オーバーヒート(AI小説)   作:匿名希望

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2話 レオナの登場と勇者の儀式と好感度システム

 デルムリン島の朝は、いつもより少しだけざわついていた。

 

 入江の向こう、海の地平線に、白い帆が見えたからだ。

 

「……来たな」

 

 浜辺に立つ相馬は、片手で日差しを遮りながら、ゆっくり近づいてくる白い船を見ていた。

 隣ではダイがそわそわと足踏みをしている。

 

「ねぇ相馬、本当に“勇者を探しに来た船”なのかな!」

 

「たぶんな。少なくとも、観光船ではない」

 

 相馬は肩越しに振り向き、背後で待機している魔物たちに声をかけた。

 

「いいか、お前ら。向こうから手を出してこない限り、絶対に攻撃するな。威嚇もなしだ。ブラスさんも、それでいいですね?」

 

「ふん……仕方あるまい」

 

 ブラスは渋い顔をしながらも頷く。

 ガンガディア、ゴメちゃん、島の魔物たちも、それぞれに落ち着かない様子で波打ち際に並んだ。

 

 やがて白い大船から小舟が降ろされ、青い海を滑ってくる。

 乗っているのは数人の兵士と、小柄なフード姿の人物が一人。

 

 相馬は、その小柄な影に自然と視線を奪われた。

 

(……あれが、たぶん)

 

 小舟が砂浜に乗り上げる。

 先に飛び降りた兵士たちが、きびきびと列を作った。いかにも訓練された動きだ。

 

「――ッ」

 

 その後ろで、フードの人物がゆっくりと砂浜に降り立つ。

 

 足取りは軽いのに、どこか迷いがない。

 一歩ごとに、「ここは自分の場だ」とでも言うような空気をまとっている。

 

 フードが、すっと外された。

 

 金色の髪が、太陽の光を弾いた。

 

 

 

(……あ)

 

 

 

 最初に固まったのは、相馬ではなくレオナの方だった。

 

 海風が、ふわりと黒髪を揺らす。

 島の少年とは違う、少し大人びた背格好。

 剣ではなく杖でもなく、よく手入れされた剣帯と、奇妙に落ち着いた目。

 

(なに、この――)

 

 危険信号、とまでは言わない。

 でも、「普通じゃない」匂いが、ひゅっと胸の奥に刺さった。

 

 同時に、別の意味での警報が盛大に鳴り出す。

 

 顔、だ。

 

(……顔だけ見れば、文句のつけようがないじゃない)

 

 自分でも呆れるくらい、整い過ぎていると思った。

 

 危険因子、という言葉が、瞬間的に頭をよぎる。

 王女としての感覚と、女の子としての感覚が同時に「これはまずい」と告げていた。

 

 だが、表に出るのは王女の顔だけだ。

 

 レオナは小さな深呼吸を一つしてから、一歩前へ出た。

 

「パプニカ王国より参りました。レオナと申します」

 

 声は澄んでいる。

 その直後、兵士の一人が魔物たちを見て剣の柄に手をかけ――レオナはすかさずその腕を押さえた。

 

「剣を抜かないで。こちらは敵意を見せていないわ」

 

「で、ですが殿下――」

 

「この場の指揮は私が執ります」

 

 短く、しかし有無を言わせない声音。

 兵士は「はっ」と頭を下げ、剣から手を離した。

 

 そのやりとりを見ていた相馬は、内心で「おお」と感心する。

 

(ちゃんと“止められる”指揮官か)

 

 相馬は一歩進み出て、軽く頭を下げた。

 

「デルムリン島側の代表、とまでは言えませんが。山田相馬といいます。……ようこそ、こんな辺境まで」

 

 レオナの視線が、正面からぶつかった。

 

 顔イベント、初発。

 

 胸の奥で、レオナの心臓が跳ねた。

 

(やっぱり危険因子よ、これ……!)

 

 レオナは、ぎゅっと拳を握る。

 指揮官としての顔を維持するために、ほんの一瞬だけ視線を外し――また戻した。

 

「こちらこそ、急な来訪を許してくれて感謝します。

 私たちは、“勇者の卵”を探しに来ました」

 

「勇者……」

 

 ダイが目を輝かせる。

 レオナは、少年の素直な反応に少しだけ笑みを浮かべ、すぐに表情を引き締めた。

 

「この島に、特別な力を持つ子どもがいると聞いています。

 正式な儀式で、その力を目覚めさせる必要があるのです」

 

「儀式、というのは、どの程度危険なんです?」

 

 相馬の問いは、必要最小限だが、目線は鋭い。

 レオナは、そこに“政治の匂い”を嗅ぎ取った。

 

(やっぱりただの剣の人じゃない……)

 

 同時に、やたら整った口元と、落ち着いた声が、妙に耳に残る。

 内心で首を振って、余計な情報を振り払う。

 

「危険ゼロとは言いません。でも、“死ぬ儀式”ではないと約束します」

 

 レオナは、正面からそう答えた。

 

「勇者の紋章を呼び覚ますための試練。

 それなりの負荷はかかるけれど、こちらも全力で守る。それが私の役目です」

 

「そいつは頼もしい」

 

 相馬は小さく笑った。

 

「いずれ勇者を名乗るなら、危ない橋はどこかで渡ることになるでしょう。

 ――ただ、その橋を渡るなら、俺たちの目の届く場所がいい」

 

「つまり?」

 

「儀式の準備から当日まで、俺が付き添う。

 その条件を飲んでくれるなら、こちらとしても協力を惜しみません」

 

 レオナは、ふっと目を細めた。

 

(条件交渉、ね)

 

 この瞬間、彼女の中の“王女の目”が、本格的に相馬を評価し始めていた。

 

 指揮官としての嗅覚が告げている。

 

 ――この男は、火力的にも、政治的にも、危険因子だ。

 

 一方で。

 

 女の子としての感覚は、別のことを言っている。

 

(……顔がいい。ほんとに)

 

 あまりにも脳内が騒がしいので、レオナは自分の頬を心の中でつねった。

 

「いいわ。その条件、受けましょう」

 

 王女としての声で、答える。

 

「“危険因子”ごと引き受けるのも、王女の仕事ですから」

 

◇ ◇ ◇

 

 夕刻。洞窟の前。

 

 簡素な祭壇が組まれ、篝火が揺れている。

 ダイは緊張した面持ちで立ち、その少し後ろに相馬とブラス。

 レオナは兵士たちに最後の指示を飛ばしていた。

 

「入り口を固めて。外に一人も出さないように。

 ……相馬、あなたはダイのすぐ隣に」

 

「了解。介入が必要になったら、遠慮なく動きますよ」

 

「そこが危険因子なんだけれど」

 

 レオナはため息混じりに呟いた。

 

 それでも、言葉には棘だけでなく、妙な信頼も混ざる。

 

「いい? 今日は“勇者の試練”の日よ。

 勇者の紋章を呼び起こす儀式の最中に、余計な力が割り込めば、何が起こるか分からない」

 

「それは俺も同意です。

 だから、見ているだけで済むのが一番いい」

 

(“見ているだけ”で済ませられる火力があるってところが、もう十分おかしいのよね)

 

 レオナは心の中でツッコミを入れつつ、祭壇の前へ、ゆっくりと歩み出た。

 

「ダイ」

 

「は、はいっ!」

 

「怖がらなくていい。ここにいる全員が、あなたの味方だから」

 

 そう言って微笑むと、ダイの頭上あたりがふわりと揺れた気がした。

 だが、今は儀式の方が優先だ。

 

(……後で確かめましょう)

 

 レオナは胸の前で手を組み、静かに目を閉じた。

 

 パプニカ王家に伝わる、古い祈りの言葉を口の中で転がす。

 口にするたびに、胸の内側から暖かい光が込み上げてくるのを感じる。

 

「――勇者の紋章よ。その器に宿れ」

 

 宝珠が淡い光を放ち始めた。

 

◇ ◇ ◇

 

 その瞬間だった。

 

 洞窟の入口に、別の光が走った。

 

「……ん?」

 

 相馬が目を細める。

 ダイの頭上あたりに、なにか薄い板のようなものがふっと浮かび上がった。

 

 半透明の光。

 その中に、文字が浮かんでいる。

 

【ダイ】

 レオナ 38

 相馬  34

 マァム ――

 

「な、なんだこれ……?」

 

 ダイ本人が一番最初に目を丸くした。

 自分の頭の上に、自分の名前と数字が並んでいるのだ。

 

「相馬殿、これは……?」

 

 ブラスも警戒を込めて睨みつける。

 相馬は、とりあえずダイの頭上から少し距離を取り――ふと、自分の視界の端に違和感を覚えた。

 

 何かが、自分の上にも、浮かんでいる。

 

 視線を上げると、自分の名前と数値が表示されていた。

 

【相馬】

 レオナ 54

 ダイ  29

 ブラス 26

 

「……はぁ?」

 

 思わず素で声が漏れる。

 

(好感度……か?)

 

 嫌な予感が背筋を走り、相馬はゆっくりとレオナの方を振り向いた。

 

 そこにも、やはり光の板が浮かんでいる。

 

【レオナ】

 相馬 103

 ダイ  42

 ブラス 30

 

「っっ!!」

 

 レオナの心臓が、思い切り跳ねた。

 

(……ひゃく、さん……?)

 

 好感度のスケールなど、誰も教えてくれていない。

 ただ、直感として分かる。

 

 たぶん、これ、かなり高い。

 

 顔が熱い。

 耳の先まで、じんじんする。

 

(ま、まずい。これは――)

 

 王女としての危険感知が、別の意味で鳴り響いた。

 

「落ち着いて」

 

 レオナは自分に言い聞かせるように呟き、一度目を閉じてから兵士と島の魔物たちに向き直った。

 

「みんな、聞いて。

 ……この表示は、今は“勇者の試練の一部”と判断するわ」

 

「試練、でございますか?」

 

 付き添いの兵が戸惑いの声を上げる。

 

「ええ。勇者候補の“心”を測る仕掛けなのかもしれない。

 どれだけ誰を大事に思っているか、あるいは、この場で誰を信じているか」

 

 レオナの頭上で、「相馬 103」がぴこぴこと点滅した。

 

【電子音声:レオナ】

『……信じてる、から。あなたのこと』

 

 ほぼ本人の声で、しかし少しだけ甘い響きで、そう囁く。

 

 島の魔物も兵士も、そろって視線を泳がせた。

 

(……この仕様、本当に嫌い)

 

 レオナは、必死に王女の顔を貼り直す。

 

「ここで大事なのは、数字そのものじゃないわ。

 勇者の試練を最後までやり遂げること。それだけよ」

 

 相馬が、少しだけ口元を緩めた。

 

(この状況で、よくまとめるな)

 

 同時に、別のことも冷静に考える。

 

(……これ、どこから湧いた? パプニカの儀式の一部なのか。

 それとも、この島……あるいは、俺自身のせいか)

 

 “危険因子”という言葉が、レオナだけでなく相馬の脳裏にもかすめた。

 

 もっとも、相馬は自分をそうラベリングする気はない。

 だが、レオナの視線の中に明らかに「制御すべき戦力」としての色が混ざっているのは、鈍くても分かる。

 

(まあ、そう思われても仕方ないか)

 

 レオナは、そんな彼の視線を正面から受け止めた。

 

「――相馬」

 

「はい」

 

「あなたの数字は、どうでもいいわ」

 

「そりゃどうも」

 

「でも、“この表示そのもの”は、危険因子と見なします」

 

 レオナの瞳が、指揮官の色を帯びる。

 

「勇者の儀式は本来、こういう仕掛けじゃないはず。

 パプニカにも、この“好感度表示”は伝わっていない」

 

「つまり、想定外」

 

「ええ。だから、終わったらすぐに検証する。

 あなたの……ええと、その、得体の知れない力も含めて」

 

 「あなたの数字」と言いかけたところで、レオナは慌てて言い換えた。

 

 相馬は、わずかに肩をすくめる。

 

「俺ごと調べられるのは、あまり気分のいい話じゃないですが」

 

「王女としての判断よ」

 

 一拍置いて、レオナは続けた。

 

「個人としては……まあ、その……」

 

 視線がかすかに泳ぎ、

 頭上の「相馬 103」が、またひとつ明るく点滅する。

 

【電子音声:レオナ】

『個人としては、そんなに嫌じゃないけど……』

 

「一言多いのよ、このシステム!!」

 

 レオナの悲鳴じみた叫びに、洞窟前の空気が一瞬だけ緩む。

 

 その緩みが、ダイの緊張を少しだけほぐした。

 

「ダイ」

 

 相馬が隣で小声をかける。

 

「最初に言っておくけどな。

 俺の頭の上にどんな数字が出てても、お前を助ける優先順位は変わらない」

 

「う、うん!」

 

 ダイの頭上で、「相馬 41」が控えめに光った。

 

【電子音声:ダイ】

『相馬も、レオナも、ブラスじいちゃんも……みんな大事だ』

 

 その素直さに、レオナは自分の頬の熱を少しだけ忘れた。

 

(……危険因子の多さは、王女としては頭の痛いところだけれど)

 

 レオナは、もう一度だけ相馬を見た。

 

(同時に、この島ごと巻き込んで“まとめて守ろうとしてる”のも、この男なんだわ)

 

 好感度の数字がどうあれ、

 王女としての危険感知と、少女としての恋愛メーターは、同じ方向を指し始めていた。

 

 儀式の光が、再び強まる。

 

 勇者の紋章の試練と、頭上の“見える化された好感度”という余計な仕掛け。

 その両方を抱えたまま、デルムリン島の夜は、少しだけ“別の色”を帯びて進んでいった。

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