまう。

 

 相馬がこちらに気づき、あっさりと顔を向けた。

 

 ――顔イベント。

 

 視界いっぱいに飛び込んでくる、見慣れたはずの顔。

 その瞬間、胸の奥が「ズギューン!!」と音を立てて撃ち抜かれる。

 

 ほとんど条件反射で心臓が跳ね、足元が一瞬ふわっと浮く。

 

【電子音声:レオナ(本人そっくり・甘々)】

『……あ、もう。

 やっぱり顔だけはずるいくらい好き……

 性格がチャラくなっても、見た目だけで心臓やられる……』

 

 自分の甘ったるい声が、食堂のあたり一帯にふわっと広がった。

 

「~~~~っ!!」

 

 レオナは、階段の途中で一瞬足を踏み外しそうになった。

 

「お、レオナ。おはよ」

 

 相馬が、いつもの軽い声で笑う。

 

「やっぱ朝イチで見ると、なお可愛いな」

 

「可愛いって言い方やめなさい!!」

 

 反射で怒鳴る。

 顔は真っ赤。でも心臓はもっと赤い。

 

【レオナ→相馬 250/250(上限250)】

 

 数字はもう動かない。

 その代わり、パネルの縁が、かすかにぶるぶる震えた。

 

(……これ以上上がる余地がないからって、

 反応が抑えられるわけじゃないのよね)

 

 むしろ、内部では毎回オーバーヒートしている。

 

◇ ◇ ◇

 

「おはよう、レオナ!」

 

 ダイがテーブルの向こうから手を振る。

 

「早く早く! パンが焼きたてだよ!」

 

「はいはい、今行くわ」

 

 レオナはなんとか平静を装って席についた。

 

 すると――また視界の端に、相馬の顔が入る。

 

 真正面。

 さっきより近い距離。

 

 ――顔イベント。

 

 ズギューン!!

 

【電子音声:レオナ(甘々度増し)】

『ち、近い……!

 テーブル挟んで向かい合ってるだけで、心臓もたない……

 その顔で普通に微笑まないで……しゅき……』

 

 甘ったるい声が、皿とパンの間をすり抜けて飛び交った。

 

「レオナ、今日も絶好調だな」

 

 ポップがスープをすすりながらぼそっと言う。

 

「絶好調“じゃない”わよ!!」

 

 レオナはパンを握りつぶしそうになりながら叫ぶ。

 

 頭上で、好感度パネルがわずかに点滅した。

 

【レオナ→相馬 250/250 → 250/260】

 

 数値は変わらない。

 ただ、上限値だけが、こっそり10増えた。

 

(……また増えたわね、上限だけ)

 

 岩が崩れるような音は、さすがに船では鳴らなかったが、

 どこかで何かがきしんだ気はした。

 

◇ ◇ ◇

 

「でさ」

 

 パンをかじりながら、相馬が気楽な声で続ける。

 

「今日の予定、ざっくり確認しとこうぜ」

 

「まずはロモス王に挨拶ね」

 

 レオナが仕事モードに切り替える。

 

「アバン先生の教え子として、勇者候補として、

 正式に魔王軍への協力を申し出る。

 

 ――そして、クロコダインについて情報をもらう」

 

「獣王、だっけか」

 

 ポップが顔をしかめる。

 

「ドラゴン並みの怪物って噂の。

 そいつの尻尾の先っぽの皮を剥いで煮込んで飲めって、

 システム正気か?」

 

「正気かどうかはともかく」

 

 相馬は、案外真面目な表情で言った。

 

「治せる可能性があるなら、試す価値はあるだろ」

 

「自分のチャラさを“病気扱い”されて怒らないの?」

 

「いやー?」

 

 本人はケロっとしている。

 

「元の俺も嫌いじゃなかったけど、

 この性格もこれはこれで楽しいしな。

 

 でもレオナが本気で困ってるなら、

 治療法あるに越したことないだろ?」

 

「……っ」

 

 また、心臓がきゅっと締め付けられる。

 

 顔だけじゃなく、

 こういうことをさらっと言うところも、

 元の相馬そのままだった。

 

 視線が、自然と彼の顔へ向く。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々MAX寄り)】

『そんなこと言われたら、

 “元に戻さなくてもいいかも”って、一瞬思っちゃう……

 ……だめ。だめだけど、好き……』

 

 もう抑えようがない。

 

◇ ◇ ◇

 

 ひと通り食事を終えたあと、

 一行はロモス城へ向かった。

 

 城下町の通りは、人であふれている。

 

「うわぁ……! すごい人だね!」

 

 ダイがきょろきょろと周囲を見回す。

 

 その体を、レオナがさりげなく引き寄せた。

 

「はぐれないようにね。

 勇者候補が迷子になったらシャレにならないわ」

 

 そう言いながら――視界の端には、やっぱり相馬の顔がある。

 

 横顔。

 夕方の光で輪郭がはっきり見える角度。

 

 ――顔イベント。

 

 ズギューン!!

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『横顔も好き。

 歩いてる姿も、振り向く瞬間も、ぜんぶ好き……

 だから、ナンパしてるところ見ると、すごく腹立つ……』

 

「今の最後の一行、めちゃくちゃ本音じゃん」

 

 ポップが、肩越しにパネルを見て吹いた。

 

「見るな!!」

 

 レオナは真っ赤になりながら叫ぶ。

 

 そのレオナの視線が一瞬逸れた隙を突くようにして――

 

「おっと、ごめん」

 

 相馬は、角を曲がるところで、

 干し果物を売っている露店の娘と肩がぶつかりそうになった。

 

「大丈夫?」

 

「あ、すみませんっ!」

 

 栗色の髪をリボンで結んだ、可愛らしい娘だ。

 年齢的にも、完全に大人側。

 

「お姉さん、このあたりで一番おいしい店、どこ?」

 

「へ? えっと……」

 

「よかったら、案内してよ。

 可愛い子が勧める店なら、間違いないだろ?」

 

「なっ……!」

 

【相馬→露店娘 44 → 47/150】

【露店娘→相馬 33 → 38/150】

 

「増やすな!!」

 

 レオナの怒号が飛ぶ。

 

「あなたのナンパで数字増やすの、やめてくれる!?」

 

「いや、俺の自由でしょ?」

 

 相馬は悪びれもせず笑う。

 

 その笑顔が、また致命的に顔だけ良い。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々悲鳴混じり)】

『なんでそんな顔で他の女に笑いかけるのよ……

 わたしだけ見ててほしいのに……好き……』

 

 自分の声で、自分にトドメを刺してくる。

 

◇ ◇ ◇

 

 ロモス城は、思ったよりも質素だった。

 

 高くそびえる城壁と塔はあるものの、

 装飾は最小限。

 戦いの国、という印象が強い。

 

「ようこそ、ロモス王国へ」

 

 レオナたちを謁見の間へ案内したのは、

 王の側近と思しき老臣だった。

 

「アバン殿の教え子たちと聞きました。

 陛下もお待ちかねです」

 

「こちらこそ、お招きありがとうございます」

 

 レオナは、王女としての顔に切り替える。

 

 玉座の前に進み出て、膝をついた。

 

「パプニカ王国王女、レオナ=パプニカ。

 勇者候補ダイと、その仲間を連れて参りました」

 

 ダイとポップ、相馬もそれにならって膝をつく――はずだったが。

 

「へぇ~、立派な玉座だな」

 

 相馬は、膝をつきながらも余裕たっぷりに周囲を見回している。

 

「パプニカのもそうだったけど、

 王様ってやっぱ椅子からして格が違うよな~」

 

「黙りなさい」

 

 レオナが小声で肘を入れる。

 

 と、その横で。

 ロモス王が、白いヒゲを揺らして笑った。

 

「よいよい、硬くならんでよい」

 

 声からして、かなり豪放な王だ。

 

「アバンめが、“とんでもない異邦人を連れて行った”と書き送ってきておったが……

 その男が、そなたか」

 

 視線は、まっすぐ相馬に向けられていた。

 

「相馬、なのであります」

 

 とりあえず語尾だけ合わせてみる。

 

「いやぁ、アバン先生に“とんでもない”って評されるとか光栄っすね」

 

「そういう意味ではないと思うぞ」

 

 王は苦笑する。

 

「だが、そのアバンが命を賭して守った少年が、

 このダイか」

 

「はい!」

 

 ダイは緊張しつつも、はっきりと答えた。

 

 王の頭上のパネルが、少しだけ色を変える。

 

【ロモス王】

 ダイ 48/150(期待)

 レオナ 57/150(信頼)

 相馬  33/150(警戒混じり)

 

(まぁ、そうよね)

 

 レオナは、王の数字を見て内心頷く。

 

(この状況で相馬の好感度が高かったら、それはそれで怖いわ)

 

◇ ◇ ◇

 

「さて――」

 

 儀礼的な紹介が一通り終わったあと、

 ロモス王はすぐに本題に入った。

 

「そなたらに頼みたいのは、ただひとつ」

 

 王の表情が、ぐっと引き締まる。

 

「獣王クロコダインの討伐だ」

 

 謁見の間が、ぴんと張り詰めた空気に包まれる。

 

「やはり、魔王軍幹部がここに?」

 

 レオナが確認する。

 

「うむ。北の森に根城を構え、

 時折、配下の魔物を率いてこの国を試すように攻めてくる」

 

 王は悔しそうに拳を握った。

 

「わしらの兵も決して弱くはない。

 だが、クロコダインの力は桁違いだ。

 

 何度出撃しても、あやつの猛攻の前に押し返されるばかり……

 このままでは、いずれ城壁が破られる」

 

「そこへ、勇者候補登場ってわけね」

 

 相馬が軽口を挟む。

 

「おいそこ、空気読め」

 

 ポップが小声で突っ込むが――

 ロモス王は、不思議とその軽さを嫌がっていないようだった。

 

「アバンの弟子たちならば、信じられる」

 

 王はダイたちを見渡す。

 

「どうか、獣王を退けてくれ」

 

「はい!」

 

 ダイが、まっすぐに頷いた。

 

「オレ、やります!

 アバン先生の仇を討つためにも!」

 

【ダイ→アバン 92 → 95】

 

【ダイ→ロモス王 48 → 53】

 

 その決意を見て、レオナの胸も熱くなる。

 

 隣を見ると――

 相馬も、さっきまでの軽さを引っ込めた顔で王を見ていた。

 

 思わず、その顔を凝視してしまう。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+誇らしさ)】

『クロコダインの話になると、ちゃんと真面目な顔するところも、好き……

 顔だけじゃなく、こういうときの目も、ほんとに好き……』

 

【レオナ→相馬 250/260 → 250/270】

 

 また、上限だけが、こっそり伸びた。

 

◇ ◇ ◇

 

「それと、もう一つ」

 

 謁見の終盤、ロモス王が思い出したように言った。

 

「北の森への道すがら、小さな村がある。

 そこが、最近クロコダインの配下に狙われておってな」

 

「小さな村……?」

 

 ダイが首を傾げる。

 

「“ニセの勇者”が出たとかいう噂もあったが、

 あまり気にする必要はないだろう」

 

 王は苦笑した。

 

「どうせなら、そことも協力関係を結んでおいてくれれば助かる」

 

「了解しました」

 

 レオナが頷く。

 

(小さな村――

 クロコダインの配下に狙われている村)

 

 どこかで、物語の分岐点になる予感がした。

 

◇ ◇ ◇

 

 城を出て、町へ戻る道すがら。

 

「いや~、王様って意外と話しやすいんだな」

 

 相馬が伸びをしながら言う。

 

「もっと堅っ苦しいかと思った」

 

「あなたが堅苦しさの欠片もないからよ」

 

 レオナが即ツッコミを入れる。

 

「でも、クロコダインの話になるとさすがに空気変わってたな」

 

 ポップも真面目な顔をしている。

 

「ドラゴン級の化け物に幹部補正乗ってるって、

 想像しただけで冷や汗出るわ」

 

「その尻尾の皮を剥がなきゃいけないのよね……」

 

 レオナが、ため息交じりに言う。

 

「尻尾の先っぽだけとはいえ、

 本人にとってはけっこうな屈辱じゃない?」

 

「まあ、そうだろうな」

 

 相馬は、悪びれもなく笑う。

 

「でも、あっちも魔王軍幹部なら、

 勇者に尻尾剥がされるくらいは覚悟しといてもらわないと」

 

「開き直り方がおかしいのよ、あなたは!」

 

 レオナは呆れながら、

 ふと横に視線を投げる。

 

 そこにはやっぱり、

 笑っている相馬の顔がある。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+ツッコミ)】

『そんなこと言って笑ってる顔も、やっぱり好きなのが悔しい……

 性格と顔、別々に評価できないの、ずるい……しゅき……』

 

 好感度パネルは、もう何をどうしても真っ赤なままだ。

 

◇ ◇ ◇

 

 宿に戻り、作戦会議。

 

「明日は朝イチで、北の森に向かう」

 

 レオナが地図を広げる。

 

「途中で問題の村があるから、

 そこに立ち寄って情報を集める。

 

 クロコダインの配下の動きも、

 できるだけ正確に把握しておきたいわ」

 

「よし、オレ、がんばる!」

 

 ダイが拳を握った。

 

「ポップは?」

 

「行くって言ってんだろ」

 

 ポップは、わざとそっぽを向いている。

 

「ビビってねぇとは言わねぇけどさ。

 ここで怖じ気づくとか、勇者の仲間の名折れだし」

 

【ポップ→ダイ 52 → 55】

 

 その様子を見て、相馬もニヤリと笑った。

 

「じゃ、俺は――」

 

 わざとらしく手を挙げる。

 

「獣王の尻尾剥ぎ担当ってことで」

 

「さらっと決めるな!!」

 

 レオナが机を叩く。

 

「実際、一番向いてるだろ?」

 

 相馬は、少しだけ真面目になった。

 

「俺はデカブツ相手の立ち回り、

 そこそこ得意な方だし。

 

 ダイは正面からぶつかる役。

 ポップは支援と削り。

 レオナは指揮と防御。

 

 だったら、一番やらかすのが似合うのは俺だろ?」

 

「……反論できないのが悔しい」

 

 レオナは、唇を噛む。

 

 その顔を、相馬がふと覗き込んだ。

 

 わずかに距離が近い。

 真面目な目で、自分を見ている。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+信頼)】

『危険因子なのに、“一番やらかす役”を自分から引き受けるところ、好き……

 怖いけど、それでも信じたい……』

 

【レオナ→相馬 250/270 → 250/280】

 

 上限は、また静かに伸びた。

 

◇ ◇ ◇

 

 その夜。

 

 レオナは、宿の屋上で一人、風に当たっていた。

 

 ロモスの夜空は、デルムリン島とは違う星の並び方をしている。

 街の明かりが、星の輝きを少しだけ薄くしていた。

 

(クロコダイン……

 尻尾の皮……

 ウイルス……)

 

 情報量が多すぎる一日だった。

 

「お、こんなとこにいたのか」

 

 不意に声がして、心臓が跳ねる。

 

 振り向けば、やっぱり相馬が立っていた。

 

 月明かりの下、その顔はいつも以上に整って見える。

 

 ――顔イベント。

 

 ズギューン!!

 

【電子音声:レオナ(甘々MAX寄り)】

『月明かりで見ると、さらにかっこいいとか反則……

 こんな顔で“好きだ”って言ったの、ずるい……

 ……でも、やっぱり好き……』

 

 致死級の刺さり。

 足元が一瞬ふらつく。

 

「お、おどかさないでよ」

 

 レオナはどうにか平然を装う。

 

「眠れないの?」

 

「まぁな」

 

 相馬は、手すりに寄りかかって夜空を見上げる。

 

「ワンナイト狙えそうな酒場も、一通り閉まってたし」

 

「そんな理由で眠れないって言わないで!!」

 

 思わず素で叫ぶ。

 

「冗談冗談。

 まあ、半分は本気だけど」

 

「半分本気なんかい!!」

 

 ツッコミが止まらない。

 

 それでも――

 相馬の横顔を見てしまう。

 

 ――顔イベント。

 

【電子音声:レオナ(甘々+諦め混じり)】

『こんなにチャラくなっても、

 顔見ちゃうと全部どうでもよくなりそうになるの、

 ほんとにどうかしてる……しゅき……』

 

 数字は、もう増えようがない。

 ただ、レオナの中で「好き」がどんどん形を変えていく。

 

「なぁ、レオナ」

 

 ふいに、相馬が真面目な声を出した。

 

「クロコダイン、倒したあとさ」

 

「なに?」

 

「もし、本当に尻尾ポーションで俺の性格が戻ったら」

 

 少しだけ間を置く。

 

「“今の俺”のことも、ちゃんと覚えといてくれよ」

 

「……え?」

 

「この性格のままじゃ、

 たぶんどっかで取り返しのつかないことやらかすだろうし」

 

 苦笑しながら、続ける。

 

「でも、こいつはこいつで、

 “レオナが好きだ”って気持ち、本気で持ってるんだよ」

 

 胸の奥が、また痛くなる。

 

【相馬→レオナ 90 → 94/150】

 

【電子音声:レオナ(甘々)】

『……ずるい。

 そんなこと言われたら、“今の相馬”ごと好きになっちゃう……』

 

 どうしようもない。

 

「……分かったわ」

 

 レオナは、少しだけ笑った。

 

「元に戻っても戻らなくても。

 わたしは、“危険因子の全部”をちゃんと覚えておく。

 

 チャラくても、真面目でも。

 好きって言った相馬は、全部、相馬なんだから」

 

「お、告白返し?」

 

「違う!!」

 

 即座に否定しつつ――

 顔は、どうしようもなく熱かった。

 

◇ ◇ ◇

 

 その頃。

 

 ロモスの北の森では、

 別の“尻尾”が夜風に揺れていた。

 

「グオオオオ……」

 

 獣王クロコダイン。

 

 巨大な斧を片手に、

 森の中腹に構えられた砦の上から夜空を睨んでいる。

 

「勇者の噂が、ここまで届き始めておる……」

 

 分厚い尻尾が、岩を叩いて小さく震えた。

 

 その先端部――

 誰かが狙っているなどとは、

 まだ露ほども知らずに。

 

「アバンの弟子どもめ。

 貴様らの力、見せてもらおうか」

 

 獣王は、牙を見せて笑った。

 

 その笑い声は、

 森の奥へ、ロモスの空の下へ、低く響いていく。

 

 好感度システムのウイルスが、

 どこまで世界をかき回すのかはまだ分からない。

 

 ただ一つだけ確かなのは――

 

 明日、北の森で、

 危険因子と王女と勇者と魔法使い、そして獣王の尻尾が、

 とんでもなく面倒くさい形で出会う、ということだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。